閑話:ランス・アイルズバロウの報復 -2
閑話の続きです。
「このたびは、娘がとんでもないことをしでかしてしまい、誠に申し訳ない。」ワイラー伯爵は調べたとおりの人柄だった。 令嬢のほうは、顔色が悪くうつむいたままだ。
「ご令嬢。この件について、あなたから直接お伺いして私は処分を決めようと思っています。平民出身の私で申し訳ないのですが、私の質問に答えていただきたい。よろしいですね」
家柄を鼻にかけてベルをあざけった令嬢に、ちょっと嫌味を言ってみる。
令嬢は「い、いいえ!そ、そのようなことは、・・・・」と答えて、うつむいたまま。
知られた名前には弱いのか。それとも、悪いことをしたという自覚があるのか。
「さて。まずは最初に、どうして「ベルカフェ」の店主にあのようなことをしたのですか?」
「ジュード卿は父に頼まれて、私と会ってくれました。でも・・・・「父に頼まれたから」であって、「喜んで会って」くれたわけじゃない。
わたくし、ずっとジュード卿にあこがれていましたの。またお会いしたくて、ジュード卿の行動を探って・・・・偶然をよそおってジュード卿の行く先に着飾って現れても、卿はいつもの顔で一言挨拶をして通り過ぎてしまう。
でも、誰ともつきあっていないことは分かっていたから、機会があればと思っておりました・・・・なのに」ここでうつむいていた令嬢の顔に怒りの兆候が出てきた。
「なのに、ジュード卿は一度あの店主に出会ったとたん、あんな店に週に一度は通い、夜会やパーティのときには見せないような心から満足している顔をしておりました。
家柄もない、パン屋の娘なんかジュード卿はふさわしくないわ。ふさわしいのは、わたくしのような身分と家柄がある人間に決まっております。」
令嬢、全然反省してないな。面白いことにベルのことをカフェ店主としか認識していないようだ。詳しく調べずに誘拐したのか。そうかそうか・・・・顔面蒼白だったのはジュード卿の言葉のせいか。自分は家柄も身分もあるから、軽い処分ですむと思ってるわけだ。
甘いな、お嬢様。私は顔がニヤリとしないように気をつけた。
「なるほど。では私からもお知らせしないといけませんね。あなたが“家柄もない、パン屋の娘”と称した女性はベル・アイルズバロウと言いまして、レナード・アイルズバロウ治療術士の孫娘で、私の姪です。
確かに私たち一族は平民ですが、なぜか色々な所に顔が利く・・・・おや?どうされました。顔色がよくありませんよ」令嬢の顔は今度こそ、色を無くしていた。
「知らなかった・・・知らなかったのです!!ほんとうに。わたくし・・・」
ワイラー伯爵は「おまえは、何をしてくれたんだ・・・・ほんとうに、どう謝罪すればいいのか・・・・」と、うめくのみ。
伯爵を責める気は毛頭ない。こちらとしては罰を受けるのは、事を起こした令嬢だけでいいのだ。
読了ありがとうございました。
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本編をお待ちの方がいらっしゃいましたら申しわけありません。
こちらの話は次で終わります。
それにしても高慢な話し方って難しい。
令嬢の高慢な感じ、出てるといいな。