120話 洗脳の正体
もう少しで外だな光も見えてきた。
「俺が出るからお前達は待ってるんだ」
「いえ……主を前に出すのは配下として許せません。ここは私が」
「……ドールは2人を守ってくれ。俺はスキルを発動させながら向かうから大丈夫」
俺は何とかドールを言いくるめて外に出ることにした。
まぁ……そんな便利スキルないけどね。とはいえ俺も探索使ってるし敵が居ないのは確認済みだ……。何より俺の探索に引っかからないレベルの敵ならドール1人で勝てるとは思えない。
……。
敵影なし。時計とかは無いけど辺りを見た感じ朝になってる。あの短さで日が昇るとは思えないし本当にあの中は時間の流れが早いんだな。
「おーい……大丈夫だよ〜」
「分かりました」
下から3人が出てくる。
「朝……ですね」
「うん。本当に早く進んでたみたいだ」
こんなトラップを仕掛けるなんて……一体何がしたいんだ?
「1度外に出て状況を確認しよう」
「はい!」
「トレイシーとサクもそれで大丈夫?」
「なんとか」
「あの時に比べればこんなのなんてことないわ」
まだ平気そうだな。
俺達は警戒しながら教会の外に出たがそこで見た光景は活気に溢れる普通の街並みだった。
「これは……」
「どういうこと?」
昨日の夜は街の人達が俺たちに襲いかかってきたのに今はものすごく穏やかだ。
「とりあえずどのくらい時間が経っているか確認するぞ」
「もう把握しました」
すごいなドール!
「太陽の位置など様々なことを考慮すると今は教会に入ってから5日経った頃だと思われます」
5日……結構な時間閉じ込められてたな。
王城では俺達のことで大騒ぎになってる頃か? それとも……。
「教会が黒なのは確定だが誰もいないんじゃ話も聞けない。後はトレイシーが一緒に居た仲間について詳しく聞くってのがいい所だろうな」
俺はトレイシーと目を合わせる。トレイシーはただ静かに頷いた。
「どうぞ」
「ん、ありがと」
俺達はトレイシーの家でトレイシーの居たパーティーメンバーについて詳しく話を聞いていた。
「特段おかしいと思ったことはありません。皆さん通常通り普通に過ごしていました。シリアがノーチェさんを見過ごしたのもいつものシリアさんならそうすると思ってました」
「そっかぁ」
まぁ状況から見るに夜だけ発動する催眠系スキルって所かな。
要するに夜は相手の好き放題できる時間ってことか。そして犯人は操っている街の人達を使い貴族を襲わせていた。待てよ……じゃあなぜ他殺に見せた? 自殺させるだけで済むだろ……いやそんなことより聖王国全体に催眠を掛けてるなら完全犯罪も不可能では無いはず。昼間は通常通りだから違和感を与えないようにするため? ならば他殺にする必要が無い。
最初からフィデース信栄帝国をここに巻き込む為? 狙いは貴族や王ではなくて俺達だったのかもしれない。
「サク、フィデース信栄帝国からの通信はどうなってる?」
「あっ……はい! 5日間しっかり通信は届いてます」
あっちで問題が起きてる訳じゃなさそうだ。
「5日間も失踪してたらケルロスとかクイックが探しに来そうだけど」
「……はい。昨日、一昨日と通信が凄い量届いてます」
けどこっちには来なかったのか、うんうん俺の事を信じてくれてるのかな。
「……てかもっと早く聞くべきだったんだけどさトレイシーはなんで平気なの?」
それを聞いたサクとドールが武器に手を乗せる。
「多分だけど私は数日前まで国の外に居たから掛からなかったんだと思うわ」
「そうか」
まぁそれを信じるかどうかで聞かれればあれだけどそういうことにしとこう。
「しかしそうなると面倒……だな?」
……聖王国全体が操られてる?
「魔力探知だ!」
「……え?」
「なるほど」
約1名理解出来てないけどいいや!
「で……言われるがままにここまで来ましたけど」
目の前には盗賊団のアジトが見えます。
「まさか……」
「情報が集まる、街のゴミ掃除も出来る。一石二鳥だね」
「最初に違法盗賊団の場所を聞かれた時に気付くべきでした」
盗賊団の前でのんびり話していると中から大柄の男が出てきた。
「あぁ? なんだお前ら」
いかにも品のなさそうな男だ。
「ん? よく見りゃ上物ばっかりだな。いやこれだけ少し小さいか」
いやらしい笑みを浮かべ男の腕が俺の胸辺りに向かってくる。
スパッ
「ぎゃ!? ……!?!?」
最近俺は学んだんだ。腕を斬ると騒ぎ出すからその前に口を無くしちゃうのよ。
「よーしまぁこいつ居れば十分だろ、ここは一旦帰……」
探索に引っかかった……こりゃ囲まれてるわ。
「転移」
「わっ!」
「いきなりはやめてください」
1度トレイシーの家に転移したが……。
「俺はゴミ掃除してくる。サクとドール達で魔力探知を頼む!」
「主!?」
ドールの声が聞こえたがそれを無視して転移で元いた場所に帰ることにした。
「なんだ? 消えたと思ったら同じところに現れやがった」
7人……8人か。
「後ろにいた女の方が高くなると思ったんだが……まぁお前で我慢してやろう」
こういう奴らに顔を覚えられるのは面倒だからな。後は……最近戦ってなかったから俺のサビ落としに付き合ってもらおうか。
「ふぅ……まぁこんなもんかな」
その日とある盗賊団のアジトが昼間のうちに壊滅したとニュースになった。
「ただいま〜」
「随分と遅かったですね」
「はは……まぁね」
返り血が酷すぎて洗ってたなんて言えない。
「ノーチェさん?」
「えっ!? あっどうしたの?」
「いえ……魔力探知が終了しました」
「ほんと!? じゃあ早速向かおうか」
俺はドールとサクの頭を撫でながら言った。
「ですが……探知された場所が」
ドールが俺から目を逸らす。
「? 言ってごらん」
「……そこは」
「まさかの王城」
「犯人は最初から近くにいたんですね」
「それにしても……良かったのか? 着いてきて」
俺は後ろで深く帽子を被り顔隠しているトレイシーに尋ねた。
「大丈夫です。私は貴方に恩がありますから」
「そっか……じゃあよろしく頼むよ」
トレイシーと握手を交わして隠密と隠蔽を使い王城に入って行った。
「道はこっちであってる?」
「はい……このまままっすぐです」
全く……俺は何かと王城に気配消して入るけどこれはもう因縁とか運命なのかな?
「あの部屋です!」
……ん〜絶対に王様の部屋! 嘘でしょ〜。いやまぁね王城って時点で嫌な予感してたけどさ……だからって何もあのメガネ君? 理由は……危険な国だからそれを世間に知らしめようとか? ……なんだろうこの違和感。
1度しっかり考えた方がいい……。殺された人物は俺に反感がある貴族たち、そのせいでフィデース信栄帝国の人が殺しをしているのでないかと疑惑が掛かる。ハウルはその潔白証明の為俺の国から人を呼び捜査を手伝って貰うように依頼した。でもハウルは住人を操り裏で貴族を殺していた。この時点で1つ違和感が残る。フィデース信栄帝国の人を呼ぶ必要が本当にあるか? それにだ……この国の人達全員を操れるならもっと大規模な事件を起こしてそれを俺の国に擦り付ける方が自然だ。どうしてこんな回りくどい手を?
「どうしました?」
「……なんでもない」
理由はどうあれ犯人がハウルであることに間違いはない。 とりあえずぶっ倒して理由を聞く!
疑問が残る中全ての答えを得るために俺達は扉を開いた。