清々しい朝
大音量のベルの音で、私は起こされた。
起こされたと言っても、目覚まし時計のアラームを
セットしたのは誰でもない私自身であるから
「起こしてもらった」と言ったほうが正しいだろう。
一晩中閉じていた眼は開くことを拒むため、眼を
閉じたまま手探りで騒ぐ時計を探す。
(うっせーんだよ...クソ時計が...)
心の中で時計を恨む。
主人の要望通りの時間に正確に鳴ったにも関わらず、
文句を言われる時計は悲劇のヒロインそのものだ。
重い身体を起こし、カーテンを開ける。
朝だというのに、いや、朝だからこその晴天。
空を見ただけで、外の清々しさがわかる。
(今日は霧ないんだ)
そんなどうでもいいことを心の中で呟き、
あくびと同時にのびをする。
「楓!あんたまだ起きてないの?!」
母親の声がよく聞こえる。
「起きてるよぉ」
私も声をあげる。
まったく、朝っぱらから2階の私の部屋まで
よく声を届けることができるものだ。
そのエネルギーを、弁当のおかずの質に使ってくれ。
そうこう思っているうちにすっかり眼は覚め、軽快な足取りで1階のリビングに降りた。
トーストに目玉焼きとベーコン。
絵本の中に出てくるような朝食だ。
「起きるの遅過ぎ」
妹の奈那がケータイの画面から目を離さず呟く。
「あんたが早過ぎるのよ。...てか、朝ごはん食べてる時くらいソレ手放しなさいよ」
「お姉ちゃんには関係ないでしょ。あと、寝相
悪過ぎ。夜中にお姉ちゃんの部屋から大きな音がして
目、覚めちゃったんだから」
奈那は相変わらず画面から目を離さず言う。
なんとも可愛くない妹だ。
しかし私は、そ、と一言だけ言い、椅子に座った。
晴天の空、絵本の中の朝食。大したことでは
ないかもしれないが、それだけでも幸せを感じられる
私は今世界で一番の幸せ者だ。
「そういえばあんた、朝練とか出なくてもいいの?
陸上、そろそろ大会でしょ?」
母親がフライパンで何かを炒めながら食パンを
くわえる私に言う。
「何度も言ってるでしょ。朝練なんてやるだけムダ。あんな朝早くから起きて走るなんて身体に毒に
決まってるわぁ」
断言した私に奈那が
「流石、カリスマは違うのね」
と、珍しくおだてる。
もっと褒めろ妹よ、そして敬え。
心の中では得意げになりながら、まぁね、と
軽く促す。
「私、学校行ってくる」
奈那が立ち上がり言った。
思えば私はまだパジャマ姿のままだ。ゆっくりと
モーニングタイムを楽しんでいる時間はもう無い。
これから着替え、私も学校に行く支度をしなければ
ならない。なんとも面倒臭い限りだ。
食べ終わった後の食器を片付けなかったことに
またかと言ってきた母親の文句を台所に置き去りに
したまま、私は自分の部屋に入った。
真っ白のシャツ、瑠璃色のスカートを身に付け、
そして顔を洗い、歯を磨き、髪を整え玄関に
直行した。
今日は、なんでもうまくいきそうだ。
そんなことを思いながら、いってきますの言葉と
共に玄関のドアを開けた。