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紅き軍靴は少女に微笑む  作者: フローレンス
1章 大戦のはじまり
5/53

模擬戦

訓練所設営地の裏手には、小規模な模擬戦場が広がっていた。


 土嚢、壕、木製の壁、そして稼働停止した魔導砲の残骸――

 実戦さながらの戦場を模した訓練区域。

 そこで今朝、教官からの通達が全新兵に告げられた。


 


「班ごとに分かれて模擬戦を行う。任務は“敵指揮官の捕縛または戦力壊滅”。制限時間は一時間。攻撃側・防衛側に分かれて交代で行う」


 


 そして、その第一試合。攻撃側を率いるのが――


 


「班長代理、リシア・ヴェルン。部隊指揮を任せる」


 


 突然の指名にざわめく訓練生たち。


 


「おいおい……アイツ女だろ?」


「いくら走るのが速くても、戦術なんて――」


 


 しかし、リシアはまったく動じない。

 むしろ、自分の番が回ってきたかとばかりに、静かにうなずいた。


 


「作戦開始は10分後。それまでに布陣・作戦を決定せよ」


 


 仲間たち――正確には配属されたばかりの寄せ集め小隊――は、戸惑いの眼差しを向ける。


 


「で、どうする? とりあえず中央突破とか……」


 


 その一言に、リシアは一瞬だけ目を細めた。


 


「それは最も愚かな手だ。敵にとって一番予測しやすく、こちらの消耗が最大になる」


 


「じゃあ、どうすんだよ」


 


 リシアは、地面に木の棒で簡易的な地形図を描き始めた。


 


「敵はこの丘に主力を展開する。裏手の木立に小隊を配置して防衛線を張るのが定石。……ならば、正面に陽動を出し、私は迂回して指揮官の陣地を直接奪る」


 


「は? お前が一人で突っ込むのか?」


「私は孤児院で“どう逃げ延びるか”を叩き込まれた。……敵の注意を逸らしさえすれば、私一人で十分。残りは持久線に徹しろ。囮になれ」


 


 一瞬、空気が凍った。


 


 “仲間を囮にする”。

 その言葉に反感を持った者もいたかもしれない。

 だが、彼女はそれを「当然の戦術」として口にした。


 


 教官のゴングが鳴る。模擬戦、開始。


 


 開始10分、敵がリシア班の中央部に集中砲火を浴びせた。


 その隙に、リシアは単独で裏手に回り、魔導障壁を解析し、指揮官役の兵士を“制圧”。


 


 わずか17分後――模擬戦は、リシア班の圧倒的勝利で終了した。


 


 教官たちは口を閉ざし、水晶板の記録を見つめる。


 


 冷徹すぎる。だが正確で、迅速。

 これは、たかが新兵の指揮ではない。


 


「勝因を述べよ。ヴェルン」


「合理性です。必要な犠牲を受け入れ、最大の成果を得ただけです」


「仲間を囮にした判断に、罪悪感は?」


「ありません。……私たちは“殺し合うために”ここにいます。感情で動いて死ぬ方が、よほど愚かです」


 


 その場が静まり返る。


 


 誰もが理解した。

 リシア・ヴェルン――この少女は、「戦争」に適応している。

 理性と本能の両方を、殺すために研ぎ澄ました“兵器”だと。


 


 その日、彼女の名は教官たちの間で正式に記録された。


 「強化素体00号――生存・覚醒の可能性」


 


 知らぬ間に、彼女の“出生”に気づき始める者たちがいた。


 だがリシア本人は、何も知らない。

 ただ、戦場で生きるために、勝ち続けるだけだ。



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