プロローグ1
学校から帰ってくると同じ下宿に住んでいる住人達全員、といっても自分を含めて5人しかいないのだが、皆廊下に集まっていた。
「あ、おかえり景」
俺が帰ってきたことに気がついていの一番に声を掛けてきたのは下宿の中では最年少、セミロングの髪に小さなリボンをつけた少女だった。
「ただいま、透」
彼女の名前は金子透、この前進学したばかりの高校一年生の後輩女子。
下宿に来たばかりの頃は借りてきた猫みたいになっていたが、今ではすっかり慣れ親しんで気安く名前で呼び合う仲になっていた。
ただ少し気になるのは俺の方が一個上なのに呼び捨てなこと。礼儀とか上下関係とかでとやかく言うつもりはないがちょっとひっかかってはいる。でも遠巻きにされるよりは良いかと黙認しているのが現状である。
透の近くにいた他の3人も俺が帰ってきたことに気がついた。
「遅いよ景、どこで油売っていたの?」
腰に手を当てて怒ってますのポーズを取っているのが赤桐鏡花、ポニーテールの同年代の女の子。
本当に怒っているわけではないので全然怖くないが、なにか今日早く帰らなければいけない用事でもあっただろうか?
「おかえりなさい景さん、今日携帯を食堂に忘れていってたみたいですね、早く帰ってきてもらって助かりました。はい、携帯です」
「あ、どうもすいません綾さん」
俺の携帯を手渡してくれるこの人は白峰綾さん、下宿人でありながら家事を一手に引き受けてくれているありがたい女性。クォーターらしく、日本人の顔立ちをしつつも綺麗な金の髪をしている。正直同い年には見えない。
「それで、なんで皆ここに集まってるの?」
「それはオレが説明しよう」
俺の疑問に進み出てきたのはこの下宿の大家でもある黒沼治樹さん、本人は20代の男だと言い張っているが、髪が長いせいもあり10代の女の子に見える年齢性別不肖な謎の人。いつも無表情だがなぜかあまり怖い感じはしない。
「仕事で臨時収入があったので、飯でも食べに行こうと言ったら行き先で揉めだした」
「ここは焼肉が定番でしょ」
「ハンバーグとかいいなぁって思うの」
「最近おいしいパスタを食べさせてくれるお店が出来たんですよ」
上から順に鏡花、透、綾さんの発言。
別にオレは何でも構わないんだが、と呟いて治樹さんは続ける。
「で、だ。こうなったら勝負して勝った人の意見を採用しようと鏡花が言い出した」
「あー」
さすが勝負事大好きな鏡花、彼女が言い出したのなら納得だ。
視線を向けると鏡花はなぜかどや顔をしていた。
「それでオレを除く全員で勝負することになったんだが、お前はどうする?」
「どうしようかな……」
迷う俺に透が意外そうに聞いてくる。
「え、景ならきっと『俺の封印された真の力、今こそ見せてやる!』とか言いながら1も2もなく参加すると思ってたんだけど」
「お前の中で俺はどんな痛い奴なんだよ、というか封印されてるなら見せられないだろ。今は猛烈に食べたいものもないし」
3人の提示したどれでもいいというのが実際のところだ。
「え~、レクリエーションみたいなものだし参加しようよ。ね、ね?」
「こ、こらくっつくな、離れなさい!」
腕に纏わりつく透、柔らかいものが当たってかっと頬が熱くなる。
それを見ていた鏡花がなにやら考えた後、おもむろに反対側の腕にしがみついた。
「景、あたしも景には参加してほしいな~」
「ちょ、ま、こら!」
どっちに逃げようとしてもやわらかなものが……い、いかん! 俺は紳士、心頭滅却すれば火もまたふにふに、って違う!
「あら、モテモテですね、ふふっ」
綾さんは助ける気はないらしくほほえましそうに笑っている。
治樹さんは我関せずと言わんばかりに明後日を向いている。
「ねえ、景!」
「景、いいでしょ?」
「あーわかった! 参加するから離れろ!」
『わーい』
ハイタッチを交わす二人、なんだかくやしい。
「で、勝負って一体何をするんですか?」
「うむ、それは……」
俺の質問に、治樹さんは宣言した。
「鬼ごっこだ」
前回の投稿から約1年、やっと新しい投稿を始めました。
目指すは完結。