25「キミを永遠に逃がさない」…Kyrie part
港町の夜は賑やかだ。
何処からともなく弦の旋律が聴こえ、時々酔っぱらいの笑い声がどっと押し寄せる波のようにあがる。酒場の二階にある宿屋は朝まで穏やかな喧騒が絶えることはなかった。そんな環境でも静かに眠るエリュシアを眺めながら、キリエは物思いにふける。
あのとき、彼は瞑想するアルテミス司祭に嘘の神託を吹きこんだ。彼女にとって、そして皇子にとって、都合のよい嘘を。
司祭も皇子も嘘の神託を疑わなかった。
教会のために命をけずり身を捧げてきたエリュシアをかんたんに捨てて、アルカディアを滅ぼす呪われた聖女だと迫害した。
「俺の愛は奪う愛だからね」
彼女を愛そうとしないくだらない奴等から、彼女を奪う。
「そのためには手段なんて選ばないさ」
寝息をたてるエリュシアを覗きこみ、その喉に指をまわす。締めあげるのではなく首環をつけるように細い頚に指を添わせた。
「いつだったか、首環のついていない犬は可哀想だといっていたね? 俺は捨てない、可愛がるよ」
愛しむように喉をなでながら、彼は幸せそうに微笑む。
あれほど空疎だった彼の眼がいまは満ちたりていた。獲物にかみついて息の根を絶つようにやわらかな娘の喉に接吻を落とす。
「キミを永遠に逃がさない」
愛は惜しみなく奪う。それでいて、奇妙なことに愛されたものはなにひとつ、奪われてはいない。
だが愛するものはかならず、奪っているのだ。
致命的なまでに。
お読みいただきまして、ありがとうございました。夢見里龍でございます。
ひとまず、ここで完結となります。
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