118話 墜ちた王国
貴族街
気配を消してここまで来てみたが……まぁこの広さで犯人を探すとか無理あるよなぁ。
協会の場所は聞いてるし……まぁ後で行くか。
今はこの辺を適当に歩いて犯人探しと行きますか。
「お嬢ちゃん」
「……なんですかぁ〜?」
うわ……自分で出した声だけど凄い媚びてて気持ち悪い。
「こんな所で何してるかな?」
ふむ……気持ち悪い笑みに高そうな服、だけど汚れた髪や手。
貴族じゃないな、いい暮らしはしてるが裏にいる人間か?
「迷子になっちゃったんだ!」
「それじゃあおじさんが市民街まで連れてってあげるよ」
絶対裏あるよなぁでもいいか。それにまぁ……着いてけば情報が手に入るかもだし。
仕方なく汚い男の手を握ろうとした時。
「待ちなさい!」
空から声が聞こえると同時に俺と男の間に大きな土煙が舞った。
「誰だ!」
「誰だ!? 私を知らないなんて田舎者だなお前!」
土煙の中から銀色の鎧を着て金色の髪をなびかせる美しい女の子が現れた。
「私はシリア・トルノゼル! 王都で最強の女騎士よ!」
うわぁ……また癖の強そうなのが出てきたな。
「王都最強は……言い過ぎ」
「前も怪我して泣いてたでしょ〜」
「……」
上にまだいる……。見た感じ盗賊、聖職者……ん?あの魔法使い。
「ええい!うるさいわね! とにかく……こんな可愛い女の子を連れてこうとするなんて人のクズが!」
バシュ!
……早い。
今の動き……イヴィルと同等? いやそれ以上か。王都最強は嘘じゃないかもしれないな。
「なっ! 腕かぁ!!」
「ふぅ、まぁこんなものね」
「大丈夫〜?」
聖職者のお姉さんが俺の体を触って確認しようとする。
「大丈夫です。……助けてくれてありがとうございます、私はこの辺で」
見た目以上に強い……幻影魔法が見抜かれることは無いと思うが直接触られるのは少しだけまずいからな。
「? 迷ってるんだろ? どこに行きたいんだ?」
シリアとかいう女騎士が俺の頭を撫でながら聞いてきた。
「……市民街からここに迷っちゃったの」
はぁ……キャラ作りも疲れてきたなぁ。
「なるほど……じゃあ市民街までこのまま一緒に向かおうか!」
せっかく貴族街に来たのに……ってのはあるけどここで抵抗するのもおかしいし……強いパーティならギルドとかで有益な情報を得ている可能性もある。それとなく聞いてみよう。
「……あの」
「ん〜どうしたんだい?」
いや……そんな満面の笑み浮かべられても。
「シリアは……貴方くらいの妹がいる……最近冷たいから……貴方を見て……可愛がってる」
先程の男を片手で引きずりながら盗賊の女の子が話す。てかその小さな体のどこにそんな力が。
「いやでも……肩車はちょっと」
「大丈夫大丈夫! 軽いから問題なし!」
違うそういう問題じゃない。
「それはそうと名前は?」
「えっ!?」
な、名前……。
ノーチェって答えるわけに行かないし。
でもないって言う訳にも……。
「ん〜……サクラ……です」
「サクラちゃんね」
名前を聞けてご満悦みたいだ。
「あっそうそう今男を引きずってるのがゼル、そこの真っ白なお姉さんがココロ、で」
シリアさんが後ろを振り向く。
「おーい、いつまで後ろにいるのよ〜」
「私はここで大丈夫です」
「……まぁあの後ろにいる子はトレイシーよ」
そこまで言うとシリアさんが小さな声で俺に話しかけた。
「あの子は昔ダンジョンで仲間を亡くしててね……。それからはああやって距離を取るようになっちゃったの」
ということはあの子は間違いなく俺が昔あった見習い魔法使いだな。
しばらく他愛もない話をしていると謎の裏道でシリアさんは立ち止まった。
「さて……」
肩車していた俺を下ろし空箱の上に座らせ……。
シャキッ
俺の首に剣を突きつけた。
「貴方は何者?」
後ろの3人も何時でも攻撃できるみたいだし。いやまぁ……市民街に入っても降ろしてくれなかったからなんだろうなぁとは思ってたけど……油断しすぎたかな?
「恐らく龍人……もしくは獣人。もしかしたら魔王の国にいる者かもしれない」
あの盗賊もなかなかいい目をしてる。俺の幻影魔法を見抜くとは思ってなかった。
「もう一度聞くわね……貴方は一体何者?」
「……」
もう無理かぁ。仕方ない……和平中の身だしいきなり切りつけられることは無いと思うけど。
俺が口を開こうとした時……シリアさんの剣は鞘の中に戻っていった。
「はぁ、私こういうキャラじゃないのよね」
「え?」
後ろにいる3人も杖やナイフを下ろしている。
「まぁあれだけ近くにいてしかも人目のない所も通ったのに攻撃してこないってことは戦う気はないんでしょ?」
「そ、そうですね」
戦わずに済むならそれはそれでいいんだけど。
「けど……あんな暗いところで何をしようとしていたのかは教えてもらうよ」
「……はい」
その後俺は……色々隠しながらではあるけどあそこにいた理由を説明した。
「なるほどね、例の殺人事件について調べてくるよう言われたのね」
「はい」
国名は言えないってことにして極秘任務を行ってるってことにしたけど……よく伝わったな。
「……そうね。まぁこの情報があれば貴方が罰を与えられることはないでしょう」
そういうとシリアさんは懐から1枚の紙を取り出した。
「えっと……ほい」
おぉ……紙に文字が、こんな便利な魔法まであるのか。
「これを上のやつに渡しなさい」
色々と書いてあるけど……ってまじか、この情報本物だ。心理掌握したけど嘘ついてねぇ。
「? どうかした?」
「い、いえ!」
これは思わぬ収穫だな。
「お姉さん達ありがとう……今度あったらお礼するね」
俺は適当に風を吹かせて消えるかのように転移で王城内の部屋に戻ることにした。
「……」
「どうしたの、トレイシー?」
「……なんでもないです」
4人の冒険者達は謎の少女が消えたことを確認して賑やかな市街地へ消えていった。
「あれ? パーティはもう終わり?」
「……」
「はい! とっても美味しかったです!」
死にかけのサク……満足気なドール。まぁ苦労を掛けたなサク。
「ノーチェさん……今度ケルロスさんと2人きりで温泉に入っていい権利を」
なぁにを言ってるんすかねぇこの子は。
「却下」
少し腹立ったので頭にチョップ。
「ひぃん」
……得た情報に関して2人と共有しようとしたけど。少し気になることがある。
いくら敵対していないと理解しているからって本物の情報を他国に流したりするか?あの時は正体を隠すことで精一杯だったから考えなかったけど普通に考えてみればおかしな話だ。
「? どうしました?」
「いや……少しな」
黙り込んでしまった俺の事を不安そうに見つめる2人……でも今はそんなことよりこの違和感の方が気になってしまう。
あえて情報を握らせた? いや……俺がこんな風に疑問を抱くことも想定にいれて? 会ったのも最初から狙ってた?
「俺達は最初からずっと……」
俺は紙に魔力を流し込むすると紙がドロリと溶けだした。
「サク! ドール! 王城を抜けるぞ!」
「え?」
「……かしこまりました」
サクの変装を解いて……。
ドールは周囲の警戒をしてもらっている。
いやぁさっきまでだらーんと休んでいた子には見えないな。
「転移で移動する、場所は市街地だ」
「はい!」
「急展開で着いて行けませんよ〜」
俺はアワアワしているサクを抱き寄せて転移を開始した。……てかドールさん近くない?
「ふぅ……成功」
「……それでなぜ転移を?」
「恐らくだがこの国はほとんどの住人が洗脳か催眠に掛かっている」
それを聞いたドールが首を傾げる。
「……ですが洗脳や催眠系の魔力は感じませんでしたよ」
「俺もそうだった、だから気付かなかった」
紙に研究部屋を使ったら込められてた魔力が崩れた。
分解されないってことは俺と同じレベルのスキルを持ってることになる。
「バックにいるのは俺と同レベル……いやそれより上の強者かもしれない」
この聖王国の住人がどれくらい操られているか調べる必要がある、1度国に戻って。
バコンッ!
「きゃっ!!」
「下がってください!」
「……」
焦点が合ってない……確実に操られてるな。
「仕方ない! こうなれば教会に突撃するぞ!」
「はい!」
「うぅ」
俺達は教会に向けて全力で走り出した。