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4話: 光

 その空間を一言で表すなら、「異様(いよう)」だろう。

 縦の長机を横に二つは置けるだろう広さに、奥に置かれた背の高い机と、それに向き合うべく小さな椅子が一脚。ほかは全て肖像画(しょうぞうが)、皿、鎧、宝石といった調度品が飾られている。

 赤い絨毯(じゅうたん)を照らす窓からの光と、それの裏側に(ひそ)む闇が交差し、独特の雰囲気を(てい)しているのか、それとも机越しに視線を送ってくる人物の威圧感によるものか。ありきたりな屋敷(やしき)の一部屋に過ぎないような顔をしておきながら、普通のそれからは感じられない独特の気配があった。

 ベルベットは、生半可(なまはんか)な覚悟で扉を開けたことを、もっと早めに後悔しておいた方が良かったかもしれない。

 奥には、穏やかな表情を浮かべて、恰幅(かっぷく)のいい男が一人おさまっていた。この屋敷の主にして公国の統治者、ガルデ公爵だ。


「ご機嫌はいかがかね?」


「申し訳ありません......」


「それはわしのセリフだ、サー・ベルベット。どうか(つら)をあげていただきたい。こんな朝早くに呼び出しをかけたことを許せ」


 ベルベットは額を床に擦り付けたい思いで歩み寄った。椅子を引くときまで一瞬とも目を合わせなかったのはそのせいだ。


天地創造(てんちそうぞう)から古の時代、黒の時代、月の時代、鉄の時代......これらを(あかつき)の時代と呼ぶようになって久しい(つるぎ)の時代。私の一族は、今に至るまで、暁の時代の傑作(けっさく)を集めることに一生を費やしたのかもしれないな。ところが、わしはこんな形ばかりの財宝に興味などない......!」


 公爵がいきなり体を震わせたが、ベルベットはビクともしなかった。今ここにいる理由を知りすぎている身には、決まり文句に反応することもできなかった。


「わしは確かに一族の末裔(まつえい)であるが、父や祖父、曽祖父などとは......」


「公爵どの! 自分は今度のことで呼び出されたとお見受けします。実力不足であったことはお見受けします。しかし......」


「ベルよ、そなたはそこまでの見通しを立てれる逸材(いつざい)だ! わしが一番そのことを理解しとるつもりだ。あれほど言っておいた。何故だ! あの少年を手放した我々に何が残っていよう? ヴェクトの連中はその気になれば人質ごとこの国を滅ぼしにくる」


「重々承知しておりますとも、公爵どの! ですがあの晩、公爵どのは私の作戦を受け入れてくださった。それがこんなことになってしまった後で、裏切られるとは」


「逆だ、信じていたのだ。近頃エルノの態度が良くなったときいて、それならと宴会に招き入れ、あの場で計画の発表をした。エルノもこれに賛同してくれるものと思っていた。何故なら、そなたがうまく育ててくれたと信じ込んでいたからだ。それがどうだ? 彼は鬱憤(うっぷん)をリノアのおかげで押さえ込むことができていただけ、挙句彼女からも突き放されては、ああもなろう。これは馬車の運転手に聞いた話だが、どうやら真実か。裏切られたのはわしの方だよ」


「エルナスのときはあんなにもうまくいったのです。同じやり方だ。なぜエルノは私の考えを理解しようとしないのか!」


「エルナスが本当にただのイエスマンだったと思っているのか?」


「と言いますと?」 


「ただ意見に流されるだけではあれは生まれない。共に鍛錬(たんれん)し、歩み寄ってくれるそなたの存在......それを信じて、彼は私事を押し殺し、そなたに従ったのではないか! 今のそなたはただ、がむしゃらに命令しているだけだ。そんなことでは人は動かん。互いに心を許し合うことができない相手に信用は生まれん。違うかな?」


「しかし......」


「まだ分からんのか、馬鹿者! エルノが心を閉ざしたままでいるのは、そなた自身が彼と向き会おうとしないからだ。そなたもエルノも同じ人間だということをよく考えろ。人を道具のように(あつか)うのは、独裁者のやることだ!」


 ベルベットは押し黙った。


「もう一度、やり直せ。計画はそれからだ」


 公爵は立ち上がり、何も言わないベルベットの肩に手をやった。そのときに聞いた「辛いな」というつぶやきを、忘れることはできないだろう。

 公爵がドアノブに手をかけてからも、ベルベットは座り込んでいた。しばらくして、ベルベットは颯爽(さっそう)と部屋を後にした。彼の決意は固まっていたのだ、

 陽がのぼり、辺りは一面の光に照らされた。

早いもので、1話からもう一ヶ月が経ってしまいました。今年中に終わるかなこれ......。

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