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Perfect Day  作者: 高崎 祐
17/22

悩みの紙

1枚の紙が、私を悩ませていた。


悩む理由は、進学の事でも就職の事でも恋心でもなく、生理現象についての反省だった。

そう、今日の国現(国語現代文)の時間に、私は寝てしまったのだ。

私の机の上に教科書を落として私を起こした憎き北島は、『後から職員室に来い』と太々しい表情で言い、横で悠介が笑うのを堪えているのが見えた。その時は寝起きだったから大した反応は出来なかったが、今になって思い返してみると非常に腹立たしい。全部壊してやりたい。名言っぽく言うと。

ていうか、そもそも反省する理由がない。逆に、生徒が寝るような授業をする教師が悪いのだ。自分から子守唄を歌っておいて寝たら罰を与えるとはまさに下衆の極みそのものだろう。今までは『寝てすいませんでした』の1行で済ませて来たが、それは北島のいない瞬間を見計らって出していたり、他の教師に頼んで北島に渡してもらったりしたために出来たことだ。今回は、北島が自分に出せと図々しい注文をしてきた。つまり、1行では済まされない。まったく、面倒なこと極まりない。


しばらく考えてみたが、内容は1つとして出てこない。私は今日、家に帰れるのか。そんな事を考えていた。

すると、静まり返った放課後の廊下に、1つの足音が。何度も聞いたことのある、軽快な足取りの。


「先輩、まだ終わってなかったんですか?」


顔を覗かせたのは、凛子だった。

本当にいいところにやって来た。


「先生に頼まれて見に来たんですけど・・・てか、なんでちょっと笑ってんですか、怖いっすよ」


「全然進まなくて困ってんの」


「どれどれ・・・・・えっ、名前しか書いてないじゃないですか」


凛子は呆れたような顔をして言った。


「こういうモノって、テキトーに謝罪しとけばなんとかなるもんですよ」


「あんた、書いてよ」


「何言ってるんですか、嫌に決まってるでしょう」


「書きなさい」


「私が書いても筆跡でバレます」


さっきの笑顔と変わり、今度は睨んでみた。すると凛子は焦ったように、


「そんな睨まないで下さいよ」


目線を逸らして言った。


「私は書きませんけど、せめて内容だけでも一緒に考えますから。ね?」


「どんな風に書けばいいの?」


「そうですね・・・例えば、寝たことに対して後悔を感じてるとか、先生の授業を真面目に受けられなくて残念だ、とか」


「私は寝たことに対して1cmも後悔してないし、1mmも残念だとは思ってないんだけど」


「じゃあ、今回の寝た件で、これからどういう心構えで授業を受けるか、とかどうでしょう」


「いつもある授業で心構えとか言ってもどうも出来ない気がする」


「寝た次の日の課題を倍やってきますというのは?」


「それじゃループするでしょ。課題の所為で睡眠時間が潰れる」


「・・・帰っていいっすか?」


「帰さない」


「無茶苦茶じゃないですか」


「冗談。ちゃんと書くから」


凛子はため息をついて言った。


「心構えを書く方向でいきましょう。多分それが1番簡単だと思います」


「じゃあ、そうするわ」


私がそう言うと凛子は、疲れたようにして私の隣の席に座った。そして、机の中を見て、


「ここ、南さんの席なんですね」


少し驚いたような口調で言った。


「そうだけど」


「隣なんですか。いいっすねぇ」


相変わらず決めつけているみたいだ。


「あれからなんか変化ありました?南さんとの関係」


「別に。特に変わってないけど」


悠介の家で一夜を明かし、寝顔を拝見させてもらったなど口が裂けても言えない。

凛子が、悠介の机の中をごそごそと漁った。


「南さんどんな本読んでるんだろ・・・あっ、見てください先輩。南さんが読んでる本の主人公の名前、楓ですよ」


「勝手に人の物を触るんじゃない」


「とか言って、先輩も本当は触りたいんでしょう?ほらほら、今ならノートとかも触り放題ですよぉ?間接タッチ、したいんでしょう?」


悠介のノートをひらひらさせながら凛子が言う。


「・・・・・・」


「先輩、その目はダメですって。怖すぎます」


「睨まれただけで降参するなんて、あんたも意外とヤワなのね」


「先輩のは特別なんですよ。なんというか、蛇に睨まれた蛙の気分になれます」


先輩を蛇扱いするとは、凛子も度胸のある娘だ。


「で、どのくらい進んだんですか?」


「このくらい」


「まだ3行ですか。先輩、走るのは速いけど文を書くのは亀並みにノロマですね」


「いつからあんたは静かに人を罵倒するようになったのよ」


「南さんの小説に似たような表現がありました」


あいつは一体どんな本を読んでいるんだ。


「というわけで先輩も、睨むんじゃなくて静かに(ののし)るようにしたら南さんから好かれるんじゃないんですか?」


「そんなSM系な関係になんてなりたくないわ」


凛子は、えーー、と、まるで自分が成した発明を否定されたような風に言った。

当たり前だろう。



紙に文字は、一向に増えないままだった。

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