101話 技術の責任
「全体……射撃開始」
無数の弾丸が朧夜大隊に放たれる。
「お下がりください」
傀儡大隊が前に出て弾丸を受け止める。
「テグさん!」
「安心してください。私達の体はスライムを元に作られています。このように」
テグは体にめり込んだ弾丸を外へ弾き出す。
「怪我はありません」
「今はそれよりも」
「はい」
銃を持っている……それも最新式のものですね。
「銃の輸出は国が安定してから減らしていましたが……昔は結構な数を流していましたからね」
「自動人形のネットワークを使い敵の装備を報告します」
黒翼大隊戦闘地域
「全員無理に近付かないで!」
あんなのに撃ち落とされる私達じゃないけど……あんまり近付くと怪我する子も出てくるかもしれない。
「それにしても……随分と溜め込んでたみたいね」
「はい……あの量は想定外です」
詳しいことは知らないけど銃の輸出は制限していたはず……13万人の兵士ほとんどがそれを所持しているってことは。
「人の国で独占していた可能性が高いわね」
「各隊から報告……敵は銃を持っている様子です。その量は圧倒的で13万の兵士ほとんどが所持している模様です」
フィーのそばに居る自動人形からの報告は意外なものだった。
「13万の銃?」
おかしい……まずコード商会はこの銃を各国に売ると言っていた……そうすれば戦力の均等化が測れると思っていた……もし何処かが強くなりすぎても銃の供給を止めるように契約をしている。
何よりコード商会にいたアランは商売人としての実力は本物だった……相手を騙すような奴では無いはずだ。
「どうするんだノーチェ?」
銃が相手となれば戦闘に参加できる人員も限られてくる。
「無理な突撃はやめろ……傀儡大隊を先頭に黒森人大隊で援護を行う。銃の対処は……俺に任せろ」
とにかく……この世に銃という兵器を送り込んだのは俺だ……その責任は取らなければならない。
「色々気になることはあったが……今は戦闘に集中しないとな」
どの道こいつらは皆殺しだ……銃に関してはアランではなくコード商会の上層部にでも話を聞かせてもらおうか。
「待てノーチェ! 一人で行くのは!」
「いや……銃に関しては俺の責任だ。それをお前達に任せるわけにはいかない」
俺は牙獣大隊の前に立ち13万の兵士へと向かって行った。
「誰かが突っ込んできます!」
「総攻撃を食らわせてやれ!」
俺を殺すように指示が出されているが……そんなものは関係ない。銃のことならこの世界ではドワーフよりも詳しいんだから。
「アイス・フィールド」
敵兵から放たれた銃弾は俺の周りで動きを止める。
「あれはなんだ! どうして貫通しない!」
動揺しつつも打つ手を止めない兵士たち。
今まで戦った奴とは違う……肝は座ってる。けどまぁ逃げないのは逆にありがたい。
「デス・グラーディオ!」
俺の放った黒い剣は敵の銃だけを破壊していく。
「なっ!?」
「これは一体……」
俺だって進化してるんだ……今回は研究部屋を少し改良した。深淵魔法で作った闇の剣に分解を乗せて同時に放った。分解するのは銃器のみこれで……全ての銃器は無効化された訳だ。
「俺の出番はここまでた。あとは……」
そこまで言うと待ってましたと言わんばかりにフィー達が走ってきた。
「進め! 蹴散らせ! 食い荒らせ!」
「こりゃ……聞こえてないな」
俺は苦笑いをしながらゆっくりと牙獣大隊の後をついて行った。
「バージェス様! 銃が全て破壊されてしまいました!」
「そんなものは想定内だろ……敵の数は少ない。圧倒的な物量で押し潰せばよい」
それを聞いた兵士は希望を持った顔で死地へと向かって行った。
愚か者め……。いや今はそんなことよりも銃に関してだ。まぁもちろん銃を作っている国であるから無効化する手段くらいは持っていると考えていたが……まさか全て壊してくるとは思わなかった。
「……思っていたよりも早く俺が出ることになるかもな」
余裕の笑みを浮かべながら果実を貪る王……理の王、バージェス・ロンド。金色の髪……思慮深い目をしたその男は未来を見つめている。勝利の未来……フィデース信栄帝国を打ち倒し全てを手に入れる輝かしい未来。その先にある世界を手にする自分の姿を見据えて……男はニヤリと笑っている。
「武器はノーチェによって無効化された! 全体攻撃を開始するんだ!」
フィーの命令は自動人形のネットワークによって伝えられる。
「傀儡大隊把握しました。サク様……攻撃開始です」
「はい!」
「全員もう近付いても大丈夫! さっきのお返しをしてあげるわよ!」
「「「「「「おぉー!!!」」」」」」
「うわぁ……自分で言うのもなんだけどこりゃ酷いな」
こりゃ確かに魔王の軍勢だわ。
全てを切り裂くフィー……空から弾丸の雨を降らすエレナ……無表情で何もかもを破壊するテグ……おどおどしながらも不可視化で不意打ち攻撃をするサク。
「絶対戦いたくないよなぁ」
牙獣大隊の打ち漏らしか俺にも刃を向ける人間が数名。
シュッ!
しかし敵の大将に近付いても俺の刀は全てを両断する。
「刀の掃除大変だから嫌なんだよなぁ」
刀に着いた血を振り払い前を向く。
敵の大将はまだ出てこない……味方がこれだけ死んでいるのに前に出ないってのは如何なものか……。
それとも様子見か? 確かに上に立つものは冷酷な判断をしなければならない時もあるだろう……でもここまで殺されておいて未だに姿すら見せないのは。
「またクズか」
もう飽き飽きだ……なんでこの世界はゴミしか居ないのだろうか。
「落ち着きなよノーチェ……」
「クイックか……どうした?」
クイックが俺の肩を掴んでいる……後ろにはケルロスもいるな。
「凄い殺気放ってるからどうしたのかと思って」
「あぁ……ごめん」
そんなに殺気放ってたかな……? まぁ2人が言うんだからそうなんだろうけど。
「敵の大将について思う所があるのはわかるよ……特にノーチェはああいうの許せないもんね」
「いや別に……」
「嘘つかなくていい……ノーチェだけに悲しい思いはさせない」
ケルロスがそういうと聖龍部隊が前に出た。
「敵兵を殲滅すれば嫌でも総大将は前に出てくる……もし撤退するならそれはそれでいいだろ?」
「……そうだね」
俺の承諾を得た2人は部隊に命令を下した。
「ノーチェの為に勝利を捧げろ!」
「蛮族共をこの地から逃がすな!」
2人の叫びは空気を揺らしてビリビリと俺の体に響き渡った。
「俺達も前線に向かう。ノーチェ……無理すんなよ」
ケルロスはそういうと俺の頭を撫でて走り去って行った。
「……なんだよ。子供扱いして」
言葉では少し嫌そうにしたが……本当は。
「はぁ。ケルロスやクイックにだけ負担は掛けられないよな」
魔力は温存して……とりあえずは刀で応戦しようか。
先程まで汚れるだなんだと色々考えていた俺はもう居ない……今は迷いのない強い目で敵を一人……また一人と切り刻む。正しくその姿は魔王そのものであった。