112話 寂しい風
結局閉館ギリギリまで遊んでしまった。……まぁフィーとテレシアにあれだけ誘われちゃったら断れないよなぁ。
「あれ? ノーチェ帰らないのか?」
着替え終わり外の椅子に座っている俺を見てフィーが質問する。
「……帰るさ。けどもう少しここにね」
フィーは少し不思議そうな顔をしたがエリーナに言われてそのまま帰っていった。
エレナやイヴィルも俺を見て何か言いそうになっていたが結局何も言わずに帰っていってしまった。
閉館してから30分ほど……もう中から人は全く出てこない。辺りも暗くなってきて奥の街では街灯が付いているようだ。
そんな中俺は椅子に座りドワーフ達が作った自動販売機から缶に入ったオレンジジュースを選択して飲んでいた。
……50フィル。硬貨の価値が分からないからなんとも言えないけどこれが50円ってなら安いよな。
買った缶ジュースは結構な時間が経っていたので水滴が表面にうき中身は少しだけぬるくなりつつあった。
ガチャ。
男性用更衣室から鍵のかかる音がした。そのまま足音が2つ聞こえて俺が見つめている扉がゆっくりと開いていった。
「あれ? こんなとこで何してんの?」
鍵を持ちながら質問するクイック。その後ろには水着を入れているであろうバックを肩に乗せて俺を見るケルロスが居た。
「……1人で帰ってもつまんないからな」
俺は缶ジュースを一気に飲み干してゴミ箱に投げ入れた。
「そういうことなら言ってくれれば良かったのに」
「そうだな……ノーチェが待ってるならもっと急いだんだが」
鍵を閉めて何度かドアノブを触り確認するクイック。ケルロスは自販機を見つめてビンのジュースを押している。
「いやただ帰りたいなって思っただけだから」
そう言って暗い夜道を俺は歩き出した。2人は少し小走りで俺の隣に並んだ。
両脇にこんなイケメン並んでるとか逆両手に花! だね。まぁ……元の性別的にさほど嬉しいかって聞かれると微妙だけど。
「楽しかった?」
「楽しかったよ。ケルロスとクイックこそ警備なんてしてて楽しかった?」
「仕事でやってるからな……楽しいかどうかはあれだけど。そうだな……ノーチェの水着見れたし良かったかな」
「ん? 今なんて言った?」
ケルロスが最後の方だけボソッと言うから聞こえなかった。
「なんでもないよ」
これは誤魔化してるなぁ〜……。ってまぁいいけど。
「……それにしてもさ。俺達が最初来た村がこんなに大きくなるなんて思わなかったな」
「そうだな」
「確かに……最初はこんなことになるなんて考えてなかったね」
2人とも辺りを見渡して懐かしそうに答えてくれた。
「ちょっと……寄り道しようか」
俺はある方向を指さして勝手に歩き出した。
「ここだけはいくら開拓してもほっといて貰うように頼んでおいて正解だったな」
国を一望……とは行かないけど景色は最高だ。
ボフッ!
俺は草が少し多い所を選び適当に座り込んだ。
風が気持ちいい……少しだけ乾かせていない髪が風に吹かれて寒いけど。
「ノーチェは……本当にこうなるってわかってなかったの?」
「……わかってなかったよ」
後ろにいるから2人の顔は分からないけど……。
「俺は普通の……蛇さ。ただ普通のね」
多分……俺の事で何か気になることとかがあるんだろう。
「ここまで俺がやれたのはみんなのおかげだから」
俺1人じゃ多分……
「だから2人ともさこれからも」
俺は立ち上がり後ろを振り返った。
「わっ!」
ケルロスとクイックが俺に抱きついてきてバランスを崩した俺はそのまま草むらに転がってしまった。
「全く……危ないだろ」
俺達は川の字になりながら寝そべっている。
「つい」
「大丈夫。俺達はずっといるよ……。もう離れないさ」
「ケルロスが言うと説得力ないなぁ〜」
俺は笑いながら言った。
「もう……本当に離れないよ」
ケルロスは焦るのでも怒るのでもなくただ俺の手を優しく握りこんだ。
「俺も離れないよ」
ケルロスと手を繋いだのがみえたのかクイックも俺の手を掴んだ。
「……」
「ノーチェ?」
「あぁごめんね。なんていうか……昔は3人とももっと小さかったのに大きくなったなぁって。いやケルロスと俺は小さくなったか?」
俺は2人の手を離して立ち上がり空を見た。この辺りは暗くて星空がよく見える。
変化する景色の中にも変わらないものはある……か。
このまま3人の関係も変わることなくずっと仲良くできるといいんだけどなぁ。
「さぁ2人とも! あんまり夜風に当たってると風邪引くしそろそろ家に帰ろうか」
「……あぁ」
「そうしようか」
俺は2人の手を取り体を起き上がらせて家の方へと歩いて行った。
「ただいま〜」
まぁ誰もいないけどね。
「疲れたでしょ? ノーチェは部屋で休んでていいよ」
クイックはケルロスと一緒にキッチンへと向かっていった。
……。
「? あれ……なんか欲しいの?」
「……少しここに居ようと思っただけだ」
俺は椅子に座り2人のことを眺めることにした。時々俺の方をチラチラと確認していたが本格的に料理が始まると俺を見ることは無くなった。
今回はクイックが作ってるのか……ケルロスは食材出したり色々サポートしてるだな。……いやあれくらいなら俺にも出来るけどね!
「ほら、できたよ」
「結局最後までいたな」
コトッ……コトッ……。
俺はなんにもしないのもちょっとあれだったのでナイフとフォークを取り出した。
「ん。ありがと」
「おー」
「食べるぞ〜」
「ノーチェ……今日なんかあった?」
俺がスープを啜っているとクイックが聞いてきた。
「え?……なんで?」
「いや……今日は妙に近くに居たがるなぁ……って」
「……そう、かも」
いつもならご飯作るとこなんて見ないし……ウォーターパークでも2人のこと待ってたし……。
どうしたんだろ俺。
「……」
黙り込む俺を不安そうに見つめる2人。
「ふっ……はははは」
俺はなんだかよく分からなくて……それでも楽しくて……嬉しくて……笑い出してしまった。
「ううん! なんでもないんだ。本当になんでもないんだ」
俺は笑いながら答える。
それを見た2人も少しだけ笑ってくれた。
「なんだよそれ」
「全く……ノーチェは時折訳がわからないよ」
あぁ。ここが俺の居場所なんだ。……誰が認めなくても……俺自身が認めなくても……。
ここが、この場所が……この空間こそが俺のいる居場所なんだ。
もう昔の俺じゃない。もう進めなかった頃の俺じゃない。
今の俺は前に進めている。今の俺は。
「裏………………の!」
頭の中で知らない声が響く。でも一瞬で何を言っていたのかよく聞こえなかった。
「さて2人とも! これからも忙しくなる! 沢山食べて元気に働くぞ〜!」
2人ともニヤリと笑い勢いよくご飯を食べ始めた。
その日の夜ミルキーウェイの家では夜遅くまで光が消えることなく中からは楽しそうな声が聞こえてきたと言う。
現在のステータス
ノーチェ・ミルキーウェイ【反逆の刃】
天帝月夜蟒蛇Lv2
所持アイテム星紅刀
《耐性》
痛覚耐性Lv6、物理攻撃耐性Lv9、精神異常無効Lv8、状態異常無効Lv10、魔法攻撃耐性Lv8
《スキル》
支配者、知り尽くす者、諦める者、混沌監獄、研究部屋 、極限漲溢 、魔法無効
《魔法》
火炎魔法Lv8、水泡魔法Lv10、水斬魔法Lv9、水流魔法Lv10、氷結魔法Lv10、風新魔法Lv5、土石魔法Lv10、土斬魔法Lv8、土流魔法Lv9、回復魔法Lv10、破壊魔法Lv8、幻影魔法Lv9、闇魔法Lv10、深淵魔法Lv10
《???》
強欲、傲慢
《資格》
管理者-導く者
《称号》
神に出会った者/神を救った者
ケルロス・ミルキーウェイ
赫々白狼Lv9
《耐性》
痛覚無効Lv6、状態異常耐性Lv9、物理攻撃無効Lv3、魔法攻撃無効Lv9
《スキル》
信頼する者、不達領域、完全反転
《魔法》
水泡魔法Lv4、風新魔法Lv10、風斬魔法Lv10、風流魔法Lv8、稲妻魔法Lv9、創造魔法Lv6、光魔法Lv10、神聖魔法Lv8
《???》
嫉妬
クイック・ミルキーウェイ
冥紅土竜Lv8
《耐性》
物理攻撃無効Lv5、精神異常無効Lv3、魔法攻撃無効Lv2
《スキル》
貪る者、永久保存、欲望破綻
《魔法》
火炎魔法Lv10、火斬魔法Lv3、風斬魔法Lv8、土石魔法Lv10、土流魔法Lv10、土斬魔法Lv10、溶岩魔法Lv10
《???》
暴食