105話 挨拶
「切られた髪も伸びてる……というか背丈も少しだけど伸びたね……そして髪の白い部分がまた増えた」
ケルロスが粗方の外見的変化を言ってくれた。そして俺も感じる。前とは比べ物にならない魔力量の増加を。
「目の色も深い緑から右目だけ銀色になってる」
「ちょ! 近い近い!」
ゆっくり見たいのは分かるけどその距離はやめて。
「お、俺の進化は後でいい! とりあえず負傷者の手当と情報工作……あとコード商会について調べておくよう指示を出しといてくれ」
「……わかった」
少し気になる様子だが……俺の変化に関しては今度じっくり確認しよう。
それに……あれだけ言われておいてなんにもしないのはさすがに気が引けるしな。
戦争は終わった。この後は処理を行う時間だ。
「戦いが終わり1日が経った。それぞれ疲労も溜まっている中こうやって集まってくれて感謝する」
フィー以外は全員参加……まぁフィーも参加するってうるさかったけどあんな大怪我しといて参加させられるかっての。
「色々と話したいことはあるのだけど……ノーチェは一体何があったのかしら〜」
エレナが質問する。どうやらエレナ以外も気になっている子は多いらしい。……視線を感じる。
「進化したみたいなんだ。あの後ゆっくり確認したけど目立った変化は髪の長さと色合い……目の色も変わってな背丈は5センチくらい伸びたけど……まぁ誤差だろ」
「なんかノーチェだけ進化早くね?」
後ろにいるクイックが羨ましそうに言った。
「俺も驚いてる。でも条件解放とか言ってたから経験値による進化じゃなくて何かが引っかかってて進化出来なかったっていうのが正しいかも」
「なるほど」
自分の手を見つめてもよくわからんと思うぞクイック。
「まぁ大将が何になろうと俺達は着いてくから安心しろよな!」
「わ、私もです」
全員がうんうんと頷いてくれている。
助けられた命がある……っか。確かに、その通りかもしれないな。
「さて……雑談はこのくらいにして戦闘報告を聞こうか」
会議室に緊張感が走る。先程までのほのぼのとした空気は一切なく全員真剣な顔つきとなった。
「まず黒翼大隊から……死者負傷者共になし。敵も弱かったわ」
エレナのところは敵の層も薄く楽な部類だったらしい。
「朧夜大隊では……テグさん達自動人形さんに守ってもらいながら戦いました。自動人形さんが何体か壊れてしまいましたが……こちらの被害はありません」
俺はテグをチラッと見て傀儡大隊について聞こうとしたが大丈夫ですと目で訴えられた気がしたのでエリーナを見つめた。
「えっと……黒森人大隊では死者はなし……負傷者は300人よ弓攻撃しかできない子が敵に突っ込まれて押し負けることが多かった。これからは遠距離訓練と近距離訓練の割合を考えるべきだと思った」
自分達の弱点をしっかりと確認できている。さすがはエリーナの隊だ。
「……百鬼大隊では5人が死亡……421人が負傷しました。負傷者に関しては氷による攻撃の影響が大きく死亡者に関してはその者の力及ばすであると考えております」
残念そうに……しかし強い目でエーゼルが言い放った。
「わかった。百鬼大隊は訓練や指揮系統などを見直しているんだよな?」
「はい! 此度のような失態を2度と繰り返さないようにと全員が鍛錬を……」
「ありがとう。これからも励んでくれ」
その言葉を聞いたエーゼルの顔は少しだけ明るくなった。
「残りの死傷者は全て……」
牙獣大隊か。
「フィーには話しているんだろ?」
「あぁ。会議に参加出来ないことを報告した時……一緒に」
「牙獣大隊に関してはフィーに任せる。俺が言うことはない」
俺の言葉に同意してくれたのか全員が静かに頷いた。
「敵の殲滅は完了したが謎の氷結攻撃の正体は謎のままだ。全員周辺の警備を怠るな。そして俺は人間の国……ゼールリアン聖王国に向かう」
会議室がザワザワと騒ぎ出す。
「敵の王を倒したんだ。しっかりと挨拶しなければな」
「護衛はどうするの〜?」
「……クイックとシャルでいく」
「俺は!?」
後ろにいたケルロスが驚き立ち上がった。
「ケルロスは外交に向いてないだろ? 国で……俺の大切なものを守っててくれ」
「……ノーチェの大切なもの」
ちょろい。
「エレナ……まだ不安か?」
「……勇者も連れていくなら安心ね……まぁ勇者と魔王が一緒に歩くとか凄い面白い光景だけど」
羽で手を隠しても笑ってるのバレてるぞおい。
「……そうだな。出発は明日の朝9時頃……。一応馬車で行く予定だが……。本当にクイック扱えるの?」
「バールに教えてもらったよ」
それなら……大丈夫……かなぁ。
「まぁ何かあれば転移で逃げるか」
「一体何があったら転移で逃げるんだよ」
「と……予定はこんなものだ。他のみんなは戦場の整備と死体回収。武器はドワーフ達が欲しいと言ってたから持っててやれ」
「「「「「「「「はい!」」」」」」」」
「それでは解散!」
「あ〜……疲れた」
「お疲れ様」
「で? 人の国行くとか全く聞いてないんだけど」
クイックが少し怒り気味に聞いてくる。
「いや……俺もついさっき決めたんだ」
「どういうこと?」
会議数分前
「ノーチェ……」
暗い顔をしたシャルが俺の服をつまんでいる。
「シャル? どうしたの?」
「王国にじぃじの遺体があるはずなの……。じぃじのこと……助けられなかったけどせめて遺体だけでもこの国にって」
「……そうか。そういうことなら任せて。2人でじぃじを迎えに行こう」
元気……とは行かないけど明るくはなったかな。
「ありがとう。ノーチェ!」
「とまぁ……こんな感じです」
「それは……」
「仕方ないな」
2人ともシャルのことになると甘いんだから。
「護衛にクイック……何よりシャルも着いてるからその辺は大丈夫だよ」
「……それにしても王の首を取った敵の王が来るとか怖すぎん?」
「攻めてきたのはあっちだから」
まず話を聞いてくれるのだろうか。
「まぁ……ノーチェもそろそろ休んだら? 明日王国に行くのもそうだけど昨日の夜から寝てないんでしょ?」
「な! なんでそのことを」
目のクマとかは気をつけてたのに。
「亡くなった兵士の遺族へ挨拶と謝罪しに行ってたでしょ……夜遅くまで。それが終わってからも軍隊整備とか色々雑用もやって」
「ケルロスの言う通り……そんなに1人で抱え込むなよ。大隊遺族への謝罪とかは隊長がやるもんだ」
「……ごめん。申し訳がなくて」
「…….本当に申し訳ないと思うなら。今は休んで寝るといい」
俺の反論は2人に聞き入れられること無く少し……いや結構強引に布団へと連れていかれた。
まぁ……俺も疲れは溜まっていたのか布団に入ると数十秒と持たずに眠りについてしまった。
翌日
「2人とも行くよ〜。 」
「おー」
眠い……。
「ノーチェは寝てていいよ王国まではさほど遠くないし……着いたら起こすから」
クイックが……優しい。
「ノーチェ。おやすみ〜」
「留守は頼んだよケルロス」
「任せろ!」
2人の声が外から聞こえる。てか本当に眠い。馬車までもケルロスにおんぶしてもらったみたいだし。
「じゃあ行ってくる!」
馬車の揺れる感じが心地よく眠気を刺激してくる。
俺は馬車の中でもすぐに眠ってしまった。