113話 得のある選択
ゼールリアン聖王国はフィデース信栄帝国に敗北……六王の1人……理の王は戦死。勇者もノーチェ・ミルキーウェイにより倒されたとの連絡が入った。このまま人の国は滅亡の道を歩いて行くと誰もが思っていた……のだが。
「まさかこのようなことになるとはな」
私は今フィデース信栄帝国に向けて馬車走らせている。
数日前
「シャネル王!」
優秀な部下が1枚の紙を握りしめ執務室に入ってきた。普段であればノックをしなかったことに対して一言注意をするのだがいつも冷静であるこやつの反応……そしてその逼迫した様子に只事では無いと思い報告を先にさせた。
「ゼールリアン聖王国はフィデース信栄帝国と同盟を結びました! その際にサーレスが治めていた土地を全て譲った様子です。さらに……六王であらせられるバージェス・ロンド王は戦死し、勇者も同じく死亡したものと思われます!」
私は報告を聞いた時持っていた万年筆を床に落としてしまった。同盟を結んだ時点で異常……更には土地をそのまま譲るなど考えられることではなかった。理の王が死んだ事実……勇者ですら敵わない存在を知り目の前が真っ暗になってしまった。
「傀儡国のことは書かれてあるのか?」
「はい! ゼールリアン聖王国に属していた国は全て独立を保証されております!」
「……。そうか……」
傀儡国を使い資源の搾取をするかと思ったが……そのようなことはしないのか。
「他の国はどのような反応を示している」
「現在調査中ですが……スペアド国はルリアの森と同盟を結びエルフと共に暮らしていくことを選んだようです」
……確かにあの国であれば近場にいるルリアの森とは仲良くしていたいはずだ。
「我らはどうするべき……か」
シャンデラ国はゼールリアン聖王国とコロリアン妖精圏に挟まれる形で存在している……比較的安全な立地だ。しかしフィデース信栄帝国が足元に作られ隣国であったコロリアン妖精圏はフィデース信栄帝国と同盟を結んでしまっている。今まではゼールリアン聖王国が居たため無駄な衝突は避けられていたがヘラレスの行動や理の王死亡により今のこの立地は最悪なものへと変化してしまった。
「コロリアン妖精圏との和平関係は……」
「王の考えとおり……コロリアン妖精圏は和平を結ぶことが異常事態……フィデース信栄帝国との同盟も何故そのようなことになっているのか皆目検討がつきません」
「……」
フィデース信栄帝国に従属を誓うか……ココアン国と同盟を結んでも良いが……北にあるルーグント帝国の動きも気になる。
「報告感謝する」
ガチャリ
「はぁ」
ルーグント帝国は味方であると考えて良い……はずなのだが。
得体の知れない何かを感じる。
「仕方あるまい」
パチン!
「フィデース信栄帝国について調べてこい」
漆黒を纏った3人は私の命令を聞いて一瞬で消えてしまった。
「王……フィデース信栄帝国から書状が」
例の3人を送り込んで1日……嫌な予感しかしない。
「そちらの国が送った3人の間者は保護している。話があるならば王自ら我が国に来ると良い」
「……」
まずいことになった。とはいえ……間者を送り付けた相手を国に招くか?
「考えても仕方ない……か」
「シャネル王……」
「みなまで言うな。出立の用意をしろ! 猶予は2日だ!」
「シャネル王! フィデース信栄帝国が見えてきました!」
馬車の中から魔王が統治している国を覗き込む。
「……あれが魔王の国というのか」
もっと禍々しいものかと思っていたが……。
普通の国と変わらぬ様子だ。
「なんだ貴様!」
「一体どこから!」
前の方が騒がしい……敵襲か?
「あらあら……その物騒な物をしまってくださる?」
黒くて大きな羽……あれは。
「お前! ……空喰いのエレナ・ハーレルトか!」
「外の国だとそんな風に呼ばれてるのね〜」
空喰いエレナ・ハーレルト……フィデース信栄帝国の黒翼族で空中戦を得意とする部隊の隊長か。
「王!?」
「私はシャンデラ国の国王をしているシャネルです! 此度は私の部下が」
「そういうこと……わかったわ。案内するから着いてきて」
そういうと黒い翼を大きくはためかせて……しかし我々でもついて行くことの出来る速度で前を進んでいった。
国の中に入りまず驚いたのは白い煙を吐きながら大きな音を立てて移動する謎の機械だった。こんなものはドワーフの国でも見たことがない。
「いっ……一体これは」
「私はここまで……これから先はこの子達が案内します」
「はい。ノーチェ様と会談される予定の方は私が」
「はい。その他護衛として連れられた方は僕が」
子供? ……緊張感を解くためか?
「いかが致しましたか?」
「……いやなんでもない、案内を頼む」
「かしこまりました」
少女は頭を下げると数歩先を歩き出した。
「これに乗るのか?」
「はい。歩くには少しだけ遠いので……どうぞ」
謎の機械に乗るのは度胸が居る……しかし間者を送り付けている身……首を切られても不思議では無い……これくらいの恐怖なんてことはない。
「快適だったな」
「……はい」
秘書と数名の兵士を連れて居たが全員が同じ席に座り……途中で出た果実水も美味しかった。そして圧倒的な速さで移動しているのにも関わらず振動は少なく座り心地も良いと来たものだ。
「こちらです」
少女が手で示したのは空高く立つ塔だった。
「これが……」
「はい、中へどうぞ」
1階には様々な商品が売られている。特段高いものでは無さそうだ。
「この中に入ってください」
「これはなんだ」
兵士の1人が警戒して剣に触れる。
「安心してください。この中で何かしようとは考えておりません。私も入りますので」
「よい。ここまで来て引き下がる訳にもいかん」
ここで暴れては品位が疑われる。
「少し揺れますのでご注意を」
少女がそういうと謎の箱がガコンッと動き出した。少しだけ体が浮く謎の感覚。外を見ると地面がだんだん離れていく。
これもさっき乗った機械と似た何か……なのだろう。
もう既にこの国と戦い勝てる気が全くしない。理の王が負けたのもわかる気がするよ。
チンッ
「着きました。奥の部屋へどうぞ」
少女の示す先には美しく飾られた扉が1つ。
あそこにノーチェ・ミルキーウェイ……魔王がいるのか。
私は唾を飲み込み緊張感を晴らそうとする。
「行くぞ」
俺は腹を括り扉を開いた。
ガチャッ
扉が豪勢だったので中も骨董品などで溢れていると思っていたが。
普通……。会談用の部屋だなということだけは分かるが。
そして奥には小さな少女が座っている……その後ろに大柄な男が2人……1人は白髪で肌も美しく白い。もう1人は黄色い髪に褐色の肌。少女はフードの着いたラフな格好をしている。男の方も白髪は置いておいて褐色肌の方はほとんど上半身が隠せていない。
通常の会談であれば無礼であると……誰もが思うがこの時点で話し合いは始まっているのだ……。
私とこの少女の絶対的な差を示すように。
「今日はようこそおいでくださいました。シャンデラ国の王……シャネル・ロートン殿」
「いえいえ……私の方こそ招いて頂き光栄です」
まずは様子見からだ……相手の出方を。
「えっと……そちらが送ってきた3名についてだが……もう返した。正確には他の兵士が滞在している場に置いてある」
「……そ、そうですか」
間者を使い揺さぶりをかけてくると思っていたが……そういうことでは無いのか。
「さて……これで話し合いは終わりかな」
少女は椅子から降りて私の前に立った。
緊張が走る……終わりとはどういうことだろうか……私の首を切り落として落とし前をつけようとしているのだろうか。
しかし少女の口から出た言葉は驚きのものであった。
「ここは……焼肉って言ってもわかんないか……。まぁなんというか焼いたお肉? えっと……切ったお肉を自分で焼いて食べるお店があってね、それがすごく美味しいから食べて帰るといいよ。お代はこっちで出しとくから好きなだけ食べてね」
ポカンと口を開けて驚く兵士と秘書……かくいう私も開いた口が戻らない。
そのまま立ち去ろうとする少女を引き止める。
「ノーチェ殿! 間者を送り付けた件に関して……なにか」
「え? ……あ〜けどまぁ未遂だったし。もし情報取られてたら記憶消してとかやるようだったけどそれもなかったから大丈夫大丈夫」
グッドマークを見せて微笑む少女……もう私は訳が分からなかった。
「……」
「それとも……まだ何か話したいことあった?」
「あっ! ……」
なぜこの時こんな言葉が出たのか私もよく分からない。しかしこの選択が国にとって最善であると思ったのは紛れもない事実である。
「ノーチェ殿! 私の国と和平を結んで頂けませんでしょうか!」
驚いた顔をする少女……しかし答えは違う場所から帰ってきた。
「断る」
後ろでたっていた褐色肌の男が強い口調で答えた。
「だいたいノーチェが許したから黙っていたが……間者を送り込む時点で敵対すると思われても仕方がない行為だ」
「た、確かに! ですがそれは魔王の国というのがどのようなものか調べるためであり決して敵対しようと言った考えは!」
「信用出来ないな。魔王の国だなんだと言い訳をする前にここは国だ……立派な国家として成立している。なのにも関わらず間者を送って視察をしようとしていた? ふざけるのも大概にしろ」
白髪の男も腕を組み不機嫌そうに話した。
「お二人の意見は最もです! そして今私が厚かましいお願いをしているのも事実! ですが……魔王とはそれ程までに恐ろしく強大なのです! 和平を結ぼうとした国の使者が話もさせて貰えず殺された例なんて大量にございます! 間者を送ったことは非礼であったと言われて仕方ありませんが。それはノーチェ殿が魔王である故にした行為! 魔王が統治する国家であればどこであっても私は同じことを致します!」
部屋が静まり返る……私は言い切った。言わねばならぬことを。この言葉に嘘偽りはない……魔王が統べる国であればどのような国でもまず間者を送り込む。それが私の判断だ。
「ふっ……ふふ……あははははははは!」
持っていたノブを離して少女が椅子に向かいながら笑っている。
「ノーチェ?」
「どうしたんだ」
後ろの男も不安そうに少女を見つめている。
「いやいやいや……ケルロスとクイックにここまで啖呵切れるなかなかいないからさ。後はあの沈黙! はぁ〜もう面白くて」
肩を揺らしながら笑いをこらえる少女。
笑って上がってしまった息を整えてゆっくりと椅子に座りこんだ。
「ちょっとだけ2人にしてくれないかな」
後ろの男達は少しだけ不満そうな顔をしたが何も言わずに奥の部屋へと消えていった。
私も秘書と兵士に外へ出るよう伝えた。
「あ〜……本当に面白かったなぁ」
まだ思い出し笑いをしているのか少女は時折顔を背ける。
「ふぅ……落ち着いてきた。さてと……同盟を結びたいんだよね」
呼吸を整えて少女が尋ねる。
「はい、その通りです」
「わかった、いいよ。って言いたいけどこっちとしてはメリット少ないんだよなぁ」
少女は謎の空間から1枚の紙を取り出した。
「ゼールリアン聖王国は負かしちゃった責任あるから仕方なく抱えてる……まぁ土地も貰っちゃったから同盟……というか協力体制になってる。ルリアの森とコロリアン妖精圏は六王が統治する国で軍事力や生産力に関して申し分ない。何より同盟を結んでおけば攻めにくくなる。でも」
「私の国には魅力がないということですか?」
少女は一瞬目を逸らしたが直ぐに口を開いた。
「まぁ……端的に言えばそうなるね。俺も国を導く1人だ……無駄な負担を増やす訳にはいかない」
確かに……利益を産まない国を取り込む程愚かな行為は無い。ゼールリアン聖王国に関しては特産品の輸出などで傀儡国として動いていたがフィデース信栄帝国になくて我が国にあるものなんて……何も思いつかない。
「……うーん」
紙を眺めて悩んでいる少女……紙の正体は分からないが恐らく我が国の情報が乗っているのだろう。
「ん?」
少女はなにかに気付いたのか紙のある一点を見つめ出した。
「この……ダンジョンを使った冒険者育成って何?」
私は思いもよらぬ方向からの質問に驚く。
「そ、それは最近発見された下級ダンジョンが主を倒してもモンスターが湧き続ける特殊なダンジョンだった為新人育成のために活用しているのです」
「なるほど、ちなみに魔物の強さはどのくらいまであるんだ」
「はい、駆け出し冒険者が容易に倒せるLvから中級冒険者が数名集まって倒せるLvまでです」
このチャンスを逃がす訳にはいかない。
「ここでは魔物を倒すこと以外には教えてないのか?」
「いえ! ダンジョンの攻略法や迷った時の対処法、限られたアイテムしか持っていない状況での遭難に耐える方法などが学べます」
そこまで聞くと少女は紙を置いて空を見始めた。
数刻が過ぎ少女は椅子を戻して私の目を見つめた。
「和平の件許可しよう」
「それは!」
少女は手で私を止める。
「しかし……条件がある。フィデース信栄帝国とシャンデラ国の学校同士で交流を深めたい」
「学校……ですか?」
「? 学校は無いのか?」
「……はい。ダンジョンは冒険者を育成する為のものであり学校では無いので」
少女は少し考え込んで話し出した。
「それではシャンデラ国に学校を建てよう。費用はこちらで負担する。最先端の技術とダンジョン知識……それ以外にも魔法や剣などを極める為に」
少女の案はとても魅力的なものだった。
「……それは」
「これからの世界は安泰かもな」
その言葉を聞いた時私は確信した。この少女は……いやノーチェ・ミルキーウェイ殿は世界を変える方であると。
「学園の件! 私も全力で手伝わせていただきます。詳しい日程や費用……建設場所などはこれからまた話し合いましょう!」
ノーチェ殿は少し驚かれた顔をしていたが「そうだな」とだけ言って椅子から立ち上がった。
「これからよろしく頼む。シャネル」
「……はい! ノーチェ殿!」
私はノーチェ殿の手を強く握り……希望の光に包まれたドアを開いた。
現在のステータス
ノーチェ・ミルキーウェイ【反逆の刃】
天帝月夜蟒蛇Lv3
所持アイテム星紅刀
《耐性》
痛覚耐性Lv6、物理攻撃耐性Lv9、精神異常無効Lv8、状態異常無効Lv10、魔法攻撃耐性Lv8
《スキル》
支配者、知り尽くす者、諦める者、混沌監獄、研究部屋 、極限漲溢 、魔法無効
《魔法》
火炎魔法Lv8、水泡魔法Lv10、水斬魔法Lv9、水流魔法Lv10、氷結魔法Lv10、風新魔法Lv5、土石魔法Lv10、土斬魔法Lv8、土流魔法Lv9、回復魔法Lv10、破壊魔法Lv8、幻影魔法Lv9、闇魔法Lv10、深淵魔法Lv10
《???》
強欲、傲慢
《資格》
管理者-導く者
《称号》
神に出会った者/神を救った者
ケルロス・ミルキーウェイ
赫々白狼Lv9
《耐性》
痛覚無効Lv6、状態異常耐性Lv9、物理攻撃無効Lv3、魔法攻撃無効Lv9
《スキル》
信頼する者、不達領域、完全反転
《魔法》
水泡魔法Lv4、風新魔法Lv10、風斬魔法Lv10、風流魔法Lv8、稲妻魔法Lv9、創造魔法Lv6、光魔法Lv10、神聖魔法Lv8
《???》
嫉妬
クイック・ミルキーウェイ
冥紅土竜Lv8
《耐性》
物理攻撃無効Lv5、精神異常無効Lv3、魔法攻撃無効Lv2
《スキル》
貪る者、永久保存、欲望破綻
《魔法》
火炎魔法Lv10、火斬魔法Lv3、風斬魔法Lv8、土石魔法Lv10、土流魔法Lv10、土斬魔法Lv10、溶岩魔法Lv10
《???》
暴食