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大罪の賢者  作者: 伊佐緒晶
賢者の指輪
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選ばれた理由

 本当に、勘弁して欲しい。

 いきなり傲慢に選ばれたとか言われても、複雑だよ。


 《なんじゃ、不満か?》


 不満というか、唐突過ぎて意味不明。

 そもそも基準も分かんないし。


 《基準なんてものは、ハッキリしとる。この世界を見下しておる。それだけじゃ》


 いやいや、見下しているわけないじゃん。

 むしろ感謝してるよ。このオタク心をくすぐる世界に生まれたことを。


 《ハッハッハ。それが既に見下しておる。好奇心でしか世界を見ておらんではないか。貴様の記憶を少しばかり見させてもらったが、娯楽の溢れた世界のようじゃな》


 記憶を覗くとか変態の思考だな。それに、今世は頑張って生きているんだ。前世のように生きてるだけじゃない!


 《それは分かっておる。だが、魔法は?剣術は?鍛冶や薬師などの知識は?生きるだけならそこまで多くの分野は必要ないはずじゃ。そうじゃろう?では何故?分かっておろう。夢にまで見た世界だからじゃ。ラノベとか言うものにあったように、前世の知識や経験が活かせる圧倒的有利な条件から始められる人生。好奇心のフィルターを通して世界を見ているのじゃろ?それは、さぞかし楽しいじゃろう。面白いじゃろう。望めば体験だけでも出来る環境があったとはいえ、周りを驚かせて優越感に浸っておったじゃろう》


 違う!!俺はそんなこと思ってない!


 《いや、違わない。たとえ表には出ていなくとも、片隅では思ってたはずじゃ。この世界に無いものを作り上げて、喜ぶ周りの姿を見て嬉しく思いながらも、出来て当然と思う気持ちがあったはずじゃ》


 そ、それは俺には前世の記憶があるし、過程がわからなくても結果だけを魔法は導けるんだ。それに、世話になった人に対して恩返しをしたかったからだ。


 《立派な心掛けじゃな。しかし、出来て当然とは?常識を知らぬ訳でもないから、解明されてない事だとわかっておったはずじゃ。大人の面子を潰すとは思わなかったのかね?その場では賞賛していたとしても、貴様に教えていた立場の者はどうなる?明日からは逆の立場になるのかね?》


 そんなことはない。先生は先生だ。


 《そうじゃ。貴様がある程度歳をとっていれば、受け入れられたことも子供が言えば生意気でしかない。勉強の途中で無謀な挑戦や突拍子のない事であれば可愛げがあるが、完璧な理論を持った時点でアウトじゃよ》


 ニヤリと口角を上げて笑う老人に対して何も言えなくなってしまった。

 違うと言いたいのに、そんな事は無いと言いたいのに、言えない。

 理屈を捏ねくりまわしている訳じゃなく、正論でしかない。

 悔しさに口を噤んでいると、老人が言われたくないことを突き付けてきた。


 《理解したかな?貴様が選ばれた理由を。己の傲慢さを。貴様風に言うのであれば、舐めているのだよ。この世界を》


 クソっ!!そんなつもりは無かった。

 言い訳にしかならないけど、本当に恩返しのつもりだった。先生達も喜んでくれてた。浮かれてた部分がないとは言わない。

 けど、悔しそうな顔をする先生もいた事は確かだ。その時は気にもしてなかったけど、それこそが傲慢だっんだろう。


 何も言えずに黙っているしかなかった。


 考えたこともなかったけど言われて始めて自覚したこともある。

 イージーモードとはいはなくても、心のどこかで舐めていたのかもしれない。

 生まれ変わっても、前世がある分有利だと。


 そんな事ないのにな。


 その一言を発するまでに、知らない内に多過ぎる罪を重ねたってことか。

 結局覆すことも出来ないことが分かってから、受け入れつつあった。


 そして反論することなく、次の言葉を待っていた。


 《ふむ。理解したようだな。目の色が変わったのぅ。流されるだけの子供から行動する大人になったというところかの。ま、覚悟をしようがどうでもいいんじゃ。お前さん以外には嵌めることすら出来んじゃろうし》


 初耳だ。てっきり一番に嵌めたからだと思っていた。


 《馬鹿なことを言うでは無い。選ばれるのには、資格がいる。その資格を持っているかが、最低限の素質として見極められる》


 ってことはスーリヤは絶対嵌められなかったってことか。


 《そうじゃな。 あの小娘は別の奴が目を付けておるが・・・・・・。いや、やめておこう。後で怒られたくはないのでな。ハッハッハ》


 笑って誤魔化されても、別の奴ってのが誰かよく分からないな。一応注意しておくか。

 だけど、スーリヤは傲慢以外の素質があるみたいだな。


 《ふん!素質があるからと言って選ばれる訳では無い。吾のようにそれぞれに主おる。候補者の中から誰を選ぶかは主次第じゃが》


 つまり、俺はあんたに選ばれたって事か。


 《そう言っておる。貴様は飛び抜けた資格を持っておったからな。他の候補者が可哀想になるほどに差は歴然じゃった》


 そりゃそうだろ。自覚した今だからこそ思うけど、やりすぎた感は否めない。

 ラノベ読んでて、穏やかな生活が欲しいのに事件に首を突っ込んで注目される主人公とかに対して、馬鹿としか思ってなかったのに、俺もそう変わらないんだよな。


 でも、凄い能力を持ってる訳でも貰った訳でもないし、前世の成績も並だった。

 スポーツはそこそこ出来たけど、何かの代表に選ばれるほどでもない。

 考えれば考えるほどラノベ主人公に劣るんだよな、俺。

 言ってて虚しくなるけど、たとえ《傲慢》に選ばれたからといって大した事は出来ないと思う。


 《謙遜することはない。そのままで十分じゃよ。貴様の知識はこの世界に無いものばかりじゃ。思うがままに振る舞うだけでよい》


 そのままでいいとか、一般人Aぐらいでしかなかった俺にどんだけ期待してるんだよ。


 《ハッハッハ。楽しみじゃ。貴様がどんな風に世界を変えていくのかが。さて、時間切れのようじゃな》


 老人の姿が薄れてゆくのを見て、時間がないことに気付き、最後に重要な質問をすることにした。


 急だな!

 あ、おい!最後に一つの聞きせろ!

 他の奴等は敵なのか味方なのかどっちだ?


 《ふむ。敵でもあり、味方でもある。好ましければ取り込み、そんでないなら、排除する。そんな間柄じゃな。だが、神側の人間は基本的に我等の敵でしかない。それだけは忘れるな。では、頑張るのじゃぞ!》


 にこやかにエールを送ってきた老人はスーッと消え、ポツンと残された。

 どうやって戻れば良いのかを聞いとけばよかったと後悔すると、暗かった空間に目が開けてられないほどの光で満たされた。

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