悲雪
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「貴様、主君の楽しみの邪魔をするのか」
「どうかもうお辞めに。この者は私の部下です。陛下のお命を護らせるため、私はこの者を陛下のお傍に置いてきました。…このような、残忍な仕打ちを受けさせる為ではありませぬ」
抱き抱えた部下の身体には太く長い矢が何本も刺さっており、その目からは生気がどんどん薄れていく。
「お前は私の部下だ。ならばお前の部下も私の部下だろう。下僕をどう扱うかは主君である私が決めることだ…ハァ、せっかく楽しんでいたのに。冷めた。止めを刺すなり生かすなり好きにせぃ」
金箔が貼られた豪奢な弓を投げ捨てると、ふてぶてしい顔をしたまま暖かく温められた屋敷の中へと入っていった。
「――さ、ま……」
「喋るな、今すぐ医者を呼ぶ。もう少し耐えてくれ」
「いや、私はもう――よく戻って来てくださいました。感謝します」
「口を開くなと言っただろ。……すまん、俺の考えが甘かったんだ。お前がこんな目に遭わされるとは……残るべきは俺だった」
部下は首を横に振った。
「あなたの代わりに死ねるなら本望。しかしこの先…不安です。あのお方に仕えていくあなたの事が。
――様、どうか良い主君を…」
そこで部下の目が大きく見開いた。口に多量の血が上ってきたのだ。ゴホゴホと吐血する部下の身体をさする事しか____には出来なかった。
「良い主君を、お選び下さい。ご自身のためにも」
そう言い残すと部下の目は静かに閉じられた。
骸と化した部下の身体から矢を抜き終わると空から白い雪が舞落ち血溜まりに溶け消えた。
見上げると沢山の小さな粉雪が自分を慰めるかのように優しく落ちては消えた。
男は息も凍る寒い外で冷たくなった部下と一緒にいつまでも雪を眺めた。