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第6話 浮浪者

 半日ほどかけて広陵の森に続く川の畔に着いた。

 ここは古代の王の墓が作られたという言い伝えのある場所ではあるが、今では魔物が巣食うただの森である。

 横断には歩いて10日ほどかかる広さで、そこそこ豊富な生態系を持つが、固有種のようなものは発見されていない。

 難易度は初心者向けと言って差し支えないが広い上に目立った特産品もないため、近くにギルド支部もなく冒険者が森に入ることは少ない。


 過去のゴブリンの討伐記録からおおよそゴブリンの集落があるであろう位置も特定できている。

 森の中腹辺りだから、2日ほど川に沿って歩けば着くだろう。

 マジックバッグから野営の道具を取り出す。

 視界の確保が難しい以上、危険の少ない広陵の森とはいえ夜の森は危険だ。

 森に入るのは明朝からとする。


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 川に沿って1日半ほど経過した。

 軍馬は森に入る前に野に放っている。

 この辺りに強靭な体躯を持つ軍馬を捕食できる魔物はいない。

 日を見るに、そろそろ夕方になるだろうか。

 既にゴブリンの活動圏には入っているはずなのに、見かけるのは動物程度で、魔物との遭遇はない。

 ゴブリンがいた痕跡も古いものばかりなので、やはり数が減っているのは間違いないだろう。


 問題はその原因が何かということだ。

 単にオークと争っただけであれば、繁殖力の強いゴブリンは2ヶ月もすれば数を戻す。

 であれば、ここ数ヶ月執拗にゴブリンを狩り続ける魔物がいたということか?

 気になるのは川の近くに掘ってある穴だが、この森でこのような穴を掘る魔物に心当たりはない。

 魔物は基本的に本能に従って動くため、習性を理解していればそれが何の痕跡かを理解するのは容易だ。

 であれば、この森でまだ発見されていない魔物か?

 強力な魔物であれば生活圏に近付けば魔力で感知できそうであるが、私の感知できる圏内にそうしたものはない。

 飛行するタイプか、もしくはさほど強力なタイプではないということだろうか?

 正体はわからないが、ゴブリン以外にも警戒して進む必要がありそうである。


 明日は森に入りつつゴブリンの探索を開始する。


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 明朝、森に入って異常に気付いた。

 ゴブリンの死体が転がっている。

 通常のゴブリンより明らかに立派な体躯からして、これはゴブリン・ナイトだろう。

 ゴブリン・ナイトは強力な魔物であり、通常のゴブリンなら農民であっても男なら1対1であれば難なく倒せるが、ナイトは1匹に対して一般兵が3人で相手をするのが適当とされている。

 やはりロードかキングが誕生している。

 こいつは群れを率いるのが最上位クラスの個体の場合にのみライダーやウォーリア等の中位ゴブリンが進化して生まれる上位個体だからだ。

 最上位個体に率いられる群れは非常に厄介である。

 比較的筋力の低い遠距離攻撃型の上位個体ゴブリン・スナイパーの攻撃ですら生身であれば地騎士の私にダメージを与えうる。


 しかし、ナイトが一撃でやられるとはどういうことだろうか。

 ゴブリン・ナイトの防御ステータスはC+からB。

 傷からして武器はおそらく弓だろうが、弓でゴブリンの体力を一撃で削り切るには筋力A相当のステータスが必要だ。

 力に特化した魔族の弓手であれば可能であろうが、魔族がわざわざこの森でゴブリンを狩るとは考えにくい。

 人間で筋力Aなど、この国には王国騎士団長くらいしかいまい。


 相変わらず魔力検知に反応はないが、この森には何かがいる。

 私は警戒レベルを最大まで引き上げて調査を続行することにした。


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 あれって魔物かな?


 エウリュカがゴブリン・ナイトの死体を調査している位置から20mほど離れた木の上で朝日は思案していた。

 森でゴブリンを狩り続けたため髭はボーボー、着ていた服はボロボロになり、秋が近くなって寒いので今は獣の皮で作ったマントを纏っている。


 なんか最近ゴブリンがやたら知恵をつけてるけど、上位個体的なものでも生まれたのかな...。

 頭上も警戒してくるし、罠にも反応するしでやりにくいんだよな。

 体も明らかにでかくなってるし、この間は久々に見かけたオークを倒していた。

 まぁ、頭を潰せば倒せるからなんとかなってるけど。

 でもあの黒い鎧のやつはちょっと厳しいかもしれない。

 頭はフルフェイスで狙えない。全身鎧だからどこを射っても弾かれるのが関の山だろうし、なんか強そう。

 幸いまだこっちには気付いてないみたいだし、追跡して鎧を外す瞬間を狙うか。


----------------------------------------


 そのまましばらく歩いていると、ゴブリンの集団と会敵した。

 向こうもこちらを既に視認しており、戦闘体勢に入っている。


 敵は5匹の群れで、ナイトが3匹とスナイパーが1匹、クレリックが一匹だ。

 恐らく哨戒部隊だろう。集落はこの近くにあると見て間違いない。

 先に魔法を使うクレリックを潰したいが、ナイト3匹が壁になるだろう。

 火魔法であれば2発で1匹は倒せるが、おそらくその間にクレリックの魔法が発動する。

 味方に強化魔法(バフ)をかけられたら厄介だ。

 さて、どうしたものか...。


 そう思っていたら、クレリックの眉間に矢が命中した。

 続いてスナイパーにも矢が命中。こちらは眉間は回避したようだが、左耳がなくなっている。

 突然の攻撃だったが、ゴブリンたちはこの敵が上にいると知っているのか、頭上を警戒し始めた。


 あのゴブリン・ナイトを倒した者だろう。筋力Aであれば私でも射たれればただでは済まない。

 ゴブリンと謎の弓手、2方面を警戒する必要がある。

 額に汗が流れる。ゴブリンの攻撃では一撃で沈むことはない。特に警戒すべきは弓手だ。


 そう思っていると、どこからかまた矢が飛んできてゴブリン・ナイトに刺さる。

 ゴブリン・ナイトは額を左手で防御していたようで、即死は逃れた。

 だが筋力Aクラスの攻撃だ。ほぼ瀕死だろう。

 そう思ったが、射たれたゴブリン・ナイトは左手こそ負傷しているが、叫び声を上げながら警戒を続けている。

 筋力D以下ではゴブリン・ナイトの肌に傷は付かない。

 射たれたゴブリン・ナイトの様子からするに、先のゴブリンの死体は急所特攻系のスキルを使って一撃で倒しただけで、筋力自体はC程度か?


 魔力感知には反応しないが、飛んできた矢の角度的に右後ろの木の上に何者かがいるらしい。

 恐らく気配遮断系のスキルだ。

 このスキル構成からして、職業は恐らく暗殺者だろう。

 武器を使う暗殺者系のモンスターはこの森にはいない。

 ということは、恐らく人間。


「弓手よ!我はエウリュカ・フォン・ゼッケンバーグ!

 レイヴァン辺境伯よりこの森の調査の任を受けて赴いた騎士である!其方は何者か!」


 ゴブリンを警戒しながら弓手に話しかける。

 ゴブリンは弓手を警戒しているらしく、こちらには向かってこない。


 風を切る音がして、ゴブリン・スナイパーの後頭部に矢が刺さる。

 集団で取り囲んでいるのか?

 と思ったが、再度同じ位置からゴブリン・ナイトに対して矢が飛んだ。

 ゴブリン・ナイトが矢を弾く。

 スキルで音を消して樹上を移動しているということか?

 初撃で私を狙ってこなかったこと、一度もこちらを撃っていないことからして、敵意はないと考えていいかもしれない。

 それに、ゴブリン・ナイトが弾ける矢であれば意識していれば問題ない。


「残りは私が受け持とう!」


 ゴブリン・ナイト3体であれば魔法を使うまでもない。

 私は戦斧のみで残りの3匹を始末することにした。


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「いやー、お強い!」


 最後の一匹の頭を戦斧でかち割ると頭上から声をかけられる。

 声のする方を見上げるとすぐ近くの木の上に浮浪者のような格好の男がいた。

 私は甲冑を外して声をかける。

 女だと気付いて驚いたのだろう、男は目を丸くしていた。


「其方もやるではないか。名のある兵と見た。何者だ?」


「あ、先ほどは名乗って頂いたのに申し訳ない。佐藤 朝日と言います」


「戦闘中のことだ、気にするな。その名、この辺りの者ではないのか?」


「えーと、この辺りというかなんというか...。どうやってここに来たのかよくわかってないんですよね」


 男は苦笑いしながら答える。

 記憶喪失というやつだろうか。

 他国の間者の可能性もあるが、それならばわざわざ助太刀して存在を知らせること必要はない。


「ふむ...。記憶喪失というやつか。難儀であったな」


「あはは...。騎士様は何故ここに?」


「ゴブリン退治だ。其方も既に知っているであろうが、ゴブリン・キングかゴブリン・ロードが誕生しているであろう。私はその集落の調査に来た」


「ゴブリンの集落の位置なら知ってますよ!案内しましょうか」


「うむ、では頼んでも良いだろうか」


 浮浪者のような男ではあるが、集落の位置を知っているのならありがたい。


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 いやー、ビックリした。

 最初は黒い鎧を着たゴブリンの上位個体かと思っていたのに、鎧の中身が物凄い美少女とは...。

 エウリュカさんを案内する道中、色々と会話をした。

 ここは広陵の森という場所で、レイヴァン辺境伯って人の領地らしい。

 辺境伯という単語を聞いた瞬間、なんかようやく異世界に来たな、と思った。

 エウリュカさんはその辺境伯に仕える騎士で、ゴブリンの調査に来たとのことだ。

 今は集落の位置を探っているらしい。

 ゴブリンを滅ぼせるならちょうどいいので、そのお手伝いをすることにした。

 エウリュカさんメチャクチャ強いし、最近なかなか間引けなかったけどエウリュカさんと一緒ならいけるかもしれない。


 というかゴブリンは減ると上位個体が発生するって、もしかして俺、なんかやっちゃいました...?

 ちょっと申し訳ないな...。


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 アサヒは森の立地を知り尽くしているようで、ゴブリンの集落が一望できる切り立った丘に案内された。

 ここならばゴブリンから察知される心配もないだろう。


 道中、アサヒの身の上を聞いたが、なんと森に来てから一人でずっとゴブリンを狩っているらしい。

 ゴブリンは一気に集落を落とさないと上位個体が発生するので十中八九上位個体の発生原因はこの男なのだが、まぁ人の入らない森でゴブリンを狩って民の被害を減らしたのもまたこの男である。

 上には黙っておいてやろう。


 さて、ゴブリンの集落についてだが、戦力になりそうなのは50程度、ゴブリン・ナイトが6割、ゴブリン・スナイパーが3割、ゴブリン・クレリックが1割といったところか。

 肝心の最上位個体については集落の中心にある一番大きい建物にいるらしく、ゴブリン・ロードかゴブリン・キングかは不明である。

 しかし、恐らくゴブリン・ロードであろう。

 ロードとキングの違いは戦士系か魔法系かというところだが、手下の強化についてはキングに分がある。

 交戦したゴブリン・ナイトの強さとクレリックが少ない手下の割合からして、この予想はほぼ間違いない。


「アサヒ、ここから射撃はできないのか?」


「うーん、厳しいですね。射程的に届いても狙いを付けるのが難しいです」


「ふむ...。では策を練るか」


 この日は近くにアサヒの拠点があるというので、移動してそこで夜営をすることにした。

 食事を食べながら作戦会議をすることにしてマジックバッグから肉を取り出したのだが、アサヒは久々のマトモな食事だと感動で涙を流していた。

 今まで何を食べていたのだろうか。任務が終わったら聞いてみてもいいかもしれない。


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ゴブリン・ナイト

ステータス:

 筋力:C

 防御:B

 魔力:F

 知性:E

予約投稿機能を使ってみました。

今まで読み専だったんですが、自分の書いた作品をブックマークしてもらうとすごく嬉しくなります。

なろうは読むより書く方が楽しいサイトなのかもしれません。(もちろん読むのも楽しいんですが)

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