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Perfect Day  作者: 高崎 祐
5/22

昼下がり

風が気持ちいい。


昼休み、私は屋上にいた。

ウチの学校の屋上にはフェンスがあるため、屋上は基本的に開放してある。ここに来たのは美菜子に今日は屋上で昼食をとろうと誘われたからだ。誘った美菜子本人は売店に物を買いに行っているため、今ここにはいない。ちなみに私は普段屋上にはあまり来ない。不良みたいな奴いるし。

グラウンドを見下ろす。昼間から飯も食わず

部活をする部がこの学校には少なくない。

私もたまには参加している。ただ、毎日

するとなるとなかなか厳しいものがあるので

週に1、2程度だ。それ以上は無理。



ふと、屋上が少し騒がしくなっていることに気がついた。見れば、私が立っている床より2mほど高い、換気扇などが置いてある正方形の一角に、いつの間にやら3人ほど男子が集まっていた。

その中に悠介の姿もあった。私の存在に気付いたらしく、ひらひらと手を振ってきた。

今日はよく奴に会う日だ。


「昨日のサッカー観たか?」


「あー、俺その時間もう寝てたわ」


「8時に寝てるとか、お前ジジイかよw」


思わず耳を傾けてしまう。

別に彼らの話が気になる訳ではないんだ。

ただ、聞きたくなくても聞いてしまう。

人間の本能とでも言っておこうか。



「ごめ〜ん、お待たせ」


美菜子が手を合わせながらやってきた。

その顔は申し訳なさそうにしていながらも、

なにか嬉しそうにも見える。


「大丈夫。で、お目当の物は買えた?」


「えへへ、じゃ〜ん」


美菜子は袋越しに戦利品を見せてきた。


「売店のお弁当、なかなか買えないんだよ?1日に5つしか置かれないから、だいたい行った時には売り切れちゃって、私3年生になって食べるのは初めて」


彼女は昔から食べることが好きで、部屋に

お菓子を常備しているくらいである。

それでもあのスリムな体型を維持出来て

いるからなんとも不思議なものだ。


「...本当に嬉しそうね」


「あったり前でしょ!この時を楽しみに

してたんだから!」


半ば呆れ気味の私に美菜子は嬉しそうに

答える。

蓋を開け、美菜子は弁当を床に置いた。

彼女は目を閉じ、


「いただ」


きます、を言う前に、私の本能が

再び働いた。

後ろで、


「シューート!!」


という声が聞こえたすぐ後、私の視界に

上履きが入ってきた。




後方から飛んで来た上履きは綺麗な弧を描き、着陸地点を確実に置かれた弁当の上に定めていた。

私にはそれがスローモーションのようにゆっくり、そしてハッキリと見えた。が、身体は動かず眼で確認することしか出来なかった。





べちゃ


上履きはまるで美奈子の喜びを踏みにじるが

ごとく弁当の上に覆い被さった。


「おい!シューズ飛んでったぞ!人に

当たったらどうすんだ!」


「わりぃわりぃ、まさかすっぽ抜けるとは......

ん?オイ見ろ、誰かの弁当の上にゴールしてんぞ!!」


「バカ、あれはゴールじゃなくて

ホールインワンだろ」


「俺ぁゴルフに興味ねーよ!!」


後ろでよくわからないやりとりが聞こえる。


「..........」


美菜子はぴくりとも動かない。

その目元は、前髪で隠れている。


「み、美菜子....」



「........ふふっ」


美菜子の口が月の形を描いた。

彼女のその笑顔に、私は凍りついた。

美菜子は、本当に怒った時逆上するのでも

黙りこくるのでもなく、笑うのだ。



悠介が、弁当の近くにいる私の存在に

気づいた。


「楓〜、それ、お前の?」


私は首を横に振り、彼らの後ろを指差した。

逆鱗に触れられた女神は、もう彼らの後ろまで

迫っていたことを彼らは知らない。





彼らは後ろを振り向き、何を思っただろう。



昼休み、太陽の下で男子の悲鳴が響く。

食べ物の恨みは怖いというやつか。

私はつくづく感じさせられた。



美菜子のために、パンでも買ってきてやるか。

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