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二律背反  作者: 鳴海真樹
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「ねぇねぇ、おばあちゃん!またあのお話聞かせて!」


瞳をキラキラと輝かせた無垢な子供が一人の老婆に駆け寄る。

物腰柔らかそうなその老婆は静かに微笑むと、自らの膝をポンポンと叩き


「ここにお座り」


駆け寄る子供を膝の上に抱えた。

そして同じように話を聞きたそうにうずうずしている周りの子供達に自らが座っている椅子の周囲に座らせた。


「みんなも一緒?」


膝に座っいる子供が老婆を見上げると、老婆は優しく微笑み


「みんな一緒に」


とお話を始めたのだった。


「これはね、この世界の在り方を生涯を懸けて変えようとした一人の男の人のお話なのよ」



昔々あるところに一人の年端もいかない男女がいた。

その男女はそれはもう大層仲睦まじく、今で見れば幸せという絵に飾られる程だったと言われている。

しかし当時の彼らにとってその幸せは形にすることはできなかった。


彼らの恋路を阻むのは身分と種族の差。

この世界にはかつて2種の[人族]がいた。

生まれつき魔力適正が高く、魔法による生活を主とする[魔族]

その生き方は自然と共に暮らす共存の形。

生まれた時から魔力適正を持たず、素材を駆使する生活を主とする[汎族]

その生き方はあるもの全てを利用する支配の形。

二つの種族は当初、価値観の差から相容れず互いを忌避していた。


時を重ねると次第に魔族の子の出生率が低下する事態に見舞われる。

人手不足問題を解決する為に魔族が提案したのは、出生率の多い汎族を奴隷にするというものだった。

その提案は可決され汎族の奴隷化が開始された。

当然汎族は抵抗したが、生活水準が高くなく魔法に抗う術を持ち得ない汎族は魔族との協議の末、全汎族の世帯の内の約8割を奴隷として献上することで締約した。

以来魔族は汎族を奴隷とし、汎族を蔑む様になった。


魔族1家族に対して奴隷汎族が1家族以上という形態が一般化されてきた頃。

そんな[世界の在り方]の中で年端も行かない男女は出会った。

女の名は[エレノア・シャルリアンテ]。

彼女は魔族の中でも高貴な血筋で、魔力適正も高いシャルリアンテ家の一人娘だった。

エレノアは魔族汎族分け隔てなく付き合える柔和で優しい心の持ち主だ。

そして幼い頃から魔法に長けており魔族の神童としてもてはやされていた。

男の名は[アルバート・エータクス]。

彼はシャルリアンテ家に仕える奴隷汎族エータクス家の長男だった。

幼い頃からエレノアの遊び相手として仕わされていた。

彼は物を作る事に長けておりいつも何か作ってはエレノアに自慢していた。

エレノアはいつもその様子をにこやかに眺めていた。


彼女達は幼き日々から一緒だった為にいつしか互いに惹かれ合う様になった。

それはもう婚約を誓う程に。


「ねぇ、エレノア」

「なにかしらアル?」

「僕、大きくなったら・・・君と結婚したい!」

「まぁ、奇遇ね!私もよアル」


二人は愛を誓い合った晩、婚約したことをそれぞれの親に話した。

シャルリアンテ家では猛反対をされた。

当然のことだろう。

高貴な魔族の血族が奴隷の汎族と婚約を結ぶなどあってはならないのだから。

エレノアはその日、魔族と汎族、そしてエータクス家との関係性を延々と聞かされた。

その時は幼く[この世界の在り方]を知らなかったエレノアはショックを受けた。

けれどアルバートへの愛は捨てられず心の内にしまい込んだ。


エータクス家では渋い顔をされたものの反対はされなかった。

両親はアルバートの話を聞いている際、執拗にエレノアはどう思っているのかを尋ねてた。

愛を誓い合ったアルバートは確信を持って


「僕達は愛し合っているよ」


と宣言したのだった。


その真っ直ぐな瞳に何かを思った両親は、アルバートにエレノア同様に[この世界の在り方]を伝えた。

当然アルバートもショックを受けた。

しかし、両親の話には続きがあり「だけどね」と繋げた。


「だけどね、お前が頑張ればエレノア様と結婚できるかもしれない」


父に続き母が補足する。


「えぇ、私達汎族には魔法という便利な力は無いけど、あなたには発明という偉大な才能があるわ」


そして父が締め括る。


「あぁ。だからお前の発明がシャルリアンテ家の方々に気に入られれば、エレノア様との結婚も認められるかもしれん!」


絶望のどん底に一つの光が見えた。

その光は今にも消えてしまいそうな程弱く、近づくことすらできないかもしれない。

けれど零ではない、そういった希望が幼きアルバートに火をつけた。


「お父さん、お母さん!僕発明頑張るよ!」


アルバートは翌日、普段の比じゃない位に発明を進めた。


婚約を誓い合った翌日、アルバートは普段通りにエレノアの元に遊びに行った。

エレノアは普段通りいつもの場所にいた。

けれどその様子はどこか悲しげで絶望が滲み出ていた。

アルバートは普段とは違う様子のエレノアを見て酷く焦り、「どうしたの」と駆け寄った。


エレノアは駆け寄るアルバートを見ると堰を切った様に泣き出しアルバートに抱き着いた。


「アルぅ、アルぅ。私どうしたらいいの?」


エレノアはアルバートの胸でわんわん泣き崩れた。

アルバートは突然の事に戸惑いながらも小さい腕でエレノアを抱き寄せ落ち着くまで抱きしめた。

一しきり泣き続け嗚咽も収まった頃アルバートはエレノアを座らせもう一度


「どうしたの?」


と優しく尋ねた。


エレノアは途切れ途切れながらも昨晩のことを伝えた。

曰く、アルバートとの婚約に猛反対されたこと。

私たちの関係とこの世界の在り方を教えられたこと。

結婚は魔族同士じゃないといけないこと。

今日は親に無理言って合わせてもらえたけど、明日からはもう会えないとのことだった。

全て伝え終わった後、アルバートともう会えないという悲しみで再び泣きそうになった。

そんなエレノアをアルバートは、今度は力強く抱きしめた。


「大丈夫。心配しなくてもいいよ。僕がなんとかするから!」


アルバートは昨晩の両親との[作戦]をエレノアに伝えた。

エレノアは大層驚きとても喜んだ。

けれど心配そうにアルバートを覗き込んで


「もう私達離れ離れになることはない?一緒に暮らせる?」


確認するとアルバートは強く頷き


「うん!きっと上手くいくよ!」


再び強く抱き合うのであった。


以降のアルバートの躍進ぶりは、正しく革命と言えるものだった。

アルバートの発明の数々はシャルリアンテ家をそして魔族を、やがて汎族の生活を潤した。

そして年月が経ったある日、アルバートの偉業が認められた。

その結果汎族の莫大な人気と一部の魔族の後押しにより見事幼き日の誓い通りアルバートとエレノアは結ばれたのだった。

その時、お互いは20歳を少し過ぎていた。

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