全てが始まり
ある温かな家族。なんてことない普通の団欒。いつも通りのふざけ合い。
無理だって。ユキが大きくなったって、菜瀧には絶対に行けないって、
そんなことないもん! 頭もよくなって、お兄ちゃんなんかコテンパンにしちゃうんだから! 早く大人になってやる!
食事時だというのに、四人家族のうちの一人、妹は、まだ食器におかずが僅かに残っているというのに、椅子を飛び降り、リビングを飛び出した。その姿はさながら弾丸。所属しているスポーツクラブでは、これこそが最大の武器な妹だ。
困ったことに妹は、反論できなくなるとこうして自分の部屋に閉じこもってしまうのだ。ちなみに残してあるおかずは、全て嫌いな食べ物。食べないぞという意思が込められていたりもする。家族は全員知っているから、父も母も兄も皆、微笑ましく見守る。
けれど、不機嫌になるのは妹だ。こうなってしまった以上、誰かが呼びに行かねばなるまい。今回は妹を怒らせた張本人の、兄が慰めにいくことになった。「やれやれ、困ったやつだなあ、ユキは」なんて、まるで他人事。けれど、兄も楽しくて妹をからかっているのだから世話はない。
兄も、妹と同じ進路を通って、妹の部屋へ行く。
その途中、ドシンと大きな音が、夜のマンションを襲う。
まさかユキがなにかやったな? と兄は思いながら、ドアをノックする。反応はなし。ドアノブを捻って押しても、開かない。立て付けが悪いのだ。要領よく力を込め、ゆっくりと妹の空間へ侵入すると。
大きくなった妹が、そこで倒れていた。
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