104話 後悔と涙の中で
転身公転も出来ない……隙を見せればやられる。だが片手で勝てる相手じゃない。となれば……この手段しかないな。
「お前の親であるゴーンはどうする」
シャルの目が一瞬逸れる。
やはり……思い出している。しかし全て覚えている訳ではないらしいな。
「ゴーンはお前のことを待っているぞ! こんな所で魔王と共にいるなんて知ったらどんな反応をするかな」
それを聞いたシャルは口角を上げて喋り出す。
「安心して……ノーチェと私は友達。ゴーンも知っている」
ちっ……勇者が取り込まれたのはそれが理由だったか。
「そうかぁ……それは残念だなぁ。となるとゴーンは処刑かなぁ……。何せ自分の子供が」
「あなたは何か勘違いしている」
シャルの握る剣に力が入る。
「私は全てを思い出している。あなた達にされたこと……私がしたこと……」
「……」
「私を使って……じぃじを始末したこと!」
そう言い終えるとシャルはグロウ・セレナを持ってバージェスに斬りかかった。
「そうかよ! 全部知ってるなら仕方ない!」
すんでのところで攻撃を避けたが……。
あの剣最大の特徴は神聖魔法を通常魔力の10分の1で使えるところだ。
だが……魔王では無い俺に神聖魔法の効果は薄い。
「ホワイト・スター!」
星型の刃……しかし人間である俺に神聖魔法は!
グシャ……!
「なっ!? グフッ……ゴホッゴホッ..」
バージェスの体は無数の刃に切り裂かれ血を流していた。
「何故だ……神聖魔法は人間に……」
「神聖魔法は魔の者に効きやすい。これは常識……らしい。でも私の認識に魔の者って言うのはいないの。魔の者っていうのが悪いやつってことなら……私の中で悪いやつはあなたよ」
認識の誤差!? いや……そんなことありえない! 魔法の弱点までもが認識で変わるならそんなものは。
「魔法は……想像力。あなたは私の中で仲間を見捨てて……友達を傷つけて…… じぃじを殺した最低の悪魔よ!」
「くそ……が」
まずい……このままでは本当に死んでしまう。どこでもいい死体を。
バージェスは慌てて辺りを見渡すが死体は何処にも転がっていない。
「……もう抵抗しなくていい。私はあなたをいじめるつもりは無い。ただ……このまま死んで」
シャルの振った剣はバージェスの身体をバラバラに斬り裂いた。
「朝」
じぃじの仇を打てた……ノーチェを助けられた……国を守れた……敵を倒せた……。満足感でいっぱいいっぱい。それなのに……それなのに。
「どうして……どうじ……で」
涙が止まらない……。
「あぁ! あああぁぁぁぁ! なんで! 嫌だよ! じぃじ! あぁ! 私を……私を!」
押さえ込んでいた感情が……蓋をしていた悲しみが止まることなく溢れ出す。
「どうして! ……なんで……! じぃじ! 私を褒めてよ! 私を撫でてよ! あぁ!」
少女は顔をぐしゃぐしゃにして地面に座り込む……泥だらけの服……血で汚れた髪なんて気にする余裕すらない。
呼吸が荒くなる……女の子が見せちゃ行けないような顔を晒す。……それでも悲しい……悔しい……辛い……そんな感情が消えることなく大きな波を立てて少女を襲う。
じぃじを私が殺した……それを知った時はこんなに……いや……違うんだ。理解できてなかったんだ……でも現実に……突きつけられて。
「ごめん……なさい! ……じぃじ……ごめんなざい!!」
いくら謝ってもじぃじは戻らない。いくら泣いてもじぃじは帰らない。そんなこと私が1番。
トン……。
背中に誰かの手が当たる……温かくて優しい手。
私は振り返りその手が誰なのか確認する。
「じぃ……」
太陽の光で一瞬じぃじに見えたけど……。
「ノーチェ」
「……ごめんねシャル」
ノーチェは私にそういうと立ち上がりその場から去っていった。
「……」
これでいいんだ…….これでいいはずなんだ……。
後悔はある。俺がゴーンの所に帰っていれば……国が安定した時2人を招待していれば……。
でもそんなこと今更。
「ノーチェ!」
シャル……?
俺は声がした方を向いた。
「ありがとう! ノーチェ……! ノーチェがいなかったら私はなんにも出来なかった! こうやって……泣くことも……できながった! だがら! ……うっぐ……うぅ。そんな悲しい顔で! 謝らないで!」
そう言ってシャルはまた泣き崩れてしまう。
俺はこぼれ落ちそうな涙を何とかしまい込み歩みを進めた。
「……シャルはいいのか?」
ケルロスが心配そうに聞いてきた。
「時間が必要なんだよ。しばらく1人にしてあげて」
何も言わずに頷くケルロス。
「聖王国軍はどうなった?」
「全て殲滅したよ、誰も逃がしてない」
「わかった」
聞きたくない。でもこれを聞かないと……俺はこの立ち位置にいてはダメなんだ。
「死傷者……は?」
少しだけ言葉に詰まってしまった。
ケルロスもその言葉を聞いて一瞬口を閉じる……しかしいずれは報告しなくてはならない。どうせなら今のうちに。
「プリオル連隊1万3010名のうち153人が死亡……1365人が負傷してる」
「そうか……」
「フィーに関しては重症で……ノーチェの回復魔法がなければ」
俺は手を横に向けこれ以上話さないでくれと思いながらケルロスを静止した。
「……指揮官をクイックに移行する。ケルロスは……もう少し一緒に居てくれ」
ケルロスは返事をしてくれなかったが……俺の後ろを歩いていることだけはわかっていた。
ガチャ。
「戦闘報告は後で全部」
バサッ。
俺は腰に着けていた刀を雑に落としてケルロスの胸を借りた。
「これで……良かったんだよな」
「……」
返事は無い。
「あれが最善……だったんだよな!?」
俺は同意が欲しかったのだろうか? ……それともただ答えて欲しかっただけなのだろうか……? こんな質問したところで何も変わらないのに。
「……。良かったのかどうかと聞かれればなんとも言えない」
「…….」
「もっといい作戦があったかもしれない。でもあれがノーチェの言う通り最善の方法だったかもしれない」
ケルロスの声はいつも通り優しい……でも今はその声が俺の心を酷く締め付ける。
「俺は誓ったんだ。誰も殺さないって……全員守るって……それなのに」
「……兵士は民を守るためにある。その為に命を落とすのは仕方ないことだ」
「そんなこと!」
俺は違うと……反論したかったがケルロスの悲しそうな顔を見て……そんな気力は無くなってしまった。
「俺達は仲間を守るために敵を殺してる。……殺そうとしている相手に殺されるのは自然では仕方ないことだ」
「……」
「ノーチェの全てを守りたいって思いはそれと同じくらい敵を殺すってことになる」
「……」
「兵士の命を軽く見てる訳じゃない。ただ……一切の犠牲を払わずに守りたいものを守るって言うのはとっても難しいことなんだよ」
ケルロスの手が優しく俺を包む。
「俺は……」
「今ここで立ち止まることが……1番ダメな事だと俺は思うよ」
優しかったケルロスの声は少しだけ強さを帯びていた。
「ノーチェは優しくて……とても繊細だ。色々悩んでしまうのは分かる。自分の力不足を……フィーをすぐに助けられなかった不甲斐なさを……。色々背負っているのは俺達だって理解してるさ」
「俺は……そんなんじゃ」
「……死なせてしまった分助けた命がある。ノーチェを……ノーチェの守りたい国を救う為に命を落とした兵士達がいる。そしてその国で新しい命が生まれて……新しい命を助けてる」
ケルロスが俺から離れて目を見つめる。
「後ろを振り返るのも大切だけど……前に進むのも大切だ。俺たちをこれからも導いてくれよ、ノーチェ」
ケルロスの真っ直ぐとした目は俺の不安や悩みを根元から解してくれる。
……大丈夫。もう大丈夫。そして俺は自分を鼓舞するため……ケルロスを安心させる為に叫んだ。
「……任せろ! 俺は導く者! ノーチェ・ミルキーウェイだ!」
……少しだけ声が裏返ってしまったな。
……。
-------解除。
…………王接触。
…………許可。
----------情報不足。
-------一部を解放します。
「えっ」
「どうした?」
ケルロスが俺を見て驚いている。
「目が勝手に治ってる。……しかも色が」
魔力量上昇。
魔力量上限に到達。
進化を開始します。
進化?
深淵蟒蛇から-------に進化可能です。
もはや名前すら出てこなくなった件。
……強くなるなら押すしかないよな。
-------に進化します。
天帝月夜蟒蛇に進化しました。
「その姿……」
「……進化したみたいだ」
現実のステータス
ノーチェ・ミルキーウェイ【反逆の刃】
天帝月夜蟒蛇Lv1
所持アイテム星紅刀
《耐性》
痛覚耐性Lv6、物理攻撃耐性Lv9、精神異常無効Lv8、状態異常無効Lv10、魔法攻撃耐性Lv8
《スキル》
支配者、知り尽くす者、諦める者、混沌監獄、研究部屋 、極限漲溢 、魔法無効
《魔法》
火炎魔法Lv8、水泡魔法Lv10、水斬魔法Lv9、水流魔法Lv10、氷結魔法Lv10、風新魔法Lv4、土石魔法Lv10、土斬魔法Lv8、土流魔法Lv9、回復魔法Lv10、破壊魔法Lv8、幻影魔法Lv9、闇魔法Lv10、深淵魔法Lv10
《???》
強欲、傲慢
《資格》
管理者-導く者
《称号》
神に出会った者/神を救った者
ケルロス・ミルキーウェイ
赫々白狼Lv8
《耐性》
痛覚無効Lv6、状態異常耐性Lv9、物理攻撃無効Lv3、魔法攻撃無効Lv9
《スキル》
信頼する者、不達領域、完全反転
《魔法》
水泡魔法Lv1、風新魔法Lv10、風斬魔法Lv10、風流魔法Lv8、稲妻魔法Lv9、創造魔法Lv6、光魔法Lv10、神聖魔法Lv8
《???》
嫉妬
クイック・ミルキーウェイ
冥紅土竜Lv6
《耐性》
物理攻撃無効Lv5、精神異常無効Lv1、魔法攻撃無効Lv1
《スキル》
貪る者、永久保存、欲望破綻
《魔法》
火炎魔法Lv10、火斬魔法Lv2、風斬魔法Lv8、土石魔法Lv10、土流魔法Lv10、土斬魔法Lv10、溶岩魔法Lv10
《???》
暴食