109話 知らない名前
「リーベか……」
「久しぶりじゃのぉ……そろそろくたばってる頃かと思ったのじゃが」
2人は知り合いなのか。仲は悪そうだけど。
「ははは。お前こそ昔はあんなに小さく愚かだったのに今はこんなにも」
「女性に昔の話は禁物じゃ。今はそんなことよりワシのお気に入りに手を出したことについてじゃ」
リーベさんが今まで見た事もないほどに怒ってる。
「色々と聞かせて貰ったが……シャルという子を使ってノーチェを取り込もうとしたようじゃな」
「あぁ」
「勇者、シャル・アイレに関してはゼクス・ハーレスで話し合い結論が出ておる。セナの説得もゼロが終わらせた」
あれを！？ ゼロすげぇな！
「そうじゃったか……それは残念じゃ」
「まだ話は終わっておらんぞ。ワシのノーチェに手を出そうとした件がまだじゃ」
「なんだ……狐っ娘が言うようになったなぁ。この俺とやる気か？」
なっ！？
さっきの威圧は本気じゃなかったのか……。後ろにいるイヴィルが無意識のうちに刀を抜いている。俺も勝手に手が刀に添えられている。
「安心せいノーチェ……」
リーベさんは刀の上にある手を優しく握ってくれた。
「いいぞ……しかしじゃ。それは他の魔王にも喧嘩を売ることになるが……それでも良いかのぉ」
その言葉を聞いたクレアシオンは殺気を収めてゆっくりと座り込んだ。
「魔王達が結託でもしたか？」
「結託とは違うがのぉ……ノーチェのことを気に入ってる奴は少なくないということじゃ」
「はっはっはっ。そうか……なら仕方あるまい。理の王は別の者にしよう」
案外あっさりと。
「それはそうと……ノーチェ・ミルキーウェイ」
クレアシオンが俺の名前を呼んで質問した。
「ハナは元気か？」
そう聞いた瞬間クレアシオンの口角が上がりリーベさんが扇子に魔法を込めた。
「おい死にかけのじじぃ……。その名前を口にすんじゃねぇよ」
リーベさん！？ 口調がやばい事になってますけど！
「……そうか。いやすまん忘れてくれ」
ハナ？ 誰のことだ。
「ノーチェ……今のは忘れるんじゃ」
いつにも増して真剣な声でリーベさんが俺に話しかける。
「えっ……と」
「いや……意識することは無い。何も考えなくて良い」
クレアシオンも質問しといてそんなこと言うなよ！
「話はここまでじゃろ？そろそろ帰るがいいな」
「あぁ……もう大丈夫だ」
クレアシオンはそういうと立ち上がり少しだけ頭を下げた。
「それじゃあ戻るとするぞ！」
「いや……リーベさんは違うでしょ？」
何しれっとくっついてるの？
「えぇ〜色々と助けてやったろ〜ワシを労うのじゃ〜」
「はぁ」
まぁ助かったのは本当だし今日くらいはおもてなしするか。
「わかりましたよ。あっ宴会部屋は使ったらダメですからね！」
「なんでじゃ！」
「何でもです！」
俺は駄々をこねるリーベさんを少し強引に転移を開始した。
そうか……ハナを覚えておらんかったか。ということは力の半分も出せていないのか。
「どう思うお主ら」
「あれで成長途中というのは恐ろしいですな」
「えぇ……しかしこのことをゼロ達は気付いているのでしょうか」
「気付いてるから獣王国にわざわざ出向き話をしたのだろう」
狐っ娘に関してはノーチェ・ミルキーウェイの正体は知らんはずだ。ハナという名前に反応したのか？
「まぁよい。どの道今は何も出来ん。しばらくは見守るとしよう」
クレアシオンは人の姿となり座り込む。その姿は少しではあるもののノーチェに似ていた。
シャルの件は何とかなったけど……新しい謎が生まれてしまった。
ハナ？ 聞いた事のない名前だ。それにあのリーベさんの反応……。なにか俺に隠してることがあるのか？
とは言え……あんなに怒ったリーベさんに「ハナって誰ですか〜？」とは聞けないし。
まぁみんなにそれとなく聞いてみるか。
「ノーチェ？」
「あっ！ はい！」
「さっきの言葉気にする事はないからのぉ」
リーベさんの声は優しかったがそれと同じくらいに本能的な恐怖を感じた。
俺に関係したことなのは理解しているが……リーベさんの反応的に相当な人物であることがわかる。
「わかりました」
とはいえ……気にするなと言われた以上詮索もできないし。
「ほれ！ そんなことよりも温泉に向かうぞ！」
「えっ……あぁ！」
またしっぽで俺の事を！
「せめて部屋を直してから！」
「……。そんなもの部下にやらせれば良い」
……そうですけど！
「イヴィル！ お疲れ様！ 着いてきてくれてありがとうね！ あと部屋の修理を〜！」
最後まで言わして貰えなかった……。全く！ 魔王ってのは自由なんだから！
「はぁ〜これは本当に良いものじゃのぉ」
完全リラックスタイムに突入したリーベさんに俺は質問した。
「あの……ゼクス・ハーレスはいつ開いたんですか？」
「うーんと……昨日かのぉ」
全く悪気はないようで……俺呼ばれてないんすけど。
「内容とかは……」
「……まぁ話しても大丈夫じゃろうし……教えたる」
リーベさんが手招きする。俺はリーベさんに耳を向けて話を聞く体制をとった。
「内容はのぉ……ノーチェ・ミルキーウェイに関してじゃ。ふぅ〜」
「わっひゃあ！」
俺はいきなりかけられた息に驚いて勢いよく飛び跳ねる。
「あっはははは！ 本当に面白い奴じゃのぉ」
「全く！ ……くっ……ふふ……あはははは」
豪快に笑うリーベさんにつられて俺も少しだけ笑ってしまった。
「はぁ〜……こうしていると嫌なことを忘れられるのぉ」
「……そう、ですね」
空を見上げて深呼吸をする。心地の良い風か肺いっぱいに取り込まれる。
「……ノーチェよ。お主は……世界と友、どちらを選ぶ」
「……」
世界と……友。
「そうですね」
嘘をついても仕方ない……。これはリーベさんの望んだ答えじゃ無いかもしれない。これは管理者として言ってはいけない言葉かもしれない。でも……それでも。俺は。
「友……ですかね」
世界を救えるかどうかわからない……そんなくだらない理由も考えた。でもケルロスやクイック……仲間のことを考えると世界なんかよりも俺はそっちの方が大切で仕方ないんだ。
「そうか……」
「……まぁ世界が滅ぶとかなら俺は世界も友も選びます。だって滅ぶ世界で友だけ助けても結局は死んじゃうから。なら俺は自分の持てる全てを……この命もかけて全部を拾います」
この言葉に嘘偽りはない。本当にそうなれば俺は絶対にそうする。だって……俺はノーチェ・ミルキーウェイだから。
「……お主は欲張りじゃな」
「ははっ。よく言われます」
どうやら怒ってる訳では無さそうだ。
「……。なぁノーチェ」
「はい？」
「……」
「いや、なんでもない」
ものすごく……ものすごく気になるけど……黙ってよう。それに……またお風呂に来てくれたら話してくれるかもだし。
「さて！ 今日は長風呂をしてしまったのぉ」
「そうですね……いつもよりは長いですね」
「ほれ見ろ！ ワシのしっぽが水分吸ってふにゃっふにゃじゃ！」
リーベさんはそう言ってしっぽを振り回す。
「わっ！ ちょっ！ 冷たいですよ！」
「ほれ！ 冷たいブラシ攻撃じゃ！」
ちょ！ 口に入る！！
「も〜！ やめてください！」
「ははははっ！ はぁあ」
リーベさんはしっぽを戻し風呂から上がる。俺もそれについて行こうと湯船から体を起こした。
「……友を選ぶ……か」
「……？」
今一瞬リーベさんが喋った気がするけど流れる水の音で聞こえなかった。
その後は特段何も無く……いやリーベさんはクイックのご飯食べてから帰っていったか。……それもすごい量。でもそれ以外は本当に何も無く忙しく慌ただしい一日は終わりを迎えた。
現在のステータス
ノーチェ・ミルキーウェイ【反逆の刃】
天帝月夜蟒蛇Lv1
所持アイテム星紅刀
《耐性》
痛覚耐性Lv6、物理攻撃耐性Lv9、精神異常無効Lv8、状態異常無効Lv10、魔法攻撃耐性Lv8
《スキル》
支配者、知り尽くす者、諦める者、混沌監獄、研究部屋 、極限漲溢 、魔法無効
《魔法》
火炎魔法Lv8、水泡魔法Lv10、水斬魔法Lv9、水流魔法Lv10、氷結魔法Lv10、風新魔法Lv4、土石魔法Lv10、土斬魔法Lv8、土流魔法Lv9、回復魔法Lv10、破壊魔法Lv8、幻影魔法Lv9、闇魔法Lv10、深淵魔法Lv10
《？？？》
強欲、傲慢
《資格》
管理者-導く者
《称号》
神に出会った者/神を救った者
ケルロス・ミルキーウェイ
赫々白狼Lv8
《耐性》
痛覚無効Lv6、状態異常耐性Lv9、物理攻撃無効Lv3、魔法攻撃無効Lv9
《スキル》
信頼する者、不達領域、完全反転
《魔法》
水泡魔法Lv4、風新魔法Lv10、風斬魔法Lv10、風流魔法Lv8、稲妻魔法Lv9、創造魔法Lv6、光魔法Lv10、神聖魔法Lv8
《？？？》
嫉妬
クイック・ミルキーウェイ
冥紅土竜Lv7
《耐性》
物理攻撃無効Lv5、精神異常無効Lv3、魔法攻撃無効Lv2
《スキル》
貪る者、永久保存、欲望破綻
《魔法》
火炎魔法Lv10、火斬魔法Lv2、風斬魔法Lv8、土石魔法Lv10、土流魔法Lv10、土斬魔法Lv10、溶岩魔法Lv10
《？？？》
暴食
