1日目午前 始まりの日
※こちらはCaravelと並行して更新しています。
ある日、僕は初めて恋をした。
その相手とは転校生の相田優美。7月半ば…この時期に転校とは珍しいな。なんて思うのは僕だけじゃないらしく、その日の休み時間には相田さんの周りにクラスでもお喋りな人が中心になって、人だかりができていた。
僕は本を読んでいるふりをして、会話を聞いていた。どこから来たのーとか、やっぱり転校の理由は親の転勤?とか、彼氏いるのーとか。いろいろな会話が聞こえる。相田さんは質問一つずつに丁寧に答えていった。しかし、なぜか転校してきた理由だけは話そうとしなかった。
この時点で、いつもの僕なら「そんなこと聞かなくてもいいじゃないか」と思うのだが今回は違った。むしろ質問を投げかける人達に、もっといろいろ聞いてくれと願っていた。
会話を聞くだけじゃ物足りず、ちらりと相田さんを見る。見た感じの印象は「お姉さん」という感じで優しそうだった。髪は少し長い程度…伸ばしているのだろうか。改めてみるとやはりかわいい。朝の学活のときにどよめきが出たのもわかる。じーっと見惚れていると、彼女がこっちを向いた。ちょっと戸惑ったような笑顔とともに「何か?」と聞く感じで首をかしげる。僕は慌てて顔をそらした。
ほのかに顔が火照るのを自覚しながら、ついさっきの相田さんの笑顔が脳内でフラッシュバックする。かわいい、と感じると共に胸が苦しいと感じた。もちろん、病気的なものではないことなどわかっている。二人きりで話してみたい、もっと近づきたいと切に思うのだった。
そんな俗にいうお花畑状態になっていると
「どうしたー?体調でも悪いのかー?」
唯一の親友、東条遥が話しかけてきた。
「あ、遥。いや、何ともない。大丈夫だよ。」
「そうかー。じゃあなんだ、授業でわからないところでもあったか?」
「いや、そうでもなく。」
努めて、今の心情を顔に出さないようにした。しかし、こぼれ出てたらいやだから遥から顔をそらすように外を見た。快晴なのにもかかわらず、数えられるほどしか生徒たちの姿が見えなかった。外を眺めながら、どうやったら相田さんと話せるか脳内会議を開く。
「そういや、次の授業、学活に変更だってよ。麻倉の授業だから転校生の歓迎会でもするかって。」
麻倉とは担任のことだ。国語専門であるが黒板に文字を書くときだけ、字が汚いのが特徴である…って、は?
「え、今なんて?」
僕は我に返り、若干大きめの声で聞いた。
「だから、次の授業、転校生の歓迎会に変更だってよ。クラスメイトの自己紹介とかするんだと。」
ちょっとめんどくさそうに言う遥。そのめんどくさそうなのは歓迎会のことか、それとも僕への反応か。
「まじ?」
現実を見れずにもう一度問いただす。
「まじなんじゃねぇの?そんなに国語の授業受けたかったのか?」
「いや、そうじゃないけど」
国語の授業のときは寝るから、嫌いじゃないけど。好きでもない。というか…どーしよ、えぇ…。計画狂ったじゃん…。
「はぁ…」
つい溜息が出てしまう。まさか最大のアピールポイントがこんなに早く来るなんて。今日帰って、しっかり考えて明日自己紹介って流れを考えてたのに。ここで失敗したら第一印象最悪じゃないか…。
「今日のお前、なんだか変だぞ。やっぱり体調悪いんじゃないのか?無理しないで保健室行けよ」
「ほんとにいいやつだな…遥。大丈夫。心配しないで。」
「お、おぉ、そうか。なんかありがと。」
あ、そうだ。
「遥は自己紹介どうする?」
遥のやり方を参考にしてみよう。クラスのムードメーカーであり、人気者であり、成績優秀な遥の自己紹介法。その理由が自己紹介にあるのなら、僕も遥みたいになれる。そう思った。
「え、どうするって?何を言うかってことか?普通に名前、趣味、一言的な感じだが…。まさか俺の自己紹介を参考にしようと思ったのか?言っとくが参考にしても何にもならないと思うぞ?」
本当に何にもならなそうだった。
また、少しだけ相田さんを見てみる。何やら今度は文房具の話に移ったようだ。筆箱とか、ペンとか何かいろいろ見せ合ったりしている。
「ん、ありがと。もうチャイムなるから席ついた方がいいんじゃない?」
「あ、ほんとだ。サンキュ。」
そういって、遥は自分の席へと戻っていった。なんとなく言ったのだが、まさか本当だったとは。ふと時計を見れば、いつの間にか休み時間が終わろうとしていた。相田さんの机の周りからも徐々に人がはけ始めている。
そういえば、家はどっち方面なのだろうか。おんなじ方向ならいいのだが…。
そんなことを考えていると、いつの間にかチャイムが鳴った。やばい。自己紹介どうしよう。噛まないようにだけすればいいか…。
1日目午前中、、進展なし。