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殺戮の檻に出口なし



 11



「な……何なんだこれは……」


 残留を宣言した不動依を除く生存者12人は、唯一の出口があるエントランスホールで呆然としていた。

大量の日本人形が出口に詰め込まれ、完全に退路が塞がれていたのだ。

隅から隅までみっちりと詰められた日本人形はどれもぼろぼろだった。これらは、ADPが緋斗潟村の開発を行った際に踏みにじられた人形たちであり、村内に設けられたゴミ捨て場「人形の墓場」から回収されたものだった。


「もういや! どうなってんのよここは!」


「これもテロリストの仕業……?」


 無情にも封じられた出口の前で、生存者たちは嘆き、喚き、立ち尽くす。

そんな中、思考力の残っている者は目の前の光景の矛盾を考察していた。この出口封鎖がテロリストの仕業だとしたら、自分たちをここから逃がそうとしたヘルメット男の指示と全く逆行している。どう考えれば説明がつくのだろうか。


(ヘルメット男はこれを知っていて、あえて俺たちに希望を与えてから突き落とそうとした……ヘルメット男はこれを知らず、他のテロリストが独断で行った……テログループの方針として出口封鎖は既定路線だったが、それを失念していたヘルメット男が間違った指示を出した……そもそもこれはテログループの仕業ではない……可能性として挙げられるのはこんなところか)


 どれもあり得そうだと思いつつ、透は三番目の可能性が気になった。

考えてみれば、あのヘルメット男の指示は不自然だ。あれだけ無慈悲な殺戮を行えるのだから、透たちだって殺してしまえばよかったのだ。それに、あの時は確かに救援が来ることはなかったが、鎮圧のための大部隊が押し寄せてくる可能性だってあった。ヘルメット男は自らを危機に晒して透たちを逃がしてくれたことになる。一体なぜそんなことを……?


「聞こえているか、邪教徒ども」


 突如、人形の壁の向こうから拡声器の声が割り込んできた。

敵愾心の籠ったその声に、生存者たちは瞬時に身構える。


「我々は緋斗潟村自治会。この出口の封鎖を行った者だ」


 封鎖はテロリストの仕業ではなかった。

自治会と聞いて、透は昨日の中須田の話を思い出す。揃いの黒い法被を着た危険な集団。決して近づいてはいけないと念を押されたその輩が、透たちを閉じ込めたのだ。

しかし自治会について何も知らない来島や、怒りで我を忘れている服田などは怒号を上げて食って掛かる。対して自治会を名乗る男は構わずに言葉を続けた。


「我々は人形の里の民として、御人形様の意思に従う。御人形様は、貴様ら邪教徒の抹殺をお望みだ。よって、我々がその理想を代行する」


 抹殺という単語に、食って掛かっていた生存者たちが怯む。

そして再び絶望がこみ上げる。ここから出られても、村から出ない限り安全ではないということなのだ。


「唯一の出口は閉じられた。村の出口も崩れ落ち、貴様らは二重の密室に囚われたというわけだ。徐々に追いつめられる恐怖に慄きながら、狩られていくがいい」


「ふざけるなあああああああああああああああああああああっ!」


 服田の絶叫が自治会の演説を遮った。


「何が封鎖だこんな人形ごときで! ぶち破ってやる!」


 彼は人形の壁に体当たりを食らわせて突破しようと試みる。だが、人形は強力な接着剤で固められており、柔道黒帯の彼が渾身の力でぶつかったところでびくともしなかった」


「くそっ、おい! お前らも突っ立ってないで手伝え! ここから出たくないのか!」


「危ないですよ……他のルートを探したほうが……」


「腰抜けが! 自治会だか何だか知らないが、所詮一般人だ。殺すなどハッタリに決まっている! お前らがやらないなら、この俺が……」


 五回目のタックルを仕掛けた瞬間だった、服田の顔が苦悶に歪み、そしてそのまま力を失ってその場に崩れ落ちた。


「うわあああああっ!」


 悲鳴を上げて飛びのく生存者たち。

ただ一人踊場だけが駆け寄っていったが、服田はほぼ即死状態だった。

踊場が人形の壁に視線を移すと、人形の中から針が突き出ているのが見えた。針に塗られた毒で服田は死んだのだった。


「これで分かっただろう」


 審判を下すように、自治会の声が生存者たちに言い渡される。


「貴様らに逃げ場はない」


 それは生存者たちにとってトドメの一撃に等しかった。

命からがら園内から逃げのびてきたと思ったら、出口は封鎖されており外では別の敵が待ち構えている。前門の虎後門の狼。状況は完全に詰みであった。


「きっと、彼らが待ち構えているのはここだけじゃないね」


 透の耳元で影羅がささやく。


「全方位に自治会の包囲部隊が配置されてると思った方がいいよ。だから今のうちに言っとくね。外に出る時は、外に出てからも、絶対に気を緩めないで」


「まるで、その時にはいないみたいな言い方だな」


「そりゃそうだよ。影羅ちゃんはミッションに臨む時はいつも死ぬ覚悟だからね」


 何でもないようにさらりと言う影羅。透が言葉を返す前に彼女は続ける。


「透くんは裏世界すごいすごいって言うけど、そのすごさは技量や場数以上にどれだけ心を決められるかなんだよ。心さえ決まっちゃえば、技量も場数も後から勝手についてくるの。死にさえしなければね。そんなすごい影羅ちゃんがついてるんだから、透くんはもっとどっしり構えてて」


 おませな少女のように透の脇腹をつんつんしてくる影羅。マジで小四女児にしか見えねーなと思いながら、透は心が少し軽くなった気がした。


「じゃないと、影羅ちゃんそろそろ一人で動いちゃうよ? 何だったらここにいる人間全員のしちゃおうか。結果的にテロリスト一人倒せるかもしれないしね……おや」


 何やら物騒なことを言い出した影羅だったが、何かに気づいたらしく視線を出口の方へと移した。つられて透も同じ方向を見る。

煙が出ていた。

恐らくは人形の間に差し込まれているのであろう細い管から、見るからに有害そうな黄色い煙が建物内に流入してきていた。


「透くん、急いでここを離れるよ」


 影羅が透の服を引っ張る。


「あの煙かなりやばい猛毒だよ。ちょっとでも吸い込んだら……」


「邪教徒ども、最後の選択だ」


 再び投げかけられる自治会からの声。


「ここで一思いに猛毒を吸って死ぬか、園内で十宗使徒になぶり殺しにされるか、壁を乗り越えて我々の餌食になるか。好きな最期を選ぶがいい。まぁどれを選んだところで、望んで訪れた楽園で死ねるのだから本望だろう」


「いやああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 来島、田中、押附、美原ら女性陣から悲鳴が上がる。

嵐堂、更越ら男性陣は絶句。唯一、巻村だけは何を考えているのか不敵な薄笑いを浮かべていた。


「踊場くん、どうする? あれがマジもんの毒ガスならいち早くここを離れなきゃだけど、そうなると園内に戻る他ないよね?」


「園内に戻るしかないのはその通りですが、それにも二つの道があります。一つはさっき僕らが通ってきた関係者用通路。もう一つは正門です。あの行動が読めないヘルメット男のことを考えると、正門から行くべきかと……」


「正門は無理だぜ」


 聞くものを不快にさせる嘲るような声。踊場たちがその方を見ると、園内に戻ると言っていた依が両手をポケットに突っ込みながら悠然と歩いてきていた。


「あ、アンタ! 今更何しに来たのよ!」


 そんな押附の噛みつきを当然のように流し、依は言葉を続ける。


「今あたし園内に戻ろうと思って正門に行ったんだけど、シャッターが下りてて通れなかったんだわ。きっとその人形の壁を知らなかったテロリストが出口を塞ぐ目的で下ろしてったんだろうね」


「そんなぁ……じゃあどこにも逃げられないってこと?」


 来島がヒステリックに叫ぶ。涙でメイクが崩れ、ただでさえ名前負けしている顔がひどい有様になっていた。


「最後まで聞けよ。その代わり、別の関係者用通路を見つけたんだ。そこ試してみねぇ?」


 場に期待と疑心が混濁する。もし本当にその通路を使えるのならば、この窮地を切り抜けられるかもしれない。だがその通路も安全だという保障はない。それにこの態度の悪い少女を信用していいのかという不安もある。


「その通路、どこにあるの?」


 中須田が依に問いかける。


「さっき通った通路の反対側だよ。出口を背にして、正面に正門、右側にさっきの通路。んであたしが見つけた通路は左側。位置からしてオフィスエリアに繋がってる説が濃厚かね」


 オフィスエリア。七導師の基本的な配置では、鬼頭紫紅と白塔秀一郎がいるエリアだ。もしその二人が健在でそこにとどまっていれば、うまくすれば二人分の入城コードが手に入るかもしれない。


「信じる信じないはご自由に。けど、フツーに考えりゃこの道しかないって分かると思うけどね」


 依の話を聞いている間にも煙は充満し続けている。もはや考えている時間はない。


「現状、彼女の発見したルートに賭けるしかない、か……」


「さっさと案内しなさい! ほら早く!」


 踊場と中須田は依の提案を承諾。押附は当然のように急かし出した。他の者たちもそれしか道がないとあっては従う他なかった。


「影羅、俺たちも一緒に行くべきかな」


 七導師が二人もいる可能性があるエリアに続く道。当然、十宗使徒に遭遇する危険性も高いことが予想される。


「いいんじゃない? 園内に戻れるならどこから行っても同じでしょ」


 影羅に異存はないことを確かめ、透も皆の後に続こうとする。と、その時背後で嵐堂が一人座ったままなのに気が付いた。


「あの、皆行っちゃいますよ。あなたも早く……」


 行きましょう、という前に嵐堂果摘の身体はぐらりと傾きそのまま倒れた。首筋に針で刺されたような跡があり、先程の服田同様、即死状態だった。


「っ……うそだろ……」


 透より少し遅れて、他の者たちも嵐堂の死に気付く。もはや、悲鳴も上がらなかった。


(どうなってんだよ……)


 決まっている。やはりこの中にテロリストが紛れ込んでいた。皆の注意が自治会や煙や依に集中しているその隙を突いて、嵐堂を殺してのけたのだ。そんな芸当ができるなんて、間違いなく凄腕だ。


「急ごう、早くしないと煙が回る」


 踊場に促され、透たちは服田と嵐堂の死体をそのままにして第二の関係者用通路へと向かった。


(誰だ……? 一体どいつが「+1」なんだ……?)


 犯人はこの中にいる。推理ものでお約束の展開。それが現実に起こり、その当事者になるということがこんなにも恐ろしいのかと、透は思い知らされていた。

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