99話 衝撃の一報
リーベさんとは違う緊張で凄い疲れた……。
お風呂という初めての体験をしたシャルはありとあらゆる物の使い方を俺に聞きまくりお風呂を心ゆくまで堪能することができた。出たあとは牛乳を飲んで部屋まで送り届けた。
「ポカポカする〜」
お風呂は疲れたけど湯船に入ったあとのまったり時間は本当にいいものよな〜。
「……主殿……このような時間に申し訳……ありません」
「バールか……なにかあったのか?」
「はい……緊急でお伝えしたいことが」
バールは気を使う男だ……そんな男がこんな時間に連絡とは……。
「わかった聞こう」
ちょっと寝巻きで恥ずかしいけど……今は仕方ない。
「ゴーンなる者の……情報は未だ……手に入って……おりません……。しかし……ゼールリアン聖王国の……軍隊に……動きがあり……各国で集めた……兵士をまとめ……つい先程……進軍を……開始しました」
「……どこに向けて……なんてのはわかりきってるよな」
「主殿の……ご想像通り……かと。そして……進軍の速度から……到着は……明日の……深夜になるかと……現在……雲龍部隊を動かし……軍の状況を……調べています」
さすがクイックの部下だな 。動きが早い。
「よくやったバール……何か大きな動きがあれば報告を頼む……今の話はフィーにも」
「既に……他の者が……報告に……向かっております」
「そうか……」
「それでは……失礼します」
バールはそう言って霧のように姿を消した。
「帰ってこない勇者を助けに? ……はははそんな訳ないか」
勇者を倒されたから国を動かして魔王を倒す……。少し妙だな……勇者っていうのは相当強い存在のはずだ……それに洗脳状態あるシャルと戦ったが俺一人じゃ倒せるか怪しいところだった。
「勇者を倒す魔王ですら殺す自信がある? それだけの猛者がいるってことか?」
バールの報告次第ではあるが……そんな実力者がいるのであれば国の中で戦わせる訳にはいかない……強さの底が見えない相手がいると考えられる以上はプリオル連隊を動かしたくはないんだけど……。
軍隊が相手で強さ不明の敵がいる……俺とケルロス、クイックでやっと抑えられる強さであれば軍隊の対応が出来ない……そうなれば国への侵入を許すことになる。
敵の進軍ルートを計算して軍を配置するか……奇襲の可能性も考えて全ての戦力を割く訳にもいかないし……。
うーん。
俺が戦闘計画について案を広げているとカップを持ってケルロスが入ってきた。
「ご飯もお風呂も終わったのにまだ寝ないの?」
そんなこと言っといてガッツリ話す気じゃん。
俺はやれやれと思いつつ前回作った椅子を取り出しケルロスに差し出した。
「ありがと……それで何考えてたの?」
全くケルロスには敵わないや。
「違和感があってね」
「違和感?」
「勇者を差し向けた王国が兵士を集めてこっちに進軍中らしい……だけど勇者が帰って来ないって言うなら基本的には倒したって思うだろ?」
ケルロスは牛乳を飲みながら頷く。
「それでも兵を進めるってことは勇者を倒した存在だとしても勝つ自信があるってことじゃないかなって」
「なるほど……勇者は小手調べで本命は隠したままと?」
「そういうこと」
敵の正体は分からないけど六王……理の王である可能性が高い。
「俺の部隊も本格的に動かすのか?」
「そうだね……頼める?」
「任せろ。俺はケルロス・ミルキーウェイだぞ」
グッドマークを作り笑みを見せるケルロス……。
昔もこうやって安心させてくれたよな。
「無茶するなノーチェ……ただ弱いだけの俺達じゃないさ」
「……。わかってるよ、ほらもう夜も遅い……明日は作戦会議とかもやるから早く寝なさい」
「はーい」
もう少し話したかったのかちょっと不満そうに部屋を出ていくケルロス。
さっきまで色々考え込んでいたがケルロスと話して気が楽になった……。
「ケルロスにも何かご褒美とか……」
いやいや……クイックの時みたいなことになったら今度こそ俺の心臓が持たない。
俺はその夜クイックとの出来事を思い出して悶々としながら眠りについた。
「反応が途絶えた!?」
朝食を済ませて書類を見ていると驚きの報告が飛び込んできた。
ゼールリアン聖王国の軍隊を監視させていた雲龍部隊8人全ての反応が一斉に途絶えたらしい。
「安否は?」
「反応が……ほぼ同時に……途絶えたことから……全員……」
一定の距離で監視するよう頼んでいたが……油断したな。しかしこれで確定した……勇者を監視していた部隊が気付かれたということは勇者よりも強いということだ。
「……亡くなった者の葬儀を行え……遺体の回収はタイミングを見計らってからだ」
「かしこまりました」
……。
シャルにあんな思いをさせた奴を生かすつもりは最初からなかったが……これは軍隊も全滅だな。
俺の静かな怒りは周囲の空気を揺らしていた。
「「「「「……」」」」」
静寂が会議室を包み込む。聖王国軍偵察を任されていた部隊が全滅したという報告に全員が驚愕と怒りを感じていた。
「……すまない」
クイックが俺に向かって頭を下げた。
「いやその謝罪は亡くなった人たちの家族に取っときな。俺達は偵察隊の無念を晴らすべく聖王国軍対策を考えるぞ」
「バールの報告によれば聖王国軍は傀儡国から兵士を集め総勢13万の大軍を作り上げたらしい」
「13万って……」
圧倒的な数を聞いて驚いたか……まぁ無理も。
「矢……足りるかな」
「私も弾丸がねぇ」
「2人とも剣使えばいいぞ! 壊れることもない!」
「血が着くと掃除が面倒なんだよなぁ」
「だから俺がやり方を教えると」
「うるせぇデカブツ」
……心配はいらないみたいだな。
「数は圧倒的だが強さに関しては魔獣と同程度かそれよりも弱いと考えていい問題は」
「偵察隊を全滅させたやつよね」
「あぁ」
静かになった会議室で俺は口を開く。
「俺はそいつと単騎で戦おうと考えている」
「……相手の強さは未知数だんだよな?」
「いくら……ノーチェさんでも危ないのでは……ないでしょうか」
イヴィルとサクの意見は正しい……俺も絶対に勝てると自信を持っている訳じゃない。
「それでもだ……勇者よりも強いことは確定している……そんな相手をお前達にさせる訳にはいかない」
「それじゃあ複数人で行けば」
「いや……それぞれの大隊長であるみんなは指揮系統が混乱しない為にも持ち場を離れない方がいい」
「それなら偵察隊である俺はノーチェと動けるよね」
クイックが俺の肩に手を置いて発言する。
「ダメだ……クイックはフィーと一緒に兵士の中でも強いと思われる奴らを殺すんだ」
「ノーチェ……」
「いいわよ〜ノーチェの決定だし私は従うわ〜」
黙って聞いていたエレナがこちらに向かってくる。
「でもねノーチェ……」
エレナが顔を近付けて俺に質問する。
「偵察隊のことを悔やんでとか……全部一人で抱え込もうとか考えてるなら今回の戦いにノーチェは参加すらさせないわよ〜。確かにノーチェはこの国の盟主だけど軍の最高指揮官はフィーだからね〜」
周りのみんな……所かケルロスとクイックすら反応しない……2人ともその考えはあったのか。
「安心して欲しい……今回は全部抱え込もうなんて考えてないさ。もしそうなら軍隊が来てることすら言わずに全部一人でやろうとしてるさ」
「……まぁノーチェだったらそのくらいしそうね」
えっ……冗談なんだけど。
「そういうことなら大丈夫だな……」
「試す真似して悪かったな」
ん〜……みんなグルだったのね。
「心配してくれたんだろ? 大丈夫……とりあえずケルロスとクイックは1週間俺のご飯ね」
「それ真面目に怒ってない?」
「本当にすみません」
「いやクイック……ガチ謝りは心にくるんだけど」
少しだけ場も和んで作戦立案もスムーズに進んで行った。ひとまずの問題は片付いてあとは敵を迎え撃つだけだ……。
「1人で抱え込んでは無いけど……偵察隊の件に関してはなんとも言えない……」
仲間を殺した罰は受けてもらうからな。
後でケルロスに聞いたが俺のの瞳には静かな怒りが現れていたという。