最初の晩餐3
私はリビングに案内された。
悠介の家のリビングは、私が覚えているリビングと変わらなかった。やはり人数が少ないと、模様替えというものをしないのだろうか。
「座ってて。今、準備すっから」
私は椅子に座り、部屋を見渡した。
テレビの横にある写真立て、その中にある写真には幸せそうな笑顔で写る夫婦と少女、そして妻の胸に抱かれている赤ん坊。
悠介の父親は、悠介が生まれてすぐ交通事故で亡くなったらしい。自分の父親の顔を自分の目で1度も見たことがないというのはなんとも不憫な話だが、悠介自身そのことについてそこまで気にしていないみたいで、『俺が生まれる前に死ななくて良かった』とか言っていたのを思い出した。
「お待ちど」
そう言って悠介が私の前に皿をいくつか置いた。
薄い玉子が乗せられたカレー、そして生ハム、だろうか?色々と盛られたサラダ。
どちらもウチで出たことのあるモノだが、ウチのとは違い随分と綺麗だ。生ハムなんて、コンビニで買ったサンドイッチでしか食べたことはない。
「豪華ね」
そう言うと、悠介が
「ウチの母親がカレーしか作ってなくてな、即席で玉子乗っけてサラダ作ったんだが、そう感じてもらえたんなら良かった」
嬉しそうな顔をして言った。
ただのカレーを綺麗に魅せた悠介は、何か才能があるのかもしれない。
悠介が自分の分も持ってきて、席についた。
「じゃ、食うか」
「うん」
食前の合図をし、スプーンを持った。
「そういえば」
悠介が、サラダに入っているレタスを生ハムで器用に巻きながら言った。
「こうやって、2人でメシ食うの初めてじゃね?」
「たしかにそうね」
「不思議だよな。幼稚園に行ってた頃から仲なのに、2人で向かい合って食うのが初めてって」
悠介は染み染みと言った。
私は記憶の中から、悠介と食卓を囲んだ過去を探してみたが、やはり2人だけで飯を食ったことは1度もなかった。
仲が悪かったわけではない。
きっと巡り合わせが悪かったのだろう。
「考えてみれば、あんたの顔を見ながら飯を食うってのは、私からしたらなんか斬新な気がする」
「同感だ」
悠介が、にっ、と笑った。
「ちょっと話変えるけど」
「ん?なんだ?」
「涼子さん、どうしてる?」
涼子というのは、少し歳の離れた悠介のお姉さんだ。
「あいつか」
悠介が少し顔を顰めた。
「たまに電話してくるよ。母さんはどうしてるか、あんたはどうしてるか、って。まぁ、月に1回くらいだけどな」
悠介と涼子さんの仲はあまり良くない。
というか、涼子さんは悠介のことを嫌ってないが、悠介は涼子さんのことを嫌っている。つまり、一方的だ。
涼子さんには、私も奈那も世話になった。小さかった私と悠介を公園に連れて行ったりしてくれたし、生まれたばっかりの奈那をあやしたりもしてくれていたらしい。そういうこともあり、私も奈那も涼子さんには懐いているが、悠介は違った。
本人曰く、逆らったら何をされるかわからないらしい。私達にはそんな感じには全く思えなかったが、まぁ姉弟だと色々とあるのだろう。
「へぇ」
「嫁き遅れてるらしいからな。当分帰ってこないとか言ってた」
それは寂しい。
悠介からしたらラッキーか。
色々と話しているうちに、食事が終わった。
「私、洗い物するけど」
一飯の恩はこういうもので返さないといけない。
「じゃあ洗った皿を拭いてもらうから、ちょっと待っててくれ」
ソファーに座っていいぞ、と悠介が言った。
私は御言葉に甘えて座らせてもらった。
「楓、リモコン取って」
ソファーの肘を置くところに置いてあったリモコンを取って、悠介に渡した。
悠介がテレビのスイッチを入れる。
その瞬間、画面に濃厚にキスをする男女の姿が映った。
声は出さなかったが、少し動揺してしまった私がいた。
正直、気まずい。
私は悠介を見た。
悠介は、眉1つ動かさず、ぼーっと画面を見ていた。
そして、
「異性とこういうシーン観るのって、すげー気まずいな」
さらっと言った。
言うな。
言われなくても私はちゃんとわかっている。
「そうね」
気にしていないように、私は応えた。
悠介は私にリモコンを差し出し、
「なんか観たいのあったら変えていいよ」
そして、にやっ、とし、
「変えたくなかったら別にいいけど」
そう言った。
私は悠介からリモコンを奪い取った。
悠介はケラケラと笑っていた。
チャンネルを野球中継に固定し、私はソファーの背もたれにもたれかかった。
台所で食器を洗う幼馴染、一体どういう光景なんだろう。
夜は、更けていくばかりだった。




