111話 いつの日かの仕返し
「ノーチェ?」
誰かが呼んでる……?
「うーん……どうしようか」
「まぁこのままでも」
「んっ……」
「あっ起きたか」
あれ……あのまま寝てたのか俺。
「ふぁ〜ぁ。ん〜……ケルロスとクイックか。どうした?」
「いや……どうしたのかなって」
「うん〜……ちょっと眠くて……えぇ!?」
ケルロスとクイックじゃん!
「えっ!? ちょっ! あっ!」
さっきの件で気まずい……てか今すぐ居なくなりたい。
「ごめ! あっ俺フィーに呼ばれてたから行ってくるよ!」
俺は早口でさらに赤くなった顔を手で隠しながら慌てて椅子から飛び起きた。
パシッ!
ケルロスが俺の腕を掴む。
「落ち着けノーチェ……さっきのあれはエレナのせいだってエリーナから聞いたから」
「そっ……そっか。良かった」
2人ともさっきまでしていた生暖かい目から普通に変わっている。
「それでさ? フィーと遊ぶのはいいけどそのカッコじゃ大変だよ」
あ〜……そうかパーカーで入ると思われてたのか。
「大丈夫。ほら……」
俺はパーカーを脱いで下にある水着を見せた。まぁ青と緑を主体にしたスク水……とは少し違うけど限りなくそれに近いな。てか……これしかマシなのがなかった。
「……て、何そっぽ向いてんだよ」
「いや……なんでもない」
「脱ぐなら脱ぐって……いやそんなことより水着着てるなら着てるって言ってくれよ」
一体何をそんなに慌てているのだろうか。
下着見せてる訳でもなかろうに。
「……2人はもう少し女性に耐性を持った方がいいと思うぞ」
「「……」」
あれ……。なんか変なこと言ったかな。
「耐性……か」
「耐性……ねぇ」
2人ともなんだか呆れてない!? 2人ともノーチェだし仕方ないか……。みたいな感じじゃない!?
「なっ! 俺はお前達のことを思って!」
「はいはい……よくわかったから」
俺を子供みたいにあしらって2人はそのままプールの警備に戻ってしまった。
「……なんだよ全く」
俺は少しだけ腹立ちながらパーカーを椅子にかけて25mプールがある方へ歩いて行った。
「あれ? ノーチェは?」
「さぁ」
さっきまで寝てたのにいなくなってる。ウォータースライダーっていうのをフィーがやりたいってしつこいからノーチェに押し付けようと思ってたのに。
フィーをどうしようかと悩んでいると。
「あっ! エレナさん、フィーさんこんにちは!」
「テレシアちゃん、今日はイヴィルと一緒じゃないの?」
「うぅんイヴィルお姉ちゃんと来たよ!」
イヴィルがテレシアを放置してるとは考えずらいし。
「もしかして……迷子?」
「うん! イヴィルお姉ちゃんがいなくなっちゃったの」
あ〜……これはイヴィルが目を離した隙にって感じかしら。
「フィー、イヴィルのこと探すから手伝ってくれる?」
「? お〜! 任せろ!」
フィーはテレシアが持っていたイヴィルのパーカーの匂いを嗅ぎイヴィルを探し出した。
「どぉ〜?」
「ん〜……この辺までは匂いがあるんだけどなあ」
人も多くなって匂いが混ざってきてるのね。
「というか……あの人盛りはなんでしょう?」
テレシアが指を指した先には老若男女問わず様々な人が集まっている。
「なにかイベントでもやってるのかしら?」
これだけ人がいればイヴィルも居るかもだし聞き込みも視野に。
「あの2人すげぇぞ休まずに20分は泳ぎ続けてるぞ」
「それもペースを落とさずにだ」
……。
「ちょっと……見てみましょうか」
なんとなく察しは付くわ……でももう1人は、あっ。
私の予測は当たりプールの中ではノーチェとイヴィルがすごい速度て泳いでいた。
「あっ居た!」
「お〜! ノーチェもいるな!」
「なんて言うか……あれじゃあ蛇は蛇でも海蛇よね」
「ノーチェすごい早いぞ!」
「勝負でもしてるんでしょうか?」
……確かに2人とも一向に休む気配がない。でもノーチェの泳ぎには少し余裕があるけどイヴィルは結構全力ね。
「……終わるまで待ちましょうか」
私たちは人混みをかき分けて……というかそこそこに有名なツラしてるからみんなどいてくれたの方が正しいのかしら。
それにしてもノーチェとイヴィルには気付いてないみたいね……まぁノーチェは基本家から出ないし出ても瞬間移動とかポンポン使って新しく入った住人には顔は広がってないものね……1部のコアなファンには有名だけど。イヴィルは壁の外での警備が多いから普通の住人は知らないのかしら。
「おっ! とうとう小さい方が抜いたぞ!」
「あぁ〜!」
「これで勝負が決まる!」
ザパン!
「っしゃあ!」
「勝ったのは小さい姉ちゃんだ!」
「ん!? あれ! なんの騒ぎ!?」
イヴィルと水泳で勝負することになったんで結構泳いでたが疲れて来たんで勝負終わらせたんだけど……。なんでこんなに人が。
「はぁ……はぁ……さすがに早いな大将」
「そんなことないさ」
「やっぱり泳ぐのは抵抗の少ない方がいいのか」
腕を組み謎の男が納得した様子で俺を……少し目線が下?
「そうだな……あっちはなかなか」
イヴィルの方もジロジロと見ている。
「なぁイヴィル……!?」
なんかキレてる!?
「ちょっ!」
「ほら!」
羽を羽ばたかせながらエレナが向かってくる。
「エレナさんだ」
周りの人達がエレナを見て驚きの声をあげている。
「2人ともゴーグル取って……フィーが遊びたいって。あとテレシアがあなたのこと探してたわよ」
「「わかった」」
俺達はゴーグルを取ってプールから出た。その時点で気付いている人は気付いていたが訳の分からない様子の人も多い。
「ノーチェ!」
「イヴィルお姉ちゃん!」
フィーが俺に飛びつきテレシアはイヴィルの腰辺りを抱きしめる。その名前を聞いた時周りがザワザワと騒ぎ始めた。
「ノーチェ様!?」
「イヴィル副隊長まで!」
「ん?」
俺が状況を確認するため前に出ようとするとイヴィルが俺を止めた。
「さっき……水中での抵抗がなんだって……言ってたヤツ出てこい」
……。
「フィー……テレシア……2人ともあっち行こうか」
「えっ?」
「イヴィルお姉ちゃんは?」
「イヴィルお姉ちゃんは後で来るから……先に行きましょ」
エレナも気を使ってくれたのか2人を説得してくれた。
「まぁ……何かあればケルロスとクイックが止めに入るよ」
多分きっと……そうあって欲しい。
「そうだ!」
フィーは何かを思い出したように口を開く。
「あれやりたくてノーチェを誘ったんだ!」
フィーの指さす方向にはプール用滑り台……つまるところのウォータースライダーがあった。
「あ〜……まぁ全然いいよ」
特段断る理由もなかったのでいいのだが。
「!! あれ私もやりたい!」
以外にもテレシアが食いついた。
「そっか……じゃあエレナと一緒に」
「え……」
すっげぇ嫌そうな顔……。
「? エレナ水ダメだっけ?」
「水は平気だけど……あれは〜少し〜ねぇ」
露骨に嫌な顔をして距離を取ろうとしている。
「おやおや……エレナはウォータースライダーが怖いのかぁ」
俺はエレナの翼を掴み逃げられないようにした。
「ちょ……ノーチェ?」
「さぁ……一緒に行こうか、エレナ君」
「ノーチェお姉ちゃん……こわーい」
「見ちゃダメだよ」
俺はエレナのことを引きずりながらウォータースライダーへと向かった。
「なんで!? ノーチェの力が強くなってる!?」
エレナが驚くのも無理は無い……俺は進化を繰り返し! 力も上がったのだ!
まぁ……強くなってるのはケルロスとクイックも同じで2人には腕相撲勝てなかったけど……。
「さぁ! 流されるんだ! エレナ!」
「エレナからか〜」
「頑張れ! エレナさん!」
2人の応援もあり引くに引けないエレナ。さぁ退路は塞いだぞ。
「そうだ! フィーが先に……!!」
俺は振り返ろうとしたエレナの浮き輪を押して強制的にウォータースライダーへとぶち込んだ。
「うきゃあぁぁぁぁぁ!」
復讐は果たされた。
その後は伸びてしまったエレナを看病したりフィーとテレシアと遊んだりして楽しく過ごしました。