笑み
そのまま手を引かれながら走り、たどり着いたのは倉庫の裏。そこはちょうど校舎から死角になっていて僕くらの姿は見えない。
「はぁ、ビックリしたね。先生の声がして」
「そ、そうだね」
僕は先生の声より、冬木さんに手を握られ事にビックリしてます。・・・冬木さんの手、柔らかくて、暖かかったな。
思わず冬木さんの手の感触に名残惜しんでいると、雪玉が飛んできた。
「うわっ!」
顔に当たって尻餅をつく。冬木さんの笑い声が聞こえる。
「あはは、ごめんね。ぼんやりしてたからついやっちゃった」
まさか、手の感触を名残惜しんでいたとは言えない。恥ずかしい。
「ねぇ、何でこんな場所知ってるの?」
「たとちゃんに教えてもらったの」
たとちゃん?そんな名前の人いたっけ。
「たとちゃんって、誰?」
「え?高橋さんだよ」
高橋?どうやったらたとちゃんになるんだ?・・・まさかと思うけど、
「もしかして高橋の”た”と智子の”と”でたとちゃん?」
「正解!」
普通にたかちゃん、とかでもいいと思うんだけど。そんな風に呆れていたが、冬木さんはしてやったりの笑みだ。
何だろう、出会ってからやららてばっかりだ。一泡ふかしたい。そう思い、尻餅ついたままだったので地面についた両手を冬木さんに向かって振り上げ雪をかけた。
「きゃ!」
いきなりの事に驚いた冬木さんは、僕と同じように尻餅をついた。
よし、上手くいった!
冬木さんは僕のしてやったりの笑みを見ると、好戦的な笑みになり雪玉を投げたきた。
「やったわね!」
すかさず僕も雪玉を投げ返し、そのまま雪合戦になった。
その後、体力の尽きた僕達は地面に座り込んだ。あーあ、僕も冬木さんも雪まみれだ。
そのまま、息を整えていると冬木さんと目があい、どちらとなく笑いあった。
しばらく笑いあった後、冬木さんが言う。
「ねぇ、そろそろ帰らない?」
「そうだね」
体についた雪をはらいながら立って前を向くと、そこに冬木さんはいなかった。
「え?」
「おーい、早く帰ろ」
声のする方向を向くと、冬木さんは正門にいた。えっと、すぐ正門に行ける距離じゃないはずなんだけど。そんな事を考えながら慌てて正門に行った。すると、また手を握られた。
「え? ちょっと」
「帰ろ」
そう言う冬木さんの顔は、教室で見たいたずらが成功した子供のような顔ではなく、ただ純粋に楽しむ女の子の顔だった。
そういえば、教室で感じた違和感は何だったんだろう。
翌日、西村からの質問でその違和感は解消された。
「誠、古典の教科書、先生に見つからずに取りに行けたか?」
「あ!」
そうだ!古典の教科書の事すっかり忘れてた。