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Perfect Day  作者: 高崎 祐
2/22

清々しい朝?

玄関のドアを開けると、家の前を見慣れた少年が

通り過ぎるところだった。

少年は私に気付き、


「あ、おっ」


す、を言う前に私はドアを閉めた。

何故この時間に奴がいる。奴はいつも遅刻ギリギリ

の時間に来ることで有名なんだぞ。

頭の中で思考を重ねていると、追い討ちをかけるか のようにインターホンが鳴った。

後ろから母の声がする。


「はぁ〜い、どちら様?」


「お早うございます。南です。」

げぇ、あいつ、チャイム鳴らしてきやがった。

インターホンのマイクの音量は大きめに設定してあ るため、インターホンから聞こえる声は私の耳に

ハッキリと届く。

「あぁ、悠介くん?おはよう。うちの楓なら

ちょうど今出たはずよ?」


「そうなんですが、彼女玄関のチェーン壊しちゃったみたいで、今出れなくて困」


私は勢いよくドアを開けた。私がこの前玄関のドア

のチェーンを壊して母にこっぴどく叱られたことを

この男は知っている。


「あっ、今出て来ました。チェーン壊れてなかった

みたいですね。お騒がせしてすいませんでした」


丁寧な口調で母との会話を終え、奴はこっちを見た。


「挨拶した瞬間ドアを閉めるとはな、傷つくぞ?」


軽い口調で言ってくる。


「なんであんたがこの時間にいるのよ。いつも

ギリギリに来てるくせに」


「気分だよ。てか俺毎日遅い時間に行ってないぞ?

テストの時とかは早くにいって勉強してるし」


私は自分から聞いたのにも関わらずあっそ、で

会話を強制的に終了させた。

こいつと話すと疲れるしイライラする。


「あれ?お前...」


悠介が何かに気が付いたように呟いた。


「何?」


私はキッ、と睨みつけ聞いた。


「いや、なんでもない。また後から話すわ」


本当だったらなんのことかと追及するところだが、

奴の言うことだ、どうせつまらないことだろう。


私はずかずかと歩き始めた。悠介は私の2m後ろ

あたりをすたすたと歩く。


「お前そろそろ大会だろ?朝練とか出なくて

大丈夫なの?」


悠介が聞いてきた。その話、ちょうど今朝

しましたわ。


「早く起きて走っても眠くなるだけだから」


「つかぬことを申し上げますが、貴女授業中よく寝 ていらっしゃいますよね?」


バカにするように、悠介は丁寧な言葉で言ってくる。


「...朝練出てないでそれなら、出た時どうなるか

想像つくでしょ」


「なるほど」


悠介は納得したような口調で言う。

聞かなくてもわかるだろ。


「あんた、書道部はどうなってんの?」


私は聞いた。話すとイライラするはずなのに。

まぁ、こいつとは幼稚園の時からの付き合いだ。

一緒にいて話さない方が難しいだろう。


「普通。昨日はせずに帰ったよ。5時から特番

してたから。...あぁ、でも夜にいくらか書いたわ」


悠介は最近の男子には珍しい「書道好き」な男だ。

なんでも、悠介の祖父はその道の先生だったらしく、

昔に教わって好きになったんだとか。


「イライラしてる楓から話しかけてくるなんて

珍しいね。なんか良い事あったのか?」


少し嬉しげに、悠介が言う。

ええ、いいことたくさんありました。

でもそれは、貴方によって帳消しに。


「別に、気の所為でしょ」


「気の所為かぁ」


テキトーに答えたのに、よく納得できるものだ。

将来、詐欺に合うな。多分。



学校が見えてきた。

県ではそこそこ大きな学校。偏差値も、それなりだ。


「やっと着いたぁ」


まだ15分くらいしか歩いてないが、ついこの言葉が

口から出てしまう。いけない。陸上部のエースが

こんなことでは。

そんな風に思っていると、後ろで悠介があっ、と

思い出したように声を出した。


「楓、そういえば...」


「何?」


今度は家の前で会った時と違う、普通のトーンで

私は聞き返した。


「言わないといけない事があるんだけど」


「だから、何?」


何故勿体ぶる。私は、なんでもスパっと言ってほし

い人間なのだ。






「お前、カバンは?」


「へっ?」


自分の両手を見る。よく見ると手ぶらだ。



....家にカバンを忘れた。


焦る前に、私の怒りの矛先は悠介に向いた。

悠介の胸ぐらを掴み上げ、


「悠介あんた!!私がカバン持ってない事

わかってたんでしょ!!?」


問い詰めた。


「うん、最初から。こいつ、カバン持ってないな、

って」


「だったらなんで言わないのよ!!?」


「だってお前が何も言わないから...」


悔しげに見つめる私に悠介が、


「でもほら、学校に行くときにカバン忘れるって、

買い物しようとしてサイフを忘れるような感覚で

愉快なんじゃないかなって」


悠介が少しにやけた表情で言う。

愉快なのは私じゃない、私を見てるあんたの方だろ。

てかこいつ、笑うの我慢してやがるな。


「殺s」


「ちょっと待て。今、俺を責める時間があるんなら

急いで取りに戻った方がいいんじゃないか?

あと5分ちょっとしかないけど、全国大会で上位に

いけるような野郎なら可能だろ」


急に真面目な表情をし、正論じみたことを口走る。

たしかに、走って取りに戻るしか道はない。


「あぁ!もう!覚えてな!!」


私は捨てゼリフを吐き、家に向かって走り始めた。


「いい朝だな、楓ちゃん」


後ろで悠介の冗談が聞こえる。

本当に覚えてろ。

戻ってきた暁には、

二度と立てないような体にしてやる。

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