命の徴
――通知は、まるで祝辞のような口調で読み上げられた。
「リシア・ヴェルン。貴殿を下士官候補生として、士官予備課程に推挙する。今月末より首都軍大学附属訓練区へ転属の予定……」
教官の声は機械的だったが、その内容は意味が大きい。
「上に立つ道」――それが、正式に開かれた。
だがその日の午後、状況は一変する。
「通知だ。……お前、出るぞ。明朝、戦場だ」
「……戦場?」
「帝国軍・第七哨戒部隊が“実戦配属要請”を出した。士官候補生の戦地適性を見たいとさ。教育より“現実”が先だと、上が言っている」
それは、明らかに“選別”だった。
模擬戦でいくら成績が良くても、本物の戦場で“壊れる”者は選ばれない。
任務地は、国境西方――ルヴェール資源地帯。
エルメリア帝国と周辺諸国との利権が複雑に絡み合う“火薬庫”だった。
◆現在の戦場:ルヴェール資源地帯
帝国とユルド王国の間にある国境沿いの“グレーゾーン”
世界最大級の高純度魔素鉱が眠るが、国際条約では“非武装地帯”とされている
実態は、帝国・王国による戦争地帯
列車の車窓から見える風景は、荒れた大地と黒い煙だった。
焼け落ちた集落、膨れ上がった魔素汚染の池。
そこに住んでいたであろう人間の姿は、もうない。
「……これが、戦争か」
リシアは呟いた。
生まれてからずっと、戦争とは“選択肢のひとつ”だと思っていた。
使う側と、使われる側。
効率と犠牲。
計算すれば割り切れる、ただの仕組み。
だが今――目の前にあるのは、**計算の及ばない“結果”**だった。
「戦場到着まで十五分。準備をしろ」
同行するのは小規模な支援部隊。だが、敵は正規軍ではない。
ゼリュークの傭兵か、カシュアル連邦が裏で雇った私兵。
“公式には存在しない”兵力との不正規戦。
命の価値が、最も軽くなる地。
そこに、リシアは投げ込まれた。