2回目の運命
読見づらい小説かと思いますが、異世界物を書いて見ました。
気に入って頂けると幸いです。
どうか僕の小説をよろしくお願いします。
血に飢えた人生だった。
戦に次ぐ戦。斬って斬って斬りまくる。
相手が叫ぼうが泣こうが御構い無し。
血が出て臓が出て、相手を殺せば俺の勝ち。
焼けて行く本能寺を目の前にして、1人の侍は自分の人生を思い出していた。
その光景だけでわかる主君の死。
終わったのだろう。
名声を上げて天下を取るなど等に諦め、ただ主君について行き、主君のために戦をし、主君のために死ぬ。
それが俺の役割なのだろう。
侍「終わっちまいやがって…もう少しで天下取りだったじゃねえか…」
泣き崩れその場に崩れ落ちた1人の侍は、周りを取り囲む敵兵など目視できず、ただ主君のために死ぬしかない自分に情け無さを感じ、人生とはなんだったのか、自分とはなんだったのか、それも解らぬまま、首をはねられた。
はずだった。
侍「はっ!!」
彼は真っ白な空間の中で目が覚めた。
そこはただ真っ白で、自分以外には誰もいない。
何が起きたかも解らない彼は辺りを見回した。
侍「どこだよ…ここ」
彼は立ち上がり、また辺りを見回した。
「やっと起きたのかしら?お侍さん?」
侍「うおっ!」
彼の背後にいきなり現れたその存在に、彼は恐怖と驚きを表した。
「ふふ、人を殺す度胸はあっても女の子1人には怖がっちゃうのね?」
侍「な、なんだよお前さん、どっから出てきた?」
突然現れた彼女を見つめ、彼女が持っていたそれを見つけた。
侍「なっ!?お前さんの手に握ってるもん、そりゃ俺の刀じゃねえのか?」
間違いない、この空間で1番よく自分が知っているそれを見つけた。
「そーよあんたのよー、返すわ、この棒。」
そう言って乱雑に自分の前に投げられた相棒の姿に彼は激怒した。
侍「てめえ?俺をおちょくってんのか!?」
叫びながら刀を拾い。そして刀を構え、彼女に問う。
「おちょくってたらなんなの?殺すの?足軽でも大名でも武士でもない私を?」
「やっぱり誰でも斬り殺しちゃうんでしょう?農民だろうと、貴族だろうと、そして家族でもね?」
侍「なんだと?」
「気に食わない奴はみーんな斬り殺す!それがお侍さんなんでしょ?ってきいてんのよ」
侍「おめえ…武士を侮辱するのか?」
彼は怒りを更に超え、侮辱と言うスパイスのおかげで一周したその感情を抑える事に成功し、問いに問う。
「はぁ?質問してんでしょうが、殺人鬼さん」
彼は一瞬のうちに抜刀し、彼女の喉元に刀を止めた。
侍「多分だろうがお前さんは殺せないだろう。この異常な空間に異常な形で現れたお前さんは人ではない、悪鬼の類いだろうが、殺さなくとも痛めつける事はできるんだぞ?」
「おー怖い怖い、人では無いのは正解よ?意外と頭もまわるのね?」
侍「お前さんに正解を貰ったところで、お前さんから受けた侮辱は変わらんのだぞ?」
「だったら一思いに斬っちゃえばいいじゃない?殺して殺して殺しまくりなさいよ」
侍「先程も言ったが、殺せない相手は殺せん、そしてこの場所を知ってるであろうお前さんを尚更殺す事はしない。」
「ふふっ」
その笑い声の瞬間、彼は謎の力に吹き飛ばされた。
地に体が叩きつけられ体制を立て直したが、彼女はもう目の前にいた。
「残念でしたー」
今度は自分の目の前に相棒が構えられていた。
侍「なっ…」
冷や汗が出始め、ただ訳も分からぬまま死ぬのか、そんな事を考えた。
「なーんてね、元々お侍さんば殺す気なんて無いし、むしろ侍がなんなのか知りたくてね。」
「本当に返すわ、挑発の事は謝るわ」
今度は優しく自分の手の中に刀が返ってきた。
侍「返したり、謝ったり挑発したり、お前さんは一体全体何がしたいんだ?」
行動の意図が解らない彼が問う。
「その前に!私神様なんですけど!」
侍「はぁ?神だと?」
「悪鬼って言った事だけ謝りなさいよ!他は私が悪いから別にいいけど、」
侍「す、すまねえ、」
「よろしい、じゃあまず何から知りたい?」
侍「何からって…ここはどこなんだ?」
「ここはー私の力で作った私の時間であり、空間であり、世界よ」
侍「何のためにそんなとこに俺はいるんだ?」
「そりゃ死んだからよ?」
侍「はぁ?生きてんだろうが、現にこうやって話して動いてんだからよ」
「ふふ、悪鬼は信じても、自分の死は信じないのね」
侍「あー信じないね、信じたくも無いね」
「まーどっちでもいいんだけど」
侍「第1お前さんは何の神だって言うんだ?」
「私は命を導く神様よ。
名は命導。」
侍「命を導く…駄目だ、全く信じられん」
命導「まあ、それもどっちでもいいんだけど。」
侍「ただこの空間にいる以上、主導権はお前さんだ。
お前さんの目的を話せ。」
命導「あんた、地獄で鬼に斬られるか、違う世界で悪人どもを斬りまくるか、どっちか選びなさい?その答えだけ私は聞きたいの」
侍「はぁ?何だよそれ、斬られたくねえに決まってんだろうが」
命導「じゃー決まりね!頑張ってね!」
ニコッと笑う彼女を最後に、瞬きと同じ瞬間、目の前が暗転した。
侍「なっ…」
気付いた時には先程の空間とは違う、何処かの城の様な建物の前にいた。
侍「あの女…次会った時は殴ってやろう…」
心に密かに誓った。
目の前に広がる、見たことの無い造形、素材、見渡す限りにいる見たことの無い人々の容姿、服装、何もかもが初めての光景に、彼はただ見つめる事しかできなかった。
侍「…」
そして目の前に広がる城の様な建物、振り返れば町であろう賑やかな人々。
彼はとりあえずこの町を出ようと決めた。
侍「何だってんだよ、知らねえ空間の次は知らねえ世界ときたもんかよ、一体何だってんだよちくしょうめが。」
ブツブツと不安を外に吐き出しながら、彼は階段を降りていく。
走り回る子供に、道端に出店の様な物を開く人々、行き交う人々の中には彼の知っている世界は広がっていなかった。
「ちょっとお兄さーん!!」
侍「あ?」
出店で物を売っているそこの店主であろう女性に話しかけられた。
店主「お兄さーん!見たことない服装だねー、旅の人かい?」
店主に近寄り質問を返す。
侍「いえ、迷子です。」
店主「はははは!面白い冗談言う人だね!」
大きな笑い声で店主は笑った。
侍「本当なんですよ、知らねえ空間にいたと思ったら、今度は知らねえ世界ときたもんでさあ、今不安で不安で。」
店主「ここは王都ビラトって言うんだ!これでお兄さんの知ってるとこが1つ増えたねー!」
侍「そりゃどーもお姉さん。」
店主「それよりお兄さん、その腰に挿してある奴は何だい?」
侍「これは刀って言うんだ。」
店主「かたな?聞いたことないねぇ」
答えようか迷ったが、彼は答えた。
侍「人を斬り、戦を生き抜く為の相棒さ。」
店主「人を斬るって…あんた人殺しなのかい?いくさってなんだい?」
侍「あー人殺しさ、斬って斬って命奪って、土地奪って名を上げて、主君に尻尾振って自分は利用される。それが戦ってやつさ。」
元いた世界と思い出を振り返りながら答えた。
店主「何だか物騒な事やってんだねぇ、戦争みたいな事なんだねぇ、そして人殺しなら私も斬るのかい?」
侍「立ち向かってくる戦の場以外で、この刀抜くなんてよっぽどのことがねえ限りやんねえしやりたくもねえよ」
侍「まあ、挑発してくる神様にも刀抜くけどな」
店主「なんだいそれ、よくわかんない事ばっかり言って、本当変わった人だねぇ」
侍「俺からしてみればあんたらの方が変わってるよ。頭に動物の耳生やした奴らもいてみれば、翼生えて飛んでるやつもいたもんだ。
それ見て驚いてねえあんたらの方がよっぽど変わってるよ」
店主「お兄さん…」
侍「なんだい?」
店主「もしかして本当に迷子なのかい…?別のとこから来たのかい?」
侍「だからそうだって言ってるでしょうお姉さん」
侍は真っ直ぐな目で答えた。
店主「こりゃびっくりだねぇ〜、そんな人今まで知らないよぉ」
侍「お姉さんの初めて奪っちゃったねぇ?なんつって」
店主「真似しないでよぉ、まったく。ここの常識って奴教えてあげようとしてんのにさぁ」
侍「これはこれはすいませんね。」
店主「何から知りたいの?お兄さんは。」
侍「ははっ、こっちの世界でも同じ事聞かれちまったな。」
笑いながら答えた。
侍「とりあえず、あのでかい城みたいなのは何だよ?」
先程の建物に指を指す。
店主「あれは王宮。この国の王様がいるところ。」
侍「ふーん、じゃあ偉ーい人がいる城って事か。」
店主「いい王様だよぉ〜、是非あって行きなよ!」
侍「まあ、機会があればな。」
そんな会話をしていた直後だった。
大きな爆発音と悲鳴が街じゅうに響き、ただ事ではない雰囲気が彼を襲った。
侍「なっ、なんだぁ?」
店主「なになに?いきなりなに?!」
爆煙が上がり、呆気に取られていると、王宮から続々と兵士達が走り出して来た。
侍「うおぉぉ、すげえ数だな」
店主「そんな事に感心してないで、お兄さんも逃げるんだよぉ〜!」
すると彼はニヤリと笑った。
侍「俺はお兄さんじゃなくて侍の吉田英正さ!」
英正はそう言って爆煙の方へと走って行った。
英正「なっ…なんだよこりゃ…」
そこには見慣れたはずの見たくない光景が広がっていた。
剣と剣がぶつかり合い、血を流し、臓を流し、叫び、死にゆく人々、市民達も惨殺され、見たことのの無い真っ黒の鎧の軍団と、先程飛び出して行った兵士達がぶつかり合っていた。
英正「こりゃ…戦か…?」
目を疑った。
その瞬間、背後から剣が振り下ろされた。
英正「…このやろっ」
剣が振り下ろされる前に刀の鞘ごと相手の頭を殴った。
鎧の軍兵「なっ…がは…」
頭の鎧のは砕かれ、相手は崩れ落ちた。
英正「頭ぶった切られるよりましだろうよ」
英正「まあ、ここに来たのも何かの縁だ…助太刀してやるよ!」
こうして戦闘中の王宮兵達の戦場へ飛び込んだ。
英正「ここビラトの街の王宮兵達!この吉田英正は今からお前らに加勢する!一緒にこの悪趣味な黒い奴らぶっ倒そうぜ!」
英正の宣言の後に、英正は尋常では無い速さで鎧の軍団を殴り倒して行った。
王宮兵「なんだあいつ…めちゃくちゃ強いぞ…」
英正「おらおらどうした真っ黒さん達!1人残らず倒しちまうぞこの野郎!」
常人には捕らえられないスピードで鎧を叩き割って行く。
鎧の軍兵「なんて速さだ…魔法部隊!奴を狙って爆殺しろ!」
そう叫んだ直後、背後から刀の鞘が頭にめり込む。
英正「爆殺だぁ?やってみろよ」
後方に構えている杖を持った鎧の軍兵達が英正に杖を向ける。
英正「なんだぁ?ボッコなんてこっち向けやがって」
王宮兵「離れろ!魔法が飛んでくるぞ!」
英正は本能で危険と判断し、その場から跳んだ。
その瞬間、強烈な爆発が起こった。
英正「おいおい嘘だろ…」
爆風で敵味方問わず吹き飛ばされ、英正も壁に吹き飛ばされ、叩きつけられる。
英正「いってえ…あんなの食らったら身体も残んねえじゃねえか…」
英正「ボッコこっち向けただけなのにいきなり…どうなってやがんだ…」
何が起こったかわからず戸惑っていた英正。
だが答えはすぐにでた。
英正「まあ…あの杖向けられた瞬間に全員斬っちまえば関係ねえか…」
立ち上がり、顔つきが変わり、杖を持った軍団に目を向けた。
英正「こりゃ戦以外なんて言ってらんねえなあ…」
抜刀を決心した英正は、杖の軍団に斬りかかった。
1人、そして2人、鎧の隙間から喉を斬られるもの、鎧ごと斬られるもの、次々に断末魔と血が飛び交っていく。
バタバタと音を立てて倒されていく鎧の軍団達は、見たことのの無い服装と武器を持った見慣れない人間に恐怖していた。
英正「当たんなきゃ何も怖くねえや」
次々とおこる爆発や爆炎も次々とかわし、腰が抜け立てなくなっている鎧の軍団も御構い無しに斬り進んで行った。
王宮兵「強すぎる…」
英正「派手な事する割に弱えなおめえら!」
斬り進んでいく中、いきなり英正は刀を止められた。
「ギィン!」っとぶつかり合う音を立てられ、目の前には明らかに今までの敵兵とは違う、顔を晒して剣を構える色男がいた。
英正「おっ!?少しは強そうな奴のお出ましか?」
男「この国の武力の薄いタイミングできてみれば…こんな手練れがいたとはな…嬉しい限りだ」
英正「褒められてんのかい?嬉しいねえ…まあ存分に殺り合おうや」
そう言って剣を弾き、自らも距離を取る。
男「皆の者!今からこの者とは一対一で勝負させてもらう。お前達はビラトへ全力で攻め込め!」
鎧の軍団「了解です!」
男の号令と共に軍団はビラト内へ走り出した。
英正「あんた…名前は?引かれ合う物同士、名前くらい教え合おうや」
男「ゼダル・コルベルと言うものだ」
英正「俺は吉田英正だ、まあなんだ…優しく抱いてくれや色男さん」
ゼダル「いいや、激しく抱かせもらうよ…」
ゼダルは青黒い渦を発生させ、英正に闇の飛ぶ斬撃を乱打した。
英正「なんだよそれ!?」
刀を振り、斬撃全てを弾く。
ゼダル「いい反応だ…」
英正「そりゃどうもっ!」
一瞬で間合いを詰めた2人が激しくぶつかり合う。
ニヤリと笑うゼダルの背後に、突然と闇の球体が無数に現れた。
英正「今度はなんだいそりゃ…」
距離を取ろうと後ろへ飛ぶが、闇が動き出す。
ゼダル「最も得意な俺の魔法だ…レンフェール…」
闇達は一斉にブルブルと動き出し、甲高い叫び声の様な音を響かせ出した。
するとじわじわと口が浮かび上がり、気味の悪い球体達が出来上がった。
英正「随分悪趣味なんだな…」
耳を抑えながら呟いた。
ゼダル「気に入ってくれるとおもっていたんだかな…」
その瞬間、口から大量の腕が飛び出し、英正へ襲いかかった。
英正「うわっ!なんだよこいつら!気持ち悪い!」
刀で斬りつける英正、切りつけた球体からは鮮血が飛び出す。
ゼダル「地獄の愚者達の腕だ…それを呼び出し殺させ、そして最後は美しく散ってゆく」
地面にボトボトと落ちて行く闇が突然ケタケタと笑い出した。
英正「なんだってんだ…」
すると闇達はその腕でお互いを掴み合い、1つになっていき、ドンドン巨大な闇になっていった。
現れた闇達全てが1つになると、ゼダルが闇の塊に向けて手をかざした。
ゼダル「さあ…」
すると闇からは1つ、とても大きな闇の雫をボトリと落とした。
雫はみるみる形を形成させ、人間の様な形になった。
頭と思われる部分には大きな口だけが付き、ニヤニヤと笑っている。
英正「ほんっと…なんなんだこの世界は…」
苦笑いを浮かべ、闇を見つめた。
ゼダル「俺と出会えて良かったな…」
闇「オマエモ…ワラオウヨ?」
片言で喋り出した闇が突然消えた。
英正「なっ…?どこに」
すると英正の足元から無数の腕が飛び出した。
英正「なっ…」
腕に跳ねあげられ、空中へ舞う。
ゼダル「こっちにもいるぞ」
背後に現れたゼダルが今まさに剣を振り下ろしていた。
咄嗟にゼダルの腰に蹴りを入れ、自らも刀を抜き、空中で身を回転させ剣を弾いた。
地に足をつくも闇からの無数の腕達が乱打で襲いかかる。
その瞬間、異世界に迷い込んだただの迷い人から、襲いかかる侍達を斬り伏せてきた侍に戻った英正は、
ゼダルが何度も斬りかかるが、英正は全てはじき返し、また間合いを取りながら刀を鞘に戻した。
ゼダル「なかなか攻めてこないじゃないか。
それでは君が満足しないのでは無いのかね?」
英正「俺の事まで気遣ってくれるなんてな…本当いい男だよ!」
一歩踏み出し、斬りかかる。
かに見えたが、途中で手を止め、ゼダルが受け止めようと剣を構えた。
ゼダル「なに…」
英正「焦りすぎだぜ…色男さん」
一瞬できたゼダルの隙。
英正が二歩目と共に神速の抜刀。
ゼダル「なっ…」
勝負がついたようだ。
ゼダル「ふふ…負けてしまったか…」
斬られた身体からは血が流れているが、ゼダルは不敵な笑みを浮かべている。
英正「楽しかったよ色男さん」
ゼダル「まあいい…今は引こう…死んでしまうのはまだ早いからな…また会おうか、吉田英正」
そう言葉を残し、ゼダルは人型の黒い闇に包まれた。
英正「なんだぁ?」
闇はゼダルを飲み込み、そして消えた。
英正「消えちまったぞ?」
すると続々と黒い闇に包まれていく鎧の軍兵達、生きてるものも死体も全て闇に包まれていく。
王宮兵「な、いきなりなんだ?」
ついには1人残らず闇と消えていった。
英正「まー、とりあえずこの戦は勝ったって事なのかな?」
こうしてビラトに突如訪れた脅威は去ったのだった。
鎧達によって殺されてしまった市民と王宮兵達。
その家族、友人達が亡骸を前に崩れ落ち、泣きながら認められない別れを済ませていった。
英正「胸が痛えや…見てらんねえぜ」
自分も同じ事をしてきたのだ。
哀しみを産み、恨みや復讐が始まる。
それでも主君に従え、刀を振るい、戦を繰り返して来た自分を振り返る。
英正「これが正解だったのかな…」
英正は考え込んだ。
王宮兵「あの…」
1人の王宮兵が声をかけて来た。
英正「なにかようかい?」
王宮兵「あなたがいてくれなければ、王都は崩壊し、敵も退けられませんでした。」
王宮兵「私はビラト兵団のラーツと言います。王達が帰ってくるまで是非、ビラトで体を休ませ、王に会って頂きたい。」
英正「休ませたいのは山々なんだけどな?あいにく金がねえもんでさ、街の人達も無銭のお客相手にしたんじゃあ割に合わねえでしょう、そして俺は人斬りしてただけだ。」
ラーツ「何を言ってるんですか!金ならこのラーツがいくらでも出します!むしろ市民達はあなたならお金なんて取らないでしょう!
あなたはもう英雄なんです!お礼をさせてください!」
英正「だからそんな柄じゃねえんだって…礼なんていらねえよラーツさん。」
王宮兵「いえ!貴方に救われたのです!」
他の兵士達も続々と感謝を伝えて来た。
ラーツ「英正さん、お願いします。」
英正「あー、もうわかったよ。」
ラーツ「ありがとうございます!」
英正は諦めに近い理解をして、ラーツと共に歩き出した。
ラーツ「英正さん、あなたは何故そんなにもお強いのですか?」
ラーツ「魔法も剣も数も関係なしに強い。我が国の近衛兵とも引けを取らないその強さ。」
英正「知らねえよそんな事。つうかラーツさん、魔法って何だ?」
ラーツ「英正さん…あなたやはりその風貌とその剣。そして魔法を知らないときた。」
英正「だったら何だよ?」
ラーツ「推測ですが英正さん、あなたはどこか別の国、いや別の世界から来た人間。違いますか?」
ラーツ「私はこの国以外のいろいろな国へ渡り知識や歴史を見てきた。だが英正さんの風貌に近い文化や歴史を見たことがない。」
英正は足を止めてラーツを見つめた。
英正「俺は侍って言う日本の武士、大名様に従えて戦でこの刀振るって人斬りまくってた殺人鬼ってやつさ。」
ラーツ「なるほど…詳しく教えてはもらえないでしょうか?あなたの事。」
英正「こんな男口説いたっていい事ないぜ?ラーツさん」
ラーツ「私の家に行きましょう。」
2人はラーツの家に向かうため、ふたたび歩き出した。
時を同じくして、闇に消えた色男が何処か暗い部屋の中に帰還した。
ゼダル「はあ…はあ…」
血が出すぎた事による貧血により、まともに歩けない様だ。
ゼダル「くっ…」
ゼダルは目の前の黒い石に手を飛ばす。
すると傷口を闇が覆い隠し始めた。
ゼダル「もう一度一戦交えたいものだな…吉田英正…」
闇が消えると身体の傷はふさがり、ゼダルはまた不敵な笑みを浮かべていたのだった。
〜ラーツの家〜
英正「俺が話せる事はもう無いぜラーツさん」
前の世界で何があったか、どうやってここにきたか、色々な事をラーツに話した。
ラーツ「神にここの世界に連れてこられた…」
英正「信じられねえかもしれねえが本当の話なんだ」
ラーツ「なるほど…」
英正「ところでラーツさん、さっきの黒い奴らは一体何者なんだい?」
ラーツ「わかりません…、あの様な黒い鎧の国の物など見た事がありませんし。」
英正「なんか黒い渦みてえのに包まれた消えてったよな」
英正「この世界は便利なんだな、それもこれも魔法ってやつなんだろ?」
ラーツ「あの様な魔法…見た事も聞いた事もないのです…」
英正「思い当たる節もないのかい?」
ラーツ「ありません…本当に。ただこの近くにある、ルマエの丘の頂上に博識な竜人が住んでいると聞きます。」
ラーツ「魔法やこの世界の事、いろいろな事を知り尽くしている人だと聞きます。」
英正「なにぃ?そんな物知りな奴がいんのか?」
ラーツ「はい!ただそのルマエの丘…ヤウシケプという蜘蛛の怪物も住んでいるんですよ…」
英正「蜘蛛の怪物?」
ラーツ「とても大きくて、凶暴でとてつもない魔力を持っていると聞きます。」
ラーツ「そのせいで竜人に会いに行った人達は皆食い殺され、あるいは惨殺されたと聞きます。」
この世界に来てからのこの世界の事をより詳しく知れるかもしれないチャンスに英正は考えた。
「怪物」この世界の概念と自分の思う概念とではどのくらい違いがあるのか、蜘蛛の怪物など退けられるのか…。
ラーツ「まあ、王も後3日もすれば帰って来ますし、王にも聞いて見ましょう。」
英正「その王が知り得ない事だったら?」
英正「3日も何もせずここにいろなんて俺には無理だぜ?」
ラーツ「ですがそんな危険なとこにあなたを連れて行くわけには…」
英正「だったら何でその事を話したんだラーツさん?」
英正が笑いながら指摘した。
ラーツ「すみません…考えも無しに余計な事を話してしまい。」
英正「案内頼むぜラーツさん?俺が恩人ってなら案内の1つ頼まれてくんねえかい?」
ラーツ「本気ですか?!」
英正「余裕の本気!」
英正はニカッと笑った。
ラーツ「はぁ…では明日の朝出発しましょうか?ルマエの丘自体、半日もあればつきますので。」
ラーツ「今日はゆっくりと身体を休ませてから行きましょう。」
ラーツ「私の家を好きな様に使って頂いて構いません、私は今回の件と市民達の被害確認、街の状況などを把握して、やる事を済ませて来ます。」
そう言い残しラーツは自宅を出て行った。
英正「休めって言ったってな…」
知らない世界の先ほど会ったばかりの知り合いの家に1人で休めなど、そうそうできることではない。
椅子に座り込み、刀を見つめ、この世界について考えた。
英正「なあ、相棒…元の世界でもこの世界でも、結局は同じ事してるよな…」
英正「俺は正しいのか…相棒」
答えるはずもない刀に語りかけ、自分のして来た事を思い出した。
英正「お前はずっと俺について来てくれてるが、人を斬るためだけに使われて。」
英正「ありがとうな…お前のおかげで今生きれてるんだよな。」
何年も共に戦って来た相棒に感謝を伝えた。
「何言ってんだ英正」
英正「えっ?」
声が聞こえた。
「好きでこっちはついて行ってんだ、感謝なんてされる筋合いはねえぜアホ」
英正「おいおいまさか…」
「今更何驚いてんだ英正、てめえが斬りまくった人間の未練とお前の余計な感謝のせいで俺にも命が宿っちまったんだよ」
英正は考えられないその状況に言葉を失っていた。
「何だんまり決め込んでんだよ、今更刀が喋ることがそんなに不思議か?」
英正「当たり前だろ!刀が喋るなんて聞いた事ねえぞ!」
「まぁこうして話すのも始めての事だしな」
英正「信じられねえ…何が起きてんだよ」
「この世界にはよくわからんがな、俺が元気いっぱいになる力みてえのがわんさかわいてやがる、だから言葉も話せるしこうやって実体化もできる。」
そういって刀からいきなり現れたのは、小さく不気味な鬼だった。
髪の毛で目は見えず、頭には角が生え、自分と同じ着物を着ていた。
英正「俺の刀は鬼だったのか…」
鬼「まあ、鬼になっちまったというかなんというか、九十九神にちけえはな」
鬼「お前を殺すつもりもねえし苦しめる存在でもねえ。」
英正「けどおまえ未練がどうのでできたって」
鬼「人の思いってのはどんなもんでもすげえ力を持ってるもんさ、ただ何ができるかはわからねえ、たまたま俺はおまえを苦しめねえ鬼だったってなだけさ」
英正「なんだよそりゃ…」
目の前にいる人外の存在に英正は警戒と恐怖を覚えた。
鬼「何怖がってんだ英正、ずっと使ってきたてめえの相棒に恐怖するなんてなあ」
鬼は笑い出した。
鬼「受け入れてくれねえのかい?俺の存在をよ」
英正は混乱していた。
鬼「まあ、どちらにせよてめえには俺が必要だし、俺もてめえが必要なんだ英正。」
英正「なんだよ必要って…」
鬼はまた大きな笑い声を上げた。
鬼「言わせんなよ英正、俺とおまえは2人で1つ。刀持たねえ侍なんざ侍とは言えねえだろ?」
英正「俺に何を求めてんだ?」
鬼「人生さ。侍の吉田英正の相棒として活躍したと言う刀の人生が欲しい。」
鬼「てめえの事が大好きで大好きで仕方がねえんだ英正。」
英正「すげえ怪しいぞ、おまえさん。」
鬼「そうか?自分の命の最後まで俺を握りしめて首跳ねられても俺を離さなかった男だぜ?惚れて当然だろう」
英正「は?まて?命の最後だと?俺がいつ死んだってよ」
鬼はまた大笑いをした。
鬼「何だよてめえ、死んだ事にまだ気づいてねえのか?おっかしい奴だな。」
鬼「てめえは1度死んでんだよ、泣きながら俺握りしめて首跳ねられてよ、その時にお前さんを殺そうって目的はとうに俺の中から消えちまったんだよ」
英正はこの小鬼が発した言葉にただならぬ説得力を感じた。
そしてあの空間にいた事、命導が発した言葉、そして小鬼が発した言葉を全て頭の中で無理矢理整理をしようとしていた。
英正「まじかよ…」
鬼「俺の事が信じられねえなら話そうか?2人で行った戦の事全部をよ」
英正「いや、いい。大丈夫だ、もう信じた。」
鬼「顔色が悪いぜ?英正。人を殺すのは怖くなくても自分が死んだのは受け入れられねえのか?」
英正「受け入れるしかねえだろうよ…こんな訳わかんねえ事ばっかり起きてんだからよ…」
鬼「あの神様が何のためにこの世界にてめえを放り投げたかわかんねえし信じられねえ現実を見てきてんのもわかるが」
鬼「逃げ出しちまうか?また同じ様に首跳ねちまえば全て終わるんだぜ?怖えなら俺がやってやるぜ?」
刀が浮き上がり、刃が己の首に当たり、薄く切れた首から血が流れる。
鬼の髪の毛からは紅く染まったただならぬ眼力が英正へと向けられた。
英正「やめろよ相棒」
英正は刀を掴んだ。
鬼「おっ?」
英正「逃げ出す気なんて全くねえし、お前さんの事は受け入れるよ。そして2回目に死ぬならカッコよく死なせてくれや。」
鬼「それでこそ英正って男だぜ…」
刀から力が消え、自分に向けられていた殺気が消えた。
鬼「逃げねえで立ち向かえや、運命にも困難にも、何が起きても心強い俺がいてやるからよ、お互い頑張ろうや」
鬼「あ!だけどよう、鞘ごとあんな鎧ぶん殴るのはやめてくれよな?俺じゃなきゃぶっ壊れちまってるぞまったくよぉ!」
英正「ありがとよ相棒…訳わかんねえ事ばっかり起きて俺らしくねえ事ばっかり考えてたのかもしれねえ。」
英正「ただ何が起きてもお前がいてくれんならそれだけで何も怖がる事なんてねえよな…」
英正は笑った。
英正「すまねえ。どんな事起きようが悩んだって無駄だよなぁ、起きちまってんだから乗り越えちまうしかねえんだよな…これからも頼むぜ相棒」
鬼「そうだぜ英正…この世界でもお前はお前なんだ、そしてこの世界の事もお前が悩んだって変わる事なんてねえんだ。ただ乗り越えちまえばいい。」
そう言って笑った鬼の身体が輝きだした。
英正「おい!おまえなんか光ってるぞ?」
鬼「あーそう言えばあの神様がてめえが寝てる間に力くれたんだよ、俺の事受け入れて、自分の死と向き合った時から俺に宿るとか言ってたなあ…」
鬼の身体が輝きに包まれ、鬼が見えなくなった。
英正「うお、大丈夫かよ相棒!」
輝きが消えるとそこにいたのは先程の様な不気味な鬼ではなく、命導と同じ服を着て、角が生え、澄んだ瞳の可愛らしい女の子様な鬼がいた。
鬼「なんだぁ?なんか身体が変わっちまったぞ?」
どうやら口調は変わってはいない様だった。
英正「はっ!女の子になっちまってるぞお前さん!」
鬼は大笑いをした。
鬼「そりゃ本当かい、いやー俺が言うのもなんだが、「不思議」だねぇ〜」
英正「お前さんが言えたことかよ」
鬼「ただ俺の中にいた不の存在だけが消えちまいやがったよ、おそらくあの神様のとこにでも行ったんだろうよ」
鬼「代わりによくわかんねえが、何にも負けねえと思わせる様な力が俺の中にいる。」
英正「なんだよそれ」
笑いながら返す。
鬼「これからわかるんじゃねえのか?」
英正「そうかい…」
自分のせいで自らを呪う事しか出来なくなっていた魂たちが、あの憎たらしい神に導かれて行ったのかもしれない現実を見て英正は申し訳なさとあの神に対する感謝をした。
鬼「とりあえず竜人だかにあいにいくんだろ?」
英正「ああそうだが?」
鬼「道のりは悪そうだが大丈夫か?」
英正「お前さんがいてくれんなら心配いらねえよ」
鬼「照れるじゃねえか」
鬼「あとよ、1つ頼みを聞いてくんねえかい?」
英正「いいぜ?言ってみろよ」
鬼「名前をくれねえかい?」
その言葉を発した鬼の顔はどこか寂しそうな顔をしていた。
英正「名前か…」
英正は2人で乗り越えてきた戦の事、血のりを落とし刃を研ぎ手入れをしてきた事、そして今ここに2人で来た事を思い出した。
英正「輝道なんてどうだ?」
鬼「輝道か…」
英正「俺が道に迷った時はお前さんが輝いて道を照らしてくれや。よろしく頼むぜ輝道」
輝道「ありがとう英正、人を斬ってきた鬼の俺が道を輝き照らすとはな…」
英正「俺もそうだが今日はお互い休もうや、いろんなこといきなりありすぎて疲れちまった。」
輝道「そうだな…今日はゆっくりさせてもらうよ…」
そう言って輝道は刀の中に消えた。
英正「ラーツさん悪いがちょいと休ませてもらうぜ。」
英正と輝道は椅子にもたれかかり、眠りに落ちた。
辺りも暗くなり、日が落ちた頃に家のドアが開いた。
ラーツ「英正さんただいま帰りました!っと寝ていられるのか」
ラーツは夕飯の食材を持ちながら英正に近づいた。
ラーツ「日本の世界の刀…かぁ」
そう言ってテーブルに置かれた輝道に触れた。
輝道「やいやい!夜這いとはいい度胸だな!」
ラーツ「うわぁぁ!」
ラーツは驚き壁に激突した。
英正「んぉ?ラーツさん帰ってきたのかい?」
英正が目を覚ます。
ラーツ「ひ、英正さん、その剣、喋りましたよ…」
輝道「そのとはなんだ!英正の立派な相棒だぞ!」
そう言って刀からまた輝道が姿を現した。
英正が大笑いをした。
ラーツ「女の子?!一体どうなってるんだ?」
英正「ラーツさん、輝道になんかしたのかい?」
輝道「いきなり俺にベタベタ触りやがって!なんだってんだこの野郎!」
ラーツ「いや、その、興味本位で触ってしまい申し訳ない。」
英正「ははっ、輝道は刀に宿った九十九神に近い存在なんだ、俺もさっき知った事なんだ、隠してたつもりはねえ。」
英正「驚かせて悪いなラーツさん」
ラーツ「い、いえ、そのつくもがみというのは?」
英正「物に宿る神様だよ」
ラーツ「なんと!あなたは神様なのですか!」
輝道「知らねえよそんな事!俺は英正の相棒!それだけで充分だろうよ!」
輝道は相当怒っている様だった。
ラーツ「すみません。どうか斬らないで頂きたい。」
英正「まあまあラーツさん。」
そう言って床に落ちた食材を拾い出した。
輝道「むっ?お前さん料理できるのか?」
ラーツ「はっはい!一応自分で調理する事くらいなら…美味しくは無いですけど。」
ラーツ「こう見えて火の魔法を得意としてますので、料理を覚えたというか…」
英正「本当かい?なら俺も手伝うぜラーツさん」
ラーツ「いえいえ!お二方の就寝を妨げてしまったのです!ここは休んでいてください!」
英正「休ませてもらっておいて何もしないでただ飯を食らうなんざ俺が許せねえ、勝手に手伝わせてもらうぜ」
そう言ってラーツの肩をポンっと叩いた。
ラーツ「ありがとうございます。」
こうして2人は調理を始めた。
英正はラーツの指示で野菜の皮や、魚をさばき、肉を包丁で切り分けていった。ラーツは魔法で火を灯し、水の入った鍋の様な物に英正が切り分けていった食材を入れていった。
英正「魔法って言うのは便利だなぁラーツさん」
ラーツ「そうですねえ…この世界ではあってないようなもの。生まれた時からこの世界の魔力を取り込んで生きてますから誰でも使えます。」
英正「ならラーツさんもあんな爆発起こせたりすんのかい?」
ラーツ「いえ!あれは特殊です、あんな形質変化見たことがありません。」
ラーツ「私の魔法はただ火を魔力をとうして借りてきているだけに過ぎず、肉体の中にある魔力を消費して借りてきているに過ぎません。」
ラーツ「あれほどの魔法となると借りてきた火を肉体の魔力をさらに消費して自分の中で形質を変化させ発動しなくてはいけません。」
英正「要は一手間も二手もかけなきゃいけねえってことかい?」
ラーツ「はい…それか自らを借りてくる対象、つまり魔力も炎をも自らに存在させなければあのような爆発など起こせるはずもありません。莫大な魔力を必要しますので命まで奪われかねません。」
輝道「なるほどなるほど、つまりその魔力のおかげで俺は姿を現されるって訳か」
ラーツ「そうかも知れません…ただ私も魔法に関しては詳しく無いために推測でしかありませんが…」
そう言ってラーツは鍋に蓋をした。
英正「見たことねえ食い物ばっかりだったが、今日は鍋かい?」
ラーツ「はい!英正さんが手伝ってくれたおかげで早くできました!ありがとうございます!」
こうして鍋は出来上がった。
輝道「なあなあ英正!俺もこの身体なら食えると思うか?」
英正「食ってみればいいじゃねえか、考えてるよりやってみればわかることだぜ」
ラーツ「是非食べてみてください!美味しいかどうかはわかりませんが。」
こうして3人は鍋を食べだした。
輝道「美味いぞラーツ!何よりこの魚も肉も味が染みてて非常に美味だ!」
ラーツ「そうですか、輝道さんの舌に合って良かったです。」
英正「美味いぜほんと、何よりこんな美味い魚も肉も食ったことねえや。味もちょうどいい塩加減で食いやすいしな」
ラーツ「参ったなあ…そんなに褒められては調子に乗ってしまいますよ」
英正「しかし悪いなラーツさん、食いもんまで頂いちまって。」
輝道「悪いなラーツ、さっきは怒っちまって」
ラーツ「いえいえ気にしないでください!国の英雄とあらばこのラーツ!全力で持て成させていただきます!」
英正「ラーツさんあんた良い人だぜ」
ラーツ「ははっ、明日は道案内!任せてくださいね!」
英正「頼むぜラーツさん」
こうして3人は鍋を平らげ、食器を洗い終えた。
ラーツ「英正さん、狭いですが身体も洗えますよ」
英正「風呂まであんのか?」
ラーツ「風呂ですか?ただこの入れ物に魔法で借りた水を入れて火であっためただけですがこれがまた気持ちいいのですよ」
ラーツ「この布で身体をこすり、この色々な果実の果汁と私が育てた植物たちの樹脂を合わせて塩と混ぜ合わせた石鹸をお使いください。」
英正「おお〜、風呂まで入れるなんて思いもしなかったぜ」
輝道「一緒に入ろうぜ!英正!」
ラーツ「私の服で良ければ着替えも置いておきますので、ゆっくりと身体の汚れを落としてください。」
英正「本当にすまねえなラーツさん、お言葉に甘えさせてもらうぜ」
英正「あと、輝道、おまえ一応女の体してんだろうが、一緒に入ろうっておまえ。」
輝道「何を今更!元は男だ!中身も男だ!外見なんか気にすんなよ相棒!」
英正「あーそうかよ…まあ俺は気にはしねえがよ」
ラーツ「相当仲がいいのですね!」
こうして2人は違う世界の風呂をゆっくりと味わったのであった。
〜次の日〜
ラーツ「英正さん!朝ですよ!」
英正はラーツの元気の良い一言で目が覚めた。
英正「おっ、もう朝か…」
ラーツ「おはようございます!私の作った朝食ができてます!そして英正さんの着ていた服も洗って乾かしておきました!私の火でゆっくりと乾かしておいたのでもう着れると思いますよ!」
英正「そこまで気を使ってくれるなんて…あんたは休めたのかい?」
ラーツ「私は充分に休めました!それでは腹ごしらえをして行きましょうか!ルマエの丘へ!」
英正「輝道起きろ、もう朝だぞ」
こうして目を覚ました3人でラーツの朝食を食べ、英正はいつもの着物に着替えた。
英正「いつでも行けるぜラーツさん」
ラーツは昨日の着ていた鎧とは違う、軽そうな鎧に身を包み、背中には大剣を装備していた。
英正「なんだか雰囲気違うなラーツさん」
ラーツ「これは狩人の父が使っていた物です、これを身につければなんだって怖くありません。それでは行きましょう」
そして3人はラーツの家を出た。
家を出て、昨日の惨劇があった近くを通ると1人の兵隊が声をかけてきた。
兵隊「ラーツさん!どちらへ向かうのですか?」
ラーツ「ああ、恩人と共にルマエの丘に用があってね、今日中には帰ってくるよ」
兵隊「ルマエの丘へ!?あんな危険なとこへ?もしかしてドラゴンメイドへ会いに行くのですか?」
ラーツ「ああそうさ、きっと竜人ならば昨日の奴らの事も何か知っている。それで私は聞きに行こうかと思ってね」
英正「俺はこの世界の事やら何やらを聞きたくてね、安心しなよ兵隊さん、俺が付いてんだ、何も怖くねえ」
ラーツ「その通りです、英正さんがいれば何も怖くありません。」
兵隊「なりません、確かにその方の強さは並外れた強さではあります、ですが、ヤウシケプに敵うはずがありません。」
兵隊「今あなたが欠けてしまってはまたあの黒い鎧の軍団が攻めてきた時、状況は悪い一方です。国の為に行ってはなりません。」
ラーツ「あれほどの痛手をあちらもおったのだ、今日また攻めてこれるなら夜明けにでも攻めてきたであろう、そしてあの魔法に対抗できる情報を持ち帰れば、それこそ国の為になるだろう?」
ラーツ「私を信じて待っていてくれ。必ず行きて帰ると約束する。」
兵隊「ですが…」
行かせてはならないという兵隊の強い気持ちがひしひしと伝わってきた。
輝道「だーかーらー!俺と英正がいるんだから信じてまってろっての!」
刀から輝道が飛び出した。
兵隊「うわぁぁ!」
驚き、その場に座り込んだ。
輝道「おまえも見ただろう?俺たちは簡単に死なねえし負けねえっての!ヤウシケプとかいう怪物が出てきたって、むしろ手なづけて帰ってきてやるよ!」
ラーツ「そういう事だ、安心してまっていてくれ、街の事はよろしく頼んだぞ。」
そう言って3人は歩き出した。
兵隊は戸惑いながらも止める術を持ち合わせてはいなく、ただその場に座り込んで見送る事しか出来なかった。
英正「うおぉぉ凄えな!」
橋を渡り街から出た英正は、この世界の大自然を目の前にした。
見たことの無い生き物達、道端に生えている幻想的な草木に目を奪われ、この世界に感動していた。
輝道「おお〜何だあのバチバチと光っている鳥は!」
ラーツ「あれはイークレットと言って、電撃を得意とする綺麗な鳥です。こちらから手を出さなければ襲ってくる事もないので刺激しないことが懸命ですよ」
英正と輝道「ほえ〜」
間の抜けた返事であった。
こうして3人は草原を超え、見慣れない生き物達の事や植物の事を聞きながら、森へと到達した。
ラーツ「やっとつきました!ここがルマエの丘への入り口です。この森を抜ければルマエの丘へ行けます!」
英正「何とも美しい森だ…」
木々達は堂々と聳えたち、風に葉を揺らせ、我らは生きていると言わんばかりの威風堂々たるその姿を見せつけていた。
ラーツ「私もここの自然は美しいと思います。何というか神秘的な感じがしますよね。」
輝道「俺と似た様な奴らが木に宿っていやがるぜ」
輝道「まるで俺たちの事なんて気にしてねえしむしろ風や生き物達の声や音を余裕で楽しんでやがる。」
輝道「俺らのいた世界の木とは大違いだな…」
英正「その余裕がこの美しさを誕生させたのかもな…」
ラーツ「それでは行きますか。森の中には色々な生き物達がいます。ヤウシケプも、あまり刺激しないように進みましょう。
こうして森の中へと足を進めた。
〜森の奥〜
ヤウシケプ「この匂い…俺がいた世界の…」
森の奥でひっそりと息を潜めていた巨大な怪物は懐かしむ様に3人を感知し、その巨体を飛び上がらせ、姿を消した。
〜森の中〜
ラーツ「入り口まで来た事はありましたが、中へ入った事などなかったですよ」
英正「俺も初めてだぜ?道もあるし、生き物も全く出てこねえし、ヤウシケプだかって怪物ほんとにいるのか?」
輝道「いるぞ英正、とてつもない気配が伝わってくるぞ…」
輝道「この世界の気配というより…元の世界にいた妖怪どもと似ている様な気がするのだが…」
英正「妖怪だぁ?俺はそんなもん見たこともねえし、何より気配なんてこれっぽっちもわかんねえや」
輝道「とにかく今は離れている。まだまだ奥にいるのか…」
ラーツ「とにかく進まなければ行けませんね」
3人は足を止めることなく進み続けた。
すると生い茂る茂みから影がラーツに襲いかかって来た。
輝道を鞘から抜き、英正はその影の攻撃を受け止める。
ラーツ「うわあ!」
ラーツ「すいません英正さん!」
英正「気いつけなよラーツさん、どうやらここの奴らは刺激しなくても襲いかかってくるみたいだぜ。」
森の魔物「貴様ら、ここへ何しにきた…」
英正「おっ?言葉が通じんのかい、なんかお前狼みてえだな」
狼の様なその魔物は黒い毛に覆われ、尾は二本生え、恐ろしい外見をしていた。
ラーツ「なんと恐ろしい外見だ…ですが」
ラーツ「私も加勢します。」
そう言い、ラーツは大剣を構えた。
森の魔物「このクーダの言う事をよおく聞け…」
英正「2対1だがどうするよ?」
クーダ「黙れ!今すぐひきかえさんかアホども!ここは以前の森とは違う、あの化け物を起こし呼び起こせばお前ら全員食われてしまうぞ!」
クーダ「いや、すでにこちらへ向かっているのかもしれんが、今引き返せば間に合う、はようひきかえさんか!」
剣に伝わってくるクーダの力がよりいっそうました。
英正「悪いな狼さん、俺は丘の上にいる竜人に用があってね…あんたに言われてはいそうですかって引き返せねえんだ」
クーダ「このあほうが!」
クーダは刀を弾き、黒い煙の様な物を発生させた。
黒い煙からは鋭利な黒い刃が飛んできた。
ラーツ「危ないですね…」
煙ごと炎でかき消し、刃を防いだ。
すかさずクーダの間合いへ刀を斬り込む。
刃がクーダを捉えたかに見えたが、クーダの口には闇でできた短剣が加えられていた。
英正「なかなか強いじゃねえか狼さんよ」
再び間合いを取り、距離を保つ。
クーダが口の短剣を消滅させ、喋り出す。
クーダ「お主ら弱い人間などあの化け物に食われてお終いだ、森の魔物達や生き物達はほとんど奴に食らわれ、残ったのは我らの様な極僅かだけ。」
クーダ「これ以上犠牲を見たくないのだ!頼む!言う事を聞いてくれ!」
クーダは哀しそうな表情で訴えかけた。
英正「あーやめやめ!話聞いて欲しいんならまず襲いかかってくんなよ!」
クーダ「すまぬ…だが殺すつもりは無かった、意識を失わせ入口へと戻すつもりだったのだ」
輝道「さっきからこの狼からは殺意は感じられねえ、邪悪な力は感じるが殺すつもりの意志だけはどうも感じられねえ。」
ラーツ「ならば話を聞いてもらいましょう。」
3人はクーダにここへ来た経緯を話した。
クーダ「なるほど…だが通すわけには行かん、頼む引き返してはくれぬか…」
英正「敵意が無いからこそ戦いづれえし、引き返す考えもねえし…」
ラーツ「なるべく無駄な戦闘は避けたいですね…」
輝道「やべえな…とんでもねえのが来るぞ…」
クーダ「クソ…こんなにも早く来るものなのか…」
クーダは身震いをしだし、静かな森の中を見回した。
そして英正とラーツもその気配を感じ取った様だ。
ラーツ「なっ…こんな魔力…感じた事ないですよ…果たして本当に魔力なんですか…」
音も立てず確かに近寄って来るその力に、一同は構えることしかできずにいた。
一瞬だった。クーダを巻き込み地中からそれは現れた。
クーダ「グォォ…」
クーダは真上に吹き飛ばされた。
英正「でけえ…」
ドォンと音を立てながら地ならしを起こし、その巨体が目の前に現れた。
輝道「こりゃあ…化け物だ…」
ラーツ「化け物…」
明らかに殺意を剥き出しにし、邪悪そのものの異形を堂々と晒し、でかい牙に3人の身体より何倍も太い足。
目はドス黒く染まり、あろうことか背中からは無数の人間の手が生え、体のあちこちには叫びを上げながらくるしむ人間の顔が浮かび上がり、叫びを上げていた。
ヤウシケプ「随分と美味そうな連中だ…そして俺に似た様な奴が1匹か…」
輝道「ひぃぃぃ!こっち見たぞ!気持ち悪いいいい」
そう言って刀へと引っ込んだ。
英正「こいつは気持ち悪すぎるぜ…蜘蛛なのかよこんなの…」
クーダが英正の側へと落ちて来るのを、ラーツが魔法で受け止め、静かに降ろした。
クーダ「がはぁ…すまぬ。」
よろよろと立ち上がり、口からは血を吐いていた。
ラーツ「いえいえ気にしないで。あんな化け物の攻撃を耐えたんです。休んでいてください。」
ヤウシケプ「そこの刀持った侍、お前日本からここに来たのか?」
ヤウシケプが英正に質問した。
英正「な!おまえ日本を知ってんのか!?」
ヤウシケプ「ぎひひ…あの世界の子供は特に美味かったんだよなあ…刀チラつかせたらすぐに泣きやがるし…もう一度食いてえなあ…」
英正「何者なんだおまえ?」
ヤウシケプ「元は侍だった人間だよ…地獄に落ちちまったが、鬼どもば隠してあった小刀でぶっ殺して食ってやったんだよ…そしたらこの姿になっちまいやがってな…」
ヤウシケプ「地獄にいた鬼も魂もたらふく食ってやったって訳よ…」
ヤウシケプがその話をした瞬間に、顔達がよりいっそう叫び出した。
ヤウシケプ「鬼も意外と美味いんだぜ…筋肉がコリコリで歯が折れちまったがそれでもうめえ…そしたらどっからか来た坊主にここに飛ばされちまってなぁ…気づけばここからは出られねえしこの森の魔物もここに来た人間もたらふく食ってやったんだ…」
クーダ「この化け物が…私の母も父も…この化け物に食われた…静かに暮らし、森の中の平穏をこいつはぶち壊した…絶対に殺してやる!」
英正「とりあえずわかったよ…こいつがとんでもねえ屑だって事がな…」
輝道「同感だ英正…こいつは地獄から妖怪だ、それもとびっきり最低な野郎だぜ」
英正「やっちまおうぜ輝道」
輝道「おう」
ヤウシケプ「俺をやっちまうだと?かかってこいよゴミどもが」
英正が輝道に手を掛けた瞬間、また輝道が輝き出した。
英正「行くぞこのやろお!」
英正は光に包まれながら走り出した。
ヤウシケプ「うおっ…」
眩しく光る英正に目を眩ませたヤウシケプは真上に飛んだ。
空気も斬り裂かんと輝道を振るった英正の攻撃はかわされた。
ラーツとクーダ「上だ!」
英正「わかってるよ」
地面がえぐられる程の跳躍で飛び、輝きを抑えた英正は、翼を生やした輝く鬼になっていた。
英正「すばしっこい野郎だぜ。」
ヤウシケプ「な、なんだおまえ…鬼、なのか?」
英正「知らねえよ…俺はただの侍だ化け物が」
ヤウシケプが空中に糸を巡らせ、糸に飛び乗り背中の手で英正を弾いた。
地面に叩きつけられたが、英正は余裕で立っており、輝道を構えた。
英正「なんか凄えの出せそうじゃねえか?」
輝道「俺もそんな気がするぜ」
英正は大きく輝道を振るった。
輝く斬撃がヤウシケプに飛んで行った。
ヤウシケプ「なに?」
禍々しい闇で斬撃を消し飛ばし、ヤウシケプが空中からこちらに向かって飛んで来た。
ヤウシケプ「踏み潰してやるぜぇぇ!」
とんでもないスピードで英正を潰さんと襲いかかるも空中でその動きは止められた。
ラーツとクーダ「私たちが魔法で動きを止めます!今のうちに!」
2人が作り出した魔法陣がヤウシケプを捉えた。
ヤウシケプ「邪魔ばっかりしやがってゴミどもがぁぁ!」
英正「ありがとよ!」
空中へと飛び、ヤウシケプを一閃した。
ヤウシケプ「ギイイイ!」
ヤウシケプの足と背中の腕が何本も切り落とされ、あの一閃の瞬間、ヤウシケプは何度も斬り裂かれた。
ヤウシケプ「痛えじゃねえかクソ野郎…」
着地した英正にとんでもない速さでその太く、鋭利な足で襲いかかった。
英正「品のねえ動きだな」
全ての足を弾き飛ばし、余裕の英正。
ヤウシケプの背中にはラーツが登っていた。
ラーツ「うおお!」
大剣を背中に突き刺したが、手に捕まり、握られた。
ヤウシケプ「舐めやがってこの野郎がぁ!」
黒い闇の刃が手を斬り落とした。
クーダが魔法でラーツを助け、素早くラーツの服を噛み、距離を保った。
クーダ「大丈夫か?」
ラーツ「すまない、油断した。」
ヤウシケプからは明らかな焦りを感じた。
英正「何本も手足ぶら下げてっから血だらけなんだぜ?」
英正の余裕の笑みを浮かべ、ヤウシケプを挑発した。
ヤウシケプの腕たちからは黒い血が流れていた。
ヤウシケプ「うるせえ…てめえらなんぞにやられるかよ」
背中の手が踊るようにくねり出し、顔がまた叫び出した。
ヤウシケプ「俺はまだまだ食い足りねえ、美味いガキも何もかも」
ヤウシケプ「お前ら全員食ってやるよ!」
クーダの魔法とは比較にならない大きな闇を空中に作り出した。
英正「だからどうしたよ蜘蛛野郎」
そう言ってまた斬撃を飛ばし、闇を斬り裂いた。
ヤウシケプ「なんだと?!」
全くもって自分の力が通じない異常に、ヤウシケプは恐怖した。
輝道「あの神様がくれた力は相当強えな…」
ラーツ「凄い…こんなにも圧倒的だなんて…」
ヤウシケプはきみの悪い雄叫びを上げながら、英正に襲いかかった。
乱打される足を弾き飛ばしながら英正は余裕で笑っていた。
その時だった。
ヤウシケプ「ははぁ!掛かったな!」
ヤウシケプの作り出した黒い糸が英正の足元に潜んであった。
あっという間に身体に絡みつき、動きを奪った。
ラーツ「英正さん!」
ラーツが叫びながらヤウシケプへ斬り掛かった。
ヤウシケプ「このゴミガァ!」
ラーツはヤウシケプの足に吹き飛ばされた。
ラーツ「がはぁ…」
クーダ「大丈夫か!人間!」
ラーツは大木に激突し、意識を失った。
英正「大丈夫だぜ、ラーツさん、どうやらこの糸、本当はこの蜘蛛に味方したくねえみてえだぜ」
英正「そしてこの力の事、気づいたか?」
輝道「わかったぜ英正」
英正「ああわかったな」
輝道が命導からもらっというその力。
魂を縛り付けられ、命導の元へと迎えない魂達の解放、そしてその悪の闇に立ち向かう能力。
命導はその力を与えたのだ。
英正「さっさと成仏しろよお前ら」
糸が輝きに飲まれ、糸が消えて行く。
白い靄の様な魂達が現れ、ありがとうと微かに言葉を残しながら天へと登り、命導の元へと向かっていった。
ヤウシケプ「なんだってんだちくしょう!俺の力が及ばねえだと?ふざけんなぁぁ!」
輝道「英正がお前みたいな野郎に負けるわけねえだろうが!」
英正「じゃあな化け物さん」
そう言って英正は一瞬で姿を消し、ヤウシケプの胴体の上に現れた。
英正は胴体を一閃し、身体を真っ二つにした。
ヤウシケプ「ギイ…ギギ…」
大量の黒い血を流し、ズドォンと崩れ落ちたその巨体から、無数の魂達が現れた。
魂達「ありがとう!なんと感謝をすればいいのか!」
魂達「あなた達の旅に幸あれ!」
英正「ははっ。もう2度とこんな化け物に食われんなよ…」
英正は手を振りながら魂を見送った…。
〜30分後〜
ラーツ「んんっ…」
ラーツが目を覚ました。
ラーツ「はっ!ヤウシケプは?!」
英正「もう倒したよ。」
輝きは収まり、いつもの英正に戻っていた。
ラーツ「なんと!やはりあなたは最強だ…あんな力も秘めていたとは…」
クーダ「私からも礼を言わせてくれ…私だけでは絶対に倒せない相手だった…」
英正「俺だってあんな力あるなんておもってねえよ!そしてクーダ!礼なんていらねえよ」
輝道「そうだぜ!気に食わねえゲス野郎だから斬ってやっただけだぜ!」
英正「その通り!」
ニコッと2人は笑った。
クーダ「これが礼を言わずにいれるわけがなかろうが…」
クーダは感謝の涙を流した。
英正「おいおい泣くなよ!みんないなきゃ勝てなかったぜ?みんないたから勝てた様なもんなんだからよ」
ラーツ「私は…気を失ってしまいましたが…」
輝道「何言ってんだラーツ!剣振り回して魔法で攻撃防いで、かっこよかったぜ!」
クーダ「我々森の住民の無念も、奴に食われてしまった魂も何もかも解放し、森を救ってくれた…本当にありがとう。」
するとヤウシケプの死体から白い靄が現れだした。
英正「なんだあ?」
白い靄は英正達の前に止まり、形を成していった。
するとその靄は大きな鬼の姿に変わった。
鬼「いやぁ〜ありがとう!お前さんらのお陰でやっとあの化け物から出られた!」
輝道「ヤウシケプの言ってた食われた鬼か!」
鬼「そうそう!まさか奴が喉に刀さしてくるなんておもわなくてな!斬られて食われちまった!あはは!」
鬼「とにかく俺からも礼を言うぜ。礼と言っちゃなんだがな、この数珠をやろう。」
それは赤黒く輝き、鬼の様に力強く輝いていた。鬼の腕から外されたその数珠は、英正の首にちょうど良く収まった。
英正「良いのかい?こんな綺麗なもん」
鬼「良いんだ良いんだ!その数珠はな、鬼の力を強めてくれるし、何より地獄の力も蓄えたすげえもんよ!まあ、それがあっても俺は殺されちまったけどな!あっはっは!」
輝道「ほんとに効果あんのかよ!」
鬼「まあ、お守りだと思って持っときな!それじゃ俺は命導様んとこ行って生まれ変わってくるとするわ!」
そう言って鬼は白い靄に変わり、天へと消えて行った。
ラーツ「行ってしまわれましたね…」
英正「あの女…一応すげえ神様なんだな…」
輝道「みてえだな…」
クーダ「私はどんな礼をすれば良い?私に出来ることなら何でもするぞ英正よ」
英正「へへっならよ?俺と一緒に来いよ!お前みたいな奴いてくれれば心強いぜ!」
クーダ「何?一緒に来いだと?」
ラーツ「それは良い考えですね!英正さんとクーダがいてくれれば、またあの黒い奴らが来ても大丈夫ですね!」
クーダ「そんな事で良いのか?むしろ人間どもを敵にまわすことにはならんのか?」
英正「知らねえよそんな事、少なくとも俺らは味方だ!礼がしてえんなら一緒に楽しく生きて行こうぜ!」
輝道「おお〜クーダ!その綺麗な毛で寝てみたいぞ!」
こうしてクーダが一向に加わったのだった。
そしてクーダを加え歩き出し、森の終わりまでたどり着いた。
ラーツ「やっと森の終わりですね!」
クーダ「この丘へと続く道を行けば竜人がいるのか…」
英正「クーダは見た事ねえのか?その竜人」
クーダ「丘の上には行ったことがなくてな、何よりその噂自体知らなかった。」
輝道「おいおい本当にいんのかよ?竜人とやらはよラーツ」
ラーツ「きっといるはずです!いてくれなきゃ困ります!」
英正「なら進むか!」
そして丘へと登り始めた。
丘へと登り始めると、あの怪物がいたとは思えないほど賑やかで、壮大な草原が広がっていた。
英正達は飛んで行く小鳥や、道に咲く花に目を奪われ、他愛もない話をしながら頂上へと到達した。
英正「案外早かったな」
目の前にはポツンと、決して大きくなどない1つの小屋が佇んでいた。
色鮮やかな花々に囲まれ、あたりを美しい小鳥達が飛びかっていた。
するとその小屋のドアが開いた。
竜人「んっ?」
彼女は背中に力強い羽を生やせ、金色の髪の毛に黒い服を身にまとい、華奢でとても可愛らしい外見をしていた。
英正達一行を目に移らせ、こちらを見つめていた。
竜人「なに?貴方達、よくあの化け物に食われなかったわね?それとも飛んで来たの?」
英正「いやいや、斬って倒してここに来た!あんたに用があってな!」
ラーツ「その通りです!貴方はこの世界の事を知り尽くしていると聞きます!是非お話をお聞かせください!」
竜人「魔物に狩人に変な格好したイイ男とその剣から頭だけ出した女の子って…あんた達怪しすぎ」
そう言って彼女は笑みを浮かべた。
竜人「まあ良いわ…せっかく来たんだから入って?」
一行は竜人の家に招かれた。
竜人「私はルルイ、いきなりだけど私はあなた達の求めてる竜人じゃないわ。」
ルルイ「きっと話に聞いてる竜人ってのは私のお父さんの事ね。」
英正とラーツ「なんだって!?」
ルルイ「おもしろいはねあなた達」
クスクスと笑い、紅茶を入れて2人を持て成しながら椅子に座る。
ルルイ「それよりあなた達の話を聞かせて?私、あんまり外に出ないから外の事知らなくて。」
ルルイの家の外では中での雰囲気とは裏腹に
クーダと輝道が走り回って遊んでいた。
こうして英正とラーツがここになんで来たのか、英正がこの世界に来た経緯、輝道の事やクーダの事、ヤウシケプとの戦いなど全てを彼女に話した。
ルルイ「へぇ〜、いろんなことがあったのね!しかもあの蜘蛛ば倒しちゃうなんてやるじゃない!」
英正「まー、苦労してここまで来てみりゃ、可愛い女の子の入れてくれた美味いお茶のんで一息してってか…」
英正は大笑いをした。
そしてラーツも大笑いをした。
ラーツ「いやぁ〜可笑しい話ですね、本当に。」
英正「全くだぜ、よく調べもしないでここに来てみりゃ物知りな竜は竜違いと来たもんだ。」
ルルイ「ごめんなさい…お父さんはもう死んじゃって、私は父さんと過ごしたここで静かに暮らしていただけなの…」
英正「いやいや、悪いのはこっちだぜ、いきなり押しかけて話しさせてくれなんてな」
ルルイ「私は全然いいのよ!むしろ外の話はいくらでも聞きたいし!」
ルルイ「って言うかきかせて?」
ラーツ「すみませんルルイさん、あなたみたいな可愛い女性と話をしたいのは山々なのですが…」
ルルイ「なら話してよ?」
ルルイ「それとももう帰っちゃうの?なら私も連れてって?」
英正「おお!それはいい考えだ!また仲間が増えたな!」
ラーツ「何を言っているのですか!英正さん、我々はあの黒い鎧の奴らに対抗できる話と英正さんが知りたかったこの世界のことを一刻も早く知らなければならないのです!」
ルルイ「ようはその鎧の奴らを倒せればいいんでしょう?私に任せてよ!」
ルルイ「私こう見えてもすっげえ強いのよ!?」
目をキラキラさせてラーツを見つめる。
ラーツ「ルルイさん、いくら竜人とは言えあなたの様な女性を戦いに巻き込む訳には…」
ルルイ「きっとここの人達みんなより強いよ?」
英正「こりゃ凄え奴が味方になってくれたぜラーツさん」
ラーツ「冗談を言い合っている場合ではないのです!」
するとテーブルの上のカップがカタカタと揺れだした。
ルルイ「冗談かどうか…確かめてみる…?」
ルルイの眼には明らかに人間の眼ではなく、鋭く尖った人外の力強さを宿していた。
ラーツ「なっ?、」
ルルイ「外に出ましょうか…」
こうして3人は外に出た。
輝道「おっ!話終わったのか?」
クーダにまたがりはしゃぎ疲れたのか息を切らしながら輝道はといかける。
ルルイ「まだちょっと終わってないわ、もうちょっと待ってね?」
こうしてルルイは家の目の前草原の広いところで立ち止まった。
ルルイ「みんなこんな丘の上まで来てくれてありがと!楽しい話も聞けたし、これから付いてって言いって英正が言ってくれたし、これが竜の姿の私だけど、これからよろしくね!」
ルルイは翼を広げ、空中に奇妙な魔法陣を出現させ、それを飛びながら貫いた。
光りながらルルイはみるみる大きさを変え、ヤウシケプよりも大きく、蒼い大きなドラゴンへ姿を変えた。
英正「なんだってんだまったく…こんなの見た事ねえぞぉぉ!!」
ラーツ「この中で私…1番弱い…」
輝道「おおおおお!かっこいいぞルルイ!」
クーダ「なんと、ドラゴンだったのか…」
バサバサと風を巻き上げ、空中で雄叫びを上げ、ドラゴンが姿を現した。
ルルイ「皆!これから帰るんでしょ?だったら背中に乗って!ラーツさんの家までひとっ飛びよ!」
夕陽に照らされた蒼色の美しさと力強さが英正達を背中へと招待した。
こうして全員を乗せたドラゴンは物凄いスピードで空を駆け抜けた。
ルルイ「しっかり掴まっててね!みんな!」
英正「うおおおはええ!!」
輝道「ふぉぉぉ!すっげええええ!」
ラーツ「あああっとまってくれぇぇぇ!」
クーダ「死んでしまう…」
それぞれが想い想いの言葉を発し、ルルイのスピードは加速し、あっという間にビラトの橋の近くについた。
ルルイ「よっと!」
全身をまた魔法陣で覆い、また可愛らしい女の子の姿に変わった。
ラーツ「うおおぉぇぇぇぇ」
クーダ「ぉぇぇぇぇ」
ラーツとクーダが口から溢れ出た聖水を撒き散らしていた。
英正「ははははっ!汚ねえな2人とも!」
輝道「大丈夫か?クーダ?」
輝道は小さな手でクーダの背中をさすった。
ルルイ「ははは、ごめんなさいねラーツさん」
ルルイもラーツの背中をさすっていた。
英正「とりあえずここがラーツの家があるビラトの街だぜ!」
ラーツ「ルルイさん…ありがとうございます。」
こうして5人はラーツの家へと向かった。
そして橋を渡り、入口のすぐ横には、朝にラーツに声をかけた兵隊が疲れたのか座りながら寝ていた。
ラーツ「見張りご苦労!ただ今帰ったぞ!」
兵隊「はっ!」
兵隊は目を覚まし、ラーツら一行を見つめた。
兵隊「なんか…増えてませんか…?女の子に…魔物じゃないですかぁぁぁ!」
立ち上がり槍を構える。
クーダ「私はラーツの仲間だ、この国に危害を加える気は無い。」
ラーツ「そうですよ、クーダは私達の仲間です。槍を下ろしなさい。」
兵隊「そ、そうですか、ヤウシケプは?ヤウシケプには遭遇したのですか??」
英正「あいつは俺と輝道が真っ二つにしてやったぜ?大した事ねえ怪物だったぜ!」
兵隊「本当ですか?!なんというお方達だ…」
ルルイ「とりあえずよろしくね、私とクーダが新しくお世話になるね?」
ルルイの愛らしい顔と吸い込まれそうな大きな目に兵隊はうっとりとしていた。
兵隊「いつまでも…どうぞ」
こうして人外2人は呆気なく歓迎された。
〜とある都市〜
「王よ!ビラトを攻め落とす役目、このライザーとバラガにおまかせください!」
バラガ「ゼダルは返り討ちにあいましたが、我らが迎えば攻め落とす事は可能でしょう。」
王「あの忌々しい国を攻め落とすのは今が好機だ、絶対に失敗するなよ。」
ライザーとバラガ「はっ!」
その姿をゼダルはこっそりと覗いていた。
ゼダル「ふっ…」
不敵な笑みを浮かべ、ゼダルはどこかへ歩き出した。
〜ラーツの家〜
ラーツ「皆さん起きてください!いつまで寝ているんですか!」
ルルイ「起きて起きて!私とラーツで朝食つくったの!みんなで食べよう!」
昨日と変わらず可愛らしい笑顔で皆を起こした。
こうして5人は朝食を済ませた。
輝道とクーダは相変わらず外に飛び出し、2人で走り回って意味不明な遊びを展開していた。
ルルイ「あの2人は本当賑やかね」
英正「昨日会ったばっかりなんだけどな、不思議だよな」
ルルイはまた良い香りの紅茶を2人に出した。
ラーツ「ルルイさんいつの間に!」
ルルイ「家から少し持ってきたの!、あと庭に生えてた薬草とかいろいろ混ぜたんだけど、昨日とはちょっと違う味よ!」
ルルイ「勝手に貰っちゃってごめんねラーツさん」
ラーツ「いえいえ!全然いいですよ!」
英正「本当美味いな…」
ルルイ「ほんと?!良かったぁ」
ニコッと笑いながら答えた。
ルルイ「そう言えば皆何才なの?」
英正「俺は19才」
ラーツ「私は25才です」
ルルイ「そうなんだ!なら私がこの中で1番年下なんだね!」
ラーツ「英正さん、以外と若いのですね…」
ルルイ「私は17才!」
英正「もっと若く見えるぜ!」
ルルイ「ほんと?嬉しい。」
顔を赤く染めて女の子らしい仕草を見せた。
そんなほのぼのとした会話をしていると1人の兵隊が飛び込んできた。
兵隊「大変です!街の外にまた黒い鎧の軍団が次々と現れました!」
英正「なんだと?」
ラーツ「やはりこちらの国の事情を把握している…内通者は確実にいる、とりあえず行きましょう!」
そして3人は外に飛び出した。
するとクーダにまたがった輝道がアホヅラで質問した。
輝道「また敵か?」
英正「馬鹿やってないで行くぞ2人とも」
こうして5人は街の入り口へと走り出した。
入り口へつくと兵隊達が続々と到着し、橋の向こうから近づいてくる軍団が目に入った。
だが、この前とは違い、竜にまたがり飛んでいるもの、巨大な1つ目の巨人が2人目に入った。
英正「今度は敵さんも本気って訳かい?」
ルルイ「あの巨人は私に任せて!」
そう言ってルルイは走り出し、ドラゴンへと姿を変え、雄叫びをあげて襲いかかって行った。
英正「俺らも行くか!輝道!」
ラーツ「全員!迎え打て!」
ラーツの怒号が響き、全員が敵へと走り出した。
ルルイは上空から火炎弾を巨人や敵兵に浴びせ、英正は巨人の足を斬りつけた。
英正「今度は大層な連中引き連れてきてるが、そう簡単に行くと思うなよ!」
こうして再び戦が始まった。
ライザー「なんだあのドラゴンは!?あんな物がいるなど聞いてないぞ!」
バラガ「うろたえるな!魔術兵は後方に下がり、サイクロプス共を死なせるな!」
ライザー「ならば我々竜騎兵はあのドラゴンを全力で迎え撃つぞ!」
こうしてそれぞれ動きを見せる敵兵。
サイクロプスは何度斬られても傷を瞬時に癒し、暴れまわっていた。
クーダ「なんだあの巨人は?!不死身なのか?」
ラーツ「いえ、きっとあれも魔法です。後方に下がっているあの魔術師を倒さない限り、この巨人は殺せない。」
ルルイ「そういう事なら…」
ルルイは手を上空にかざし、魔力を集めた。
竜騎兵達が斬り込まんと襲いかかるも、ルルイの身体には傷1つつかなかった。
ルルイ「そんな攻撃聞く訳ないでしょ!」
ルルイの手から放たれた魔弾は、凄い速さで魔術師達に飛んで行った。
だが、上空で魔弾は斬り裂かれ、魔弾は消滅した。
ルルイ「えっ!?」
魔弾を斬り裂いた主はあの色男、ゼダルが姿を現した。
ゼダル「随分と手こずっているんだな…」
ゼダルは竜騎兵達を踏みつけ飛び、ルルイに斬りかかった。
ゼダル「それだけ大きければ斬りやすいな…」
闇をまとった剣でルルイの身体を斬りつけた。
ルルイ「なっ!」
ルルイは斬られ、上空から落ちた。
英正「なっ!?ルルイ!大丈夫か!」
輝道「とりあえず生きてる、魂は消えちゃいねえから安心しろ」
バラガ「人の心配をしている場合かね」
バラガが鎌で英正に斬りかかった。
英正「危ねえな!」
刀で弾き返し、距離を取る。
バラガ「大きな力を失えば大きな脅威になり得る、その力に頼りきっては戦争は勝てぬよ?」
ゼダル「私が来たから有利になったのだろう、調子に乗るなバラガ」
2人の強敵が英正の前に立ち塞がる。
輝道「英正…あの色男、この前より変な気を感じるぞ…」
ゼダル「ふふ…いいからかかってこい。」
英正「本気で行かなきゃやばそうだな…」
巨人の足元を駆け抜けて、ラーツを乗せたクーダが戦場を走り抜ける。
鎧の兵隊の攻撃をラーツは弾き返し、クーダは闇の魔法で刃を出現させ魔術兵へと向かう。
クーダ「ラーツ!振り落とされるなよ!」
ラーツ「ルルイさんより丁寧な走りです!落ちる訳がありません!」
そして後方の魔術師達の前に飛び込んだ。
魔術師「なんだ!?魔物と…兵隊だと?」
爆炎と闇の刃の嵐が魔術師達を襲った。
半分以上が吹き飛ばされた。
ラーツ「何度も何度も我が国を襲い…ルルイさんも斬りつけるなど…」
クーダ「許せんなあ。」
上空から剣を構えた竜騎兵が突撃してくる。
ライザー「おらぁぁ!」
ラーツは大剣で受け止めた。
ラーツ「クーダさん!平気ですか!?」
クーダ「余裕だ。」
ライザーはまた上空へと上がった。
ラーツ「空ばかりに逃げて、随分と臆病な人ですね」
ライザー「安い挑発だな…しかし、乗らない訳にはいかぬな…」
それぞれ強敵達との死闘を繰り広げる。
英正はまたもあの姿になり、バラガ達の猛攻を防いでいた。
ゼダル「やはりおまえ…本気では無かったと言うのか…」
英正「どうでもいいだろそんなこと…」
バラガ「気に食わぬな!その強さ!」
鎌を人一倍振り回し、英正へと斬りかかる。
英正は空へと跳躍し、バラガに輝き飛ぶ斬撃を繰り出した。
バラガ「なんだと!?」
バラガに当たる直前、黒い闇の斬撃が飛んで来た。
ゼダル「私も本気でやらねばまた斬られてしまうな…」
ゼダルは青黒い渦をまとい、そのオーラをまとっていた。
英正「随分かっこいいじゃねえか」
ゼダル「すまんな…騙していた訳では無いのだが、私は悪魔でね。」
ゼダル「まあ、私達の国の物は私より邪悪な者ばかりだがな…」
バラガ「俺は普通の人間だぞ?」
英正「ははっ鎌のやつ、おまえアホだろ?」
ゼダル「恥さらしもいいとこなんだ、気にしないでくれ…」
ゼダルは英正に闇の斬撃を乱打した。
英正は全てかわし、ゼダルに突撃する。
ゼダルと英正は神速で刃をまじえ、人外の戦いを繰り広げた。
バラガ「ついていけねえよ…なんだよこりゃ」
バラガは腰を抜かし、プルプルと震えていた。
サイクロプス「グォォォ!!」
手に持った棍棒を振り回し、兵隊達を吹き飛ばし、踏み潰し、魔法を浴びせ用が斬りつけようが死なない化け物は手に負えない暴れっぷりを見せていた。
兵隊「くそ…なんなのだ…まったくもって手に負えない…」
ルルイ「はぁ…はぁ…」
兵隊「意識を取り戻したぞ!傷も綺麗に無くなりました!安心してください!」
ルルイ「ありがとう…兵隊さん達、あとは休んでて…」
ルルイ「私ちょっと…頭に血が上っちゃった…」
そう言って立ち上がり、兵隊達は全員ルルイの後方に転移された。
兵隊達「えっ…?」
ルルイ「吹き飛べぇぇぇ!」
ルルイが叫んだ直後、とてつもない巨大な魔法陣が現れ、ルルイの全力の魔弾が巨人を吹き飛ばした。
サイクロプス「おおっ…おおあっ!」
断末魔と共に消え去る巨人を巻き添えに、腰を抜かしたバラガの目の前にもその魔弾は飛んで来た。
バラガ「おいおいおいおい嘘だろぉぉ!」
バラガは咄嗟にとった魔法の防壁を張ったが、防壁ごと吹き飛ばされた。
ラーツ「何ですか?!今のは!」
クーダ「とんでもない魔法だ、あんなの食らったらいくら再生するとは言え…」
ルルイの前方には魔弾の恐ろしさを伝える焼け野原とクレーターが出来ていた。
ルルイ「ちょっと…やり過ぎちゃった…?」
英正「馬鹿野郎!あと少しで俺も死んじまうとこだったぞ!」
ゼダル「ふふ…やはり最初にとどめをさすべきだったか…」
サイクロプスの身体は跡形もなく消し飛び、敵兵はほぼ壊滅に追い込まれていた。
魔術師「嘘だろ?あんな連中に勝てる訳ないだろう…」
ラーツ「だそうですよ?」
クーダ「滑稽だな」
ライザー「くっ…ここは引く!帰るぞゼダル!」
ライザーと竜騎兵達は闇に包まれ消えていった。
ゼダル「やっと邪魔が消えたな…」
英正「お仲間達は帰っちゃったぜ?」
ゼダル「国の手柄など元より興味などない…ただ強き者と戦えれば、それで良いのだ…」
英正「ほんとかっこいいよあんた…」
ゼダルが渦を取り込み出し、よりいっそうスピードを上げて斬りかかった。
英正「くっ…めちゃくちゃ速え。」
追いつくのでやっとな剣撃に英正は耐え続けた。
輝道「やべえぜ英正…あいつ相当強えぞ。」
英正「この姿でも追いつくのやっとだしな…」
止まることなく斬撃が飛び交い、やっとの思いで防ぎきる。
するとゼダルは額に指を当て、目を閉じていた。
英正「何やってんだ?いきなり静かになり出したぞ?」
ゼダルは目をそっと開け、ニヤリと笑った。
ゼダル「終わりだ…楽しかったぞ英正…」
その瞬間ルルイとも引けを取らない黒い闇がゼダルの指から放たれた。
英正「うっそだろ…」
闇にあっという間に飲み込まれ、英正が包み込まれた。
ラーツ「英正さん!」
クーダ「英正!」
ルルイ「ひでまさーー!!!」
英正は闇の中で必死に輝き、闇に抗っていた。
輝道「ちょっとこれはまずいんじゃねえの?」
英正「いやいや…一度勝った相手に随分と弱気じゃねえか…」
輝道「けどよ…なんか俺、力がだんだん入んなくなって…」
英正「諦めんな!逃げ出すな!そう言ったのはお前だぜ輝道!2回目の命がこんなところで終わってたまるかよ!負けてたまるかよ!」
英正の首に巻かれた数珠が光り出した。
輝道「お…おおおお!力が…わきでるぅぅぅ!」
英正と輝道「いくゾォ!」
闇を逆に取り込み、ゼダルは何が起きたか理解できずにいた。
ゼダル「何をした?」
英正「返すぜ!この闇全部!」
闇と自らの斬撃を混ぜ合わせた斬撃をゼダルに飛ばし、ゼダルは斬りつけられながら地面に落ちた。
ゼダル「なに…が…」
英正と輝道「そう簡単にやられるかよ!この吉田英正とその相棒鬼の輝道!まだまだこんなところで死ねねえんだよ!」
髪が紅く染まり、腰まで届く長髪に姿を変え、その翼は大きくはばたき、立派な角が生えていた。
まさに鬼。
紅く輝く鬼が空を飛んでいた。
ゼダル「美しい…」
英正はゼダルへと斬りかからんと突撃した。
英正「くたばれぇぇ!」
ゼダルは斬りつけられるその瞬間。
また姿をあっという間に消した。
地面に強烈な斬れ目を入れ、英正は地面に落ちた。
英正「また逃げられちまったな…くそ」
輝道「まあしょうがねえよ…」
ルルイ「英正!」
ルルイが駆け寄ってきた。
ラーツ「英正さん!輝道さん!」
クーダとラーツも続けて走り寄ってきた。
英正「痛えよルルイ…」
ルルイは激しく英正に抱きつき、2人はその場に倒れ込んだ。
クーダ「輝道…無事だったか…嬉しいぞ俺はぁぁ」
クーダは泣きながら輝道にすり寄った。
こうして2回目の進軍を退け、ビラトの街への被害は全くなく、ルルイの魔法によって傷ついた兵士達は回復し、平穏が訪れるのであった…。
〜魔界〜
ゼダル「く…なんと美しい…」
ゼダルは血を流し、苦しみながら黒い湖に飛び込んだ。
ゼダル「ふぅ…やはりここが1番魔力が濃い…」
「あんたが帰ってくるなんて珍しいじゃない?」
湖の中から長い黒髪の女性が現れる。
ゼダル「たまには故郷に帰りたくなってな…ラクトゥス…お前にも会いたかった…」
ラクトゥス「負けたのね…久しぶりにこっ酷くやられて逃げ帰ってきたって訳ね」
ゼダル「ああ…あんなに美しい奴は久しぶりに見た…今はとりあえず休む。」
ラクトゥス「いいのよゼダル…いつまでもここにいて…」
邪悪で魅惑的なそのやり取りは、2人の美しさをより際立てていた。
〜ラーツの家〜
ルルイ「英正と輝道、2人ともずっと寝てるね…」
ラーツ「疲れたのでしょう。今はこの英雄達を休ませて上げましょう。」
ルルイ「このまま目開けないで死んじゃうなんて事ないよね?疲れて死んじゃうなんて事ないよね?」
ルルイの目には涙が浮かんでいた。
クーダ「この2人がそう簡単に死ぬわけがないだろう…今は黙って休ませてやらんか…」
輝道の枕になっているクーダは小さく呟いた。
ラーツ「クーダさんの言う通りですよルルイさん…今はみんなで休みましょう…」
ルルイ「うん…わかった。」
ランタンの灯りをラーツは消して、それぞれ眠りについた。
輝道「朝だぞー起きろ寝坊助ども!」
珍しく輝道が大声を上げ、起床を促した。
英正「なに?お前が早起きだと?」
ラーツ「珍しいですね…」
ルルイ「輝道、私が起きるより早く起きて朝食手伝ってくれたの!」
クーダ「私も手伝ったではないか!」
ルルイ「ごめんごめん、クーダもしてくれた!」
いつも通り5人は朝食を済ませた。
輝道「行くぞクーダ!今度はどちらが速いか競争だ!」
こちらもいつものようにアホ2人がラーツの家を元気よく飛び出していった。
英正「クーダってあんなアホだったか?」
ラーツ「なんかもうちょっと知的な感じでしたよね…」
ルルイ「元気なのはいい事じゃない!」
ラーツ「今日は王が帰ってきます…皆さん、是非王に会ってくださいね。」
ルルイ「なんか私…王様って想像できないんだよなあ〜」
英正「俺もよく想像できねえなあ…」
ラーツ「まあ、何というか、偉そうに踏ん反り返って威張ってるような王ではなく、実に行動派で武闘派で、破天荒な方ですよ。」
ラーツ「そして我らにも優しく、市民には飛びっきりの笑顔で元気をくれるような方です。」
ルルイ「そうなんだ…なんだかすごいいい人そうね」
英正「ラーツさん…ちょっと街の中見てきても良いかい?」
英正「なんか外の空気に触れたい気分なんだ」
ラーツ「どうぞどうぞ!私はここにいますので!」
英正「そんなに長くは出歩かねえから、すぐ帰ってくるよ」
そう言ってラーツの家から英正は出て行った。
ラーツ「ルルイさんは行かないんですか?」
ルルイ「私はいいよ!それよりラーツ!なんか楽しい話きかせてよ!」
こうしてそれぞれが自由な時間を過ごし出した。
ラーツの家の近くの坂を、輝道とクーダが全力で走り抜けた。
輝道「まけるかぁぁぁ!」
クーダ「遅いな輝道よ!」
輝道を圧倒的な速さで追い抜き、輝道に勝利?した。
輝道「クソぉぉぉ負けたぁ…」
クーダ「だがお主も相当な速さだ…あと少しで俺に追いつけるはずだ。」
輝道「おまえ…優しいんだな…」
そう言って握手をしだし、訳がわからない状況が繰り広げられた。
〜王宮前〜
英正「確かここら辺に…」
店主「あっ!お兄さん!」
英正「あーいたいた!」
最初に出会った店主の元へと英正は来ていた。
店主「急に走り出して危ないとこに走り出して行くんだもん…死んじゃったのかと思ったよ…」
英正「俺がそう簡単に死ぬわけねえだろうよ」
英正はニコリと爽やかな笑顔を浮かべた。
ラーツ「面白かったですか?私の話は」
ルルイ「うん!私の知らない世界の話たくさん聞けた!ラーツのお父さんの話とか、王様の話とかいろいろ楽しかったよ!」
ラーツ「それは良かったです。私あまりお話が得意ではないので。」
するとラーツの家のドアが開いた。
輝道「疲れぞぉぉ英正ー」
そう言いながら輝道が入ってきた。
ルルイ「英正ならずっと帰ってきてないよ?」
ラーツ「刀もそこに置いて出て行きましたし。」
輝道「なんだとぉ?」
クーダ「とりあえず水をくれんか?」
クーダはつかれきっていた。
ルルイ「はいはいお水ですね!」
英正「おっ?アホども遊び終わったのか!」
輝道「あっ!どこに行ってたんだよ!」
輝道がプンスカと怒りながら英正に抱きつく。
英正「悪い悪い…ちょいと長話し過ぎてな…」
ルルイ「英正!今度は私とお話して?」
ラーツ「私も聞きたいです!」
こうして5人がゆっくりと雑談を始めた。
英正「そして俺は侍になったというわけさ…」
どうやら侍になった経緯を話していたようだ。
するとラーツの家のドアが激しく開いた。
「ラァァァァァァツ!」
爆音の声を張り上げて、ほぼ半裸の筋肉隆々の老人がそこには立っていた。
全員「うるさ…」
ラーツ「王…もう少し静かにできなかったのですか…」
王「おおおラーツ!無事であったか!」
そう言ってその老人はラーツを抱きしめた。
ラーツ「死ぬ!死にますよ!王!」
4人はドン引きをしていた。
王「おお…これはすまぬなラーツ。」
ラーツ「全く…激しいお方ですよ…」
英正「あなたがビラトの王って奴かい?」
王「いかにも!私こそがここビラトの王!ラシウス・ビラトだぁ!」
またも爆音の声を張り上げ、5人の鼓膜はキーンと音を立てていた。
「ラーツ!無事だったかい!?」
ラーツ「リーセス王子!」
リーセス「ははっ父上にまた殺されかけたのかい?ドアが開いていたし、父上の叫び声が聞こえたから寄ってみたんだ」
父とは違ってとても爽やかな笑顔で答えた。
ラシウス「すまぬなラーツよ…我が留守中の間に敵国の攻撃を受けるとは…」
ラーツ「いえいえ…真にこの国を守ってくれたのはここにいる4人のお方達のおかげ…私など全く役になどたっていません…」
英正「何言ってんだよラーツさん、魔術師達も退けるし、ヤウシケプに剣突き刺したり、カッコ良くやってたじゃねえか!」
輝道「そうだそうだ!この家にも休ませてくれるし、みんな集まって仲良くやってられるのもラーツのおかげだぞ!」
ルルイ「私もそう思うよ?ラーツさん」
クーダ「私も同感だ」
ラーツ「皆さん…私はあなた方の様な仲間ができて、本当に光栄です…」
ラーツは感極まり、泣き出してしまった。
リーセス「うう…仲間との強い絆に…我が国を身を呈して守ってくれた新たなる仲間達…」
リーセスが涙を流しながら話し出した。
ラシウス「リーセスよ!これは運命なのだ!我らがこうして出会い、ラーツや皆さんに感謝できるこの喜び!胸にやきつけぇぇい!」
リーセス「はい!父上!」
5人は暑苦しいその光景にまたもドン引きしていた。
リーセス「とにかく皆さん!王宮へ行きましょう!ラーツ!あなたはこの5人と共に来てください!私と父上が存分に持て成させていただきます!」
ラシウス「そうと決まれば王宮へ急ぐぞ!リーセス!料理の腕は鈍ってはおらぬだろうなぁ!」
リーセス「何を言ってるのですか父上!父上こそ修行ばかりで腕が落ちたのではないですか?」
ラシウス「ならばどちらが早く王宮へつくか競争だな、息子よ」
リーセス「望むところです!負けませんよ父上!」
そう言って2人はラーツの家を飛び出した。
ラシウス「まだまだ息子に負ける私ではないのだぁぁぁ」
王らしくない2人の親子はあっという間に王宮のほうへ消えて行った。
ルルイ「いつもああなの…?」
ラーツ「はい…」
英正「てっきり大名みたいな感じかと思えばだいぶ違うな…」
クーダ「随分と豪快で…そして暑苦しい…」
輝道「耳が壊れちまうよ…」
ラーツ「それでは私達も向かいますか…王宮へ」
こうして5人は王宮へ向かった。
〜ビラトの王宮〜
ラシウス「良く来てくれた!ラーツの仲間達!そしてこの国の為に戦ってくれた国の英雄達よ!!!」
空気をビリビリと震わせるほどの怒号を張り上げて、5人を歓迎した。
リーセス「私からも言わせて頂きたい!私達王と近衛兵不在の中、この国を守って頂き、心から感謝致します!」
リーセスも負けず劣らず凄まじい怒号を放った。
5人「耳が壊れる…」
そして近衛兵達もぞろぞろと整列し出した。
クラジア「私は近衛兵の隊長クラジア!私からも心より感謝致します!」
カーミラ「同じく隊長のカーミラ!私からも感謝致します!」
近衛兵達「ありがとうございます!」
ラシウス「それでは皆さん、存分に寛いで行ってくれたまえ!」
リーセス「私と父上は失ってしまった市民の命、そして兵隊達の葬いをしてきます!」
ラシウス「それでは失礼!」
2人の王は一瞬で姿を消した。
カーミラ「ラーツ、すまない、大きな怪我はしてないのか?」
ラーツ「私は大丈夫です!」
カーミラ「そしてこの国の為に戦ってくれた皆様、本当にありがとう。」
英正「なんだか照れるな…」
ルルイ「こんな事始めてだよ…」
クーダ「人間に感謝されるなど生まれて初めてのことだ…」
輝道「耳が痛いよぉ、」
クラジア「英正殿!」
隊長のクラジアが声を掛けてきた。
英正「お、クラジアさん?だっけ」
クラジア「私も本当に感謝しています。本当にありがとうございます。」
あの2人の王とは打って変わって落ち着いた雰囲気を見せる2人に4人は安堵を見せた。
英正「なんか…2人は落ち着いているんですね」
クラジア「ははっ、ラシウス王ちょっと暑過ぎる所があるかもしれませんね」
カーミラ「ですが決して悪い人ではないですよ、ただちょっと真っ直ぐ過ぎると言うか」
ラーツ「そう言えば同盟協定は上手く行ったのですか?」
カーミラ「もちろんよ、ただ私達が国を離れる事をその敵国に話した内通者がいるのは確実ね」
クラジア「ただ俺が思うに、この国そんな真似をする同士がいるのか…」
ラーツ「そうですよね…この国に王を滅ぼそうなんて考える人なんて思い辺りません…」
英正「この国に息を潜めている全くのよそものってこともあるぜ」
英正「何も国の事情を把握していた動きだからって、何も味方を最初から疑うなんて良くねえぜ?」
英正「まあ、今はあんたらが帰ってきたんだ、そして敵国も何だかんだでこの国潰したくて武力の薄い2日間を攻めてきた、あいつらは決して少ない武力ではないはず、そしてあまり大きく国全体で動けなかったと俺は見てる。」
カーミラ「それはつまり?」
英正「あんたらが同盟結んだ国のどっかって事が1番有力なんじゃねえのか?」
英正「命まで奪われかねない魔法使って、竜騎兵に悪魔の騎士、鎌振り回す馬鹿に巨人の使役、まだまだありそうだがとりあえず2日に分けたってとこが引っかかるんだよなぁ」
英正「本当に潰したくて、なおかつ国が手薄なんて情報があるなら俺なら総力あげて攻め落とすけどな」
ラーツ「なるほど…」
クラジア「ただ同盟を結んだ国は6ヶ国…全く検討がつかない…」
カーミラ「だとすると他の大陸の国?」
英正「恐らくだが…この国だけじゃないはず、王がいない間に攻められた国はきっとここ以外にもあるはずだ」
カーミラ「そして同盟を結ぶ為に戦力は大きく動かせないから2日に分けた…」
クラジア「あるいは舐められていただけか…」
ルルイ「なんか難しい話してる…」
英正「どちらにせよ大きい動きはまだ起きねえはずさ…勢力を増していなければ…だけどな」
クーダ「ならばしらみつぶしに国を巡ればいいのでは?」
英正「俺達がいるしな」
輝道「とりあえず腹減ったぞ!なんか食わせろ!」
カーミラ「ごめんね、お嬢さん、食堂にいっぱいあるから行きましょうか!」
輝道「俺は男だぞ!中身はだけどな!」
英正はクスクスと笑った。
英正「いやいや悪いカーミラさん、あなたの不思議そうな顔が面白くてね」
カーミラ「は…はあ?」
こうして一同は食堂へ向かった。
ルルイ「美味しい!」
クーダ「こんなに美味いもの食べた事がない」
カーミラ「ラシウス王とリーセス王が2人だけで作ったご馳走ですよ」
ラーツ「私まで頂いていいのでしょうか…」
クラジア「何を言ってるのだラーツ、お前も立派な英雄なのだぞ」
ラーツ「有難いお言葉です」
5人は2人の王が作った料理を堪能し、王室へと案内された。
クラジア「王達が帰ってくるまでここでお待ちください。」
カーミラ「私達もここで待っていますので、くつろいでお待ちください。」
クーダ「今更なのだが…」
カーミラ「どうしました?」
クーダ「何故お主達は私を見てすんなり受け入れたのだ?」
クラジア「何故って、ラーツの仲間だからですよ?」
カーミラ「ラーツは我々の仲間、そしてそのラーツの仲間のあなた達も我々の仲間、その事実があるだけで充分です。」
クラジア「仲間が悪魔であろうと魔物であろうと何であろうと」
カーミラ「国の仲間ならば皆受け入れるのです!」
英正「こんな国見た事ねえや…」
ルルイ「ほんと…何かいい人達過ぎて」
クーダ「魔物である私でも受け入れてくれると言うのか…」
ラーツ「私はたった数日の出会いと時間しかまだ共にできていませんが…皆さんと出会えて本当に感謝しているんですよ」
ラーツ「1人で静かだったあの家も、ルマエの丘へのあの冒険も…」
ラーツ「まだまだ皆さんと一緒にいたいって心から思ってるんですよ」
英正「だったら次はこの世界の道案内頼もうかな?」
ラーツ「是非!私に任せてください!」
カーミラ「何だか羨ましいですね…」
するといきなり王室の窓からラシウスが飛び込んで来た。
ラシウス「今帰ったぞ!」
当然のようにリーセスも窓から入ってくる。
リーセス「父上に負けてしまいましたか…」
どうやら競争していたようだ。
ラーツ「お帰りなさいませ王。」
カーミラ「本当に心臓に悪い人ですよ…」
英正「こいつは忍びかなんかだな」
ラシウス「皆よ!ここは風呂でも入って一息つかぬか?」
ラシウスはニカッと笑いながら提案した。
英正「おっ!良いですねラシウスさん!」
カーミラ「それでは輝道さんと、ルルイさんは私が案内させて頂きますね」
そして王宮内の大浴場に向かい、皆で休息を過ごすのであった。
〜とある国〜
王「本当に失望したぞライザーよ…」
ライザーは跪き、身体を震わせていた。
ライザー「申し訳ございません。ビラトの戦力が予想外に強く…」
王「言い訳は良いのだライザーよ」
そう言った直後、王の背後からは巨大な黒い影が現れだした。
ライザー「王よ…命だけは…」
歯をガチガチと震わせ、涙を流しながら、恐怖を浮かばせていた。
黒い影「あれほど俺の力を分けておいて、戦力が薄いビラトすら落とせん無能ばかり…」
黒い影「そしてあの悪魔のガキはどうしたのだ…?」
月の光に影は照らされる。
その顔は骸でできており、目は不気味に肉を纏い、目はドス黒く黒ずみ、言葉を発している口には1つの目玉が覗かせていた。
ライザー「ゼ…ゼダルはあの後から姿を見ておりません…」
黒い影「まあよい…ライザー、偉大な竜騎士の子孫よ…俺を封印した時に見た勇敢で凛とした力強さはお前からは何一つ感じられんぞ?」
ライザー「申し訳ございません…」
ライザーの首筋を冷や汗が通り、落ちる。
黒い影「謝罪など求めてはいないんだよ俺は…」
黒い影「ただ強さはどうしたのだと聞いてるんだぜぇ!?」
いきなりの怒号にライザーは圧倒される。
ライザー「あ…ああ…」
黒い影「足りぬのか?その偉大な歴史を作った子孫の力と私の力を持ってしても足りぬのか?」
黒い影「まあ与える事はいくらでも俺はできるし、応援だってしてるんだぞ?」
黒い影「なのにお前らはちっともそれに答えてくれないじゃないか…」
黒い影は口をガパッと開き中の目がギョロリとライザーを凝視した。
するとライザーの身体はみるみる腐り、朽ち果てようとし出した。
ライザー「うわぁぁぁ!」
ライザーは強烈な悲鳴を上げながら、腐り落ちていく手をみながら崩れ落ち、最後は身につけていた鎧だけがその場に残った。
黒い影「奪われるだけは俺は嫌いなんだ」
そう呟きながら王の後ろへ消えていこうとし始めた黒い影。
月夜の明かりに照らされた王の顔は、先程消えた黒い影の様に目がくり抜かれ、肌は真っ白な死人の様だった…。
〜魔界〜
ゼダル「あの骸骨…ライザーを殺してしまったか…」
湖に浮かびながらゼダルは呟いた。
ラクトゥス「ふふ…あの魔王様も早く復活したくてたまらないのよ」
ゼダル「イライラして優秀な部下を殺してしまうなら目的も遠退く一方なのにな…」
ゼダルは笑った。
ラクトゥス「ただ私達としてはさっさと復活してもらわないとね…」
ゼダル「ああ…封印された状態では魂を消滅させる事は出来ないからな」
すると湖の橋の上に1人の男が現れた。
ラクトゥス「あら!バミラじゃない!」
バミラ「お前らはいつまでそうやっていちゃついてるんだ…」
呆れた様にバミラは呟いた。
ゼダル「すまないバミラ…今この時間が心地よくてね」
バミラ「先程竜騎士の子孫だと言う魂が冥界に登ってきた」
バミラ「そしてその魂に私の力を注ぎ込み、悪魔として復活させた。」
ゼダル「おお…ライザーを復活させたのは大正解じゃないか」
バミラ「ただ奴はまだ弱い、魔界の竜を捉えライザーを鍛える」
バミラ「お前らも付き合え。」
ゼダル「モテる男は忙しいものだな…」
ラクトゥス「モテる女もよ…」
3人は一瞬にして闇に消えたのであった。
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