座学
翌日からは、午前が座学、午後が実技訓練というスケジュールが続いた。
教室は簡素な石造り。窓もなく、閉塞感が漂う空間。
黒板ではなく、魔導スレートに記された戦術図。
兵士の卵たちが眠そうにそれを見つめる中、リシアだけは一字一句を頭に刻んでいた。
「ヴェルン。戦術問題に答えろ。敵軍が右翼を突出させてきた場合の基本対応は?」
「前線を後退させ、中央突破を誘導しつつ左右に罠を展開。可能なら、突出部を迂回殲滅」
「……正解だ」
教官の目が細まる。
この少女、ただの“速い兵士”ではない。
明らかに、知識と実戦感覚を伴っている。
「次。魔導通信の仕組みと盲点について」
「魔素粒子は高魔力空間では乱れやすく、通信阻害を受ける。代替には光波通信か、中継符を使用」
またしても即答。
他の兵士たちが彼女を見る目が変わっていく。
恐れと、畏れと、そして――小さな警戒。
ただの孤児が答えられる範囲ではない。
リシアは無表情のまま、淡々と答えていた。
この世界の理屈も、魔導の法則も、記憶力と論理的思考があればすぐに飲み込めた。
(思った通り。基礎座学は、むしろ現代日本の高校教育より緩い)
座学でも突出し、実技でも圧倒する。
リシア・ヴェルンは、訓練所の中で“異常値”として浮かび上がっていく。