指輪の変化
今更ですけど、一段下げる方法を知ったので前の投稿は変更しました。
【鑑定】の魔法を使って『薄汚れた指輪』を調べてみた。
《傲慢の指輪》
傲慢なる者の指輪。
全てを下し、高みに居続ける為の力なり。
願いを叶え、我が道をゆく者にのみ資格を有する。
ふ、ふーん。単なる薄汚れただけの指輪でも呪いの装備ではなかったが、ヤバそうな代物だ。
これは何としても外さないと。面倒に巻き込まれる匂いがプンプンする。
先程とは違い鬼気迫る感じで指輪を外そうとするエルクを見て、察したのか先程とは違い、知恵を振り絞って力を貸してくれた。
幾つか考えてくれたものの、大半は現実的ではなかった。中でも、指を詰めるなんてぶっ飛んだ発想までしてくれた。
さすがに、それは最後の手段にしたいな。
それでも、【身体強化】を使うという可能性が上がりそうな案も出してくれた。
だが、まず試してみたいのが【身体変化】だ。
大掛かりなことは出来ないが、少しの変化なら出来るようになった。
元々は非人類主人公のラノベでよくある身体を細くしたり薄くしたり出来たら幅が広がるかと持ったのだが、難しかった。
それでも、体の一部ぐらいなら大人から子供のサイズに変化されらせるようになった。
普通の指輪だったならサイズが変わっただけで外せない物はないはずだった。
だが、エルクの付けてる指輪は普通ではなかった。
「あれ?外せない。なんで、ピッタリのサイズに変わってるんだよ」
指先を細くした形にしても、今出来る限界のサイズまで太くして今度は逆に限界まで細くした瞬間に外す策すらもダメだった。まるでストーカーみたいで気持ち悪いなんて思ったほどだ。
こうなったら【身体強化】で外すしかない。
しかし、既に外せないということがストレスになりつつあり、半ばやけくそになり、持ってる魔力全て注ぎ込んで全力で外しにかかった。
フンっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・だぁぁぁ!!
無理だ。こんなのどうやって外せばいいんだよ。
嵌めたら最後って罰ゲームかよ!てか、そんな物作るんじゃねぇ!!
嫌がらせか!
イライラして今にも叫び出しそうだったが、踏みとどまった。
スーリヤが心配そうに見ているのにこれ以上大人気ないことは出来ないと思った。
ふぅ、と一息着けば多少は余裕が生まれた。
その僅かな余裕で賢者が指輪を着けたまま死んだことに違和感を感じた。
魔法使いのためのローブや首飾り、指輪等は分かる。魔力の底上げや魔力制御の補助の効果を持つのが多い事は知っている。
だが、剣士としては?
魔法の込められた魔剣と呼ばれる類であれば、魔力供給量によって威力が変わったりするらしい。なので、腕輪や鎧にそうした効果を刻んだ物を使う。
指輪なんてものは柄を握るのに邪魔になるため真っ先に候補から外れる筈だ。なのに、賢者の指には嵌っていた。剣が転がっていたから剣を使うとは言いきれないが、背丈を考えると丁度会うはずなのだ。平均身長が毎年更新されている現在を、遥かに超える賢者より大きい奴が仲間にいなかったとは断言出来ないが、確率としては極端に低くなるだろう。
ここまで考えて一つの可能性を思いつく。
――――いや、賢者も外せなかったのか?
だとすると、俺程度の能力では無理だろう。
ひとまず、落ち着いてからイリヤ村に戻ろうか。
スーリヤに確認し、休憩と一度ではとてもじゃないが運びきれない賢者の持っていたものの運び出しのプランを練る事にした。
魔物の類がいないこともあって、三回の往復で行けるだろうと目処が付いた。
さてさて、ここの物一通り【鑑定】してみようかな。とワクワクしていながら手揉みまでしていた。
そこで、流れを断つようにスーリヤの疑問が飛んできた。
「あ、あの、ちょっと気になってたんですけど、ゆ、指輪ってそんな装飾なかったですよね?」
お楽しみを邪魔されて少しムッとしつつも、聞き逃せない言葉があった。
そう思って見ると前世でよくある結婚指輪のような装飾のないシルバーの指輪だったものが、いつの間にか形を変えていた。
『薄汚れた指輪』としか呼べない見た目が変化していて、指輪自体が少し幅が広くなり、ライオンの鬣のような飾りが付いて、真ん中で獣の牙が紫の宝石にしっかり噛み付いていた。
いつ?嵌めた時には装飾どころか、汚いとすら思ってたのに今では立派な指輪に早変わり!
なんて現実逃避してても仕方ない。何があるか分からないから、ちゃんと観察しとかないと。
眺めながらも、そういえば、大罪の悪魔ってライオンとか蠅とかそれぞれに幾つか獣だったり虫だったりの姿があったなぁ。と懐かしんでいると、宝石の中に蠢く物があったように見えた。
不思議に思い中を覗き込むように見ると、宝石の中に見開くような目を見つけた。
しかし、驚くよりも先に身体の自由が効かなくなり、目線が指輪から離せなくなった。
危険を感じスーリヤに警戒するようにと、どうにか伝えようとしても指の一本すら動かなかった。
そして、宝石の中の瞳と見つめ合いながら意識を失った。