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04:凶弾のゆくすえ。

今回はかなり短めですね…。

《アルステルダム中心部 商業区 銀の羊亭 15:45》








 空斗たちが馬車に揺られて着いたのは、「銀の羊亭」という屋外レストランだった。

 道路より一段高い床にフローリングを敷いていて、客席には洒落(しゃれ)たパラソルが付いていた。

 店を見回すと、席の7割くらいが埋まっていて、ウェイトレス達が慌ただしく接客していた。

 

「ヒメミヤさん、それとお嬢さんはこちらの席にお座り下さい」

 空斗達はハウエルの言葉に従って、(はし)のほうの席に座った。


「実は私はここのレストランのおオーナーでしてな。お礼にここでご馳走させてもらいたいのです。なに、お代は勿論(もちろん)いただきません」

「いえ、そんな────」

 あくまで遠慮しようとする空斗だが、


「え?マジて?おっちゃん愛してる!!」

 カリンは相変わらずだった。


「おい、カリン。もっとお前は慎みをだな」

「つ、つつしみ?なにそれ美味しいの?」

「お前な────」


「まぁまぁ良いではないですか、元気があって。さ、じきに料理を運ばせますので、どうぞおくつろぎ下さい」

 そう言ってハウエルは去っていった。




✠ ✣ ✤ ✥ ✠ ✣ ✤ ✥





「ねね、ソラト」

 カリンは猫のようにすりよってきた。 


「なんだ?」

「私たちこれで准尉だね? 昇進だよ!!」

「そうだな」

「ええー。ソラトなんかぜんぜん嬉しくなさそーね。これで私たちやっと士官だよ? とりあえず乾杯でもしよーぜ!!」

「乾杯ってこれ水じゃん」

「まあいいじゃんいいじゃん。かんぱーいっ」

「はいはい────乾杯乾杯」


 カリンは右手で自分のグラスを掴んで、左手で空斗の手首を掴んで無理矢理乾杯させる。

 無機質で透明な音が鳴る。


「ふへへ、昇進おめでとー!! 」

 空斗はそんなカリンを見て思わず苦笑いした。

 



 空斗たちがそんなことをしているとウェイトレスが料理を持ってきた。


「おおーすげー!!」


 カリンが目を輝かせた。

 空斗も思わず目をみはる。

 それくらい見た目もボリュームも豪華な料理だった。 


「天におわします太陽母神よ、この恵みと(ほどこ)しにあなたの僕は深く感謝します───」

 カリンは早く食べたいのだろう、食前の祈りを手早くすました。

 天原(カエルム)教────大陸で広く進行されている宗教で、カリンの食前の祈りもこの天原教のものだ。


「いただきます」

 一方空斗の食前の祈りはカリンのそれと対称的なまでに短い。

 仏教徒でよかった────と天原教の長い祈りを見るたびに思う空斗だった。


 閑話休題。


「ふぇー、ふぇひゃふぉふぁふぉーふぉふどーひゃふの?」

「カリン、まずは飲み込んでから喋ろう、な?」

「────っ。ごくんっ」

「で、なに?」

「ねぇ、ソラトは昇進報奨金(ボーナス)どうするの?」

「あー。貯金?」

「夢ないねー」

「うっせ。そういうカリンはどうするんだよ」 

「実家に仕送り?」

「夢ねぇな」

「うるさいっ。実家貧乏なんだよっ」

「────すまん」

「ああ、いいよ、きにしないで」

「助かる」


「うちの家族、貧乏なのに両親がパコパコ子供生んじゃって生活大変なんだよ」

 カリンは(がら)にもなく、少し悲しむように呟く。  


「へぇ」

 ソラトはそう答えることしか出来なかった。


「でさ、そんな所に一人、魔術師が生まれるじゃん? それが私。家族は金の卵だーって言ってすぐ私を士官学校に入れたよ」


────魔術師に必要不可欠な資質は、魔力を生み出せる器官を体に備えているかどうかだ。

 器官は当然のごとく先天性のもので、他人の物を移植することも出来ない。

 よって魔術師の人工はかなり限られており、その分軍属の魔術師の報酬は高い。


「魔術師って普通魔術師の親からしか産まれないじゃん? 普通さ。 なんていうか、遺伝? そんなかんじで。で、私はその例外。私以外の家族はみんなただの一般人だったの」

「そっかそれで────」

「うん。魔術師は(もう)かるからね」


「お前も、いつもバカばっかりしてるのに意外と苦労してるのな」

「バカは余計だよ!!」

 


✠ ✣ ✤ ✥ ✠ ✣ ✤ ✥



 そんなことを話していると、いつの間にかやってきたハウエル・ロイドが空斗達に声をかけた。


「ヒメミヤさん、申し訳ありませんが────」


 ハウエルは奴隷のソフィアと身なりの整った30歳くらいの男性を連れていた。



「────この方と相席していただいてもかまいませんか?この方も私の私的なお客様なのですが、生憎(あいにく)と空いている席があませんで」


 空斗はカリンに問う。


「べつにかまわないよな?」


「ん? 私は大丈夫だよ?」


「ありがとうございます。 代わりといってはなんですが、ソフィアに給仕をさせます。なんなりと使ってやって下さい」


「い、いや、そこまでしなくとも────」


 ソフィアのような常に主人の世話をする高級奴隷に、来客の世話をさせることはホストの最大限のもてなしとされている。


 空斗はどこかでそんな話をきいたことがあった。


「いえ、本当は私の館でもてなすべきところをこんな店で、しかも相席させるなんてお恥ずかしい限りです。どうか私のきもちを受け取ってください」


「────わかりました。お言葉に甘えます」


「申し訳ありません。では、私はこれから用がありますので────」


 ハウエルはそう言って去っていった。



✠ ✣ ✤ ✥ ✠ ✣ ✤ ✥



「────では失礼させてもらうよ」


 入れ違いに席に座ったのは、ハウエルが客だと言っていた人だ。


「こんにちは、私はカール・テオドール・ダールベルグというものなんだが」


「どうも、空斗(ソラト)姫宮(ヒメミヤ)です」


「カリン・ツェルフェンです」


「そうか、二人の邪魔をしてすまないね」


「いえ、気にしないでください」


「助かるよ。僕はハウエルの知り合いでね。ちょっとした用でここにただ飯をたべることになったんだよ」


 大佐は一度言葉を区切った。


「ところで、二人は────」


 大佐は空斗のカリンを交互に見比べる。


 そして、戯っぽく笑った。



「────恋人同士かな?」



「はい!! そうで───」


「ち、が、う、だ、ろ!!」


 元気よく即答するカリンを、空斗は全力で遮った。


「俺とカリンは、士官学校のただの同期です」



「士官学校か────。懐かしいな」


「通ってたんですか?」


 空斗はフォークをいったん休めた。


「ああ、大部(だいぶ)前にね」



「ていうことは、いまは軍に?」


「ああ、大佐をやらせてもらってるよ」


「失礼しました!!」


 空斗とカリンは立ち上がって敬礼する。


 空斗達は准尉だから、大佐は遥か上の階級になる。


「まぁまぁ楽にしなよ。他の人なら知らないけれど、僕には私人としてふるまってる時までそんなに堅苦しくしないでもいいよ」


「は、はい」


 空斗達はそう言って座った。




 すると。


「あ、あの。なにかお申し付けくださいっ」


 奴隷の少女、スフィアが恐る恐るという風に空斗に申し出た。


「頼みたいことって言っても、特に何もないんだが────」


「そんな困りますっ」


 スフィアは本当に困ったように眉を寄せた。


 心なしか目も泣き出しそうなほどう潤んでいた。


 空斗はそんなソフィアをみて何故か罪悪感を覚えてしまう。


「わたし、ヒメミヤ様の給仕をまかされたので、なにかしないと、そのご主人様に────」


「ぬ、ぬぅ」


「おいおい、そこまで言われたのなら何かしてあげるのが男の甲斐性ってもんじゃないか」


「そうだよ、ソラトのへたれ!!」


「わ、わかった、わかったから。────そうだな、じゃあこのおかわりを頼む」

 空斗は(から)になった皿を差し出した。


「はい、わかりました!!」

 ソフィアは顔を輝かせて、店の奥へ向かおうとした。





─────瞬間。


 乾いた音が響いた。


 その直後、火薬特有の匂いが嗅覚を刺激する。


 その音を切っ掛けに、あれほど賑やかだった店が急に静かになった。


 誰も物音ひとつ立てず、ただ固まっていた。


 そんな中、人の倒れた鈍い音が空斗のすぐ近くから聞こえた。


 その音のほうを見てみると────。


「そ、ソフィア────?」


 ソフィアが脇腹から血を流して倒れていた────。

 


 

あんまり話すすまなかったですね…。


・アルステルダム駐屯軍。

 アルステルダムを実効支配しているアテネの軍。

 総司令官はアクセルロッド総督が勤めている。

 空斗達はここに属する。

 駐屯軍は統治政府としての性格が強いアルステルダム執行府軍と、単純な武装組織であるアルステルダム方面師団に別れている。

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