冒険者になって
15歳を迎えて、一番近くて、親のいないアレルの街に来ていた。
もちろん、冒険者ギルドで冒険者として登録をする為に。
登録は簡単な名前や出身地、そして、技能の項目を書く簡単な紙を書くだけ。
技能は手の内を明かさないように全部は書いてはいけないって言われたな。能ある鷹は爪を隠すってやつだ。
書き終わると、冒険者であることの証としてのカードとシステムの説明を受付嬢さんがしてくれた。
パーティを組む時には申請をすることや、ランクはF~Sの七段階で、それぞれ受けられる依頼と恩恵が違う。信頼度の問題らしい。確かに登録したばかりの初心者が融通効くわけないよな。
当然登録したばかりの俺のランクはFで恩恵なんて何も無い。
こっから登り詰めてやる。俺には先生達の特訓を受けたのだから!
そして、時間に囚われない、のんびり生活を満喫してやる!
なんて初心を振り返っていると、訓練を始めた頃を思い出してきた。
父さんを説得し、母さんを味方にする為に手を尽くして、どうにか了承してもらい、そこからの地獄を今でも昨日の事のようにハッキリと思い出せる。
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「いいかエルク。そこまで言うのなら、許そう。だが、獣と魔獣を討伐してればいい討伐屋とは違って、冒険者になるならより多くの知識。それこそ全てが糧になるだろう」
父さんはそう言って、一呼吸置いてからとんでもない宿題を出てきた。
「ここは村ではなく街と言える程の規模だ。だから、俺の伝手であらゆる分野の家庭教師もしくは修行を付けて貰えるようにしてやる。そこで全てとは言わないが8割の先生から合格を貰ってこい!」
うわ〜。父さんの伝手で声掛けたらどんだけの先生が着くことやら。
こういう想像は大概外れないから、覚悟だけはしておこう。
「で、戦闘訓練はお前も知ってるエイリヤム元騎士団長に。魔法訓練はガーランド元宮廷魔術師団団長に。罠の発見・解除やサバイバル訓練はネイラル氏に。鍛冶や武具の修理・整備は・・・・・・」
早っ!?相変わらずの手回しの良さ。反対してるのか、賛成してるのか分からなくなる程の準備だよな。
そして、予想通りと言うかなんというか。ハァ〜。ため息しか出てこないぐらい先生の多さと、そんな凄い人に教えて貰っていいのかと思うぐらいの豪華メンバー。
だけど、それだけ準備されていたらやるしかない!
なんとしても、父さんの首を縦に振らせてやる!
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そうして、合格が貰えて父さんからも「行ってこい」と言って貰えた訳なんだけど・・・・・・。
今生きて冒険者ギルドにいるのが奇跡と思えるね。
死ぬかと思ったのも一度や二度所ではない。
少しでも気を抜けば三途の川がチラチラ見える戦闘訓練。
魔法の運用に始まり、出来たらあとは己で体感すれば、イメージが出来るからと即死級以外の魔法は受けてからが始まりの魔法訓練。
最初はプラモデルでもやってるかのように楽しめてた筈が、いつの間にか簡易でも迷宮に放り込まれてひたすら罠と獣に囲まれてるサバイバル訓練。
・・・・・・・・・・・・etc。
前世分の不幸を5年間に詰め込んだかのような、濃密すぎる日々だった。
「でも、無駄になることはないし、死ににくくなったと思えばいい。トラウマにはなったけど」
先生の顔を見た瞬間どんなに疲れてても背筋が伸びて直立不動になることは間違いないぐらいの恐怖を味わった。特に戦闘関連は。
さて気を取り直して、冒険者登録は終わったしパーティ組めそうな新人か教えてくれそうなベテランはいないかな?
いないな。皆固まってるし、もう組んでたりするのか?
「あ、あの〜。し、新人さんですよね」
「はい、そうですけど・・・・・・よく分かりましたね?」
どこのパーティに突撃するか悩んでいると声がかかった。振り向くと、オドオドした感じだが、その瞳には確信の色が宿っていた。が、紫色のローブに赤と青のオッドアイに黒髪の三つ編みと黒縁メガネと怪しさ満点の少女がいた。
あ、怪しい。同い年ぐらいだろうし、決して不健康でもなく、どちらかと言えば可愛い方だろう。胸もデカいし。
なんて考えていると、またもオドオドしながら理由を話してきた。
「え、え〜っと。あの〜。その〜。わ、私先日登録したばかりのFランクで、まだ誰とも組めてなくて、えっと、もし良かったら、わ、わ、私とパーティを組んでください!」
初めはボソボソと注意しなければ聞き取れなかったぐらいなのが、だんだん声が大きくなり、最後には勢いよく頭をさげている。周りからの視線が痛い。
それに、最後だけしか見てない連中からしたら俺はここで断ったらクズ認定されるかもしれない!
その恐怖で、とりあえず話だけでも聞くことになった。
「こ、こんな喫茶店なんかじゃなくて、あの場で断っても、よ、良かったんですよ?」
話だけでもとなったのだから形だけだと可哀想なので、喫茶店に入った一言目がそれだったのだから驚いた。
こいつどんだけ自己評価低いんだよ!しかも断られる前提だし!
そう苛立ちつつも、飲み込んで面接でもしてるような気分でいることにした。
「いや、あそこでは断れないですよ。まだ名前すら聞いてませんからね」
すると、思い出したのか慌てて自己紹介を始めた。
「あ、改めまして、スーリヤと、も、申します。ま、魔法が使えます。光、水、火、風の系統が得意です」
は?その格好で闇系統じゃないの?それって詐欺じゃない?
と、どうでもいいことを考えつつもこちらからも自己紹介をしていく。
「はじめまして。エルクです。戦闘、魔法、斥候など、一通りは齧ってます。」
「え!?だ、大丈夫なんですか?」
「ん?何が?」
「い、いえ。ひ、一つのことを追求してないと、ち、中途半端になりませんか?」
あー。そこか。でも、絶対俺の先生は普通じゃないし、訓練方法も普通じゃない。その事を分かってるのは俺だけだし、あまり言いふらさないように脅s・・・・・・ゲフンゲフン、言われてるから暈して説明しとこう。
「へ、へ〜、そうなんですね。」
何故だろう暈して話したはずなのに、引かれてる気がする。
気にしたら負け!うん、そうしよう。
「ところで、どうする?」
「ど、どうするとは?」
「パーティの話だよ。一緒に組んでくれるかい?」
「よ、喜んで!こ、こちらこそ、よ、よろしくお願いします」
こうしてスーリヤとのパーティが結成された。
パーティとは言っても二人だけだが、冒険者らしくなってきたとご機嫌なエルクを眺めるスーリヤ。このスーリヤとの出会いが、間違いと正解を内包した問題に向かっていくことになるとは、この時予想すらしていなかった。