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行動開始



 6



 20XX(回生十七)年7月17日、9時00分。


 六芒星をフリーハンドで描くと中央に大きな六角形と外側に小さな三角形が六つできるが、巨大な六芒星の形をしているロワイヨム・エトワーレも中央の六角形と外側の三角形六つの七つのエリアに分かれている。

中央の六角形が遊園地のメイン部分であり、石畳の広場だったり、木組みの町並みだったり、各種アトラクションだったりが広がっている。

外側の三角形はそれぞれ、上部分が園のランドマークであるホワイトローズ城、左上部分が居住エリア、左下部分が診療所や作業所を含むオフィスエリア、右上部分がビジター客用の宿泊エリア、左下部分が劇場やホールのエリア、そして下部分が入国管理エリアとなっている。


 入国管理エリアから先に進むことのできる開園時刻は10時だったが、「入国」手続きは時間を要するので8時半から受付が開始されていた。10時丁度に行動を開始するため、透たちは8時半ジャストに入国管理エリアに乗り込んでいた。


「手荷物検査に身体検査、両替そして入国審査か……本当に外国へ行くみたいだ」


 入国審査待ちの行列に並びながら、透は幼い頃に聡馬に連れられて行ったヨーロッパ旅行の記憶を思い出していた。


 基本的に一般入場者はこの入国管理エリアで以下の手続きを経なければならない。

まずチェックインカウンターでチケットの確認と身分証を呈示しての本人確認、その次は手荷物検査及び身体検査だ。この段階で持ち物は一旦全て園側に預け、入国後に受け取ることになっている。

また、園内に日本円を始めとする貨幣を持ち込むことは禁止されており、検査場に併設されている両替所でロワイヨム・エトワーレ独自の仮想通貨「ミラクル」に両替しなければならない。ちなみにADPの信者と一般人では両替レートと手数料が露骨に異なっている。

両替所で貨幣を渡すとタブレット端末「幸福の書」が支給される。ミラクルの使用、補充、残高確認はこれにインストールされている専用アプリで行う。アプリは園内専用SNSを兼ねており、入国審査時に使用者の個人アカウントが作成される。来場者同士の交流促進や園からの効率的な情報提供などが謳い文句だが、要は来場者を完全管理するための手綱というわけだ。

これらの行程を経て来場者は個人情報や装備を丸裸にされ、初めてロワイヨム・エトワーレに足を踏み入れることができるのだった。


「次の方、どうぞ」


 透の番になり、ゲートの女性がにこやかに笑って呼び寄せる。

このゲートを超えれば、いよいよ目的の地。


(ダンジョンに入る時の冒険者って、こんな心境なのかな)


大きく息を吐いて鼓動を落ち着かせると、挑むように透は歩を進めた。



 7



 20XX(回生十七)年7月17日、9時00分。

オフィスエリア、第四倉庫。


「うずうず、うずうず~」


「楽しみなのは分かるけど、口に出してる人は初めて見たわ」


「そりゃ出るでしょ! この日をどれだけ待ち焦がれたことか! ああ~早く切りたい、裂きたい、小間したいー!」


 開園時間まで一時間を切り、十宗使徒の襲撃に対してADP側も着々と迎撃態勢を整えていた。この部屋にいる一人の女性と二人の少女も一見すると遊園地のキャストのようだが、その正体は鬼頭直属の実力部隊「悪夢の手引書」のメンバーであり、その任務の開始を待っているところであった。


 そわそわと落ち着かない様子の髪の長い少女に、隣に座る癖っ毛の少女が微笑む。


「ジャックは、ほんとに切るのが好きだね」


「好きなんてレベルじゃないよ。なんてゆーか、あたしそのものだよね。切り裂けない人生なんてあたしからすれば無意味無価値のゴミカスよ実際」


「……」


「あーごめんごめん! シアは別枠だってばー! あーもうほら泣かないでー。あたしたちはずっと一緒、ね?」


 癖っ毛の少女をよしよしとあやす長い髪の少女を、彼女たちよりも年上の女性は微笑ましそうに見守っていた。


「いつものこととは言え、なんかもうここまでくるとウザイ通り越して尊さを感じちゃうわね」


 裂刀南瓜(ジャックナイフ)可憐毒花(ラフレシア)籠絡雌豹(ピンクパンサー)

三人とも鬼頭プロデュースの下、闇社会で殺し屋として実力を磨いてきた手練れである。愛らしい少女や美しい女性の外見でありながら、それぞれ三桁に上る人命を屠り、刈り取っている。そんな彼女たちを束ねる者こそ、


「みんな揃ってるね」


 裏社会最強の戦闘マシーン、自動人形その人だった。

セミロングのストレートヘアに赤いスカジャンといういつものスタイルだったが、今日の彼女は無表情の中に静かな闘志を漲らせている。先日喫した大敗北が、彼女の精神にかつてない緊張感をもたらしていた。


「おはよ。お、だいぶコンディション戻ってるみたいね。さすがオートマちゃん」


「当然」


「おはよっ! ねぇオートマぁー、まだ行っちゃダメなのー? 敵もう来てるんでしょー?」


「うん。だから、これより任務開始」


 数分前、自動人形は鬼頭に呼び出され今回の任務について改めて指示を受けた。

悪夢の手引書は教団にとって邪魔になる存在を排除するという本分に則り、七導師抹殺を掲げ乗り込んでくる十宗使徒に対しこれを迎撃、撃滅する。又、


「十宗使徒とは別の勢力、砦栗夢奪還を掲げる砦桜・氷神透を中心とする有志についても、同様に迎撃、撃滅する。というわけで、標的が増えた」


「いいねいいねー、切り裂き甲斐がアリアリだ!」


「可憐毒花と籠絡雌豹も、準備はいい?」


「うん。だいじょうぶ、だよ」


「いつでもイけるわよ」


 三人の仲間を見渡した自動人形は、行動開始を宣言する。テロリストでも何でもない、ただの高校生や中学生である透たちを攻撃せよという号令を。


「じゃあ行くよ。7月17日9時11分、これより悪夢の手引きを開始する」



 8



 20XX(回生十七)年7月17日、10時05分。

正面広場。


「無事に全員入国できたわね」


 入国管理エリアを抜けてすぐの正面広場にて、透たちは行動開始前の最後の確認を行っていた。効率的に捜索を行うため、ここから先は三手に分かれることになっている。


「えー、では改めまして、叢雲副隊長の居留間影羅(いるまえいら)ですっ。こう見えてもみんなより年上だからバンバン頼っちゃってね! んじゃそういうわけで、これからの行程を説明しまーす」


 先に園内に潜入して待っていた叢雲副隊長は、見た目十歳くらいの女の子だった。しかし本人曰く年上とのこと。くるみや蓬生は信じられないという風だったが、この数日でトンデモ人間を見まくった透は色々固定観念が壊されていたので「はいはい裏社会裏社会」と半ば思考停止しながら受け入れた。


「影羅ちゃんの見立てによりますと、栗夢ちゃんは十中八九ホワイトローズ城にいます! しかしここで問題が。一般来場者は城の上層階に上がることができないのです!」


 一度脱走している栗夢への監視は当然強いものになっている。影羅の調査によると、栗夢は行動の自由もなく一日中ホワイトローズ城の最上階に閉じ込められているのだという。

城の下層階は入場料を支払うことで入ることができるが、上層階はVIPエリアであるため厳重に隔絶されている。


「ではでは、十宗使徒の襲撃に晒されるリスク覚悟で前夜祭まで待つしかないのでしょうか? 否! 一般来場者でも上層階に行く方法があるのです! それは七導師から入場許可証を得ること! 入場許可証が二つあれば上層階に行けます! とゆーわけで、集めましょう入場許可証!」


 前夜祭の開演時刻=十宗使徒の襲撃時刻まで残り約七時間。それまでに二人以上の七導師を捕まえて城の上層階の入場許可証を入手し、栗夢を奪還しロワイヨム・エトワーレ及び緋斗潟村から脱出を果たす。それが、透たちが遂げなければならないタスクだった。


 透は、栗夢がいるというホワイトローズ城を見据える。遠い、そして高い。だがそこに辿り着く以外に栗夢を救い出す方法がない以上、やるしかない。


「入場許可証が二つ集まったら城の前に集合しましょう。それじゃあ、行動開始」


 透・影羅。

折衝相手:陵眠。

捜索場所:入国管理エリア。


 桜・くるみ・霧中。

折衝相手:白壁時音。

捜索場所:劇場・ホールエリア。


 巽・蓬生。

折衝相手:白塔秀一郎。

捜索場所:オフィスエリア内診療所。


 襲撃予想時刻まで、残り6時間50分。

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