九月十八日(水)・2
その夜。もう三日目となる、家族の顔を突き合わせての食事を終え、記憶と比べるとやや狭苦しく感じるバスタブに身を休め、さあもうすることがないから寝ようといった段で、私は昨日、一昨日と続けた、兄の部屋への侵入を決行した。
「なあユキぃ。これってどう解くんだよ」
部屋に忍び込むと、兄は情けない声で私に助けを求めた。
「なになに、数学」
兄の心情を理解してか、問題を解くのに使っているノートまでくたくたになっているような気がする。何度も解いては、間違ったところを消しているせいで、すでに紙がよれよれだ。そこまでして頑張っている問題とは一体どれほどのものかと見ると、『右の図で△ABCと△CDE はともに正三角形である。このとき△BCD≡△ACE を証明せよ』と、あった。
「……二年生の範囲なんだけどこれ」
兄の学年なら一年前に通過したであろう範囲だ。
「むしろ三年の因数分解とか平方根のが簡単だって。証明とかマジでわかんねえ」
「あー……確かにそれはある」
高校へ進学する受験生が数学で一番悩むのは、おそらく証明なのではないだろうかと私は考える。定規で測って、同じ長さなのが分かったのならそれでいいのではないかと。問題の出題者はそれ以上、一体何を望むのかと。解けないうちは、理解し難い分野だ。
「三年って言ったって、せいぜい半年分くらいの範囲しかないんだし、出るのはほとんど二年生のだからね。私もそこは苦労したよ」
とはいっても兄は、別に基礎レベルでつまずいているのではない。難関高校向けの、上級な参考書を使ってこれだ。兄の使っているノートを見てみると、どうやら基礎はほとんど固まっている。なら、応用で躓いているということか。いくつか要点を抑えて説明すれば、きっと兄は理解してくれる。
「――ということで、④、⑤、⑥より二辺とその間の角がそれぞれ等しいので△BCD≡△ACE。きゅーいーでぃー」
兄のノートにさらさらと書きながら説明をする。
ちなみに最後の部分は可愛らしく言ってみた。……あんまり可愛くなかった。私みたいにぶっきらぼうに言えば誰だってそうか。つい恥ずかしくなって、頬をぽいぽりと掻いて誤魔化す。
「おお、そんな考えをすればいいのか。参考書だけ、っていうのはは当てにならないなあ」
ガン無視されるとそれはそれで。
「菜瀧は昔からこういう問題を出す傾向にあるからね。確実にここで点を取らないと」
あまり手に馴染まない兄のシャーペンを回しながら私は教える。
「随分滑らかにやるなそれ」
「お兄ちゃん直伝ですから」
対抗心を燃やしたのか、兄も鉛筆を取り出して、くるくると回した。
「さすがに本家は違うね。私はまだスタンダードに回すことしかできない」
「慣れだよ慣れ」
「じゃあ、問題にも慣れようか」
うまい具合に勉強方面へ誘導できつつ、開いていた二ページ分を片づける。有難いことに兄は知識をどんどん吸収してくれる。片っぱしから教えることをどんどんと覚える。スポンジどころか、吸水ポリマー。そのおかげで教える方としても、とてもやりやすかった。
終わったあと、兄は大きく伸びをしながらこう言った。
「っていうかユキってさあ、どうやって菜瀧に合格するだけの学力伸ばしたの? 分数の掛け算割り算すら満足にできなかったよなあ?」
「それはチビ私の話だよ。……まあ正直言うと、私って推薦組なんだよね。だから受験勉強って、あんまりしてない。中学の毎回の試験で高得点を取り続けただけだね、対策は」
「マジで!? うわ、楽だなそれ……」
「お兄ちゃんだって狙えばいいじゃん。そのくらいの成績はあるでしょ」
「それがさあ、今年に入ってから、英語の教師が悪いの当たっちゃって……いやもう、定期考査の相性が抜群に悪いの俺。微妙な点続きだからこのままだと、推薦基準満たせるかどうか不明なんだよなあ」
……そうは言っても、菜瀧の推薦基準は異様に高いから、『菜瀧の』基準には満たないというだけで、少しランクを下げれば、十分すぎるほどの成績はあるのだろうけれど。ご愁傷様と言う他ないか。当たってしまった教師を恨むしかない。
「そうだ。高校の定期試験ってどんななんだ?」
「どんなと言われても。普通としか。試験の頃になるとサッカー部の連中の面倒も見ないといけなくなるし。私は私を片手間にしか見れない」
「……ん? 部活に入ってるなら先輩がいるだろうし、傾向とか教えてくれるもんじゃないのか?」
兄の想像では、高校になったら勉強会を開くとか、そんなところだろうか。
「サッカー部に何を求める。まあうちのサッカー部は試験対策マル秘ノートがあるけれど」
「なんだそれ?」
「いやなんというか、うちのサッカー部って脳筋ばっかりだから、毎回の試験の成績が悪いんだよね。だからなのか、歴代脈々と受け継がれてきた対策ノートがあるの。それこそ教師によっては全く同じテストを作ったりするから、効果のほどは絶大。どっかの誰かが作ってくれたそのノートのおかげで、我がサッカー部は赤点を免れてる、ってわけ。……まあノートと言っても、数枚のコピー用紙なんだけれどね。多分、先代のサッカー部員が頭のいい生徒のノートをコピったんだと思う。コピーのコピーのコピーの……ってな風に」
「なるほど。すでに字とかぐしゃぐしゃだと。マモーって感じに」
「うん。読めたもんじゃない。仕方なく、私が修復した」
字を修正それと同時に、少し現在風に対策ノートをアレンジしておいてもみたり。いくら教師が同じ問題を出すからと言っても、中には異動してしまった教師の教科もあったりして、全てに対応できるほど万能ではなかった。サッカー部で一番成績がいいのは私なので、現在の対応兼、後に続く後輩のために、新たな対策ノートを一から作った。こちらはちゃんとノート形式で纏めてある。
「ふうん。……なるほどな。ユキはそのノートを使って好成績を出しているってわけか!」
してやったり! と言った顔で、兄は私に指を突きつける。
「ごめん。私、そのノート使ってない」
「ありゃ?」
そしてへなへなと萎える兄の指。
「そのノートって意地悪なところがあって、『赤点を免れる』程度の対策しか載ってないの。赤点って大体三十点以下なんだけれど、丸暗記して四十点取れれば良い方かな、あれ。取りあえず、解ける問題は解く、っていうスタンスで出来ているから。それ以上を目指すには、ノートに頼ってたら到底無理」
「……なんかちょっとでも知的で優等生なユキってすげえ違和感」
「失礼な」
チビ私の場合、勉強をしなかったことが一番の原因だったわけで。この程度の成績、ちゃんと机に向かって勉強さえすれば、今ぐらいの成績は、特に苦もなく、自然に取れた。
「親の常套句、『うちの子はやればできるんです』は、ユキには本当だったってことか」
「そんなとこかな。自画自賛するのは好きじゃないけれど。……あ、そうだ。数学だけならお父さんも頼れば? 伊達に理系で高学歴してないよ」
私がそう言うと、兄は「高学歴ねえ……学歴って、なんなんだろうな」と哲学じみたことを言いだした。
「将来、就職に役立つものでしょ」
「といったってさあ、大切なのはバランスだろ? 頭だけが良くても要領がよくないと意味がないしさ。勉強の成績は『これだけ頑張った』ていう一種の証拠でもあるわけだけど」
その悩みは、まだ中学生ぐらいなら漠然と思うものだ。私自身、まだその答えを用意できるほど人生を堪能してきたわけではない。
「だいたい今の日本の勉強ってさ、受験のためにあるような気がするんだよな。勉強したいから進学する! って言ったら、変な顔されるだろ」
「そんな問題、昭和の昔から指摘されてるって」
「……そうだよなあ。俺ごときが考えていることなんて、過去に誰かが既に考えたことはあるんだよなあ」
兄はペンをくるくると回す。
「小説のネタって、もう全部出つくしたっていう考えもあるんだろ。自分こそがオリジナル、自分の考えこそが斬新だと思っても、過去の誰かのやった行動とかぶるわけだ。そうするとさ、『個人』とは一体なんなんだよ。一人一人違うって誰かは主張してるのに、自分と同じような存在が過去にはもういて、しかもそっちは自分よりもゼロに近いところから始めてるんだぞ。そっちの方が明らかに凄いじゃん。自分なんか焼き増しじゃん」
兄はペンを、「そんな方法じゃ物理的に回せないでしょ」と私は思わず言ってしまったほど、無茶な回し方をする。当然ペンは手から滑り落ちた。腰を曲げてペンを拾いながら兄は「このぐらいできなきゃ、俺が俺である確証が持てない」と言い、新たな技術を求め、またくるくると回しては、床に落としている。
「じゃあなんで菜瀧を選んだの。勉強に不毛さを感じているのなら、わざわざ苦労して勉強してまで菜瀧に行く必要がないじゃない」
「家から近いし」
「…………」
「いや、もちろん嘘ですよユキさん? そりゃ、学校が近ければ、それだけ時間の節約にもなるけどさ。タイムイズマネー。時は金で買えないんもんだし」
ああそうか、この家からなら自転車で十分もすれば着くのか。近場で自分の希望に合ってるなら、これ以上望む条件はないほどだ。未来の私の家からだと、自転車だと三十分は掛かってしまう。だから基本的には電車通学。最近では鍛えるために、敢えて自転車を使ったりもするけれど。
とはいえ、そんな単純な動機から菜瀧を選ばれてしまっては、私が持っているベニヤ板一枚程度の兄のイメージが、さすがに全て崩れてしまう。
「親父が『持てるべきは学歴だ』って言うからさ。どんなに能力がない奴でも、学歴があれば誤魔化せる、って。どんな馬鹿高校に入ってもいいけど、いい高校に入ればいい大学にいけるチャンスも広がるから、自ら選択肢を阻めるようなことはするなよ、ってさ」
「私もそれ、言われたな」
懐かしい。良い思い出ではなかったけれど、やはり必死に勉強していた中学三年生の頃は、少しは印象があるもので。まだ私が暗い性格真っ只中だったから。
「ありゃ。やっぱり受験の時に言われたの?」
「うん。どこの高校にしようか迷ってる時に」
「それで、菜瀧を選んだわけだ。ユキも俺と同じような悩みを持ってたんだなあ」
「そんなもんでしょ、十五歳なんて」
もっとも、私はそこまで深く考えていたわけではない。ただ漠然と、兄が通っていた高校なら頑張れるかなあと、私こそ比較的不真面目な理由から菜瀧高校を選んでいる。
「でもまあ、能力があれば学力なんていらないって思ってるけどね私は。あくまでも、莫迦でどうしようもない人が最後に縋りつく心の拠り所が学歴、ってことで」
はたまた、私が女だからこう思うのだろうけれど。いつかは女を養わなくてはいけない男だと、そんな泣きごとを言っていられないのかも。
「……実のところ俺って、まだ本当に菜瀧へ行こうか迷ってる最中なんだ」
中学三年生の、九月。大学受験ならもう手遅れに近いかもしれなくても、高校受験ならまだまだ悩んでも許される時期。この時代でも通じるかどうかはちょっと自信ないけれど。
「こんなに必死に勉強して菜瀧に入れても、良い大学に行けるかどうかは分からないわけだし。予備校とかに行ってちゃんと勉強すればさ、むしろ簡単な学校に行って、せめて学校では楽に過ごした方が、三年間楽しく過ごせるんじゃないのか? ……とか、そう考えちゃうわけよ」
それも一理はあるのかもしれない。兄の学力なら一年ぐらい本気で勉強すれば、第一志望なら楽に合格できると、身内贔屓かもしれないけれど私は思っている。
……今、兄は志望校に悩んでいる。
私が『それでもいいんじゃない?』と言えば、もしかしたら、兄は菜瀧に行くなるのかもしれない。渡時月下の書いてあることなんて知ったものか。戦功を挙げてしまえばこちらのもの。未来を変えることができるのかもしれない。
「そんなの……」
しかし……私は、そんな未来は選ばない。選べない。
少なくとも兄は、私が生きている最中、毎日を楽しく過ごしていた。友達と遊び、彼女とデートし、勉強し、行事に勤しみ……そういった数々の楽しみを、『生かしておきたいから』……ただそんな理由で奪うことなんて、私にはできない。
「そんなの、私が菜瀧に通っているから、じゃ駄目なの?」
自惚れかもしれない。幾ら兄が私を好きでいてくれているからと言って、所詮は妹、そのためだけに三年間を棒に振るなんて馬鹿げている。だというのに。
――私がそう言うと、兄は眼をぱちくりさせた。
「……ははは、その考えはなかったな。いや、最近初めて知ったんだから、至らなくて当然か。うんうん、兄妹揃って同じ高校出身っていうのも、有りかもしれない。そうだな、いやいや、それで行こう」
卵が先か、鶏が先か。
私は、そんな言葉が脳裏に過ぎった。
兄には言ってないけれど私は、兄が菜瀧に通っていたから、菜瀧を志望したのだ。
「……十五なんだよなあ、俺。結局バイク盗んでないんだよなあ」
「当時だってそれが普通だから。啓発された不良は結構いたらしいけれど」
あれは特殊な方面へのナイーブな少年の心を歌っているから。あくまでも普通な中学生の兄には似合わない。……考えてみると、行動はともかく、精神的にはあれに近い十五歳だったんだよなあ私って。一つの山はもう乗り越えたから、まあそんな気持ちも分かるよ、ぐらいの感想になってしまったけれど。もし私も十五の頃にあれを訊いたら、絶対に違う感想を言うはず。
本当、あの頃は全てがクダらないものに感じた。勉強はいい成績を取るためのものでしかなかったし、教師の言葉は戯言としか受け止めることはできず、言い寄ってくる男は同じことしか言わない。行動としては不良行為をしなかっただけで、根本的には、あの歌詞とどこが違うものなのか。
「ユキは十七歳、かあ。俺からしたら随分と大人に見えるけど、ユキからしたらそうでもないんだろ?」
「うん。所詮、二歳しか違わないし」
「中学と高校の間に広がるこの壁って、なんなんだろうな。一方通行でしかないし」
確かに、単なる区切りにしては、あまりに大きな海溝がある。
「ま、そんなことは菜瀧に入ってから考えればいいじゃん。十七歳の私が分からないんだから、十五歳のお兄ちゃんは絶対に分からないって」
「そうだよなあ。やっぱり菜瀧だよなあ。女の子が可愛いし」
「――――」
「あ、いや、その」
嘘ばかり言う兄が、咄嗟に嘘をつけない。
「図星なの?」
「……いえ、嘘です。僕、嘘つきました。将来のために菜瀧を選んだのであって、女の子目当てで菜瀧を選んだのではありません」
それで当たり前だ。……というか学校ごとの女のレベルなんて、平均してしまえばそんなに変わらないものだ。ただ菜瀧の場合、真面目な女が比較的多いから、髪を染めたり化粧をしまくってたりする生徒はあまりいなく、良く言えば清純な生徒が多数派を占めている。私もそちらの仲間だ。もちろん少数派だっていなくはないのだけれど、他の高校に比べれば割合が少ない。大人しい子が好みな兄にとっては、平均が高く感じるのだろう。
「そうだユキ、明日暇か!?」
気分を切り替えて兄は、朗らかにそう言った。なんでこんなところは誤魔化しが下手なのだろう。
「暇だって言ってんじゃん」
行くところがないのだから、明日だって一日中家にいるつもりだ。
「よかったよかった。暇じゃなかったら、変態扱いされるところだった」
「なんで変態?」
先ほどの醜態を挽回するべく、恰好いいところを見せようと足を組んで小説を持っている(持っているだけで読んでいない。形だけ)兄は理知的に見えて、変態の二文字とはあと一歩のところで結びつかない。小説を持っていなければ結びつくのだけれど。
「それよりさ、一緒に俺と中学校に行ってみたいって、思わないか?」
「お兄ちゃんって突然だよね」
そりゃブラコンだった私だから、「お兄ちゃんと同じ学校生活を送れたらなあ」なんてことを幼稚園に通っていた頃はよく思っていた。小学生になれば兄と一緒に通学できるという事実に、ランドセルを背負うことよりもドキドキしたものだ。しかし四歳年上である兄とは、小学生の時ですら二年間しか同じ通学路を歩んでいない。まあ実際は、兄が中学に進学したせいで二年間すらも満足に歩けなかったのだけれど。
「……不可能でしょそんなこと」
妄想と現実は違う。年の差自体は縮まった今現在でも、私は高校生なのであって中学生ではない。それ以前に、私はどこの学校にも所属していない。
「ちっちっち」
人差指を、顔の前辺りで左右に揺らす。ああ、なんかその仕草、それ自体が懐かしい。あんまりする人を見かけないから、少し時代を感じる。兄は机に横に掛けてある鞄を、私の前に差しだした。
「開けてみな」
敵のボスを倒したと思ったらさらに黒幕がいた。その黒幕が、主人公の前に姿を現す……そんな感じの悠々とした態度で、兄は椅子に踏ん反り返った。黒幕付き従う子分よろしく、その言葉の通りに、私はファスナーをじーっと開ける。
中に秘められていたものは……兄の通っている、裁可中学の女子の制服。なんの特徴もない、ごくごく普通なセーラー服だ。所謂黒セーラー。なんにも特徴がなさすぎて、逆に分かりやすい。もし兄が死ななければ、私も袖を通していたかもしれない制服。
「…………」
「な、なんだよその目は」
思わず、細めた目を兄に向ける(ちなみに私のこの表情はサッカー部曰く、『絶対零度の流し眼』なのらしい)。
「変態」
いかなる理由があろうとも、他人に制服を借りる時点で変態だ。
「うおぉ、ユキに変態って言われたぁ!」
近所迷惑も省みず、椅子から転げ落ちてからさらに床を転げまわる兄は、性的な意味でなくても変態であった。
「女子から制服を借りておいて、変態じゃない可能性を考える方が難しいって」
「しかも借りたなんて一言も言ってないのにばれちったぁ!」
「仮にしかるべきところで購入しようとしても、貧乏なお兄ちゃんが買えるわけないんだし、少し考えれば分かるでしょ」
そんな兄は絶対に欲しくないけれど。いらない。
「……いやいや、ちゃんと許可は取ってあるって、栗林と菅家に」
その二人の名前を聞いて、一昨日の喫茶店であったカップルを思い出した。兄が仲良くしている二人だっけ。
「栗林さんに? よく許可したね、菅家君」
私でいえば、サッカー部の誰かを、私が手取り足とりマンツーマン、身体を触りながら教えるようなものだ。サッカー部を強化するためとはいえ、さぞ水城先輩は複雑な気持ちになるだろう。というか、私だって嫌だそんなこと。あんなむさい連中。
「どうしても俺はユキと一緒に学校に行きたいって伝えてな。『それをするにはお前らの協力が必要だ。セーラー服を貸してほしい。今着てるのじゃなくて冬服でいいから。けど、もし俺の言うことを聴かなければ――』って言ったら、貸してくれた」
「脅しじゃん」
比較的最低な方向に。
「いいだろ。それぐらい、俺はユキと一緒に登校というのをしてみたいんだしさ。こんな機会じゃないとできないんだし」
「普通はこんな機会すら訪れないんだけどね」
――でもまあ、そんな変態な兄の行動でも、どうしてそんなことをしたのかを知ってしまえば、許してしまいたくもなるもので。我ながらブラコンだ。
「流石に授業中は無理でも、放課後なら平気だ。せいぜい数時間しかいれないだろうが、それでもほんの少しでも、ユキと同じ学校に通えるなら、楽しい冒険だろ? こういうの、好きそうだもんユキ」
「私の趣味思考を――」
決めつけるな、と言おうとして……止めた。だって、私も楽しそうと感じてしまったのだから。
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