二千四年九月十五日(日曜日)・2
あまり盛り上がらないエンディングを終え、私たちは近くにあるファーストフードに寄る。
流れるように自然と足がここへ向かってしまうあたり、立地というのは重要なんだなあと、ポテトを摘まみながら考える。水城先輩はハンバーガー。それも八個。また増えている。少し前まで七個だったのに。この年と図体でまだ成長でもするつもりなのか水城先輩の身体は。私なんか一つと半分も食べたら胃がもたれるのに。少しでいいから身長を分けてほしい。二十センチほど差っ引いても、まだ平均身長は優に保てるのが水城先輩。
「行喜名は、面白かったか、あの映画」
映画を見に来る時の決まり文句。映画が面白かろうがつまらなかろうが、取りあえずそうやって私の感想を聴いてくる。
「多分、水城先輩と同じ感想です……けれどまあ、興味深い内容ではありました」
「……やっぱり、その……」
「大丈夫です。まだ私は好きな男性がいません。私を水城先輩だけしか考えられないようにさせられるチャンスは今のうちですよ? 嫌でしたら、もっと沢山、私が水城先輩のことだけを好きになるように努力してください。たとえば、いいところにエスコートするとか」
そう言って私は、水城先輩の手をぎゅっ、ぎゅっ、ぎゅっ、と三回握った。いつもは水城先輩が私にする行為なだけに、意趣返しだ。
エスコート、という単語に水城先輩は腕を組んで唸る。いつもは私の方が主導だから、優位に立つことに慣れていないのだ。まあ、いいだろう。そのうち水城先輩も私を喜ばすツボを見つけるに違いない。その時まで無表情を貫くか、笑顔を振りまくか。
それにしても。
どうして私はこう、威圧的な態度しか取れないのだろう。もっと素直になりたい。なりたいのに、努力することすらも出来ない。私の心の動き一つで全てが変わってしまうこの危うさ。こんな関係は嫌だ。私さえ、私さえ……。
何処かからか最近のJポップが流れてくる。隣の席に座っている、私と同じ歳くらいの女。ルーズソックス。ああ、やっぱりそういった人種。もう絶滅してもいい頃合なのに、街中に出ればたまに見かける。そんな三人組が携帯から、大音量で音楽を鳴らしていたのだ。それを聞きながら、「やっぱ愛ってセツないよね~」なんてしたり顔で語っている。
何が愛だ。お前らは胸が押し付けられるような思いなんて、恋愛以外でもなんでもいいから、したことがあるのか。
はっきり言って迷惑。周りのことを見てなんかいない。最近の曲は「大好き」とかを軽く歌ってしまうから大嫌い。しかもそれを聴く層というのもまた軽い連中ばかり。そうでなくとも、こんなウザい連中が聞く曲というのはメロディーだけで嫌悪する。しかし耳というものは意識して聞かないように努めると、むしろ聞き取ってしまうもの。イラつくけれど、妙にこの歌手は発音がよくて歌詞までが自然と耳に入ってしまう。
好きな人に素直になれない、といった旨の歌詞だった。例に漏れずやはり軽い曲調。これを歌っている人は本当に素直になれない人の気持ちを知っているはずがない。そんな甘い感情ではないのだ、これは。
「……分かった。じゃあ、次は――」
やっと思いついたのか、水城先輩は行き先を告げる。
その場所は、まあまあ悪くない判断だった。