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死の地下通路

もうちょっと推敲したかったですが、時間になってしまったので上げます。

後ほど加筆修正するかもしれません。



 12



 それは幸運か、はたまた次の悪夢の入口か。

もうひとつの関係者用通路。そこに繋がる扉にはバーコードリーダータイプの鍵が備え付けられていた。ホワイトローズ城の上層階への入口にも導入されているそれは、キーの所持者から譲渡されたバーコードがなければ開錠することはできない。扉自体も分厚い鉄製で、有事の際には強固な防御壁となるはずだった。


 その扉が今、無防備に開かれている。


「暴力を用いて無理矢理開けたような形跡はないね……関係者がバーコードで開錠してここから出てったってことなのかな」


 扉や鍵を具に観察しながら中須田がつぶやく。扉を発見した依の言うところでは、初めから開きっぱなしになっていたのだという。


「だとしたら、どうしてそいつは扉を閉めなかったんだろう。この建物に現れた襲撃者から逃げるためにこれを開けたんだとしたら、敵が追ってこないように扉を塞いでおくのが普通だ。余程錯乱していたにしても、扉を閉めるっていうただそれだけのことができないなんてちょっと考えられないよな」


「透くんの言う通りだね。他に考えられそうなのは、そうだな……扉だけ開けて出て行かなかったケースとか」


 踊場の推測は、襲撃を逃れた者が襲撃者を建物の外に行かせようと、誘導のために扉を開けたのではないかということだった。しかしその生存者がどこへ行ったのかなど、これも疑問点が浮かぶ。


「おいおい、あんたら大丈夫か? 一番ありそうな展開を忘れてんじゃねーか」


 壁にもたれかかった依がケタケタと笑う。


「襲撃者がキーの持ち主からバーコードデータを奪って扉を開けた。これだろ。つまりあたしらはテロリストのケツを追っかけてくってわけだ」


「そーだよ透くん。一番最初にそれに思い至らなきゃ。バーコードの強奪って、まさに影羅ちゃんたちがやろうとしていることだよ?」


 そうだった……と若干の気恥ずかしさを覚えつつ、だとしたらキーを奪われたのは誰だろうと透は考える。やはり考えられるのは陵だ。先程この建物を調査した時には見つけられなかったが、やはり彼女はここにいてそして襲撃に出くわしてしまった。だとすると、建物のどこかに彼女の死体が転がっている可能性が濃厚になる。透が探し求めている「覚醒の雫」と一緒に。


「なぁ影羅。俺たちはここに残って探索を続けた方がいいかな」


「いやー、やめといた方がいいでしょ。こうしている間にもあの毒ガスが充満していってるんだよ。ここで陵眠を探すのはリスクが高すぎるよ」


 陵がいようがいまいが、毒ガスの脅威がある以上もうこの建物内にはいられない。この扉がどんな理由で開いているにせよ、一刻も早く移動はしなければならない。


「ねぇ、早く行かないとガスがここまで来ちゃうんじゃないの?」


「……ですね。では、この通路を進みます。階段になってますので、気を付けてついてきてください」


 今は進むしかない。11人は扉を通り抜け、その先の地下へと続く階段を降り始めた。

三十段ほど下ると再び扉が現れた。鍵はかかっておらず、踊場がノブを回すと奈落のような真っ暗闇が広がった。中須田が持っていた懐中電灯で照らすが、通路はかなり奥まで伸びておりおそらく一本道らしいということ以外は何も分からない。


「電気のスイッチがない……このまま進むしかなさそうだ」


「うそぉ……電気すらないとか最悪……」


 先程皆を急かす発言をしたばかりの来島が全身で行きたくないオーラを発している。

しかし踊場や中須田も一々宥めている余裕がなくなっており、来島に構わず先に進んでいってしまう。構ってくれないことを察した来島は舌打ちをすると、同じく二の足を踏んでいた更越の背中を乱暴に突き飛ばして言った。


「何ぼさっとしてんの? 盾になってよ。女性を守るのがオスの役目でしょ」


 突然のことに何も言えないでいる更越に畳みかけるように来島は続ける。


「正直あんたじゃ頼りないんだけど、他にいねーからさ。ここはあんたで我慢しとくわ。あ、そこの高校生。あんたはしんがりね。しっかり見張っとけよ」


「あ、はい……なぁ影羅。あの女こっそりやっつけてくれないか」


「いやー、あそこまで死亡フラグ立てまくってればそのうち勝手に死ぬでしょ」


 誰もが精神の限界を迎えていた。

喚き散らしている来島や押附はもちろん、ずっと押し黙ったままの田中や美原や更越も、何を考えているか分からない依や巻村も、リーダーシップを発揮して頑張っている踊場や中須田も、皆弾け飛ぶ寸前のように透には思えた。


「なぁ影羅……さっきの眼鏡の男の死で、この中に危険人物が紛れ込んでるのは決定的になったと思うんだ。影羅はどう思う? 誰だか目星がついてたりしないか?」


 最後尾を歩きながら透は影羅に語り掛ける。影羅は裏社会でも屈指の実力者だ。彼女の観察眼を以てすれば、紛れ込んだ危険人物を特定できるのではないか。

だが、透の淡い期待は呆気なく裏切られる。


「それがねー、分かんないの。そもそも影羅ちゃんはこの遊園地に足を踏み入れた時からずっと、全ての人間を疑いの目で見てたんだよ。だからもちろん、目の前にいる人たちのことだってガン見の凝視で観察してたわけ。けど……自分でも信じがたいんだけど、この9人から人殺しの気配を全然感じられないの」


「人殺しの気配……っていうと、オーラとか殺気みたいなもんか」


「それどころじゃないの。そういうものを隠そうっていう気配すら感じられない……この筋金入りで百戦錬磨の影羅ちゃんがだよ? だから今、正直ちょっとビビっちゃってるんだ。この中にテロリストがいたら、そいつはもしかすると影羅ちゃん以上の実力者、かも」


「おいおい、さっきどっしり構えてろって言ったじゃないか」


「いやーごめんごめん。ごめんついでにもういっこごめん。その場合、影羅ちゃんのことも気づかれてると思う」


「おいいいいいいいいいい……」


 これまで何が起こっても影羅が泰然としていただけに、突然の弱腰発言に透は思いっきり不安になる。

丁度その時、透の目の前で来島が更越の背中に衝突した。


「わっ、ちょっと何止まってんだよ。邪魔くせーな!」


 更越に悪態をつき、それでも収まらず蹴りまで入れる来島。だが気弱な青年は全く反応を見せず、かわりにゆっくりと後ろを振り向いた。

その額に、釘のような針が深々と刺さっていた。


「あ……ああ……ああああ」


 針が脳にまで達し、もはや思考能力すら残っていない更越はゾンビのように来島の上に倒れかかる。


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


 絶叫とともに来島は回れ右して逃げ出す。今度はその脚に針が撃ち込まれ、彼女はヘッドスライディングのように前のめりに転倒する。


「ああああ! いたっ、痛い! 痛いいいいいいいいいいいいいいいいいい!」


「綺麗、大丈夫?」


 駆け寄ろうとした田中の後頭部に三本目の針が撃ち込まれた。彼女は来島の隣に顔面からぶっ倒れたが、痛がるどころか声さえ上げなかった。即死だった。


「みんな気を付けて! 闇の中に敵がいる!」


「気をつけろって、どうすればいいのよ!」


「あー、こりゃこの道も無理だなー」


「ああああもうっ! いい加減にしてよおっ!」


 まるで米兵に取り囲まれたベトナムゲリラ兵。またしても敵襲を受けた哀れな生存者たちは、ついさっき降りてきたばかりの階段を駆け上がっていく。上はもうかなり毒ガスが充満しているはずだが、しかしここに留まっていればあの釘の餌食になるだけだ。


「影羅。闇の中にいる奴の姿が見えるか?」


「んー、無理っ! 目凝らしてみたけど全然見えない!」


 なまじ戦力を持ち、他の者より余裕のあった透はいい的だった。四本目の針が彼めがけて飛来する。


「はいっ!」


 それをフリスビーをキャッチする犬のような機敏さで影羅が止めてみせた。だが、もはやこの道が通行不能なのは明らかである。ここにはもう、透と影羅、そして来島しか残っていなかった。


「透くん、残念だけどこのルートもアウトだね。もう一か八か最初の扉を強行突破するしかないよ」


「そうみたいだな……」


 闇に紛れて待ち伏せされるくらいなら、まだ最初の扉の方が通行しやすい。それに、いつまでもこんなスタート地点でもたもたしてはいられない。こうしている間にも、十宗使徒は着実に標的へと近づいているのだ。


「はぁ、はぁ……あんた、まさかあたしを置いて行く気じゃないでしょうね?」


 踵を返した透の目に、うずくまる来島の姿が映った。

暗くてよく見えないが、かなりの出血をしている。それでも致命傷ではなかった。ここを離れさえすれば、彼女にもまだ助かる可能性はある。


「ほら、早くあたしを運んでよ。男が女を助けるのは当然でしょ! ねぇ何してんのぼけっとしてんじゃねーよさっさと助けろやノロマ!」


「行くよ、透くん」


 そこに何もないという風に、ナチュラルに通り過ぎる影羅。

当然の行動だった。彼女の最優先事項は栗夢の救出。それ以外の一切は余計でしかない。来島がこのような悪態をついていなかったとしても、影羅の行動は何一つ変わらなかったはずだ。


「無駄なことしてる暇はないからね」


「ああ? テメェふざけんなよ何だよ無駄ってよぉ!」


 全く躊躇なく歩いて行く影羅と、地面に転がり喚き散らす来島。

これまでに来島が見せた言動から、透も彼女に良い印象は持っていない。助けたいとも思えない。けれど、見捨てれば十中八九死ぬと分かっていて放置するという決断が、どうしても透にはできなかった。見殺しという言葉の通り、それは自分が殺すということに限りなく等しい。


「はぁ……分かったよ。透くん、残念だけど君は不合格です」


 そんな透を突き放すように、振り返ることもなく影羅は言った。


「影羅ちゃんは一人で行かせてもらいます。頑張って生き延びてね、透くん」


 棒読みで言い放つと、影羅はさっさと通路から出て行こうとする。

置いて行かれた透の足元へ、来島が手を伸ばす。捕まえたら絶対に離すものか。自分はこんなところで死ぬような人間ではない。ここはこの少年を利用してまずは上へと戻る。そうしたら残りのメンバーを最大限こき使って安全な場所に避難しよう。それから……


 そんな算段を巡らせている来島の手を、透は蹴り飛ばした。

何が起こったか分からない来島に透は言い放つ。暗闇の中で見つけたその答えを。


「悪いけど、あんたのためには死ねない。どうせ死ぬなら大切な人のために死ぬ。それであんたが死ぬことになったとしても、俺は何一つ後悔しない」


 呆然とする来島を置き去りにして、透は影羅の後を追いかけた。後ろからは、何も聞こえてこなかった。

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