表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ヨシ子の手紙

作者: 魚宮つよし

 手紙、というものは時として面白いものである。


 今、私が手にしているそれも、例によって手紙であった。

 実はこの手紙、ほんの昨日から来ているものなのだが、その内容がまたよくわからないものであった。

 「明日の午前0時、パンダ公園で待っているわ。 ヨシ子」

 パンダ公園とは、私の家のすぐ目の前にある、パンダの形をした遊具がある公園の事だ。

 しかし、私にはヨシ子なんて言う名前の付いた知り合いは30歳年上の母以外は居ないのだ。

 もちろん、母親が今更私にこんな文章をしたためる筈がない。もっとも今、私と一緒に暮らしているのだし。

 仕方がなしに、午前0時に例のパンダ公園に行ってみると、やはりいない。

 はて、不思議だなと思い一晩過ごした、その後にまたやって来たのだ。この手紙が。

 その手紙には、やはり内容がよくわからなかったが、

 「なんで、昨日は来なかったの?まぁ、いいわ、今日の午前0時、また待ってるわ。 ヨシ子」

 どうやら、このヨシ子さんとやら、昨日律儀に待っていたらしい。私も待っていたはずなんだが。

 と、言うわけで、今日も待ってみることにした。


 「やはり来ない・・・」

 やはりというか、何というか、その例のヨシ子さんは来なかったのである。

 すると、その翌朝、また郵便受けをチェックすると、

 「二度あることは、三度あるってか。」

 また、あのヨシ子さんからの手紙が入っていた。

 なんとまあ、また不思議なことに、

 「なんで来ないのよ、今日の午前0時、待ってるから、来てね。 ヨシ子」

 また、同じような誘い文句で僕を待っているらしい、

 「このヨシ子さんも結構我慢強いな、三日も待ち続けるなんて。」

 と、言うわけで、私も三日連続で待ってみることにした。


 「来ない・・・」

 やはり結果は同じようだった。二度あることは三度あるものだ。

 もしかしたら、どこかに隠れて私を待っているんじゃないかと思って、探してはみたものの、やはりいない様であった。


 ところが4日目、その日の手紙はどうやら様相が大分違うようであった。

 「もう、あんたなんて知らない!もう待たないからね! ヨシ子」

 突然怒られても、こちらだって探したのだ。さすがにそれはないだろう、と例のヨシ子さんに言いたかったが、未だ会ったこともないので何とも言えない。

 と、ふと、切手を見てみると、

 「あれ、これ旧デザインじゃないのか?」

 そう確信を持った私は郵便局にその手紙を持っていき、

 「これ、だいぶ前に送られてきたやつですか?」

 尋ねてみた。

 「ええ、そうですねぇ、これちょうど30年前のものです。」


 30年前、その言葉にピンときた。

 そして、駆け出す、パンダ公園に。

 「ねえ、お母さん。この手紙。」

 パンダ公園には、ちょうど30歳の時に私を生んだ、母が居た。

 この手紙・・・そう言って突き出した。

 「あっ・・・」

 母親は驚いているようであった。

 「この手紙・・・どうして?」

 「そりゃ、私のもとに届いたからね。」

 30年かかって、と私は心の中で付け加える。

 「あらあら、じゃあ、この手紙・・・」

 「届いていなかったみたいだね。」

 私は付け加えるように言う。


 どうやらその手紙は、慕っていた後輩への手紙だったらしい。

 告白するつもりでこの手紙を書いていたらしい。

 しかし、4日たってもこの公園に来ないので、母は諦めて、そして今の私のお父さんと結婚し、今の私がいるらしい。

 

 「じゃあ、この手紙が届いていたら・・・?」

 「さあ、知らないわよ。そんなの。」


 きっと、この手紙が届いていたら、私は居なかったのだろう。

 そう思うと、この手紙が届かなかったことや、私が無為に過ごした3日間も、面白い。

 届かぬ想いもあっていいものだなと、そう思ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ