貞子の休日 其の二
重い瞼を開けると、見慣れない天井がぼんやりと視界に映った。昨夜、あれから眠りについたのはいつだっただろうか。様々な感情が渦巻き、なかなか寝付けなかった気がする。
体を起こし、窓の外を見ると、見慣れない景色が広がっていた。静かな住宅街、遠くには低い山々が見える。私は、一体どこにいるのだろう?
ふと、大きな疑問が湧き上がってきた。なぜ、私はこの場所に住んでいるのだろう?この部屋は、一体誰の家なのだろう?
ここ数週間、カフェでの仕事や人間関係に気を取られ、自分の置かれている状況について深く考えることを避けていたのかもしれない。
改めて部屋を見回すと、生活に必要な最低限の家具は揃っているものの、誰かの強い個性を感じるものはない。まるで、仮住まいのような、どこかで見た印象のある部屋だ。
不安が募る中、ふと玄関のドアの下に何か挟まっていることに気づいた。近づいて拾い上げてみると、一枚のシンプルなハガキだった。
宛名には、手書きで「羽田舞子様」と書かれている。舞子……?知らない名前だ。やはり、ここは私の家ではないのか。
差出人の欄には、何も書かれていない。ただ、小さな文字で「福岡県 大島より」とだけ記されていた。
福岡県。それは、私が今いる場所の名前だ。大島……どこかで聞いたことがあるような気がする。
ハガキの裏面には、短いメッセージが書かれていた。
『舞子へ
元気ですか?こちらは変わりありません。
また近いうちに連絡します。
―名無し―』
短いメッセージだが、どこか温かいものを感じた。舞子という女性に宛てられた、親しい誰かからの便りなのだろう。
なぜ、このハガキが私の住む部屋に届いたのだろう?そして、私はなぜ、この舞子という女性が住むはずの場所にいるのだろうか?
様々な疑問が頭の中で渦巻き、昨夜、B子に言われた「なんだか深い何かがあるような気がする」という言葉が、再び蘇ってきた。私の存在そのものが、この世界ではイレギュラーなのかもしれない。
私は、ハガキを見つめた。福岡県の大島……何か手がかりはないだろうか。
いてもたってもいられず、私はスマートフォンを取り出し、「福岡県 大島」と検索してみた。いくつかの情報が表示される中で、「宗像大社沖ノ島」というキーワードが目に留まった。神聖な島、女人禁制の島……どこか神秘的な響きを持つ言葉だった。
なぜ、差出人は自分の名前を書かなかったのだろう?舞子という女性と、どのような関係なのだろうか?そして、この場所は、本当に舞子の家なのだろうか?
私は、ベッドから立ち上がり、窓の外をもう一度見やった。見慣れない景色の中に、私の知らない物語が隠されているような気がした。
このまま、曖昧なままではいられない。私は、自分がどこにいて、なぜここにいるのか、真実を知りたい。ハガキに書かれた「大島」という手がかりを頼りに、私は、自分の足で調べてみるしかないのかもしれない。
静かな部屋に、決意を秘めた私の鼓動だけが響いていた。