指輪の性能
ハッと目が覚めると、指輪の中の瞳を覗き込んだまま動いてなかった。
そして、目が合った瞳も消えていた。
夢のような気がするが、夢ではない。
体感だと数時間だが、現実では動いてなかったことを考えると数秒しか経ってないだろう。
スーリヤも駆け寄ってきてたりしないから、間違いないはずだ。
しかし、どうしたものか。
あの老人の話だと、同じような存在があと十三人いることになる。
敵が七人と、不明が六人。
出来れば大罪系は仲間にしておきたい。美徳系と数が揃わなくては、不利すぎる。
って、いやいや、全面戦争でもするつもりか!俺は。
いつの間にか一人百面相をしていたようで、不思議そうにスーリヤが聞いてきた。
「あ、あの、大丈夫ですか?さ、さっきから表情をコロコロ変えてますけど」
「え、あ、ああ。大丈夫だ。だけど、指輪は外せないみたいだ」
「な、なんでですか?まだ、試してないこともありますよ?」
それは指を詰めることを言っているのか?
そうだとすれば、怖すぎる。
「い、いや。なんていうか、分かるんだよ」
指輪に意思があって、それに教えて貰ったなんて言ったら頭のおかしいやつ認定は避けられないだろうから、曖昧に答えるしかない。
「そ、そうなんですか」
怪しいと思っているのか視線がツラい。
それでも、好奇心には勝てないのかテンプレのように聞いてきた。
「あ、あとはどんな効果があるんですか?」
そーだな・・・・・・。は!?何これ!?
チートじゃん。
“魔力量上昇”“魔力制御向上”“保有魔力上昇”“身体能力向上“”筋力向上“”瞬発力向上“・・・・・・・・・・・・“傲慢の使者”“傲慢の体現者”
いやー、これは凄い。座ったまま動いてないから分かりにくいけど、相当なもんだろう。
魔力は・・・・・・。
うん。上がってるね。総量がよく分からないぐらいにある。
けど、これを素直にスーリヤに言っていいものか。
「一言で言うと凄いね。魔力も体力も上がってるから、大抵の魔物は負けないかも」
「そ、そう言えるぐらいなんですか。わ、私も欲しいです」
欲しくなるよなぁ。この性能だもん。あれば世界が変わる。
「同じ物はないけど、似たような物ならあと六個あるみたいだよ」
「ほ、本当ですか!?」
おおう。凄い食い付き。
だけど、スーリヤがどれに目を付けられてるのか分かんないんだよな。
美徳系じゃないことを密かに期待していたが、確証がないことから不安になって、思考の海に沈みかかったところに、前のめりになりつつあるスーリヤにまだ動きがあった。
「ど、どこにあるとか分からないですか?」
まだ、食い付いてくるか!
だけど、残念な事に分からないし、所有者がいるかもしれない。
夢は壊さず答えるしかないな。
「ごめん。それは分からないな。だけど、冒険者を続けてれば見つかるかも知れないな」
その言葉に花を咲かせるように笑顔を見せる。
くっ!?可愛すぎる。
この顔を見ては行かない選択肢は無くなったな。
けど、ひとまず目の前のことを処理しきることにしよう。
「探せば見つかるさ。でも、とりあえず‘これ’をどうにかしてからだけど」
財宝の山に指をさしていった。
思い出したのか〝あっ!〟と声を出し、顔を赤くし俯いている。
一通りの運び出しプランは決まっているから実行するだけだが、忘れてたことが恥ずかしかったようだ。
咳払いを一つして、空気を改めてから今日のプランを組み立て直すことにした。
「この指輪のおかげで出来ることが増えたから、運び出しプランを変えようと思う」
元々三回の往復で運びきる予定だったが、一回で終わる目処がたったのだ。
指輪――――主である老人――――のおかげと言いたくないけれど、その通りでだった。
《傲慢の指輪》は出来ると思ったことには、とことん強いらしい。
出来ないことは調査してみなければ分からないが、大抵の事は出来る認識を持っている。
なかでも、前世の知識がある分有利のようだ。常識だったことや、ラノベに限らず本に書いてあった理解不能な事でも、結果として出来ているなら指輪を通せば出来る事に変わってしまう。
おかげで、往復することなく運び出せるだけど、やりすぎには注意しておくか。
他の奴等の目に止まったら面倒事まで一直線だろうし。
「じ、じゃぁ、あとは上に戻るだけですね」
「うん。余裕も出来たしもう少し休憩してからにする?」
「い、いえ。わ、私は大丈夫です」
急に元気になったスーリヤに、理由を聞くのは野暮だろう。
そう思い、財宝を持ち運び出来るようにすることにした。
そこで、理論なんて全く分からないストレージを作ってみた。
〈異空間〉〈空間拡張〉〈空間固定〉
三つを合わせて効率よく、必要分の空間を組み立てる。
これだけだと、意外に重たい財宝の移しが残っているので、掃除の定番アイテムも再現することにした。
組み上がった空間を財宝の前に展開して、〈掃除機〉の吸引力のみを使って山のようだった財宝をストレージに移していった。
ふー。いい汗かいたぜ!動いてないけどね。
頑張る気満々だったスーリヤには、悪いことしたかも知れないけど楽をさせて貰った。
「お、終わっちゃいましたね。わ、私何もしてないんですけど、い、いいんですか?」
魔法の実験的な意味も含まれてた事を伝えると、尚のこと欲しがってた。
目がキラキラじゃなくて、血走るんじゃないかと思うぐらいにギラギラしてた。
スっと明後日の方向を向いてスーリヤの顔を極力見なかった事にし、指輪の性能について考察していた。
ステータスなんて無いこの世界で――――作ろうと思えば多分作れる―――どれだけの上昇があったのかは分からないが、恐らく指輪一つで戦争や暗殺の手段を選んでもお釣りが来るぐらいの性能を秘めている。
チート装備と呼んで問題ない代物だと言うのは間違いない。
国に対して宣戦布告しても、余裕を持って勝てるほどだ。
だからこそ、仲間の入れ替えなんてのは出来なくなった。
情報漏洩を考えると、スーリヤとも別れる選択肢は無くなった。
しかし、スーリヤは逆に連れてってと迫ってくるだろうな。あの食い付きを思い出すと、まずパーティ解散は有り得ないと思う。
そこまで、考えていたものの話し合う必要があることを思い出し、イリヤ村に帰ってから今後の方針を決めることにした。