寝顔
目が覚めると、異変に気付いた。
天井の色が違う。ウチの天井は白色のはずだ。何故、濃い茶色になっている。私が寝ている間に、誰かが勝手に天井を塗り替えたか。それとも、天井の色を変えるという新手の妖怪か。
私は身体を起こした。ソファーで寝た所為か、身体の節々が痛い。そして、私の寝ていたソファーから少し離れたところで、悠介が寝ている。
流石に、何故悠介が私の家で寝ている、とまでは思わなかった。昨日、悠介が洗った食器を拭こうと待っていて、そのまま寝たのだろう。そこからの記臆がないから。
考えてみると、私は悠介の家で一夜を明かしたのか。ふと、パジャマの具合を確かめた。襲われた形跡は無いな。私は変な安心をし、立ち上がった。
今日は天気のいい朝だ。いや、今日「も」か。窓から日差しが明るく差し込み、鳥の鳴き声が聞こえる。
伸びをした時、テーブルの上に紙が置いてあるのを見つけた。
“起きたら起こして”
相変わらず女の子が書くような字を書く男だ。昔から書道をやってた所為かどうかは知らないが、悠介が手紙を書いて男子の下駄箱にでも入れておけば、その男子は間違いなくラブレターだと思うだろう。便利かどうかは、わからない。
起きたら起こして、か。
私は眠っている悠介の枕元で胡座をかいた。
目の前ですやすやと眠る悠介の顔を見て、私の脳は不覚にもある感情を覚えた。
可愛い。
目の前ですやすやと眠る悠介は、まるで子供のようで、いつもとは違って見えた。割と童顔だからそう見えるのかもしれない。喋らなければ格好いいとはこういうことか。
悠介の寝顔を見るのは、これが初めてだ。悠介は授業中寝ない人間なので、今まで見る機会は1度もなかった。起きたら起こしてとあったが、なんだか起こしたくない。起こしたら、可愛い悠介から可愛くない悠介になってしまう。なんというか、こんな弟が欲しかった。
しばらく眺めていたら、悠介の目が開いた。
そして直ぐ、頭の上に私がいることに気付く。
「お前か。枕元に居るから、あの世の使いかと思ったぞ」
「失礼、あんまり気持ち良さそうに寝てるから」
「人の寝顔を観察すんな」
「早く起きた人の特権ってヤツでしょ?」
「そんなの知らねー。てか、なんで嬉しそうな顔してんだよ朝っぱらから」
いけないいけない。顔に出てたか。
「別に。今日も天気いいなー、って」
「男子の家で寝て興奮でもしたか?気持ちわり」
「勝手に何言ってんのよ。あんたこそ、私が寝てる間に私に何か変なことしてないでしょうね?」
「するわけねーだろ。脚触ったくらいだよ」
そう聞いた瞬間、私は悠介の耳を引っ張った。
「いてぇ、バカ、止めろ!冗談に決まってんだろ!!」
「あんたの冗談、笑えないのよ」
私は悠介の耳から手を離した。
「いってーな。すっかり目、覚めちまったじゃん。寝直そうと思ってたのに」
それは残念なことをしてしまった。
「じゃあ、眠らせてあげようか?」
私が指を鳴らしたのと同時に、悠介が身体を起こした。
弱いな。男子の癖に。
目を擦る悠介を見ながら、私は悠介の寝顔を思い出した。
金の斧の泉に悠介を落としたら、あの悠介が出てくるのだろうか。
そんなことを、考えていた。




