【外伝】隣の別世界
「お前ってさ、奴村と付き合ってんの?」
昼休みの屋上、坊主頭の拓海がパンを口に含みながら訊いてきた。
「それは俺も気になるな」
隣でストローを咥えた章吾が呟く。
「付き合ってねーよ。その質問、前にもされた気がするぞ」
「いや、俺初めて訊いたハズだけど」
そうか、と俺は呟いた。
俺と楓が付き合ってるのか、という質問は、小学生の頃から何度も聞いてきた。男女の幼馴染と聞いたら、大体の人がそういう関係に思うらしいがそれは違う。そもそも、俺と楓はタイプが違っていた。楓は外に出て朝から晩まで遊んでいるような人間だったが、俺は奴に連れ出されない限り自分から外には出ようとしない人間だった。
そう考えてみれば、あの頃の楓は俺をよく連れ出していた。今では全く想像出来ない姿である。昔は可愛げがあったのに、今では人を平気で蹴るような凶暴な性格になってしまった。一体どこでレールから外れたのか俺にはわからない。
「でもさ」
拓海が嬉しそうな表情で、
「ちっちゃい頃から隣ってことは、昔、奴村と風呂とか入ったことあんの?」
気持ちの悪いことを訊いてきた。
あるわけないだろう。
ただ、単純に「無い」で返すのは面白味がない。
「ある、と言ったら?」
「羨ましい」
拓海の迷いのない答えに、横で章吾が飲んでいたモノを噴いた。
「きったね」
俺と拓海は口を揃えて言った。
「拓海ぃ、お前が笑わせるからだろ!」
「人の所為にするのは良くないと思いまーす」
拓海が白々しく言った。
「章吾、お前まさか拓海の話聞いて楓の裸でも思い浮かんだか?」
「マジかよ。章吾くん、キモチワルーイ」
「お前らウゼぇ!」
章吾が空になった牛乳パックを投げてきた。
拓海はそれを、食いかけのパンで打ち返した。
流石野球部である。
拓海に打ち返された牛乳パックは、ひらひらと宙を舞い、そして落下。無惨にも地面へ叩きつけられた。
あれは助からんな。
拓海も章吾も、下へと落ちていった牛乳パックには目もくれなかった。
「じゃあ、悠介は奴村のこと好きじゃないのか?」
拓海から奪ったパンを食べながら章吾が言った。
どうなんだろうか。
それはあまり考えたことが無かった。昔からの付き合いだから、異性としてそこまで見てなかったということもあるが、異性であることを忘れるほど頻繁には会っていなかったので、正直な話微妙である。
「嫌いじゃないけど・・・、普通だな。今のところ」
「『今のところ』ってことは、これから好きになる可能性もあるってことか?」
パンを盗られた拓海が章吾の手元に手を伸ばしながら言った。
「何が起こるかわからないからな、人生」
「急に悟ったな」
「パン返せ」
もう半分以上食われたパンを必死に取り返そうとする拓海の姿が不憫に見えて仕方ない。
この時、下階で墜落した牛乳パックが問題になっていることなど、誰も知る由もなかった。




