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大罪の賢者  作者: 伊佐緒晶
賢者の指輪
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財宝の中の死体

 遺跡に潜り始めて既に一時間ほど経っていた。


「うーん。何も無いな」

「し、仕方ないですよ。こ、ここは探索し尽くされてる場所ですから」


 そう言われると何も言えない。

 分かってて入ったとはいえ、本当に魔物の類がいない。それどころか落し物一つないとは思っても見なかった。


「とりあえず、そこまで深い遺跡じゃないし最深部まで行ってみようか」


 スーリヤも反対することなく頷き、最深部を目指すことに決まった。

 しかし、本当に何も無い。

 いくつか部屋を見つけたのだが、どこも大小様々な機材や棚や机ぐらいしか置いてない。

 しかも、整理整頓がされており、誰かが掃除しているとしか思えない程の綺麗さだ。


【遺跡の掃除屋】と呼ばれるスライムでもいれば納得も出来る。だが、ここには何も無いのだ。スライムどころか、髪の毛一本、埃の一つさえない。


 異常すぎる。

 それは、エルクは遺跡に対しての率直な感想だった。

 前世でも、床を自動で掃除してくれる機械はあったが、棚の一段ずつや机の上は綺麗にはならない。時代が進めば発明されたかもしれないが、生きていた時にはそこが限界だった。


 魔法と言われればそれまでかもしれない。

 この世界には知らないことの方がも多い。ましてや、魔法なんてものはなかったのだから。


 一応の警戒は怠らずに進んでいくも、全ての部屋が綺麗だった。

 もちろん劣化はあるが、それだけだ。

 そして、最深部に着いたことで疑惑が確信に近くなる。


「やっぱりここは賢者の住まい。いや、賢者達の住まいだったのかもしれないな」


 え?と言う声に、振り向くと、スーリヤが目を見開くようにして驚いていた。


「ここは扉は不規則だが、部屋ごとに役割が別れていたのがよく分かる。薬調合をしていたであろう部屋、鍛冶をしていたであろう部屋、図書室、客室、浴室など多くの部屋があった。そして、この扉だ」


 全面に凝った装飾がされた扉を指で示してやる。


「こ、この扉がどうしたんですか?」

「構造的に見て玄関でまちがいない。だが、押しても引いても開かない。しかも、金がかかってるように見えるからこそ、賢者の住処ではないか?と憶測が出たのだろう」

「そ、それならやっぱり噂でしかないって事ですよね」


 スーリヤの顔には安堵と落胆が同時に出ていた。

 それに、地下にあるはずのドアが開かないなんてのは、少し考えれば分かることだ。たとえ、引くタイプだとしても、この深さだと土に埋もれたドアが開くのはドアノブが土で埋もれてないことが最低条件なので、まずありえない事だと言ってもいいのだが……。


「いや、そうじゃない。これを見てくれ」


 ドア全体の装飾の様な紋様を指差す。が、反応がない。


「これは、装飾のように見えるが、実際は魔法陣だ」

「え?で、てもこれ知ってる形も魔法文字もないですよ?み、見間違えじゃないですか?」

「いや、これは玄関だけじゃないはずだ。探ってみた感じ、何処か別の場所に繋げる為の機能があって、装飾は隠すためでもあるんだろう」

「も、もしかして空間魔法の魔法陣って事ですか?」

「そうだと思う。多分その為の陣なんだろうなとしか確証はないけど……。ただ、この形で魔法陣を組めるのは相当昔の人か国家レベルの図書閲覧でも出来る相当腕が立つ人じゃなきゃ無理だろう。でも、この魔法陣は賢者クラスでないと組めないはずだ」


 これが読めるのは今の時代には、まずいないだろう。

 この世界の魔法陣はラノベで多い円形がほとんどだ。


 形が歪だと魔力を流せば良い訳ではなく、形に沿った流れを読み取らなくてはいけない。その分強力だったり堅固だったりと、性能としては尖っている。

 そして昔の人は個性を出し、より複雑に、より堅固にと改造していき、とうとう本人以外に使えない道具や魔法陣が出来上がった。

 同じ様な性能なのに使う手順が全てバラバラ、耐久性もそれぞれという何とも迷惑な環境になったらしい。

 そんな事があったらしく使う人を選ばない改良が進められていった。


 その結果出来たのが魔力の循環や使いやすさを追求した円形の魔法陣。及び、円形魔法陣を用いた魔道具が生まれていった。そうして漸く万人安定して使えるようになった。


 円形魔法陣の普及につれて、歪な形の魔法陣は廃れていった。

 その結果今では使える人どころか、なんの為の道具なのかすら分からない物が数多くあるらしい。

 それが、遺跡などで発見される古代の遺産である魔術道具の類の正体だったりする。


 スーリヤから当たり前のように『何故知っている?』と聞かれるが、答えなんて決まってる。ガーランド先生が国家レベルの元宮廷魔術師だからだ。

 先生ですら、閲覧は出来るけど使えはしなかったらしい。しかし、知識として知っているため講義でやらされたのだから、知りませんでしたとは口が裂けても言えない。


 講義のことを思い出して懐かしみながら説明してると、スーリヤが『凄い人に教わって、羨ましいです』と羨望の眼差しでみてくる。


 なんだか、俺が凄い人になった気がして恥ずかしい。


 だが、普通は知らないことを知っていると凄い人に見えるけど、そうじゃない。

 教えてくれた人の方がよっぽど凄い。

 本来なら知るはずのない知識を教えてくれたのは信頼があるのは当然のこと。

 何より普及してないということは扱い方によっては危険が多く、その前に起動させるることすら出来ないことがほとんどだったりする。


「ま、まぁ教わってたから知ってただけで、他の冒険者が勉強不足な訳じゃないよ。……だけど、ここを開けていいのかは、悩みどこだな」

「な、何故ですか?」

「何処に繋がるかも分からないし、罠があるかもしれない。全てを読み切れる訳じゃないから不安があるんだよ」


 うーん、悩む。

 冒険者なんて、リスクをなるべく回避する職業だから開けるべきではない。でも、恐らく開けられてないであろうドアの向こうにあるかもしれないお宝を考えると、開けたい。


 でも、『だろう』とか『かもしれない』なんて期待を含んだ考えをしてる時点で答えなんて決まってたんだろう。


 一応スーリヤにも確認をとったが、任せるとしか返ってこなかった。

 なら、開けるか!


 慎重に魔力を送りながら、何があっても対応出来るように構えていたが鍵の開く音が聞こえるだけで何も起こらなかった。

 しかし、開けたら発動する罠かもしれないと気を張っていたが、それでも何も起こらなかった。

 少しの安堵と、多大なる期待を持って進んだ通路の先には見たこともないほどの煌めきと、それに囲まれた一体の白骨化した死体だった。

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