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第10話 領都への旅 3

「髭の兄ちゃん、見逃してはくれねぇか?」


 振り返るとお頭と呼ばれていた男を筆頭に盗賊たちが立っている。あれ、縄は?


「あれ、縄どうしたんですか」


 驚きの余り冷静に返事を返す。

 これなんて言うんだっけ。平常化バイアス?


「動じねぇか。兄ちゃん、やっぱ相当強ぇんだな。

 うちの耳が聞いてたぜ。あの賊狩りより強ぇって本当に人間か?」


 多分耳であろう人が頷く。

 聴覚に優れる職業の人なのかな。


「いや、エウリュカさんの方が強いと思いますけど...。ていうか賊狩りってなんですか?」


 そう言うとお頭は(へつら)ったような笑顔で遠慮がちに焚火の近くに腰を下ろした。

 盗賊の集団が焚火の外周に立ち、俺は盗賊たちに取り囲まれる形でお頭と焚火を囲む。


「なんだ、知らねぇのか。てことは兄ちゃんは騎士じゃないのか?

 賊狩りっていうのはあの騎士様の異名だ。こんな家業をやってると嫌でも色々な情報が入ってきてな。

 あの騎士様が通った村を襲った盗賊は全部ひっ捕らえられてるんだ。

 それもほとんどが一人でだぜ?百人規模の盗賊のアジトに単身で壊滅したって逸話まである。

 ありゃバケモンだぜ。出会ったが最後、年貢の納め時ってな」


「へぇ、そうなんですね。確かにこの間一緒に戦ったんですが、あの人が負けるのはちょっと想像できませんね...」


 魔法とか凄かったし。あの凶悪そうなゴブリン・ロードを威圧で怯ませる辺り、多分俺がいなくても一人で集落壊滅させてたと思う。


「武勇伝か。いいねぇ、武勇伝は戦士の華だ。

 冥土の土産に聞かせてくれや。」


 それからお頭と色々と会話をした。

 気付いたら森にいたこと。頑張って生き延びたこと。

 ゴブリンが増えてきたから狩っていたらたまたまエウリュカと出会ったこと。

 ゴブリン・ロードの集落を二人で落としたこと。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。ロードの率いる群れを二人で落としたのか?」


「そうですよ。とは言ってもナイトはほぼエウリュカさんが一人で倒したんですけど」


「兄ちゃんは何をしてたんだ?」


「アーチャーとクレリックですね。あ、後ロードも倒しましたよ。弓で眉間射ったら一発で沈みました。

 いやぁ、恐ろしげな見た目の割に意外と他と大差なかったですね」


「ロードを一撃...?マジで言ってんのか...?」


「本当ですよ。エウリュカさんが帰ってきたら聞いてみてください」


「恐ろしくてあの騎士様に声なんてかけられねぇよ...。

 それに嘘を見抜けなきゃ盗賊の頭なんてやってられねぇ。

 まぁ、賊狩りの情報で偽物を掴まされちまってこの有様なワケだが...。

 そもそもあの騎士様が過大評価するとも思えねぇしな」


 そう言うとお頭は大きく一息吸ってからため息を吐いた。


「わかった、俺らの負けだ。

 お前ら諦めるぞ。ゴブリンとはいえ最上位種を一撃で仕留めるような奴相手に勝ち目はねぇ」


 お頭がそう言うと、盗賊たちはすごすごと元々いた木の方に戻っていった。

 焚火の周りには俺とお頭だけが残った。

 助かったぁ...。

 お頭は身の上話の返礼とばかりに彼らが盗賊になった経緯を教えてくれた。


 お頭たちは元々ここと隣接する南の領土の軍に所属していたらしい。

 一年ほど前に貴族のゴタゴタに巻き込まれて、冤罪で隊ごと処刑されるところを命からがら逃げ延びてきたんだとか。

 ただ指名手配されているらしく、普通に生きることができない。

 どうしようもないので盗賊として生計を立てていると言っていた。


「これでも元は平和を守る軍人だ。

 盗賊になってから命を取ったことはねぇ。

 最初の方は商人から食料を奪ってなんとか生き延びてたんだ。

 俺たちも騎士様なんて襲いたくはなかったんだが、最近はどうにも商人が来なくてな。食料が尽きかけてた。

 ゴブリンの話を聞いて納得がいったぜ。商人は情報に敏いからな」


 ...なんかこの人たちが襲ってきたのも回り回って俺が原因らしい。

 まぁ、盗賊だから申し訳ないとは思わないが...。


「なあ、兄ちゃん。見逃してはくれねぇか?

 命を奪うような真似はこれからもしねぇ。ここいらの盗賊の情報も全部渡そう。

 盗賊は普通労役を課されるが、俺たちが引き渡されちまったらバレて処刑されちまう。

 家族と一緒に逃げてきてるやつもいるんだ。頼むよ」


 うーん、どうしよう...。すごく重い話をされてしまった...。

 こういう時は話題をずらすに限る。社会人の必須テクニックである。


「...とりあえず今日の食料がないので、みんなで狩りに行きませんか?」

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