第13話 クコの町
「...知らない天井だ」
一度言ってみたかったんだよな、これ。
そう思ってから自分がベッドで眠っていたことに気付く。
部屋の大きさは4畳ほどで、本当に寝るためだけの場所って感じだ。
町の宿だろうか。
異世界に転移してもう数ヶ月、今まで家で寝ることすらできていなかったので、なんだか感動している。
にしても町に入った記憶がない。
確かこの辺りの盗賊を全部倒して、それから町で休憩するとかなんとか言われた気がする...。
とりあえずこの部屋には俺一人しかいないので、エウリュカさんを探すためにも外に出るか。
そう思った時、部屋のドアが開かれた。
「アサヒ!目覚めたか!」
「おはようございます、エウリュカさん」
「2日前に宿に着いてからずっと寝っぱなしだったから流石に私も心配したぞ。もう大丈夫なのか?」
「え、俺そんなに寝てたんですか?」
「ああ。ずっと外で過ごしていたんだ。町に着いて安心したんだろう」
「はは...申し訳ない。でもおかげで体調バッチリですよ」
「それはよかった。辛くなったら言え。
昔から人の心がわかっていないと言われていてな。どうにも言われんとわからんのだ」
「わかりました。それで、三日休憩って話だったと思うんですが、他の皆さんはどうしているんですか?」
「一人は家族を連れてくるということでアジトに向かわせている。
他は大部屋で休憩中だ。まあ、率直に言えば人質だな」
「なるほど。ちなみにここはどこなんでしょうか」
「クコの町の騎士団の詰所だ。とは言っても常駐の騎士はさほど多くない。
騎士には貴族が多いから、建物だけは立派だがな。
騎士団には訳ありだと説明している。やつらが逃走することもないだろう」
「なら安心ですね。まあ、逃走しても盗賊に戻るだけですし、逃げなさそうな気がしますが」
「それでも念には念を入れたほうがいい。
私はやつらの見張りがあって付き添えんが、アサヒは出入り自由だ。残り2日は自由に過ごすといい」
「ありがとうございます。お頭を連れて行ってもいいですか?」
「アサヒが監視するなら問題あるまい。
そういえば金はあるか?ないなら騎士団でオオアシトカゲの皮を買い取ろう」
「いいんですか?ではお願いします」
「うむ。では代金だが、傷が少なくて状態がいいから大銀貨5枚でどうだ?」
「相場が分からないのでなんとも言えないですが、エウリュカさんが適正価格だと言うなら信じます」
「ああ、そういえば記憶喪失だったか。では貨幣相場について教えよう」
エウリュカさんによると貨幣相場は元の世界の価値で大体こんな感じっぽい。
白金貨 1億円
金貨 10万円
大銀貨 1万円
銀貨 1000円
銅貨 100円
5mのトカゲの皮で5万円というのは高いのか安いのか分からないが、どうなんだろう。
皮はエウリュカさんのマジックバッグに入っている。
売るならそのまま大銀貨を貰うだけで問題ないだろう。
「うむ、では大銀貨5枚だ。確かに渡したぞ」
「ありがとうございます。お頭はどこにいますか?」
「部屋を出て右の突き当たりに大部屋がある。外から鍵をかけているので同行しよう」
「わかりました」
「湯浴みは不要か?着替えはこちらで用意するが」
「あー、そうですね。先に身支度をしたいです」
「では浴室に案内しよう」
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久々の風呂だ。貴族の施設だけあってなかなかしっかりしており、風呂もシャワーもある。
異世界モノだとよく風呂に入れるのは貴族だけ、みたいな話があったりするが、この世界では一般的な平民の家にも風呂が設置されているらしい。
石鹸もあるし、この建物は石造りっぽいけど文明レベルとしてはどのくらいなんだろうな。
湯船に浸かってこの世界について物思いに耽っていると、浴室の入り口から声が聞こえてきた。
「失礼致します」
「!?」
「クコの騎士団詰所付きの侍女、クラリエッタでございます。
お背中を流させていただきに参りました」
振り返ると浴室の入り口にメイドさんがいた。
年齢は18歳くらいだろうか。
メイド服に茶髪茶顔で、鼻には少しそばかすがある。
異世界名物お背中お流ししますメイドだ。
すげぇ、本当にいるんだ。全く気配を感じなかった。
とはいえ俺は27歳、こんなところで動揺するほど子供じゃない。
落ち着いて対応しなければ。
「い、いえ、大丈夫です」
「エウリュカ様からご指示を頂いておりますのでご遠慮は不要でございますが」
「えーと...」
困った。これで断ったらメイドさんが怒られたりするんだろうか。
「ちなみに断ったらクラリエッタさんが怒られたりしますか?」
「いえ、アサヒ様の意見を尊重するよう言われております」
「ではナシでお願いします...慣れていないもので、すみません。
ちなみに髭剃りってありますか?」
「問題ございません。髭剃りはすぐ持って参ります。
では、お着替えは脱衣所に置いておきますので、ごゆるりとお過ごしください」
「すみません、お願いします」
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いい風呂だった。
数ヶ月ぶりに入る風呂、癖になりそう。いや、できれば毎日入りたいけど。
用意された服に着替えて脱衣所を出ると、クラリエッタさんが控えていた。
1時間以上入ってたと思うんだけどずっと待ってたんだろうか。
なんか悪いことしたな...。
そう思ってクラリエッタさんの方を見ると、驚いた顔をしていた。
「...アサヒ様ですか?」
「ええ、そうです」
ああ、この顔か。俺も驚いたからなぁ。
髭を剃るときに鏡を見て気付いたのだが、なんだか若返っているのだ。
身長も縮んでいると思う。多分150cmくらいだ。
森で木が大きいと感じていたのも異世界だからと納得していたが、単純に俺が小さくなっていただけだったのかもしれない。
見た目年齢は中学生ぐらいに戻っている。
しかも何故か美少女方面にメチャクチャ美化されている。男なのに。
ちょっとこの世界に飛ばしてきた幼女の面影があるような気もするが、何か影響されてたりするんだろうか?
「エウリュカさんに挨拶したいんですが、どこにいるかわかりますか?」
「それでしたらつい先ほどあちらへ歩いて行かれました。恐らく真っ直ぐ進めばいらっしゃるかと」
クラリエッタさんがこちらから見て左の方向を指差す。
「ありがとうございます。あ、付き添いは大丈夫ですよ」
クラリエッタさんが付いてこようとするので牽制する。
なんだかメイドさんといると緊張するのだ。
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少し歩いたところでエウリュカさんを発見した。
何やら武器庫のような場所で戦斧の手入れをしている。
「...誰だ?」
「アサヒです」
「!?
ひ、髭がないと印象がだいぶ変わるな...。年上かと思っていたぞ」
「そういえばエウリュカさんっておいくつなんですか?
あ、女性に年齢を聞くのは失礼でしたね」
「いや、構わん。私は18だ」
「俺は27です」
「兄上と同い年...?いや、そんなわけは...。
というか、女だったのか?」
「いえ、男ですよ」
「そうなのか...?」
なんか中身がおじさんなのに年下の女の子を見ているような視線で見られるのがむず痒い。
いや、見た目がそうなんだから仕方ないんだけど。
なんだかおじさん的な心がいてもたってもいられなくなってきたので、話題を切り替えよう。
「そうなんです。お頭のところに案内してもらってもいいですか?」
「あ、ああ...」




