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第四話 初めての授業 後編

 実技の授業でマジックボール、通称マジボというスポーツを行うことになったポム達であったが、まずはチーム内で自己紹介をすることになった。

 先程高笑いをしていた燻んだ金髪の少年は、開口一番大きな声で自己紹介を始める。

「じゃあまずこの俺から始めよう!俺の名はエーデル、魔法使いの名家であるヴァイス家の嫡子だ!全て俺に任せておけば何の問題もないからな、安心してくれたまえ!」

 そう言って自信満々な様子で胸を叩いた。

 ヴァイス家といえば、郊外の田舎町出身で魔法とはほとんど縁のない生活をしていたポムでさえ知っているくらい有名な伝統ある家だ。

 (そんなすごい人と同じクラスだなんて…)

 なんだか自分があまりにも場違いな気がしてしまい、ポムは身を縮こませる。

「次は君の番だ!」

 エーデルは隣に座る少女に声をかけた。

 その少女はエーデルを迷惑そうな表情で一瞥したあと、短く自己紹介をする。

「ちょ、わかってるから隣で大きな声出さないでよ…私はクローネ。よろしく」

 その隣に座る銀髪の少年も続けて口を開いた。

「オレはルーカス。スポーツは得意だから任せとけ。よろしくな」

 そう言ってポムとリリー、そしてクローネの方を向いてウインクをキメる。

 (…こっちを見てる?こういう時、なんて反応するのが正しいんだろう…)

 ポムは結局どう反応して良いか分からず、おたおたするばかりだ。

 リリーは「あはは、面白いね!」と笑い、クローネは目を合わせないようと視線を逸らす。

 そんなやり取りをしている中、ルーカスとポムの間に座っていた少年はひとつ咳払いをすると立ち上がって挨拶を始めた。

「ゴホン!僕の名前はセージです。あまりスポーツは得意ではないのですが、どうぞよろしくお願いします」

 礼儀正しく一礼をするセージ。

 セージが腰を下ろし、次はポムの自己紹介の番となった。

「わ、私はポムと言います。その、よろしくお願いします」

 ポムはペコリと頭を下げた後、リリーをチラリと見る。

「最後はアタシだね。アタシはリリー、皆よろしく〜」

 ポムの視線を感じたリリーは彼女の方を見てニコッと笑うと、皆に手を振りながら自己紹介を行った。

 こうして一通り挨拶が終わったポムとリリー達は、続けて試合前のミーティングに入る。

「では自己紹介も終わったことだし、まずチームの役割分担から決めようではないか!キーパーをやりたいものは手を上げて欲しい」

 エーデルが皆に向かって声をかけるも、誰一人手を挙げることはなかった。

「オレはシューターがやりてぇんだよな。ってなわけでパス」

 ルーカスに続きリリーも口を開く。

「アタシもシューター希望かな〜」

 誰も手を上げそうにないことを確認したエーデルは、

「む、誰もいないのか?では俺がやろうではないか!ハッハッハッ!この俺の鉄壁に守りに期待するといい!」

 胸を張り高らかに宣言した。

「では残った5人でシューターということだな。さっきも言ったが僕は運動は得意じゃないから、出来れば後方の方に回りたいんだが…」

「わ、私も、その、スポーツ苦手なので…」

「私も同じく」

 セージ、ポム、クローネが順に声を上げる。

「じゃあオレとリリーちゃんがメインシューターとして攻めていけばいいんだな。リリーちゃん、よろしくな」

「よろしくね〜」

 ばっちりウインクをキメたルーカスを軽くあしらい、リリーはルールブックをパラパラと捲った。

「へ〜、魔法使いはボールを持って状態で歩いちゃダメだけど、マテリはボールを蹴りながらか手でつきながらだったら移動してもいいんだね」

 ポムも手元のルールブックを開く。

 キースが説明を行った部分の他に気になるルールとしては、リリーが確認した箇所以外にももう一つあった。

「ボールは最後に魔力を込めたチームの魔法しか受け付けないみたいですね」

「つまり、僕らのチームのマテリが魔力を込めたとしてもその後で相手チームのマテリが魔力を込めてしまったら、こちらの魔法は意味をなさないということか」

 ポムの言葉に相槌を打ちながら、セージもルールブックを確認する。

「では実際の試合の際の動きを確認しようではないか!俺はキーパーだから独自に考えるとして、シューターの5人だが…」

「動きっていっても、私達マテリが魔力を込めて魔法使いの…キーパーのアンタを除いた2人にボールを回すだけでしょ。」

 クローネは気合十分なエーデルの言葉に対してめんどくさそうに返事をする。

「待ちたまえ!相手の動きに合わせてパスをする相手を考えなくてはならないだろう。毎回セージとリリーに回したら動きが読まれてしまうではないか!」

「クローネちゃん、オレにパスしてくれていいんだぜ?これでも似たようなスポーツは中等部の時にやってて得意だったんだ」

 エーデルとルーカスの言葉に、クローネははぁ…と生返事を返した。

「まあ相手がどんな風に動くかなんてわかんないしね〜、困ったらアタシかセージ、ルーカスの誰かにパスするって感じでいいんじゃない?」

「全員が初めてプレーするスポーツだ、作戦を綿密に練ったところで実際うまくは行かないだろう。リリーさんの言う通りでいいんじゃないか?」

 作戦について特に何も思い浮かばなかったポムは、リリーとセージの言葉にコクコクと頷く。

「た、確かにそうかもしれないな。わかった!ではそれで行こう!」

 エーデルの一言でミーティングは終了となり、試合が始まるまでの残りの時間でルールの再確認と軽く練習をすることになった。

「使っていい魔法はボールを飛ばすことを目的としたもののみで威力は弱限定。触った相手を意図的に傷付けたり精神に影響を及ぼす魔法など、ルールで決められた以外の魔法は使った時点で失格…ね。はい、ポム!」

 リリーはルールを復唱しながら魔法でボールを飛ばし、ポムへ向けてパスを回す。

 ボールは風を纏い、ゆっくりとした軌道でポムの手元へ飛んできた。

「は、はい!えっと、ク、クローネさん、お願いします!」

 ポムはボールをキャッチすると隣のクローネへと投げる。

「はぁ…」

 おおよそ狙い通りにクローネの方へボールをパスすることが出来て一瞬ホッとするポムだったが、これから始まる試合のことを考えるとどうしても憂鬱な気持ちになってしまい、思わずため息を吐いてしまった。

「…なんか皆やる気あってついてけないよね」

 その時、セージにボールを投げ終わったクローネがポムに向かって話しかけてくる。

「ひゃ!?えっ、えっと…」

 話しかけられると思ってなかったポムは驚いてしまいうまく言葉を返せなかったが、気にすることなくクローネは話続けた。

「私、スポーツが苦手とかいう以前にやる気ないから正直めんどくさ過ぎるんだけどさ…ま、お互い適当にやってこうよ」

「はっ、はい!頑張ります!」

「いやだから適当にって…まあいいや。じゃあよろしく」

 そう言ってクローネは視線を前に戻す。

 試合に対する不安感は依然として残ったままであったが、同じくスポーツが苦手だというクローネと会話することで憂鬱に思っていた気持ちが少し軽くなった気がした。

 その後も練習を続けていると練習の終わりを告げる笛の音が鳴り、全員キースの元へと集められる。

 グラウンドには既に試合の為のフィールドが作られており、キースの他にローズの姿もあった。

「よし、じゃあ始めるか!今回は正式な試合じゃなくてもレクリエーションだからな、勝った負けた以前に楽しんでプレーすることを大事にしてくれ!」

「ジャッジは僕とキースが努める。右端の2チームはここの、その隣の2チームは奥のフィールドで行おう。残りのチームは試合の様子を見学していてくれ。…僕は奥に行くから君はここを頼む」

 ローズはキースにそう告げると奥のフィールドに向かっていく。

「ではまず試合前の挨拶からだな!この線に沿ってそれぞれ並んでくれ」

 ポム達はキースに言われるがままフィールドの中央に引かれた横線に一列に並んだ。

 反対側には相手チームのメンバーが並び、向かい合う形となる。

 ここで初めて相手チームを意識したポムとリリーは、オリーブと鉄次郎がいることに気づいた。

「試合の前と後にはこうして並んで相手と握手を交わすんだ。握手が終わったらそれぞれのポジションについてくれ」

 キースの説明に従い、リリーは丁度向かい合っていた鉄次郎に手を差し出す。

「すっごい偶然!今さっき2人が相手チームにいるのに気付いたよ。今日は対戦相手としてよろしくね!」

「こちらこそよろしく頼むでござる」

 鉄次郎は差し出された手を握り返した。

 その隣ではポムとオリーブが握手を交わす。

「よ、よろしくお願いします」

「お互い頑張りましょうね」

 全員が挨拶を終えポジションについたことを確認したキースは、フィールド中央に引かれた横線の端側に移動する。

 そして、

「では…試合開始!!」

 試合開始の合図である笛を吹き鳴らしボールを高く上げた。

 

──

 

 結果として、ポム達のチームは3-8で負けてしまった。

「お疲れ!相手のチーム強かったね〜」

 フィールドから出る途中、額の汗を手の甲で拭いながら、リリーはポムへ声をかける。

「すみません、私がもっとちゃんと動けていたら…」

 ポムは足元へと視線を落とした。

「そんなことないって!あの時アタシにパス回してくれたお陰でバシッとゴール決められたもん」

 親指を立ててリリーは笑顔を見せる。

「それにキース先生も言ってたでしょ?勝ち負けより楽しむことが大事だって。試合は負けちゃたけど、ポムやクラスの皆とスポーツするの、アタシは楽しかったよ」

 来月のスポーツ大会も出てみたいな〜と楽しそうに話すリリー。

 その様子を隣で見ていたポムは、試合中、特に手元にボールが回ってきた時はパスを回すことでいっぱいいっぱいだったが、自分のパスでリリーがゴールを決めた時はとても嬉しくなったことを思い出しながら口を開いた。

「その、私にはまだスポーツを楽しむのは難しかったんですけど…でも、苦手だった気持ちは少し軽くなった気がします」

 「ほんと!?試合前すっごい不安そうな顔してたから心配してたんだけど、それならよかった〜。あっ!じゃあさ、来月のスポーツ大会も一緒に出てみようよ!」

「ええっ!そ、それは…」

 リリーからの誘いにポムが驚き戸惑っていると、フィールドの方からキースの声が聞こえてくる。

「よし、では次の試合を始めるぞ!試合に出ないチームは見学しやすい場所に移動してくれ。」

「あっ、次の試合が始まるみたい。もうちょっと見やすい所に行こ!」

「はっ、はい!」

 リリーからの誘いにうまく答えられなかったことを若干後悔しつつ、ポムは彼女と共に次の試合の見学に向かった。

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