100話 魔王の軍隊
100話達成! いつもいつも転生先は蛇さんでした。を見て頂きありがとうございます!
今後ともしっかりやっていくのでよろしくお願い致します!
フィデース信栄帝国外れ。
現時刻0:20
俺はクイックの作った陣地で待機していた。
辺りは真っ暗で遠くに至っては何も見えない。
雲龍部隊と黒翼大隊を偵察に出しているが敵は未だ現れず……かと言って国を守備している自動人形達からの報告もない。雲龍部隊の偵察がバレているのはわかっている……それを警戒して進行を遅らせた? もしくはやめたのか?
椅子に座って考え込んでいると外からイヴィルが入ってきた。
ガシャガシャと音を立てて膝を折るイヴィル……今回の戦闘に合わせてプリオル連隊は武装を大幅に変更、強化した。
「敵影は見えず……雲龍部隊と黒翼大隊の偵察隊は1度帰還……それと同時に別部隊を派遣している」
「そうか……補給は各自済ませてるんだよな?」
「フィーの命令によって30分ごとに兵の交代と休憩を繰り返しています」
いい命令だ……戦闘の時にパフォーマンスが落ちるようなことは避けたいからな。
「それはそうと鎧は大丈夫か? 重くない?」
「あぁ、見た目は重そうだろうが素材がいいからな……そこまで重くないぜ」
そりゃよかった。戦いが終わったらドワーフ達に感謝を伝えないと。
「じゃあ私は指揮に戻るから後でな大将!」
元気に手を振って走りながらイヴィルは外へ出ていった。
リーベさんの話によれば人間自体はそこまで強い種族ではないとの事だ……エレナやクイックの偵察を抜けられる程の強者がいるとは考えずらいが……。
いや慢心はダメだな……それで何度も痛い目を見てきた。
「ノーチェ?」
俺は後ろから声をかけてきた子に優しく微笑んだ。
「大丈夫だよシャル」
シャルを戦いに参加させるつもりはなかったのだが……。
「じぃじがどうしてるのか……どうして私にあんなことをしたのか……それを聞かないと私はこれからノーチェと一緒に歩けない!」
ってあんな強い目で言われたら止めようがないよね……まぁ強さ的な所で言うなら俺とあんまり変わりないし……大丈夫だと思うけど。
そんなことを考えていると……。
「なんだ! なにが起きた!?」
「分かりません!百鬼大隊の方で大規模な攻撃が行われたそうです!」
フィーの声? それにだいぶ慌てているようだ。
「シャルはそこにいて……」
俺は状況を確認するため外で指揮を取っているフィーに話を聞くことにした。
「フィー……何があった?」
「それが百鬼大隊の方で大規模な魔法攻撃が行われたらしい……」
百鬼大隊のいた方向は白い霧のようなものが立ち込めている。
なんだあれは。
「百鬼大隊との通信は?」
「ついさっきエーゼルから連絡があったがそれ以降はなにも」
「俺が」
「いや……ここは聖龍部隊を向かわせる」
フィーがそういうと後ろから狐の獣人が現れた。
「ドール・ゴンゼーナ……ケルロスさんの部下として恥ずかしくない活躍をお約束します」
聖龍部隊……ケルロスが作った部隊で戦闘に特化した部隊だ。
ドール・ゴンゼーナは聖龍部隊の副隊長……ケルロス直属の部下って訳だ。
「わかった。何かあればすぐに呼ぶんだ」
「承知」
ドールは数匹の仲間を連れて百鬼大隊の元へと向かった。
「これで何があったかはすぐに分かる……こっちは別の警戒をしないとダメだからノーチェはもう少し中で待機してて欲しい」
「わかったよフィー。だからそんなに固くならないで」
俺はフィーの背中をなぞり囁く。
「ちょ! 何すんのさ!」
びっくりしたフィーはビクリと飛び上がった。
「ははは! いつものフィーとは全然違かったからついね」
「全く……けどうん。少し緊張してた! ありがと!」
グッドマークを見せて笑うフィー……。
「いいってこと! じゃあ俺は中にいるから」
戦いに緊張感は必要だけど……それのせいで仲間を怯えさせるのは良くない……特に獣人は本能で危険を察知する……あんなに殺気をばらまいてたらフィーの部下は怖がっちゃうよ。
数十分後
「百鬼大隊の攻撃は氷結魔法によるものだと分かりました……死者は出ていませんが凍傷を負った者もおり……1度徹底せざるおえない状況でした」
ドールが悔しそうに報告する。
「いや……ドールが悔しがることはない。気付けなかった俺も問題だ……百鬼大隊は回復後すぐに戻るよう伝えるんだ……百鬼大隊がいた所には」
俺がそこまで言いかけると外から声が聞こえてきた。
「そこには私の部下が向かったよ」
「エリーナか」
「その通り!」
エリーナは暗視ゴーグルを外しながら中に入ってきた。
「コアが穴埋めとして百鬼大隊のいた所に向かってる……これで暫くは平気だと思う。それよりも不思議なのは相手が攻撃と同時に攻めてこなかったことよ」
エリーナの言う通り……俺は追撃を恐れてフィーに警戒を最大まであげるように頼んだが結局攻撃が来ることはなく警戒も元のレベルまで下げていた。
「あの攻撃的に雲龍部隊を壊滅させた者と同じ程度の実力はあると考えられます」
ドールは膝を折ったまま答えた。
「一撃だけ与えたのは牽制か? それとももっと別の意味合いがあるのか?」
「どうでしょう……まぁ今のところ攻撃は来ていないし敵も見えない……一刻も早く百鬼大隊を回復させるのが大切だと思う」
「そうだね……。よし、ドールはケルロスの元に戻って指示を待て。エリーナはフィーの命令で動くんだ」
「「了解」」
返事をして2人は外へと消えていった。
「ノーチェは凄いんだね」
「……そんなことないよ。俺は1人じゃ何にもできないんだ……でもみんなが俺を支えてくれる。みんなが俺を助けてくれる……そのおかげで今の俺が……今の国があるんだ」
それを聞いたシャルはノーチェの前に立つと喋りだした。
「そんなことないと思う……ノーチェはノーチェだからみんなが支えて、助けてくれるんだよ。ノーチェじゃなければみんなあんなに一生懸命動いてくれないよ」
シャルの一言は俺の心に小さな波紋を生まれさせた。
俺だから……。
「シャル……ありが」
そう言いかけた時だった。
「ノーチェ! 敵の反応ありだ! 数的に聖王国軍で間違いない! 攻撃開始をしてもいいな!」
フィーが慌てて……それでもって嬉しそうに聞いてくる。
「……あぁ! 俺達の友と国を滅ぼさんとする愚かな生物をことごとく破壊しろ!」
フィーが叫びながら駆け足で外に出て獣ならではの大きな声をあげる。
その声は大地を揺らし空を揺らし……戦争の開始を全ての生命に伝えた。
「フィーの声よ! 全員戦闘態勢!」
黒翼部隊は左から……。
「合図です! 皆さん頑張りますよ!」
「サポートはお任せ下さい」
朧夜大隊と傀儡大隊右側を。
「さぁ! 狩りの時間だお前たち!」
「守りは任せて!」
中央に牙獣大隊と黒森人大隊が布陣している。
「何かあれば俺達が出る」
後方には雲龍部隊と聖龍部隊が支援部隊として待機している。
「さてと……俺も行くかな」
「ノーチェも戦うの?」
シャルが不安そうに声をかける。
「あぁ……シャルに酷いことをした王様をぶん殴りに行ってくるよ」
俺はシャルの頭を撫でて戦場へと向かって行った。