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会合の後

お久しぶりです。

何とか戻ってきました。



 19



 20XX(回生十七)年7月16日、20時15分。


 緋斗潟村山中の山小屋・瞑仙庵から50メートルほど離れた木陰で、砦家特殊部隊・叢雲の隊長である霧中掟は機を伺っていた。


(テログループ・十宗使徒の構成員は十人。そのうちあの山小屋にいるのは九人。グループの頭は素性を隠し、村内に潜んでいる。決行前夜の最終会合は先程終わり、今は各々が自由に過ごしている。……つまり、一人ずつ消し去る好機ということ)


 霧中の雇用主である砦桜が十宗使徒メンバー・暮地美闇の荷物に仕込んだ盗聴器によって、彼は瞑仙庵で行われていた会合の様子を把握していた。

メンバーが集まり、一触即発となり、爆弾騒ぎがあり、果ては弾劾裁判を経てようやく場に落ち着きが訪れた。メンバーの凸凹具合からして放っておいても勝手に瓦解しそうな気もするが、頭である御人形様とその右腕である利根川の統率力を鑑みればそこまでの楽観はできない。


(一人でも多く、ここで葬っておく)


 霧中は気配を殺し、あばら屋へと一歩を踏み出す。

同時、まるで幽霊のように彼の背後に一人の人間が出現した。



 ☆



 20時5分、瞑仙庵・遊戯室。


(はああ~言っちゃった……)


 早くも精根尽き果てたといった有様で、美闇は会合が終わった後の卓に突っ伏していた。

会合の最中に急遽行われた標無鏡一の弾劾裁判で、美闇は大きな選択を迫られた。

標無をメンバーと認めず今この場で処刑するか、もしくは一蓮托生の覚悟を以てメンバーであることを認めるか。この一票がテロ計画の成否すら左右しうるというプレッシャーに美闇は圧倒されたが、しかしそれが臨界点を超えた時にあることを閃いた。

そして彼女は言った。


「認めるわ、このおじいさんのメンバー入り。それと、何が起きても運命を共にするってことを。……た・だ・し!」


 美闇は一呼吸置き、半ば自棄っぱちのような声で続ける。


「リスクを受け入れるからには、それなりのリターンを貰ってもいいわよね? 私も標的を指名するわ! 私が狙うのは精神掌握術師の陵眠よ。ぶっちゃけ、私は陵を殺すためだけにここまで来たの。陵は、私が殺す」


 一息に言い切った美闇は、後からじわじわ早くなる鼓動に揺さぶられながら皆の返答を待った。異論はなし。怖いくらいにあっさりと、美闇の陵狙いは承認された。


(あのサイコじーさんのお目付けはさせられるけど、陵を狙う権利は得た。……陵を狙う権利は得たけど、あのサイコじーさんのお目付けをさせられる。……うああー、場の流れとはいえ、大丈夫なのこれー?)


 黒歴史がばれた後のように、美闇は足をばたばたさせる。会合終了後他のメンバーは遊戯室を出て行き今は美闇しかいないので、自然と自分の部屋のようなしぐさが出る。


「お疲れかな? お嬢さん」


 にこやかな笑みを湛えて、利根川が部屋に戻ってきた。

リフトの恨みはあるものの、メンバーの中では唯一普通に話せそうな相手なので美闇の警戒心もいささか緩む。


「見ての通りよ……」


「だいぶ堪えたみたいだね。山歩き四時間の後に、闇の世界の人間とのぶつかり合い。一般人じゃ潰れるのが当たり前だよ。でも君は耐えた。残った。……よく頑張ったね」


「……う」


 突然かけられた優しい言葉に、美闇の涙腺は余裕で決壊した。

正直、利根川の胸に飛び込んでわんわん泣きたいとも思った。けど、今それをやったらもう立ち上がれない気がした美闇は、頭を更に沈めて嗚咽を漏らすにとどめた。


(なによ……なになになに何なのよ……急に優しい言葉なんかかけちゃってギャルゲーでもやってるつもりなの? 今更優しくするくらいなら、最初から……最初からそうしてよ!)


 今日一日、きつくて辛くて過酷なことの連続だっただけに、利根川の優しさは美闇の胸の奥深くへするりと入り込んでいく。そして、彼のサプライズは労いの言葉だけではなかった。


「一階の浴室のシャワーを使えるようにしておいたから、さっぱりしてきたらいい。今日の疲れと、余計な雑念は水に流してさ」


(コイツどんだけ気が利くの? もうリフトの件許す!)


 涙が止まるのを待って美闇は立ち上がり、利根川にお礼を言って遊戯室を出た。



 ☆



「ガッカリだぜじーさん。せっかく俺がワンチャンやったのに、もーちっと面白い展開にできなかったのかよ?」


「おやおや、これは手厳しいねぇ」


 傍から見れば祖父と孫にも見える二人、標無と徒花は瞑仙庵二階のテラスで雑談していた。


「まぁ、そうセカセカしなさんな。祭の本番はまだ明日。地獄絵図の顕現を報せる号砲が鳴り響けば、終わりなきあっしらの手番よ。真っ黒にも真っ赤にも、好きなように世界を塗り潰せやすぜ」


「大言壮語吐くなー」


 死神の顔で嗤う標無を、呆れた顔で見返す徒花。


 会合の最中に標無が起こした騒ぎ。徒花はそれに一枚噛んでいた。

部屋に爆弾が投げ込まれた時、一番先に視認したのは徒花だった。導火線に書かれた「更なる混沌を望むなら、虚偽による攪乱を」というメッセージも。

興味をそそられた徒花はメッセージの隠滅を目的として導火線を裂き、「向かって左側、階段正面の部屋」「相手は一人、そこに入った」という虚偽の証言で他のメンバーを欺いたのだった。


「いいのかよ、そんなハードル上げるようなこと言って。呑気に歩ってたら標的全部戴いちまうぜ?」


「いやいやお構いなく」


 挑発的な徒花の視線をふわりと流し、標無は極悪そのものの顔で言う。


「あっしは名もなき路傍の花を摘むことにしやすよ。丁度さっきのバスで殺し甲斐のありそうな少年たちを見つけやしてねぇ……」


 さっきのバスとは言うまでもなく、仏壇交通バスのことだ。あのバスの車内には透たち一行九人と他の乗客四人、運転士を加えた合計十四人の人間がいた。

氷神透、砦桜、六城くるみ、上枝蓬生、下枝巽、湯川雫、踊場廻、中須田珠、美原桃絵、不動依、吉野柚、押附良子、運転士。……そして、標無鏡一。


「雑魚専かよ、だっせー。ま、適当に遊んでればいいけど、人形からの指示だけは聞き漏らすなよ」


「お心遣い感謝いたしやす……おや」


 不意に、標無の目が宵闇に紛れて動く者の影を捉えた。

ほぼ同時に、徒花もその存在に気付く。


「なーにを企んでるんでしょうねぇ……どうしやす、徒花の坊ちゃん。泳がせるか、捕まえるか、どっちが面白いでやんすかねぇ」


「んなもん、泳がせるに決まってんだろ。自殺でもされて何も分からなくなったら気持ち悪いからな。あと坊ちゃんはやめろ」


 暗闇に潜む者を見つめる闇の世界の住人が二人。

刻一刻と漆黒の色合いを増していく闇の中、いくつもの思惑が漂い、交錯していた。



 ☆



「はー、気持ちいい……」


 お世辞にも綺麗とは言えない浴室ではあったが、肉体的にも精神的にも疲れた日のシャワーは問答無用で格別なもの。美闇はしばし全てを忘れ癒しの湯に身を任せた。


 本当に、本当に色々あった一日だった。

本番はまだ明日だというのに、今日だけで何度打ちのめされ、心折れそうになったことか。


(でも……私はここまで来た。手を伸ばせば目的に手が届くところまで。もう少し、もう少しよ。明日の今頃には、全て終わっているわ……)


 美闇はシャワーを止め、ひとつ大きく深呼吸する。


「終わらせるのよ……いらないもの、全て……」


 直後。


「おいコラァ! なーに気持ちよくシャワー浴びちゃってんだー? あん?」


 美闇のささやかな平穏は、暴力的な侵入者によって粉々にされた。

忌島瞬毅。九人の中で最も俗っぽく、下品で、野蛮な、美闇にとって最も関わりたくない相手がよりによってこのタイミングで湧いて出てくるとは、どこまで彼女は不幸なのか。


「あ……あぁ……」


 突然の事態と相手の威圧感に硬直してしまった美闇は、悲鳴ひとつ上げることができない。そんな彼女を見た忌島は、獲物をいたぶる野良犬のような蛮行を開始した。


「おい何だよこれ」


 下品な笑みの忌島は脱衣所の籠から美闇の下着をつかみ取ると、羞恥を煽るように掲げてみせた。


「これから殺し合いするってのに、随分カワイーのつけてんじゃねーか? 勝負下着ってやつかー? ひゃはははは!」


(嫌……嫌……嫌……!)


 美闇の目に涙が浮かぶ。先程の温かい涙とは違い、ぞっとするほど冷たかった。

だが、次に忌島が言った台詞が美闇を更なる絶望へと突き落とす。


「そうそう、これから殺し合いすっからよ、俺ら死ぬかも知れねーよな。いや俺は死ぬ気なんかねーけど、お前は多分死ぬな。だからよ……その前に、ヤっとこうぜ」

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