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無職聖女ジャンヌダルク

ジャンヌダルクと虫歯治療

作者: 束間由一



 私は、ジャンヌダルク。

 この現世日本に「十字まもり」と言う美少女の体に転生した。



 この前、なに歴だが何様だったか忘れたかの予言で「世界終末の日」が訪れたが基本的に何も起こらなかった。私はその日、右下の犬歯に虫歯が出来た(ジャイアントカプリコとか菓子類を食べすぎたツケがが回ってきた)ので歯医者に行っていたのだが、あんなところで死んでしまうのはいくら一度命を落とした身とはいえ勘弁願いたい。横になったままあんぐりと不格好に口を開けて、歯をあのキンキンと耳障りな音で削られている最中に死ぬなどと言う事は、まるであの愚かしい外道テッサロンに殺されるより悔しさ極まる話である。


 しかし、歯医者と言うものはなぜに心休まらぬ雰囲気を持つのだろうか? まるで、古戦場のような微妙な緊迫感があそこには存在する。待っている客の表情にも何と言うか、ちょっと緊張のようなものがみられるのだ。確かに、あの歯を削るという所作は短時間だが痛みを伴う、私は前世に矢が体に刺さったり、燃え盛る炎に焼かれたり、大切な仲間を失ったりと壮絶な痛みを経験したが、この現世のぬるま湯の中に浸かる者たちにとっては、この程度の痛みでも相当にツライのだろう。人は、余程の倒錯者でもない限り苦痛を好まないのだから仕方のない話であるが、やはり私から見ると彼らは気弱に見えてしまう。まず死にはしないのだからどんと構えればいいと思うのだが、やはり削られる……つまり歯の一部或いはそのものを失う可能性があると言うのも彼等にとってはこれも小さからぬ不安材料なのだと思う。「覆水盆に帰らず」とか「零れたミルクを嘆いても無駄だ」とかいうことわざもあるが、まったく失われたものは取り戻せない事が多いのだから世の中と言うものは辛いものである。しかし、人はその中でも、神の声を失った今でも行き延びてきたわけであり、それが進化の引き金となったのかもしれない。


 さて、かく言う私も歯の一部を鉄の針で削られて失った。

 そして、そこには銀のはめ物がかぶせられたのだが、これは寧ろ好都合と言っていいだろう。何せ、銀と言うものは腐死者(アンデット)吸血鬼(バンパイア)を寄せ付けぬ力がある。奴らが仮にこの日本に現れて、私に襲いかかったとしても、口を開きこの銀のかぶさった犬歯を見せれば、奴らは怯え、たちどころに逃げ去るに違いない。だから、諸君も銀歯や銀のはめ物が口内にあっても悔やむ事は無い……むしろ、最高な防護装飾を得たと喜んで良いのだ。((もっと)も、今の私にはフラガラックがあるから銀歯が無くても何とかなったりしそうだが……)



 しかし、つまるところ、なるべくなら、できることなら、歯医者には行きたくないところである。

 






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